巨大な体躯と膨大な魔力を持つ者達の熾烈な戦いは続いていた。
「くっ、流石にやる。未来!」
「無茶言わないでください!というか貴方が相撲を取ろうとか言わなければもっと早く終わってたんじゃないですかっ!?」
「なるべくデータを取るよう言われているんだ。ならば出力限界も取るべきだろう?」
「相変わらずバカですよねあなたは!!」
「研究熱心と言ってもらおうか!」
重く響く銃器の連射と体躯のぶつかり合い、魔力が接触した際の共鳴音が周囲一帯に響き続ける。
対する決戦兵器、真道丸に傷は無い。しかしシールドの出力に限界が近い。
度重なる猛攻に回避という手段が取れない。猛烈な衝撃の連打に既に盾の発生装置が悲鳴を上げている。
データ収集と嘯いたはいいものの、早期の決着を焦っていた。
もう一人、魔法少女の明もまた攻めに転じ切れずにいた。
なにせ常に
更に
数秒のタメを必要とする代わりに高密度の熱戦を放つそれは、魔法少女の耐久力をもってして危険。
他の魔法少女達を撃墜したのもそれだ。これが想像以上に厄介で、一度正面から受けると魔力を自由に操れなくなるのだ。
その為受け流すこともままならず回避を強制される。
針谷が倒れて二十分。二人をもってしても勝利を得ることは出来ていなかった。
「とはいえ、互いにそうも言っていられなくなってきたな。そろそろ片付けようか」
「最初からそうしてください」
「悪いな。……出力調整開始、
ガゴンと音を立て、ラックから射撃武器が取り出される。
両手に一丁ずつ、巨大なランチャーがその手に落とされる。
それだけでは終わらない。更に二丁の熱戦銃が両肩上部取り付けられる。
バックパックに並んだ4連装の迫撃砲、こちらも既に敵をロックしている。
それらを構えたと同時にモノアイのランプがギラリと光る。
「全兵装同時作動、安全装置解除。全魔力、攻勢転換終了。射撃体勢よし」
攻勢の気配を感じた
明の攻撃によるものだ。前足の片方、その足元だけを狙いすまして爆破、遅滞に努める。
「どうぞ」
「了解した。魔力充填完了!砲撃開始ッ!!」
壮絶な弾丸と榴弾、光線の嵐が吹き荒ぶ。
ガンガンと音を立てて
更に真道丸の背後に明が留まる。彼女から潤沢な魔力が流れ、真道丸の攻撃はさらに持続する。
両手のランチャー、背の迫撃砲絶え間なく爆撃。一瞬でも動きを見せよものなら強烈な熱線が
「如何に堅固と言えど、弾幕の前ではなぁッ!!」
対
どれほど強固な相手でもその攻撃で打ち崩せない敵はいない。
また銃火器を運用する仕様上歩兵との相性もいい。決戦兵器の中では最もローコストなこともあり運用された回数はトップクラスだ。
民間に最も知れ渡っている決戦兵器の一体でもあり、その信頼性は高い。
次第に榴弾が尽き始め発射間隔に開きが出てくると共に打ち止め、大きな土埃で
あまりに多くの爆発物を使用した影響か、計器が乱れっぱなしだ。
「少し派手にやりすぎたようだ。だが決着はついたな」
「タケ……よく怒られませんね。街をこんなにめちゃくちゃにして、弾薬費だけでどれほど掛かるんですか?」
「さぁな。だがそうは怒られんのが大人の世界だ。派手に動くほどプロモーションにも───」
その時、地面が大きく揺れた。
震源地は考えるまでも無く、正面。
煙の晴れた場所から再度、
既に外皮はボロボロ、剥がれた箇所からは結晶化が始まっており放っておけばすぐにでも物言わぬ身となるだろう。
だが獣とは手負いの瞬間こそが最も恐ろしい。
そして輝く身体は恐ろしい未来を二人に想起させた。即ち、今の
「これは……マズいな!」
全エネルギーラインを武装と直結させてしまった真道丸は、現在シールドに一切魔力を回していない。
真道丸は今、丸腰の鉄の塊でしかないのだ。死に体とはいえ自身の図体以上の質量をぶつけられればひとたまりもなく砕け散るだろう。
明が即座に強固な魔力障壁を発生させるも、こちらも先程まで巨大な真道丸のサポートに努めていた。
魔力は未だ底を尽きていないが潤沢とも言えない。質量兵器に耐え得ると自信を持って言える物ではなかった。
「私が受け止める。君は障壁を貼って周囲の被害を抑えてくれ」
「バカなこと言わないで!そんなことしたらタケが死んじゃうでしょう!?」
「より大勢が死ぬよりはいい!それに……ここで退いたら彼に申し訳が立たんのだよ」
真道丸の両手からガゴンッと音がし、両手の武器が手放される。
僅かにしゃがみ、受けの姿勢を取ることで正面から
「たった一人、装甲も武器も無く徒手空拳で立ち向かった彼の恐怖は如何程だったか、私には推し量れん。だというのに私が怯えてどうするという?」
「だからと言って!」
「私達の背にいるのはこの国全ての人間だ、明。逃げた怯えた顔を見せる等以ての外、常に立ち向かってこそ我らの本懐だ。『我らは人類が持つ刃の切っ先である』、だ。振り返って己の身体を傷つける刃がどこにある?」
レバーを握る手に震えは無い。死地へと向かう覚悟など機体に乗り込んだ時から決まってる。
故に迷わない。迷う必要が無い。命はとうの昔にこの国に捧げたのだから。
しかし明はその場を離れない。それどころか真道丸の肩に乗り魔法を行使し始める。
「未来っ!何を、早く離れろ!」
「うるさい。どっちにせよ障壁の維持と装甲の補強でここから離れられません。一蓮托生って言ってるんです」
「君に死なれれば琴森さんに申し訳が立たん!」
「だったら生きて帰りなさいっ!!」
「無茶を言う……ッ!」
そうこう言う内に
既にその威力は周囲一帯を吹き飛ばす程度では済まない。
死なば諸共。真道丸を起点に全てを巻き込んで灰塵とするだろう。
もし、この時岩山が本音を吐き出せたらこのように言うだろう。
「君にはここで死ぬ多くの命より、沢山の命を救う使命がある」と。
確かに死ぬ、多く死ぬ。だがこれから彼女が救うであろう多くの命と比較すれば少ない。
それに引き換え自分は、決戦兵器を動かす一つの部品に過ぎない。自分以外にもパイロットはいる。
ならばこの身と隊員達を犠牲に被害を抑えた方が遥かに良い結果となる。
けれど僅かに震える明を見て、何も言うべきではないと判断した。
それは彼女の尊厳を汚してしまうから、と。
「……口下手な自分が、嫌になるよ」
「口が回るタケなんて気持ち悪いです」
「言ってくれる」
衝突の寸前、明は目を閉じ、岩山は最後まで目を閉じることは無かった。
衝突は終ぞ、訪れることは無かった。
「遅くなりまして申し訳ありません。針谷大和、現場に復帰します」
ただ一人。されどその一人が
先ほどまでそこには誰もいなかった。しかし次の瞬間には立っていたのだ。
「針谷隊員……!?バカな、どうして起きている!?怪我は!」
「お気遣い感謝します。色々と融通が利く身体になりまして」
服装は既に隊員既定の戦闘用スーツのそれではない。
白を基調とした赤のライン、まるで神職のような意匠のそれは見た者の目を強烈に惹きつける。
しかし手や背中、腰にあった武装は無く素手。とてもではないが戦える姿ではない。
自殺でもしに来たのか。しかしそうとは言えない迫力が、その時の針谷にはあった。
そう、彼は今突進する爆発物と化した
「……有り得ません、なんですかそれ。貴方、一体どこからそれほどの魔力を引っ張ってきているんですかっ!?」
「はは……色々とありまして」
「まさかそれで全部乗り切ろうとしているのか?流石に無茶だろう、針谷隊員」
「起きたことがあまりに多く、一言で済ませることが出来ないんです。何卒、ご容赦頂きたく」
見れば
爆発寸前のギラギラとした輝きは鳴りを潜めつつあり、すでにピシピシ音を立て結晶化の進行が見て取れる。
時間さえ置けば次第にこの
「貴方に聞きたいことが山ほど出来ました」
「私もだ。それに……背後の彼女は?思うにその子が君のパートナーのようだが」
一見すると針谷が視線すら向けずに
だが岩山、そして針谷の目にはそう映ってはいない。
しかし明の目には何も映っていない。ただ
「彼女?タケ、何の話をしているの?」
「どうにも見えている人とそうでない人がいるようです。ここまで来た以上隠し通すのも難しい。後程説明を」
「……なるほど、見るからに厄介事だ。ついでに私を逃げられないところまで持っていく算段か」
「滅相もありません。僕はただ何とかしたいんです、この身には過ぎた願いかもしれませんが」
「ほう、何をだ?」
数十年ぶりに死者を、それも多数出した猪の
遠くを見れば準備万端で備えていた大塚、木山の二人が手を振っている。
針谷は笑顔でそれに手を振り返した。
しかし、本当の戦いはこれから始まるのだ。
「破滅の願い、その連鎖を止めたいんです」
脅威との決戦の二週間後、広い社長室の中で二人の男が対峙していた。
「魔力の発現、その次は更に覚醒か。まるで漫画のようだと思わんか?伊崎」
「社長の仰る通りです」
その面持ちは表面こそ平常を取り繕っているが、疲労が隠せていない。
先の怪獣大決戦を辛くも制したのは人類であった。
しかしあまりに多くの事態が同時に発生しており、慎重かつ迅速な判断を求められた剣崎は疲れていた。
伊崎もそうだ。現場にいた多くの隊員が針谷が脅威に腹を貫かれる姿を目視し、その上現場に復帰し事態を収拾するところまで見ている。
その後すぐ針谷は社長指示の元連れていかれ、事情を説明させる為に一時的に待機させている。
となれば納得のいく説明など誰も出来ない。ならばと、現場である程度の信頼を持つ伊崎は混乱する部隊の鎮静を買って出たのだが、それにも非常に苦心していた。
二週間経った今でも混乱は大きく、針谷はどこに行ったのかという声が後を絶たない。
「それで?そのことを差し置いてでも話したいことがあると聞いたが」
「はい。本来であれば針谷に直接伝えたかったのですが、やむを得ず」
「私との面談がやむを得ず、か。言ってみろ」
本当なら伊崎はここに来るつもりでは無かった。状況を鑑みれば針谷に直接伝えるのが最も確実、かつ事態解決に動けるだろうと思っていた。
しかしその針谷は今社長の手元だ。伊崎の危惧通りなら、社長に伝えることにもリスクはある。
だがここまで来てしまった以上、言わない訳にもいかない。
出された茶を一口啜り、伊崎は口を開いた。
「私の部下である赤崎はご存知でしょうか?」
「当然だ。少々生真面目が過ぎるきらいはあるが、副官としては優秀な男だ」
「そうです。作戦行動中赤崎と会話していた時の事です」
「作戦行動中、赤崎守隊員より
以上12話をもって「マシン・マジック・マイメモリー」2クール目を完結と致します。
ここまでお読みくださった読者の皆様、評価感想してくださった皆様、誤字報告してくださった皆様、本当にありがとうございました!