【完結】悪役令嬢に好かれたばかりに自分の恋愛がハードモードになった取り巻きのお話   作:丸焼きどらごん

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取り巻きーズともう一人の転生者視点なお話。


四話 取り巻きを取り巻く勘違いのet cetera~嘘だろと叫びたい転生者~

 

 

■□ とある取り巻き令嬢たちの場合 □■

 

 

 

「ああっ、今日も朝からアルメラルダ様とファレリア様をお側近くで見ていられる。なんて幸せなの!」

「ですわですわ、本当ですわ~。お父様達のご命令など無くとも、この場所は絶対手放してなるものかですわ~!」

「ファレリア様、今日も流石ですね……。アルメラルダ様の厳しい訓練にも、顔色一つ変えていません」

 

 とある昼上がり。

 優雅に歩く高貴な令嬢二人の後を追いつつ、絶妙な小声できゃーきゃー言い合うという器用な事をしている三人の少女がいた。

 彼女たちはアルメラルダ・ミシア・エレクトリアの取り巻き二、三、四である。

 

 そして取り巻きその一であるファレリア・ガランドールであるが、本日も「只今魔法訓練中」の札をぶら下げながら過酷な修行を課せられていた。

 ここ最近突如として行われ始めたそれも、今やすっかり日常風景の一部である。

 

 見れば彼女の足元には燃え盛る魔法の炎がまとわりついている。それが彼女の白い足を焼くことは無いが……歩く先々の地面を熱しており(もちろんアルメラルダの高度な魔法が用いられているので、ファレリア以外に影響はない)常に火渡りを強いられている状態だ。

 だが人形のような美貌を誇る少女は今日も見事な無表情。ときおり浮かべる微笑にはある種の"凄味"がある。

 更には「アルメラルダ様って拷問官の才能有りますよね。何処からネタ仕入れてくるんですか?」と軽口まで発する余裕。

 その姿に三人は「流石ですファレリア様」の心を隠せない。

 

 先日魔法の訓練だと言って、ファレリアを水責めにしていたアルメラルダにぎょっとしたのが最早懐かしい。

 

「ああ、本当に……。最初、ファレリア様に嫉妬していた自分が恥ずかしい。そんな考えを抱く事すら烏滸がましいというのに」

「ええ、ええ。やはりあの方の隣に並び立つに相応しいのはファレリア様以外おりませんわ」

「聞けば入学前もあのような"お遊び"を行われていたとか。アルメラルダ様も彼女ならば耐えられる、という確信と信頼あっての事なのでしょうね」

 

 魔法学園入学以来、将来"星啓(せいけい)の魔女"となるであろうアルメラルダに取り入るため。そして単純にそのカリスマともいうべき魅力に惹かれて集まった三人。

 しかしその時すでに彼女の横にはファレリア・ガランドールがいた。

 

 アルメラルダから常に厳しく当たられ顎で使われるファレリアを見て、当初は「ああ下僕なのだな」と感想を抱いた。が、共に過ごすうちにそれは"信頼"なのだと思い知る。

 ファレリアもまたアルメラルダに対しなかなか失礼な態度を繰り返していたが、それが許されるほどの絆が二人の間にはあったのだ。

 

 ファレリアの何を考えているか分からない無表情に加えて、常にアルメラルダに構われている状態。それゆえに臆し、二年も共に過ごしているのに話したことは驚くほど少ない。

 だが取り巻き令嬢三人の中では、ファレリアのタフさにアルメラルダに対するものと同質の感情が育っていた。

 

 

 すなわち「憧憬」である。

 

 

「大きな声では言えませんけど、アルメラルダ様。急にファレリア様を鍛え始めたのは、あの方を史上初の女性補佐官として迎えるためだと思うのよ」

「まあ! ありえますわ! ありえますわ! あの庶民の小娘が星啓の魔女になるなど万が一にもありえませんし。アルメラルダ様はすでにご自分が星啓の魔女となった未来を見据えて行動なさっているのですわね~!」

「なるほど。しかしそれも納得です。あの方の横に並び立つ補佐官は、たとえどんな優れた男性が居たとしてもファレリア様以外考えられない。我々も動じず、あの方々の訓練を見守りましょう。むしろお手伝いをするべきです」

「確かに」

「確かに」

 

 この会話をファレリアが聞いていたら「おいやめろ」とストップをかけるだろうが悲しきかな。

 

 二人の交流を邪魔してはならぬと気遣った三人は常に小声で話しているため、その耳に不穏な会話が入ることは無かったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■□ アラタ・クランケリッツの場合 □■

 

 

 

 

――――ずっと気が狂いそうだった。

 

 

 

 

「相変わらず難しい顔をしているな。こちらで茶でも共にどうだ? それとも酒の方がいいかな」

「殿下。職務中です」

「硬いな。付き合いも長いのだし、もう少し砕けてくれて良いのだぞ? アラタ。私は君を信頼している。そんな相手からつれなくされるのは寂しいものだよ」

「……勿体なきお言葉。ですが職務中ですので」

「……はぁ。まあ、それも君の良いところだものな。せいぜいじっくり口説かせてもらうさ」

「そういったことは女性相手になさってください」

「冗談も理解してくれると嬉しいのだがね」

「善処します」

「期待してるよ」

 

 そう茶目っ気を含ませて笑った赤髪の青年は、この国の第二王子。

 アラタ・クランケリッツが護衛をする相手だった。

 

(ああ、嫌だな)

 

 彼を見る時にどうしても「第二王子」というフィルターがかかってしまう事がひどく煩わしかった。

 身分ではない。"キャラクター"というフィルターだ。

 同じ世界に生きて、同じ空気を吸って、同じ大地に立っている相手を、そんな目でしか見られない現状が気持ち悪い。

 相手の事を尊敬し、好意的に思っているだけにその感覚は常にアラタを悩ませていた。

 

 

 

 生まれた時から持っていた"原作知識"を含めた前世の記憶と自我。それが本当に自分の記憶であるかも分からず、ただただ困惑した。

 ここがその知識の中にある物語の世界だという可能性に気が付いたのは七歳の頃。

 物語の中でも最悪の道を歩んだ時、自分や家族がどうなるかを考えてゾッとした。

 

 最悪の道……"冥府降誕"を迎えてしまえば、主人公たち以外問答無用でこの国の人間は全て死ぬのだ。

 

 何を馬鹿なと一笑にふす胆力は自分には無かった。

 その可能性に気付いてからは眠れない夜が続き……衰弱死一歩手前になってようやく決意したのだ。

 

 この世界を物語の舞台だと受け入れて、自分がこの国を救うのだと。

 

 そのため縋るような気持ちで「前世で好きだったキャラクターを救うヒーロー」に自分を見立て、デザインした。本来の臆病な性格に蓋をして。

 対象が大きすぎて逆に曖昧になってしまっている本懐の他に、具体的な"誰かのため"という目的意識を持つことで、恐怖を乗り越えようとしたのだ。

 もちろん、その誰か……アルメラルダを救いたいと思う気持ちにも、偽りはないのだが。

 

 

 

 己を鍛え、薄れゆく記憶の中から知りうる限りの原作知識を抽出して書き記した。

 

 妾の子かつ五男という立場では何もできまいと、家を出て騎士となり第二王子の護衛という地位を手に入れた。

 

 苦境の中に居る主人公たちを見つけだし、姉には国外での平穏を。弟には同士となることを求めた。

 

 

 

 そしてようやく整った舞台。

 最悪の道はひとまず回避できたと見ていいが、原作時間軸が終わるまでは油断できない。

 冥府降誕を完全回避するためにも。自分をヒーローに見立てるため勝手に縋った少女を救うためにも。

 全てが丸く収まるエンディングを迎えるまでが、彼の戦場だ。

 

 そうして丹念に丁寧に作り上げてきた「ガワ」。

 

 

 

 

 

 だが先日。

 それは一瞬にして剥がされた。

 

 

 

 

 

『あーーーーーー! はい。はいはいはいはいはい! かんっっっっぺきに理解した! うわっ、恥ずかしい! 無意識下で自分一人がそうなんだと思ってた! でも、そっか。なるほどなー!』

 

 そう一気にまくし立てた少女を見た時、アラタは思った。

 

 

 

――――仲間がいた。

 

 

 

 そう感じた途端あらかじめ引いておいた一線、心の壁がいともたやすく瓦解した。

 

 転生者という正体を知られ、アラタもまた自分と同類だと分かるや否や。ファレリア・ガランドールの「ガワ」をかぶった少女の警戒心は目に見えて溶け消えて、友好的に握手をしてきたのだ。

 この時点でアラタもまたファレリアに対しての警戒心が無に帰した。

 

 自分の記憶をずっと疑っていた。

 信じようとしながらも自分の頭がおかしいのではという考えが常にあり、気が狂う寸前と理性の間を行き来した。

 だけど一瞬で受け入れられた。裏付けられた。この記憶や前世の世界は偽りでないのだと。

 それがどんなに嬉しかったか。

 

 

 

 後日。

 日を改めて彼女に事情を説明した上で「何もしない」協力を求めようと考えていたアラタだったが、心は非常に浮足立っていた。

 

 彼女の存在そのものが前世の肯定。それも自分と同じくゲームを知っている人物。

 嬉しい。嬉しい。嬉しい。

 この世界においての異物は自分だけでないという事実はアラタを勇気づけた。

 護衛対象の第二王子にすら「最近ずいぶん機嫌がいいんだな」とからかわれるほどに、それは表に出ていたようである。

 

 

 

 しかし。

 

 

 

 空中庭園の密会にて。

 "堅物真面目"な騎士の皮などすでに機能しないままに一通りぺらぺら喋った後、心を満たしていた温かい気持ちに……一気に冷や水を浴びせられる事となる。

 

 

『全部終わったら私と結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?』

 

 

 言われたことを理解するまで数十秒を有した。

 

 

 自分に告白? 何のために? どういった思惑で?

 

 

 アラタは自分に自信がない。更に言うとリアルの女に対して恋愛面での信頼はゼロを振り切ってマイナス。それは前世から引きずっている、うとましい感性の一つだ。

 更に冷静な分析でも、アラタは自分が女性から好意を集める顔でも雰囲気でも無いことを自覚している。

 地位や磨き抜かれた肉体があるため時折熱い視線を向けられることが無いわけではないが、直に接するとアラタの作った「ガワ」による雰囲気と肉体の威圧感で委縮させてしまうのだ。

 顔とてこのあたりでは珍しい種類なだけで、美形とは程遠い。ゲームならばチュートリアルに出てくるモブがせいぜいだろう。

 

 その自分に、会って間もないうちに愛の告白?

 いくら同類とはいえ、そんなことありえるのだろうか。

 確かに彼女は自分を見る時赤面していたが……動かない表情の中それは異様で、とってつけたようにも見える。

 

 

 

 

 ……裏が無いわけがない。

 

 

 こうして安堵は疑心へと反転した。

 

 

 

 

 

 もしや前世を想起させる単語と会話のノリで話していたのは、自分を油断させるためだったのだろうか。

 自分は何処まで話した? 余計なことは言っていなかったか?

 

 考え始めれば止まらず、アラタは思考の渦に飲み込まれた。

 

 最初は話を他の誰かに聞かれないため以上に、精神的にマウントを取りこちらのペースに乗せようと隔離結界を使用した。「悪意無しと判断した」などと言っていたが、あの時点でアラタはファレリアを信用などしていなかったのである。

 だがそんな中、彼女は予想を超えてフレンドリーに接してきた。そのことに対しアラタは内心でかなり動揺したし呆けてしまい、思えばあそこから彼女の術中にはまっていたのかもしれない。

 カマをかけたなんて言っておいて、逆に罠に嵌められたのは自分であったのだ。

 

(そうだ。協力を申し出たのだって、きっと何か思惑があるんだ……!)

 

 何もしないでほしい、というアラタのオーダーに快諾したファレリア。

 だがあの女はその直後で「フォートを手伝う」という断りにくい名目でもって、原作へ関わることの出来るポジションを手に入れた。

 

 どこまでが計算でどこまでが素なのか。疑い始めると一気に分からなくなった。

 話していると感情表現は豊かに思えるのに、表情がほぼほぼ動かないのも内心を測り切れない原因である。

 

 

 

(微笑の美少女。伽藍洞のお人形……)

 

 原作での"ファレリア"の異名を反芻する。

 

 製作者の一人が趣味で手掛けたスピンオフ。

 それはゲーム本編クリア後の時間軸で描かれる、主人公マリーデルと特定のキャラクターが結ばれた世界線の物語だ。

 製作者としては「ラブラブになった二人を困難に立ち向かわせてそのラブラブっぷりがより強固になったやつを見たい!」の一心で作ったであろうその話。

 そこに出てくる"第二の悪役令嬢"とも言える存在がファレリア・ガランドールである。

 

 

 魔法学園にファレリアが入学してきた時は驚いた。

 なにしろアルメラルダと違い、ファレリアは魔法の才能がまるで無いという設定だったからである。だからこそ本編後……魔法学園を卒業した後のストーリーに出てくるのだ。

 更にはアラタが助けたいと思っている悪役令嬢アルメラルダと親しい様子で、そんなイレギュラーをアラタは慎重に調べる事にした。

 

 なんでも二人は十歳の頃からの幼馴染で、その仲は非常に良いものだと一部では評判だとか。驚くべきことにファレリアはほぼ毎日、エレクトリア公爵家に通うなどしていたらしい。入学してからも常に一緒だ。

 魔法に関しても使えないなどということはなく、むしろ中級……出来が良い方。

 その他にも気になることはあったが、アラタはまず彼女が自分の知る「ファレリア」とかけ離れていることを受け入れた。

 

 出来る事なら原作前にアルメラルダの事も調べるべきであったし、それが可能ならばファレリアのこともすぐに気が付いただろう。

 だがアラタとしては事情が事情だけに自分一人で動く他なく、手が足りなかった。

 アラタの立場では公爵令嬢であるアルメラルダの事を調べる事が単純に難しかった、というのもある。

 

 我ながらなかなかの失態だと歯噛みしつつ、アラタは王子の護衛として学園に潜り込めたことを機に……今までの遅れを取り戻すように情報、噂を集めた。

 学園は噂の宝庫だ。

 一度入ってさえしまえば情報はいくらでも集められる。

 

 

 そして。

 

 

「アルメラルダ様は幼い頃かなりの癇癪持ちとして有名だったのですが、ファレリア様に出会ってからはピタリと収まったとききますわ。気の合う友と遊べたことで、色々発散できたのでしょうね」

「気位が高く傲慢だと思われることも多いが、あの方は常に努力なさっている。実力のある者が矜持ある振る舞いをするのは当然の事」

「アルメラルダ様は星啓の魔女候補かつ、エレクトリア公爵家のご令嬢だけあって素晴らしいお方だよ。ご自身の研鑽も常に怠らない上に、身近な者の世話までする責任感の強い女性だね。ファレリア嬢はアルメラルダ様に目をかけてもらって恵まれているな。羨ましい限りだ」

「やはり競い合うライバルだからでしょうか。あの庶民、マリーデルに対してはいつもと違った顔をお見せになるわ。ですが星啓の魔女は国の要。その重要な役割に、万が一でもあのような小娘を据えるわけにはいきませんもの。アルメラルダ様の対応が厳しくなるのも納得です」

 

 などなど。

 

 アルメラルダに関しては"高慢だが実力のある努力家で面倒見もいい"といった評価が大半だ。もちろん悪い噂がないわけではないが。

 

 悪役令嬢といっても彼女には「星啓の魔女」になるという目標があり、彼女もまたそれにふさわしい振る舞いを心掛けている。星啓の魔女に寄り添う補佐官となるべき男性と縁を結ぶ必要もあるため、わざわざ悪評をたてる行為をするはずがない。

 

 ゲーム的にも悪役令嬢というカテゴリを当てはめられる前に、彼女に備わっている肩書は「主人公の恋敵」。

 

 悪評ばかりのライバルを退けて手に入れた恋など茶番も良いところだ。恋敵(ライバル)には愛する相手をとられてしまうかもと主人公に思わせる……つまり攻略対象が彼女にふらつくような魅力が求められる。

 

 そしてだからこそ、対外的な評判が良いからこそ。

 主人公(マリーデル)だけに向けられる憎悪や嫌悪が際立つのだが。

 

 

 

 ……対してファレリアについての噂は。

 

 

 

「よくアルメラルダ様にきつく当たられているファレリア様だけど、実はアルメラルダ様の手綱を握るためにあえてそれを受け入れて裏から操っている、だなんて噂を聞いたわ。あ、大きな声じゃ言えないんだけど。私が言ったって内緒ね」

「ファレリア様は目立って優秀というわけではないけれど、あの容姿でしょう? とっても神秘的! 真の実力を隠していると言われても納得しちゃいますわ~」

「彼女の赤目、生まれつきでなく段々変色したものらしいんだ。つまり"変赤眼(へんせきがん)"だね。けどアルメラルダ様がそばに置いているんだ。不幸を呼ぶなんて噂、嘘、嘘。むしろ白金の髪に映えてとてもお美しい。ああ……アルメラルダ様と並ぶとまるで女神が戯れる絵画のようだよ」

「信頼、なのでしょうね。時々行き過ぎた制裁というか、アルメラルダ様がファレリア様に手を挙げている場面を目にします。ですがファレリア様はその後でもいつも微笑みを浮かべてらっしゃるし、アルメラルダ様の側から離れたことは一度もございません。ご自分のためにあえてアルメラルダ様が厳しい態度をとっているのだと理解しているのだわ。なんて麗しい友情でしょう」

 

 などなど。

 

 概ねがその無表情と神秘的な見た目ゆえに「隠れた実力者」として認識しているようだ。

 アルメラルダとの関係も"対等な友"として見ている者が多い。

 

 厳しく当たられているという件に関しても、「仲が良い証拠」だと受け取られているようで。アルメラルダの評判が原作よりやや良いように思えるのは、彼女の苛烈な性格を受け止める緩衝材(ファレリア)が居るからかもしれないとさえ思えた。

 

 

 

 

 アラタはそんなファレリアを見て思った。

 もしや彼女も自分と同じ転生者なのでは?

 

 そう考えれば納得がいく。

 魔法の才能がなくとも前世の記憶があるならば死ぬ気で魔法を覚えるだろうし(アラタは使いたくてしかたがなくて五歳で覚えた)、早い段階でアルメラルダに接触すれば彼女は悪役令嬢にならないかもしれない。

 そう考えて行動した転生者の結果があのファレリア・ガランドールであるならば、いかに心強いか。

 

 アルメラルダが原作通り悪役令嬢になっていたため首を傾げるところもあったが、ファレリアに接触しない理由にはなりえなかった。

 もともと原作開始前後で自分が知る知識と大きく異なる存在が居れば、声をかけようとも思っていたのだし。

 

 ……問題は、接触するタイミングが無かった事だ。

 

 ファレリアは学園移動中はほぼアルメラルダの横に居る。

 黄金と白金の少女の組み合わせは大変華やかで、常に人目を集めていたのも接触しにくい原因だった。

 

 そんな中、自分が仕込んだ原作崩壊かつ原作順守の切り札。マリーデルの弟、フォートが入学する原作開始期を迎える。

 マリーデルが星啓の魔女としての資質を発揮し見出されるためのイベントは、マリーデル本人の資質を一時的にだけ完全模倣(パーフェクトエミュレーション)したフォートによって再現した。

 男であるフォートが本当にそれを出来るのかが一番の懸念であったが、幸いなことにそれはクリア。無事入学。

 

 その後ファレリアがどう接してくるのかと思っていたが……。アラタも予想外なことに、どういった経緯なのかマリーデルに扮したフォートが彼女をアルメラルダから引き離した。

 その時アラタは好感度管理のため虐めイベントに来る攻略候補は誰か確認しようと別の場所で待機していたのだが、その目の前を走り去って行くマリーデル(フォート)とファレリアに目を丸くしたものだ。

 

 

 だがそれは絶好の機会。

 以前にも一度接する場面はあったのだが、その時は王子が居た。そのため話すことなど不可能。

 こんな場面はもうなかなか無いだろうと、すぐさま隔離結界を用い……多少の情報ジャブをいれたあと。改めて話し合いの場を設けて、お互いの認識をすり合わせる事と相成ったのだ。

 

 だが彼女の愛の告白でアラタは一気に不信感を募らせることとなった。

 それはファレリアという転生者に親近感を覚えはじめていただけに、根深いものとなる。

 

 

 

 

――――そんなアラタの前で。

 

 現在少女もどきと少女()が戯れていた。

 というより、ファレリアが一方的にフォートで遊んでいると言ったほうが正しい。

 

「ほら~。長い髪の毛なのに雑に編んでるから傷んでる。まず丁寧に櫛で梳いて、ちゃんとオイルも塗りましょうね~。ゲームと違ってステータスが上がれば勝手に綺麗になるなんてことないんですから」

「しょうがないだろ。この髪は急遽アイテムで後付けしたものなんだから。慣れてないんだよ」

「お姉さんの髪の毛を結ってあげたエピソードとかないんですか?」

「無い。姉さんは基本的に自分の事はなんでもやっちゃうから……」

「へぇ、なるほどね~。あ、この後はマナーの練習ですよ。まったくもう、アラタさんったら。魔法訓練の他もちゃんと見てあげないと駄目じゃないですか」

「……いや、下手に教えるとイベントがおきないだろ? 不慣れな貴族社会のルールに戸惑っているマリーデルだからこそ……」

「わかってますけど。それは模倣演技(エミュレート)で再現すればいいだけでしょう? 中の人であるフォートくんはある程度知っていて良いというか知るべきです。どうせ必要になるんですから、その時本当に一から覚えていては大団円エンドのために動く時間が減ってしまいます」

 

 ぷりぷりと怒っているように見えるが、その表情はほぼ動いていない。雰囲気と幻視する擬音だけぷりぷりいっている。

 

 マリーデル(フォート)が大団円エンドへ向かうための手伝いを申し出たファレリアだったが、今のところアラタがどうしても手が回らなかった"女子として"のあれこれをフォートにレクチャーするのが主な協力内容となっている。

 使い魔で待ち合わせ場所を決めて、定期的に会っているこの現状。

 幸いなことにまだ誰にもバレていないが、ファレリアに不信感を抱いているアラタとしては胃が痛い。

 下手に断って動向を見失うのも避けたいため、こうして受け入れるしかない現状が歯がゆかった。

 

 

 

 ちなみにファレリアの告白だが、アラタはその場でキッパリ断っている。

 だが。

 

『突然ですものね。驚かせてすみません。ふふっ、でもこれから会う事は多くなるわけですし? そのうち好きになってくれると嬉しいです! 私もガンガンアタックしちゃうので。まずはお友達からよろしくお願いしますって感じですね』

 

 しぶとい(タフ)

 その一言に尽きた。

 断られたその場でそれを言える心臓、毛でも生えているのか?

 アラタがその立場だったら打ちひしがれ、三日三晩は涙で枕を濡らす自信がある。

 そのしぶとさもまたアラタがファレリアの告白を信じられない一つの要因だ。嘘くさい。

 

 

 

 しかし有言実行とでも言おうか。

 

 ファレリアはアラタと会うたびに「素晴らしい筋肉ですね。日々の研鑽とあなたの真面目な性格が垣間見えるようです」とか「今日も鋭い瞳と眉毛が凛々しいですわ。かっこいい!」とか「そのお召し物はご自分で選んだのですか? 小物も含めてバランス最高すぎる……。センスがいいんですね!」とか「人知れず国の存亡の危機に立ち向かうそのお覚悟、男気ですわ~!」とか「アルメラルダ様にはちょっと妬いちゃいますけど、不幸になるかもしれない少女の幸せのために動ける男性。それってヒーローなのでは? 惚れ惚れしちゃいますねぇ」とか。

 

 ガンガンアタックしますという宣言通り、ファレリアはその場で思いつく限りの褒め言葉をアラタに浴びせてくる。顔がいいだけに気を抜けばうっかり惚れてしまいそうだ。

 

 己を懐柔する罠と分かっていても、アラタとて人間。褒められることは大好きである。

 しかも転生者の仲間に飢えていて、これまでの努力を事情の分かっている者に認められたとあらば嬉しくないはずがない。

 

 だがファレリアが自分の事を好きという最大のノイズによって、素直に好意を受け入れることが出来ないでいた。

 

 いったい何を企てているのか。

 それが分からない今、余計な心労を抱え込んでいるのがアラタ・クランケリッツの現状である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無論!!

 

 全てアラタの勘違いである!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 阿呆(ファレリア)は一切謀略など考えていない。望むのは自身の平穏のみ。

 アラタに対しての告白に関しても一般的乙女としての打算こそ多少あれど、基本的には純粋な好意によって発生したものだ。

 

 

(ファレリア・ガランドール! お前はいったい何を考えている……!)

 

 

 何も考えていないのである!

 

 しかし残念なことに、アラタにそれを教えてくれる人間は誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 更には数日後。

 

 

 

 

 

 

 トントントントントントントントントントントントントントントントントントントントン。

 

「…………」

 

 前方から感じる"圧"と絶え間なく聞こえてくる指で机を叩く音に、アラタは顔を引きつらせた。

 このまま気づかないふりを続けるのは流石に無理があるかと、アラタはため息をつきたいところを我慢して本から視線を上げた。

 

 

「…………」

 

 推しが見ている。

 

「……チッ」

 

 推しに舌打ちされた。

 

(ど、どうしろと)

 

 

 ここは魔法学園の図書館。昼下がりの現在は陽光が差し込み、非常に穏やかな空間を演出している。

 だというのに何故自分は向かい合いの席から、人生を懸けてまで助けようとしている少女にチンピラのような表情でメンチを切られているのだろうか。

 今なら扇より釘バットあたりを持たせた方が似合いそうだ。

 

「…………」

 

 発せる言葉はなく、なおも沈黙は続く。

 

 片や強面でガタイの良いとっつきにくそうな騎士の男。片や色んな意味で有名な麗しの公爵令嬢。

 公爵令嬢の方からなかなかにタチの悪い感じで絡んでいるのは誰の目にも明らかだったが、アラタもアラタで生まれつき目つきが悪いので睨み返しているように見える。

 運悪くその場に居合わせた生徒教師その他は、まるでドラゴンが暴れ出す直前のような緊迫感でそれを見守っていた。

 

 

 

「あの……」

 

 周りがざわついた。「話した!」と。

 動くに動けず見守りはじめ、実に十分ほど経過しての事だった。

 

 しかしアラタはいざ口を開いてみたものの、後に続く言葉は思いつかない。それをじれったそうに周囲が眺める。

 対するアルメラルダはといえば、いよいよチンピラどころか人を二、三人は殺していそうな顔になった。

 

「ハッキリしない男ですわね。ファレリアはあなたの何処がいいというのかしら」

(ファレリアぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!)

 

 心の中で自分をスケープゴートにしやがったであろう女の名を絶叫した。

 

 アラタは様々なことを考慮して、ファレリアに「くれぐれも自分に告白。ましてや振られたなどとアルメラルダには言わないように」と釘を刺していた。だというのにこれだ。自分にどうしろというのか。

 内心びっしり冷や汗をかきながらこの場に居ないファレリアに対し怨みを募らせるアラタだったが、ファレリアとしてもこれはしかたのないことだったのだ。

 

 

 

 

 つい数時間前。

 

 ここ最近よく姿を消すようになったファレリアに対し、ついに我慢できなくなったアルメラルダ。その彼女に「いったい何処に。誰の元へ行っているのか」と問い詰められたファレリアは、マリーデル(フォート)のサポートを行っているなどと知られては事だと、咄嗟に自分が恋する男を生贄に選んだ。

 

 恋の意味分かってる? とは、のちのち話を聞いたフォートからの冷静なツッコミである。

 ファレリアはそれに対し「あなたはアイアンクローしながら人間一人を片腕で持ち上げる蛮族の怖さを知らないからそんな事言えるのだわ。自重(じじゅう)で首が千切れるかと思いました」と真剣に返した。

 

 愛する男より自身の保身、それこそがファレリアという女なのだ。

 

 

 ともかくファレリアはアルメラルダに対し「好きになった男性が居るので、その人の元に通っていた」と吐いたわけだ。それも名指しで。

 そうなればどこのどいつだとアルメラルダが品定めに来るのは彼女にとっての必然。アラタにとっての不幸。

 結果、この地獄のような空気に満たされた場が出来上がってしまったわけだ。

 

 

「あなた、前にもファレリアに会っていたわよね。あの小娘も一緒に」

「……ッ」

 

 むせそうになった。

 

 アラタはあくまで裏方を自負しているため、極力マリーデルやファレリアに接する場面を見られないよう動いていた。会う時だって場所の選定には細心の注意を払っている。

 だというのに三人そろっているところを見られていた!? いつ、何処で。

 

 

 一見不動の山のごとく構えているアラタが内心動揺しまくっていると、アルメラルダはアラタの頭の先からつま先の先までつぶさに観察した。

 もし視線で人を射殺せるならば、今頃アラタはハリネズミとなっている。

 

 そもそもファレリアは自分の事をどう説明したのだろうか。

 

「ふぅん……」

(どんな感想のふぅん!? あ、アルメラルダたん……!)

 

 思わず心の中で前世での呼称を持ち出し平静を保とうとするが、とてもそんな風には呼べない雰囲気だ。

 

 アルメラルダは好きだ。推しである。

 だがアラタは自分が推しの近くに居ることを解釈違いと考えるオタクだった。

 ゲームなども主人公へ自己投影するよりも、その世界のキャラクターのみで完結している形こそ好ましく思うタイプ。自分という異物など不要。

 ゆえにこの状態を嬉しいかと聞かれたら素直に首を縦にふれなかった。向けられている感情がどう見ても好意的でないのもあるが、推しと言葉を交わしている自分がまず解釈違いで肉体が爆発四散しそうだ。

 

 

 誰でもいい。助けてくれ。

 

 

 そう考えるも現実とは非情である。

 

「アラタ・クランケリッツ」

(名前も知られてる!?)

 

 突然名前を呼ばれ跳ねそうになる肩を必死に抑えながら、アラタは深呼吸の後……やっとの思いで返事を絞り出した。

 

「……なんでしょうか」

「返事が遅いわ愚か者」

「失礼いたしました」

 

 めっちゃ強く当たってくるじゃん!? と、アラタは心で涙した。なぜ助けようと思っている相手からこんなにキツく当たられなければならないのか。

 だがそんな罵倒などこれから言われることに比べれば、実に可愛いものだった。

 

 ガタっと音を立てて席から立ち上がったアルメラルダは、手に持つ扇でビシッとアラタを指す。

 

 

 

「わたくし、アルメラルダ・ミシア・エレクトリアは貴方に決闘を申し込みます!」

「なんて?」

 

 

 思わず素で答えてしまったアラタは、いよいよもって自分の事をアルメラルダに教えたファレリアを恨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、当のファレリア。

 

「あ~。茶がうめぇですわ~」

「それは良かった。クッキーの出来は?」

「さいっこうですね! これなら料理イベントでも問題ないでしょう。きっと攻略対象の殿方も喜ぶはずです!」

「……必要な事ではあるんだけど、複雑」

 

 本命からの好感度が加速度的に下落している事など知らぬまま、フォートから提供された茶と菓子に舌鼓をうち呑気に過ごしているのだった。

 

 

 

 




これ悪役令嬢ものと言って大丈夫かなと思いつつ、初の悪役令嬢もの(+初複数転生)なので手探りしつつ。
感想など貰えると生きる糧になります!もしよろしければ。
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