マシン・マジック・マイメモリー   作:飛び回る蜂

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第二十二話「追憶、過去から今へ」

 

 

 

 

 

「出血が多い、替えのガーゼを用意しろ。彼女の協力を無駄にするな」

 

「聞こえますか!針谷大和さん!聞こえますか!?……ダメです、反応ありません!」

 

「先生、魔力浸食率48%から動きません。既に致死限界を超えてるのに生命活動は維持しています」

 

 

 1級討伐官、未来明により担ぎ込まれた針谷を救助するべく、治療用テントの天幕が張られた。

 取り付けられた魔力計測機器と心電図のモニターが忙しなく動き、患者の生存を保証しながらも危篤状態を示している。

 しかし『先生』と呼ばれた初老の男は行動を決めあぐねていた。

 こんな容体の患者、診るのは初めてといったレベルではない。こんな状態、一万人いたら一万人死んでいなくてはおかしいのだ。

 彼が担当してきた魔力汚染患者は一人や二人ではないし、治療してきた実績もある。

 

 

「防護服無しではこちらが汚染される。入室制限を維持しろ。笹島少年の到着までバイタルを常に確認。出来るだけ出血を抑えろ、輸血を怠るな。異常が発生したらすぐに報告しろ」

 

「魔力汚染への処置は如何しますか?」

 

「汚染範囲が広すぎて今あるキットでは除去仕切れない。彼には魔力を体内に留める術があるらしい。今は外科的措置に留め現状維持に努めてくれ」

 

「了解しました」

 

 

 だがここまで悲惨な姿を見るのは初めてだた。

 腹部には10cm近い巨大な穴が2か所開き、処置後とはいえ今も出血が止まらない。

 先に訪れた討伐官が「苦手だから期待はしないで」と言って掛けた魔法処置のお陰でなんとか輸血が間に合っている状態だ。

 出血だけではない、牙が貫いた影響で臓器にもダメージがあるのだ。

 加えてかなりの無茶をしたのだろう。手や肩、脚の皮膚が、出力を上げ過ぎて赤熱した装甲によって火傷しているのだ。

 並の人間ならば痛みか出血性ショックで死んでいても納得するレベルの怪我だ。

 

 そして彼らの処置を足踏みさせている一番の要因が『魔力汚染』だ。

 通常魔力が人体に入り込む体内で結晶化を起こし、血栓を誘発させて壊死、あるいは死に至る。

 汚染部位にもよるが、10%も汚染すれば身体の欠損を発生させるには十分だ。

 その魔力が貫かれた腹部から胴体へと入り込み、今は身体の50%近くを浸透している。

 これは身体の細胞が結晶となり蝕み、死に至っているのが当然と言える濃度だ。

 だというのに針谷の身体は結晶となることなく、魔力が浸潤しただけの細胞を維持し続けている。

 こんな症例は今まで存在したことが無い。あまりに不可思議な現象であった。

 

 

「彼の到着予定は?」

 

「現在出立。テレポートが力場不安定により使用できない為自力で急行すると」

 

「そうか……歯痒いな」

 

 

 今の針谷は多くの機械によって命を繋ぎ止められているように見える。

 しかしその内機能しているのは観測機器と輸血装置だけだ。それ以外の措置はほとんどできていない。

 魔力除染装置は簡易版で、これほどまでの汚染を取り切るのに対応していない。

 しかし仮に専門機関の装置を使ったとしてもここまでの量を除去し切るのは難しい。

 体内に残った脅威の牙破片は脅威討伐と同時に魔力の塊になる。これも処理しなくては危険だ。

 しかし魔力の壁を突破する為に作られた牙は除去用のドリルや防護済みのピンセット等と強烈に反発してしまう。

 そうなると今度は施術者が危険に晒される。幸運にも怪我人は出ていないが、飛んだ破片が防護服を貫きかけた。

 今の針谷にはこれ以上手の施しようがない。治療専門、かつ魔力の操作に詳しい魔法少女の到着を待たねばならない。

 本来担当するはずだった魔法少女は既に怪我を負った民間人被害者と魔法少女達の治療で手が離せない。

 彼等には笹島悠の到着を待つしか手段が残っていなかった。

 

 

「真道丸の方はどうだ?」

 

「現在未来討伐官と共同で作戦を展開中。戦闘は優位に進んでいます」

 

「武喜め、久方ぶりの出撃で遊んでいるな。負けはせんだろうが……」

 

 

 決戦兵器。それはML社が誇る真の最終兵器。

 現在運用されている通常火器は全て魔力による性能向上が成されているのは周知の事実だ。

 決戦兵器もコンセプトは変わらない。ただ魔装化した武装を積んだだけの強化人型ロボットでしかない。

 

 まず魔力の使用量が桁違いに多い。一機運用するだけで中型脅威5体分の魔力結晶を消費する。

 これはML社全体の魔力消費量の2か月に相当する。文字通り所属兵士全員が2か月戦闘を行える量だ。

 『真道丸』はその中でもコストがとても軽い方だ。その倍は消費する機体もある。

 続けて弾薬や武器は全て特注。こちらも当然ながら莫大な費用が掛かっている。

 武装は一回作れば使い回しが利くとはいえメンテナンス費用も高い。出撃頻度も多くなく、埃をかぶらないよう維持するのも一苦労だ。

 キツい訓練を続ける必要もあり、いつ必要となるかも分からない今となっては乗り手も少ない。

 

 しかしその制圧力は圧巻の一言に尽きる。

 ジェネレーターに中規模脅威3体分の魔力結晶を詰め込み、高重量高出力高機動を実現した特殊機体。

 もう1個の結晶を武装への魔力供給に費やすことで全兵装を瞬時にアクティブ化する対応能力。

 そして最後の1個を前面シールドの維持に費やした堅牢な防御。

 強大な脅威と戦う、その一点のみを考慮。重厚にして甚大な火力を併せ持った動く城塞である。

 当然、その乗り手にも厳しいスペックが求められる。今搭乗しているパイロットはその点、文句なしの逸材である。

 

 

「本来数十人規模の兵士と共同歩調を合わせるというのに一人で組めるのだからな。流石は1級討伐官か」

 

「彼女の事をご存知なのですか?」

 

「武喜は私が専属でサポートしている。あいつらは組んで長い、そういうことだ。さて……」

 

 

 ベッドに寝たまま動かない針谷を見て、先生は静かに考える。

 テーマはごく単純。彼はなぜ死んでいないのか?だ。

 死因その1、体内を魔力が巡っている。これには凡そ見当がついていた。

 彼は先天的か後天的か、魔力への耐性があるのだろう。どういった経緯でそれを得たのかは知らないがそれで説明が付く。

 

 そのままベッドの隣に保管してある一対の巨大な牙を見やる。

 死因その2、脅威が外敵を殺す為だけに作った牙で貫かれている。

 学習する脅威が恐怖を煽る為ではなく、ただ相手を殺す為だけに作った武器がこの牙だ。

 つまり脅威はどうすれば人間が死ぬかを学んだ、その成果がこれだ。

 

 沸騰したお湯(熱エネルギー)に触れれば火傷するし、氷に触れ続ければ凍傷になる。動く物にぶつかれば(運動エネルギー)怪我をする。

 ではその量を過大にし、それが人間の体内に入ったらどうなるか。

 溶岩に触れれば、液体窒素が血管に入ったら、生身で高所から落下したら。

 魔力もまたエネルギーの一つだ。しかも多くの人間は耐性を持たない為致死量も少ない。

 脅威を敵に回すというのは、魔力が引き起こす魔力障害との戦いでもあるのだ。

 

 だが患者の腹部は変色こそしているが、それ以上の変化はない。

 まるで魔力が血液と同じ役割をしているかのように、自然に体内を巡っている。

 これと同じ現象を持つのは魔法少女だけだ。つまり今、針谷は魔法少女と同じ体質を得ている可能性が高い。

 このことから以上2つはなんとか、理屈が付けられる。

 

 

「……やはり解せんな」

 

「何がですか?」

 

「体内の汚染が進んでいない。なぜ止まっている?」

 

 

 この点についてまるで説明が付けられない。

 魔力浸潤は止めようとして止められるものではないのだ。

 細胞を汚染する魔力を止める等、それこそ魔法少女にだってできはしない。

 先の未来討伐官の処置もそういった意図はない。単に出血への措置と容体の安定化を担っただけだ。

 もちろん魔力汚染が進んで良いこと等一つもありはしない。

 だが説明がつかない現象を不気味に思ってしまうのもまた、事実であった。

 

 

「彼の身体が魔力の侵襲性を中和しているのか、あるいは……」

 

 

 『何』が彼の身体を護っているのか。

 原因不明、それ以上の結論を出すことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 針谷が意識を取り戻した時、あまりに見慣れない風景が広がっていた。

 

 

「前と同じ。違うのは風景に見覚えがないことくらいか」

 

 

 一言で表すならば田園風景。それも非常に原始的な、今の時代では既に珍しい古風な田舎のあぜ道。

 そんな風景が広がっている状況に針谷は、驚きこそしなかったが頭が痛くなる思いだった。

 一刻も早く戦場に戻らなくてはならない。しかし今置かれている状況があの時(『村』)と同じならば、何かを解決しなければ戻ることは叶わないのだろう。

 そう当たりを付け、針谷は静かに周りを見渡した。

 

 

「───」

 

「となるとこれは一体誰の記憶を元に……うぉっ」

 

 

 すると隣にはあの脅威、かつて針谷に何かを譲渡した人型脅威が立っていた。

 かつて目の前に立っていた時と姿は同じ。漆のように純に黒く艶やかな髪、白磁のような肌。

 以前は武器を構え態勢を低く取っていたから気づかなかったが意外に背は低く、針谷の首程までしかない。

 相変わらず赤い目。その瞳孔は何も映すことはなく、首を針谷の方に向けてただじぃっと見ていた。

 目的は一切不明だが、少なくとも即座に攻撃してくる様子はない。

 針谷はコミュニケーションを取ってみることにした。

 

 

「い、いたんですか。これはあなたの仕業ですか?」

 

「───」

 

「……失礼、言い方が悪かったですね。この風景はあなたが見せているんですか?」

 

「───」

 

「一体何の為に……ここはどこですか?」

 

「───」

 

 

 返答無し。一切の質問に応えることは無かった脅威に針谷は頭を抱えた。

 あからさまにこの脅威がキーだろうとは分かっていても、アプローチする術がない。

 暴力的な手段など以ての外だ。それをしたら最後、以前両親の言っていた通り脳が焼き切れるのは想像に難くない。

 かと言って何か手段があるわけでもない。根気強く対話を試みる。

 

 

「対話の意思はありますか?」

 

「───」

 

「僕の発言は理解できますか?」

 

「───」

 

「脅威とはなんですか?」

 

「───」

 

 

 矢継ぎ早に質問を繰り返すこと数分。

 脅威とは何か、人間と対立しているのは何故か、時には明日の天気や趣味を聞いてみる等頓狂な質問もしてみた。

 結果は全滅。全ての質問に対し脅威は沈黙を選んだ。これには針谷も苦い顔である。

 

 

「いっそ悪い夢だったらいいのに。覚めるかもしれませんし、頬をつねって頂けますか?なんて……はぁ」

 

「───」

 

 

 するりと、今まで動きを見せなかった脅威が静かに、背の高い針谷の顔に手を伸ばした。

 咄嗟の行動に反応が遅れた針谷の両頬を掴み、ぐにぃと引っ張った。

 力加減はちゃんと出来ており、痛くはない程度に力を込めて左右に引っ張っている。

 脅威が見せた初めての自発的な行動に針谷は目を丸くしながら、努めて冷静に分析した。

 

 

(ん……あぁ、行動を促したからか?)

 

「───」

 

(なるほど。『何かをしてくれ』と頼めば聞いてくれるのか?)

 

 

 今もずっとグニグニと針谷の頬を引っ張っては戻してを繰り返している。

 最初に頼んだことを実行し続けているのだろう。あまり融通は利かないようだ。

 

 

「もういいです、止めて」

 

「───」

 

「この村を案内していただけますか?」

 

「───」

 

 

 引っ張っていた手は止めてくれた。しかし案内はしてくれない。

 恐らく具体的な指示をしないと反応してくれないのだろう。

 そうなるとこの村と思しき場所について、ある程度情報が必要だ。

 どこに行けば分かるか、それを探ろうとしたの時だった。民家の戸をくぐって住人が現れた。

 かなりの老人だが背筋は真っすぐで、歪みない足取りで外へと向かう姿は、少なくとも今はまともに見える。

 すかさず針谷は声を掛けたのだが、その反応は芳しくなかった。

 

 

「あっ、人!?す、すみません!今お時間よろしいで……あ、あれ?」

 

「……」

 

「すみません、自分はマシナリーライン社の者なんですが……耳が遠いとかそういう事じゃないな、これは」

 

 

 至近距離で声を掛けても目の前の視界を遮るように立っても、その老人は無反応だった。

 この現象に針谷は見覚えがある。自分の発言に対しズレた発言をする両親を思い出したのだ。

 あの時は自分の記憶の中のことであった為反応したのだろうが、今回は誰の物とも分からない記憶の中にいる。

 互いに知らない人物同士、受け答えなど予想できない。だから目の前の老人は自分の発言に対し反応しないのだろう。

 そのように結論付けた。そしてその老爺の服装にも着目してから、次々と違和感に気付いていく。

 

 

(随分古めかしい着物だ。農作業用の着物?現代で着ている人は見たことが無い。少なくともここ数十年で見られるような服じゃない)

 

(家の造りもそう。あの長屋、随分古い物だ。歴史の教科書で見たような……)

 

(いや待て、それどころかこの村には電灯がない。それどころか電柱も無いし電線も通って無い。ならここは何時、何処の記憶なんだ?)

 

 

 改めて遠くを見渡してみれば僅かに人が見える。しかしその誰もが農作業用の丈の短い着物を着ている。

 女性も着物だが、やはりこちらも歴史を感じさせる物だ。

 地域によっては電気の無い生活をしている可能性もある。しかし老若男女問わず着物、かつその生活を続けている地域というのは現代で育った針谷には見当がつかない。

 したがって自分の知らない未開発地域の、あるいはずっと過去の記憶である2パターンを想定して周囲を探索することにした。

 そうして探索が始まって体感一時間程度は経っただろうか。村人達は相変わらず針谷に無反応であったが、時折ある単語が耳に飛び込んできていた。

 

 

(……神様、か。信心深い所を見るに、近代ではなさそうだ)

 

 

 それは崇拝の言葉。と言っても豊作を祝っていたりだとか、天候や治安の良さを『神様が見てくださっている』と言っていたに過ぎない。

 しかしその頻度がやけに多い。少なくとも現代に生きて脅威の危機に晒され続け、戦いの渦中に身を置いてきた針谷にとって信心はほとんど無縁なものであった為に変に見えてるだけかもしれない。

 だがこの村の人々は事あるごとに神へ感謝を告げている。

 針谷はこれを、脅威を神として崇めている時代に取り残された地域か、信仰心の薄れていなかった時代の記憶かの二択で思考し、後者だろうと判断した。

 前者ならば非常に危険だ。だが可能性としてあまりに少ない。今隣にいる『村』の脅威が存在した地域ですらこの村と同程度の規模、かつちゃんと電気が通っていた。

 

 何よりこの村は気配が、空気が違う。誰かの記憶の中だとしても、その地域が醸し出す雰囲気が現代のそれではないのだ。

 農作業用のコンバインや肥料の入ったビニール製の袋が見当たらず、あぜ道は整備されていない。

 踏みしめる地面は現代と違い踏み慣らされただけ、井戸はあってもマンホールや水道など見当たらない。

 遠くの山には道路など無く、ただ木々だけが鬱蒼と生い茂っている。

 現代ならば見かけるであろう物が一つも見当たらない。これらを総合して、今見ているのは少なくとも二百年以上前、過去の風景であると結論付けた。

 

 

「神様と呼んでいるなら祀っている場所がある筈。そこへは案内できますか?」

 

「───」

 

「武装は……ある。よし、行きましょう」

 

 

 まるで人間のようにひたひたと裸足で歩く人型脅威の後ろを、針谷は静かに付いて行く。

 追憶の旅が始まった。

 





次回 第二十三話「平和な願い」
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