【完結】悪役令嬢に好かれたばかりに自分の恋愛がハードモードになった取り巻きのお話   作:丸焼きどらごん

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今回は本編+おまけ小話三話が収まっております。


五話 思いがけないduel~こんなフラグが立つなんて

 

―――― 決闘。

 

 魔法学園においての決闘は、魔法力をいかに使いこなせるかを一対一の"戦闘"という形で競う事を示す。

 既定の手順にのっとって本人、又は代理人が学園長へ決闘に関する事項を申し込み、受理されることで学園側が「場所」「日時」「立会人」を設定。学園全体に告知がされ、誰でも観戦が可能である。

 

 

※魔法学園生徒手帳より抜粋。

 

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 

 

「ふ~んふふふ~ん」

 

 人気の無い旧校舎の廊下を、鼻歌を歌いつつスキップで進む。

 今日の茶菓子はなんだろうな。フォートくん、攻略対象に手作りお菓子をあげるイベントの特訓でここ最近色々作ってくれるんだよね。

 お菓子自体は料理上手なマリーデル(お姉さん)を彼の模倣演技(エミュレーション)で真似ればよいのだが、彼けっこうこだわり強くて自分だけでも作れるようにと張り切ってるんだよな。

 味見役の私は得するばかりだ。

 

『野郎に食わせるための練習ってことだけ気に食わない。可愛い女の子に食べてもらった方がやる気も出るよ。ファレリア喜んで食べてくれるから、日ごろのお礼にもなるしね』

 

 な~んて事まで言ってくれる。

 いやぁ、良い子。フォートくん、超良い子! こっちも色々と教え甲斐があるってものよ。

 最近アルメラルダ様が私虐めに再燃して(本人曰く魔法の訓練)心も体も休まらないから、この密会時間が癒しなのよね。

 手伝おうかなと思っていたイベントのスケジュール管理はアラタさんが隙無く組んでるし、フォートくんはそれを完璧にこなす。

 いや優秀。協力するよとは言ったけど、そっち方面で私なーんもやることなくてとっても気楽だわ。

 

 

 

 アラタさんという現在バリバリアタック中の好きな人には会えるし。

 フォートくんにマリーデルちゃんのエミュレートだけでは補いきれない女子としての所作とか手入れとか対応の仕方とか、マナーもろもろ教えるのは私が楽しいし。

 両親にも見せたことが無い、前世を含めた私の性格口調もろもろいっさい隠さなくていいし。

 

 この密会、正直毎回とても楽しみにしているのだ。

 

 

 

 昨日アルメラルダ様に「最近姿を消す時は何処に行っているのか」と問い詰められた時は肝が冷えたけど、アラタさんの名を出すことで事なきを得た。「好きな人が出来たので会いに行ってます!」とね。マリーデル(フォート)の事を話さなかっただけで、嘘ではない。

 アラタさんには自分に告白したことやフラれた(く……ッ!)事をアルメラルダ様に話さないよう釘を刺されていたけど、まあ問題ないでしょうと。

 第二王子の護衛だし、年上だし。接点も無いから、わざわざアルメラルダ様が接触することは無いはず。

 加えて私の片思いで遠くから見ているだけとも言っておいたから、初恋などに熱を上げているのかと私がアルメラルダ様に呆れられる程度ですむと思っていたのだ。

 

 

 

 

 …………思っていたんだよなぁ。

 

 

 

 

 一瞬スンッと我に返って鼻歌が途切れる。

 

 けど過ぎてしまったものは仕方がないと割り切り、今日も今日とてフォートくんに女子とはなんたるか! マナーとはなんたるか! などを教えるために密会場所へ向かった。

 そして指定された旧校舎の一室にたどり着いたのだが……。

 

「…………」

 

 なんか部屋の真ん中にどす黒いオーラを放つ物体が蹲っている。

 よくよく観察したらアラタさんだった。どうした。

 

「なんで俺が決闘なんだよなんで戦うことになってんだよこれはストーリー上重要なマリーデルとのイベントなわけであっていやっていうかまず俺は生徒じゃないのになんでなんでなんで……ああああああああああ!」

 

 ブツブツ言っているアラタさんから目を逸らし、私は腕を組んでため息ついてるフォートくんをつついた。

 

「これ、なに? どうしましょう」

「ほっとけば? 大人なんだし、自分で何とかするでしょ」

「子供はこんな時ばかり大人だからって理屈を持ち出す! 大人だって大人扱いされたくない時はあるんだよ!!」

「わかる~」

「うわ、駄々こね始めた。じゃあ子供って言って欲しい? きつ。アラタ二十七歳だろ。幼児帰りは見苦しいぞ」

「なんでお前は俺に対してそんな当たりがキツいんだ? ここまで一緒にやってきた仲だろ? あとファレリア。貴女は「わかる~」じゃないんだよ。どうしてくれるんだ。ここまで原作通り進んできたのに!!」

「え、なんのことです?」

 

 すっとぼけてみたが、アラタさんが何を言わんとしているのかは予想がつく。

 今日は学園中がその話題で持ち切りだったからね……。

 

 どうも昨日、アルメラルダ様がこのアラタ・クランケリッツ氏に決闘を申し込んだらしいのだ。

 今関係ない事だが、私はすっかり前世の記憶に汚染されているので決闘という意味の文字には無条件でデュエルとルビをつけてしまう。まったく関係ない事なのだが。

 

 

 

 それにしても決闘か。

 流石にこれは私でも覚えているというか、ストーリー上避けては通れないイベントだ。

 

 星啓(せいけい)の魔女候補が二人以上いる場合、定期的にその実力を測るために直接対決が行われる。

 その一つが決闘……戦闘を通して魔法操作技術を競う方法なのだ。

 なんで戦闘? これ恋愛シミュレーションゲームだよな? とか前世の私も思っていたようだが、冥府降誕とかいうジャンル違いの裏ルートを知った今それの前振りだったのだなと気づく。人生一巡後に気付くの何なんだよ。

 

 そしてこの決闘だけど、ゲームだとターン性の相性バトルとコマンド格闘バトル。二つのミニゲームから選べる仕様となっている。

 制作陣、裏シナリオどうこうの前にゲーム本来の趣旨とは完全に別のところで遊んでるだろ。いや、楽しかったのですけどね。

 今思えばあの辺からすでに製作者の悪ふざけという形で「これ別のゲームじゃない?」感はあったわけだ。

 

 ちなみに避けて通れこそしないが、主人公がこの決闘全てに勝つことはシナリオ上絶対条件ではない。

 ただ勝つと攻略対象全ての好感度と、自身のステータスが一定数上昇するので、軽視も出来ないイベントではある。

 

 

 

 しかし決闘はなにも星啓の魔女候補にのみ適応される物ではない。

 申し込む過程や勝負後に発生した家同士や人間関係のあれやこれやを気にしなければという前提条件はあるものの、学園内であれば誰が誰に申し込んでもいいものだ。生徒手帳にもそう書いてある。

 だからアラタさんが気にしているであろう「マリーデル用のイベントを自分が奪ってしまった」みたいな心配はしなくてもいいわけだ。

 二人の対決は別枠で行われるんだろうし、気にしなくていいと思うんだけどなぁ。

 

「気にするに決まってるだろ!!」

「あら?」

 

 う~んと唸りながら考え込んでいたら、アラタさんがすごい顔でこちらを見ていた。

 ん?

 

「ファレリア。口に出てた」

「マジですか。おっといけない」

「君のそういうとこ、素なのか煽りなのかっていつも気になってる」

「素ですねぇ。天然お茶目なファレリアちゃんなので」

「馬鹿って言葉を可愛く装飾するの上手いよね」

「フォートくん、最近私にも遠慮なくないですか? というか気にすることでも無いんですけど、フォートくんさ。君、初対面時の「ファレリア先輩」とか敬語とかどこ行ってしまったのです? 今完全にため口と呼び捨てだよね? いや、私は大人だし気にしないですけどね? ええ。気にしてませんし、あの時はマリーデルちゃんのエミュレート中だったわけで、今の君が素で接してくれてるのも分かるから嬉しいんですよ? でも今あまりにも自然に馬鹿って言いませんでしたか。こう、もうちょっとこうさ。年上は敬ってもいいと思うんですよね。ほら、ファレリア先輩って言ってごらん? ねえ」

「ものすごく気にしてるし早口じゃないですかファレリア先輩。気にしてないけどって今三回言いましたよ。三回。こういうの先輩たちの前世の言葉で草生えるって言うんでしたっけ? 草」

「とってつけたような敬語が皮肉味増してて効果抜群だよおい。私のヒットポイントだいぶ削られたよ。あとアラタさん、あなた何を変な言葉まで教えてるんですか」

「フォート、頭いいんだよ……。うっかり話すと全部覚えられるからな。ファレリア、貴女も現在進行形で余計な語彙を与えてる。気づけ」

 

 青い顔でげんなりしているアラタさん。

 

 そ、そうか。

 フォートくん、さすが姉の完コピして学園生活送っている男なだけある。話す時は気をつけよう。どうやら私、さっきは考えていた事まるっと喋っていたらしいしな。

 同じ転生者がそばに居るからか、フォートくんが絶妙に突っ込んでくれて気持ちいいからか。二人の前だとわりとよくある。

 

 私が一人反省会を行っていると、目の前から圧。アラタさんだ。

 やだ、そんなに熱く見つめられたらファレリアってばドキドキしちゃ~う。

 ……なんてふざけられる雰囲気ではないな。完全にお怒りだ。

 

「ともかくだ! 今回の件!! 本当にどうしてくれるんだ!? まず俺はストーリー上、アルメラルダたんに直接関わるつもりは無かったんだ!」

「アルメラルダたん?」

「ごめん忘れて」

 

 顔を両手で覆ってしゃがみ込んでしまった。どうやら黒歴史の一端を垣間見てしまったようだな……。

 でもそんなものが飛び出るくらい切羽詰まっている、ということかしら。かわいそう。

 

 でも、そうか。考えてみれば当たり前である。

 まずゲームシナリオ云々抜きにしてもアルメラルダ様のような高位の貴族から決闘を挑まれた場合、断ればそれ自体が侮辱となり断った者の立場が悪くなる。しかしいざ戦うとなれば、それがいくら手加減したものであっても「戦闘の意志を相手に向けた」ことがすでに罪だと揶揄されるのだ。

 普通に考えただけでも、たいへんにめんどくせぇ事態なわけだ。同情する。

 彼自身が言っているように、直接関わるつもりが無かったのなら、余計に歓迎できない事態だろう。同情する。大事な事なので二回考えておいた。

 

 

 

 

 ……それにしても、何故アルメラルダ様は決闘を?

 

 今後マリーデルとの初決闘も控えているわけだから、その前に己の手札を公衆の面前で晒すのは悪手のはず。

 それを推してまでアラタさんに決闘を挑む意味ってなんだろう。

 

 

 そう疑問に感じつつも、この時の私はそれを他人事のように考えていた。

 

 だがその数時間後。

 そんな楽観は他ならぬアルメラルダ様によって、ちゃぶ台返しされる破目となる。

 

 

 

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 

 

 

「ファレリア。貴女にも決闘をしてもらいます」

「はい?」

「語尾をあげるのではないわ。はい! と答えなさい」

「そんなすぐ承諾できる内容じゃ無いんですけど!?」

 

 アラタさんにふぁいと~なんてエールを送りつつアルメラルダ様の元へ戻ったら、開口一番に訳わからないことを言われた。は?

 決闘するのはアルメラルダ様とアラタさんですよね。私関係なくないですか。

 

「相手はマリーデル・アリスティ。わたくしが代理人として申し込み、つい先ほど学園長に受理されました。今頃告知もされているでしょう」

「何してくれてんですか!?」

 

 おいおいおいおいおい。どういうことですか。

 

 アルメラルダ様相手じゃらちが明かないと説明を求めるべく他の取り巻き連中を見たが、こちらはこちらで「自ら面倒な申し込みの作業を代行するだなんて、なんとお心の広い!」だの「お互いがお互いのために戦う。なんて美しい友情かしら」だの「私達も決闘の根回しを手伝ったかいがありましたね。感無量です」だの。

 

 こちらの混乱を加速させることしか言ってなかったので、頭痛を覚えながらもアルメラルダ様に向き直った。

 

「あ、あの。説明を……」

「まったく、相変わらず貴女は愚鈍なのだから」

 

 アルメラルダ様はアンニュイにため息をつく。いや、そんな「やれやれ」みたいにされても。やれやれはこっちの感情ですよ。

 

「ファレリア。わたくしがある殿方相手に決闘を申し込んだことくらいは知っているわね?」

「存じております。もう学校中の話題ですから」

「結構。その殿方の名は?」

「あ、アラタ・クランケリッツ氏です」

「そう。最近貴女が熱心に通っている、アラタ・クランケリッツ。第二王子の護衛を務める優秀な魔法騎士ですわね。貴女がわたくしを差し置いて優先し会いに行くほどですから、とても素晴らしい方なのでしょう。ええ。わたくしを置いていくほどですものねぇ。ほほほ」

 

 すっげーチクチクと言葉に棘があるんですが。

 

「はい……」

「その彼。貴女が選んだ殿方を、わたくしが見極めてさしあげましてよ」

 

 むふーっと胸を張り渾身のドヤ顔と共に放たれたその言葉。

 私は"先ほど"フォートくんに言われた言葉が超特急で脳内を周回山手線するのを感じつつ、とりあえずいったんそれを横に置いて深呼吸した。

 ともかく考え直させるためにも、こちらが冷静さを欠いてはいけない。

 私は自分の決闘をうやむやにするためにも、まずアラタさんとアルメラルダ様の決闘をどうにかした方が良さそうだと口を開いた。

 

「あの、アルメラルダ様? ならば何故その方法が決闘なのです? 相手は学生でなく本職の魔法騎士ですよ。戦いのプロです。しかも大事な御身であるあなた様に万が一にも傷など負わせられるはず無いのですし、当然手加減して、かつ負けてくれるはず。真の実力を見極めるなど出来ないと思いますが。というか選んだと言っても以前話した通り私の片思いであって、アラタ様にとっては迷惑以外の何ものでも……」

「甘いですわね。肝心なのは勝敗でなく、勝負の中に見える人間性です」

 

 言い募ろうとした私の言葉をさえぎってアルメラルダ様がドヤ顔継続でのたまう。

 さ、最後まで言わせて!?

 

「人間性ですか」

「ええ。追い詰められた中でこそ、人は真の姿を見せるものよ」

(追い詰める気なんだ……!)

 

 まずい。目がマジだ。

 

「そして貴女の決闘についてだけれど。いいこと? わたくしは貴女のためにあの小娘との決闘の前に、手札を晒して戦うのです。ならばファレリア。貴女もわたくしのために、アリスティの手の内を引き出して暴くのが当然というものではないかしら」

 

 そして私の決闘に繋がったぁ!!

 

「いやいやいや、待ってください!? 相手、アルメラルダ様と同じ星啓の魔女候補ですし一学年の首席ですが!? そもそも私のためって、頼んでな……」

「後輩相手に怖気ずくとは! 情けないとは思わないの!?」

「ピッ」

 

 訴えがアルメラルダ様の吠えるでキャンセルされた。怯む。

 

「それに、これは貴女がわたくしの特訓でどれだけ成長したかを見極めるいい機会でもあるのです。存分に戦ってらっしゃい」

「え……あ……。いや、やっぱり無理ですよ!? 話を聞いてください。私、戦いなどはからっきしで……」

「やりなさい」

「でも」

「おやりなさい」

「あの」

「や・り・な・さ・い」

 

 はい、を選ぶまで同じ言葉を繰り返すNPCキャラか何かかな? 

 しかしこれはそんな生易しいものなんかじゃない。

 

 圧。

 

 これは暗に、受けなければ今後の訓練がもっと厳しいものになることが示唆されている。

 せっかく天才フォートくんに女子講座のお礼にって魔法教えてもらってここ最近挽回してたのに、めちゃくちゃ唾吐く形で返さなきゃいけないとか地獄か?

 しかしアルメラルダ様の眼力を前に私が選べる選択肢など一つしかない。

 

「……やります」

「よろしい」

 

 しょぼしょぼとしおれた私が不承不承ながら頷くと、正反対にアルメラルダ様は輝かんばかりの満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 ああああ、もう! どうしてこんなことに!

 こんな形で私にまで飛び火してくるとか! というか飛び火じゃなくて火元ってもしかしなくても私だな!?

 フォートくんが言った事、マジだったわ!! 納得はしてたけど、今改めて思い知った!!

 

 

 

 

 私は崩れ落ちそうになる体を持ちこたえさせつつ……フォートくんとの会話を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡ること、アラタさんが嘆きの置物と化していた数時間前。

 

 

「アルメラルダがなんでアラタに決闘を申し込んだか? ……。君のためだろ。どう考えても」

「私の?」

 

 アルメラルダ様が何故決闘などと言い始めたのか。試しに観察眼に優れたフォートくんに聞いてみた。

 彼、実はマリーデルとしての活動の他に模倣演技(エミュレート)を活用し別人に化けた上で、学園内で情報収集なども行っている。ゆえに観察眼が非常に優れているのだ。

 その彼からの意見なので、そんなバナナと言うわけにもいかず耳を傾ける。

 

「ファレリア、アラタの事が好きだって言ったんだろ。加えてアルメラルダは以前自分が認めた者でなければ交際は認めないと発言していた。簡単じゃないか。僕でなくたって分かる」

「えと……んん? アラタさんが私に相応しい相手か、見極めようとしているってこと?」

「そう。それ」

「いや、でもさ。それにしては取るリスクが大きいっていうか」

 

 というか私、今さらだけど世間話のノリで結構フォートくんに色々話してるな。

 

 けしてぼっちというわけではないが……けして! ぼっちというわけではないが! アルメラルダ様を取り巻いてると普通に話す友達出来にくいのよね。

 他の取り巻き連中は何故だか私の事を遠巻きにして自分たちだけできゃっきゃしてるし。おい混ぜろよ私もよ。同じ取り巻き仲間だろうが。

 ……そんな感じだから、ついフォートくんには色々話してしまうのだ。アラタさんとも話すけど、その時は自分のアピールに会話の比率割いてるからな。

 多分この学園内で一番素の私を知っているのは彼ではなかろうか。

 

「……ファレリア。少し言わせてもらうけど」

「あ、はい」

 

 密かに世間話の一つにも乗ってくれない取り巻きーズに恨み言を考えていると、なにやらフォートくんが呆れたような顔で私を見ている。

 え、なんスか。自分、なんかしちゃいましたか。

 

「まず君さ。アルメラルダに愛されてる自覚ってあるの?」

「はい~?」

 

 語尾の音程が疑問含みすぎて九十度直角くらいの勢いで上がった。

 なになになに。フォートくんから何やらすごい単語飛び出してきたんだけど。愛?

 え、君。出会いの頃から始まって、日ごろ様々な虐待を受けてる私を前になにを言っているのかしら? ん?

 あまりにも荒唐無稽な話に噴き出してしまった。

 

「まっさか~~~~」

 

 けどフォートくんは「マジで?」みたいな顔で見てくる。

 

「…………。方法はどうかと思うけど、あれだけ分かり易いのも珍しいだろうに。何度か見てればわかるよ」

「え……」

 

 至極真面目な顔でそう続けられてしまい、どうやらフォートくんが本気で言っているらしいことに気付く。

 ちなみにアラタさんはまた蹲って「どうしようどうしよう」とブツブツ頭を抱えている。放っておこう。

 

 フォートくんは少し唸ってから、なにかを整理するようにこめかみをトントン指で叩いてから話し始める。

 

「あまり認めたくないんだけど、多分……彼女が君に対して行う蛮行は好意から来ているものだよ」

「好意って。だからそんなまさか」

「その、まさか。だって同じ暴力でも僕に仕掛けてくる時の顔と明らかに違うもの。ファレリアに接する時のアルメラルダ……あれは仔犬でも可愛がってる表情だね」

「い、いやいやいや……?」

「他の例をあげるなら……。子供って好きな子をわざといじめたりするだろ? そういう類でもあるのかなって。というかさ。あれだけされてファレリア自身がアルメラルダを憎んでいないのが良い証拠だ。それが出来るのは敵意を向けられていないから。……ファレリア、敵意や悪意を甘んじて受け入れて相手を許せる聖人じゃないだろ」

「あ、はい」

 

 少し思うところはあるものの、悔しいが納得してしまった。

 というか私、そんなところまでこの子に読み取られてるの!?

 

 

 フォートくんの言う通り、私は本来あからさまな敵意を向けられて大人しくしているような人間ではない。

 随分前になるが、私の"眼"に変な言いがかりつけてきた予言師を名乗る妙な奴がいた。そのせいで危うくネグレクトか一家離散するかって事態になったので、その時はめちゃくちゃ攻撃したわよ口で。……あれ、このことも話したんだっけ?

 結構ぺらぺら喋ってるから何話したかとか忘れちゃってるな……。

 

 

 しかし、そうか。これまで客観的に見た私たちに対する感想を、こういった形で伝えてくれる相手は居なかったから目から鱗ね。

 確かに私がいささか過ぎたアルメラルダ様からの虐めを、「諦め」や「打算」だけで受け入れていた状態は変だった。

 相手がいくら子供でも、私だって子供。中身(前世の記憶)を加味したって、途中で爆発しないわけがない。

 なのに私は七年の青春を取り巻きになるために使い、現在こうしてアルメラルダ様の側にいるわけで。

 

 

 

 

「……ははぁ~。なるほどなぁ……」

 

 そうか。

 "好き"を向けられていたから、私も我慢できていたのか。

 というか私もアルメラルダ様の事を好きなのだろうな。

 当然、恋愛という意味ではないが。

 

 人間って基本的に自分の事好きな人間が好きだからなぁ……。

 

 

 

 

 顎をさすりながらうんうんとまぬけな顔で頷いている私に、フォートくんが苦笑する。

 

「納得してくれたなら、それがアルメラルダが何故アラタに決闘を申し込んだのかという事に対する回答だ。大好きな友達の好きな相手が変な男であってほしくない。つまり、そういうことだろ?」

「ええ? アルメラルダ様、私の事好きすぎじゃない?」

「だから、そうなんだろ。その方法がとんでもなく不器用だけど。……姉さん相手に僕に対するのと同じ仕打ちをしてたかと思うと好きになれないけど、そういうところを見てる分には面白い人だよね、彼女」

 

 アルメラルダ様、フォートくんから「おもしれー女」認識を向けられているじゃん。

 

 けど、え。そうなの? つまりそういう嗜好? 愛情を痛みでしか表現できないってこと?

 いやどこで歪んで身に着けたのよその性癖。

 

 

 

 多少の疑問は残ったものの、私は七年目にしてようやくアルメラルダ様からの友愛に気付き、それが自分の中にあることも知った。

 

 だからアルメラルダ様がアラタさんへ決闘を申し込んだ理由には納得していたのよ。

 けどまさか私まで決闘することになるとは、流石に予想外だったわ。

 

 

 

 とりあえず私はいかに「精一杯頑張って負けました」感を演出するか、フォートくんに相談するためのプランを考え始めた。

 

 ……やだなぁ。早く終わるといいな、この珍妙なイベント。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【つづく】>>

 

 

以下、おまけ

 

 

 

■□ 本編とはあまり関係のないこぼれ話 □■

 

 

【なぜなにどうして。女の子への変身どうやるの?】

 

 

「そういえばフォートくんてさ。体型は魔法アイテムで整えてるって聞いたけど、ちんちんどうなってるの?」

 

 フォートくんがむせた。

 

「……ッ! ……! 君さぁ! なんでそう直接的なの? というか、聞く? 恥じらいとかないのかよ」

「いや、実はずーっと気になってて……。だってこの間の着替えイベント、どう見たって股間が」

「年頃の女の子が股間とかちんちんとか言うんじゃありません!! 僕、姉さんがそんなこと言ってたら泣くよ!? ファレリア、僕に女の子の作法を説く前に自分がどうにかした方がいいぞ」

 

 フォートくん、まだ女子に夢見てるようだな。この世界ではどうか知らないが、女の方がえぐい下ネタ言ってたりするぞ。今の発言に関しては男子小学生寄りだけど。

 

 ともかく、私は気になっていたのだ。

 ついこの間。着替え中に攻略相手が入ってきてしまう、それって乙女ゲーとかいうよりラッキースケベの文脈では? という不可避イベントがあった。

 その時の対策として私が一度フォートくんの下着姿を検めていたのだが……。

 

 どう見ても女子。

 柔らかくなだらかなラインにくびれた腰、控えめながらはっきり形を主張する胸元、きゅっとあがったこぶりな桃尻。

 更にはそれらに反し……ふくらみが一切見えない、股間!

 

 どうなってんだよ気になるだろ。

 

「ごめんごめん。で? 実際は?」

「反省してないだろ君。グイグイくるの、何」

「き~に~な~る~の~。お・し・え・て」

「~~~~!」

 

 フーっと耳元に息を吹きかけてみると、フォートくんが飛びのいた。お、良い反応。

 

「ファレリアさ。アルメラルダ様はいつも人の話を聞かないし強引だって言うけど、たいがい君も影響受けてるよ!」

「お。そんなこと言うのはこの口ですかぁ~?」

「!!!! やめ、馬鹿、おい!! アラタぁッ! たすけっ、!!!! あはははははははははははははッ! やめっ、ファレリア!!!! この馬鹿!!」

「アラタさんはまだ今日来ませんよ~。第二王子の狩りにつきそって遠征中だとか」

 

 反抗的だなこの野郎とばかりにくすぐり攻撃を仕掛けてみると、面白いくらいに笑ってくれる。

 フォートくん、口は悪いけど紳士だからな。馬鹿とか言いつつ絶対手は出してこないのよ。ほほほ!

 

 ……とはいえ少しやりすぎたか。

 

 涙目になってきたフォートくんを見て脇下に突っ込んでいた手を引くと、顔を真っ赤にしてぜーはー荒く息をついている彼が睨んできた。

 ひゅ~っ、美少女少年。ちょっと新たな扉を開いてしまいそうだわ。……いけない、いけない。

 

「ごめんね。やりすぎたわ」

「本当だよ。まったく……」

 

 調子に乗りすぎた。

 だからこれはさすがに教えてもらえないかなと諦めたのだけど……。肩を落とす私の耳に、なにやらボソッとした声が聞こえた。

 

「これは僕の尊厳のために言うだけなんだけど。……小さくしてるだけで、無くなってないから」

「え?」

「無くなって!! ないから!!」

 

 悲鳴のように耳をつんざいたその主張に、さすがに申し訳なくなった私なのだけど……その前に口から飛び出ていたのは、追加の謝罪などではなく。

 

「それって生殖機能に影響とかない!? 副作用とか大丈夫!?」

「ああああ~! もうっ! これ以上聞くなよ馬鹿ファレリアー!」

「や、でもさ! そこはちゃんと確認しておかないと安心できないんだけど!?」

「うるさいうるさいうるさ~い!」

 

 

 その後。

 アラタさんが帰ってきて魔法アイテムに副作用が無いことを確認するまで、このやり取りは続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【推しへの課金】

 

 

「ねえねえ、アラタさん。前から聞きたかったのですけど、マリーデルちゃんの引っ越しや国外での住居にそこでの仕事の根回しとか、フォートくんの見た目を整える魔法のアイテムとか。その他もろもろで、結構な金額を使われたのでは?」

「ああ……。まあ、そこそこ」

「そこそこ、なんてものではないと思うよ。普通に暮らしてたら一生かけても払いきれない金額というのもあるから、僕はこんな格好でここに通ってる」

「ですよねぇ……」

「フォート、だからそこは気にしなくていい。こっちは手伝ってもらっている身だ」

「そうは言ってもね」

 

 ある時ふと気になったので聞いてみれば、歯切れの悪いアラタさんやフォートくんの言葉から推測するに、アラタさんが大団円エンドを目指す下準備のため、かなりの自腹を切った事が窺えた。

 国の滅亡がかかっているとあらば安いものかもしれないけど、それを個人で負担しているとなると恐ろしい。

 

 マリーデルちゃん関連だけなら、アラタさんの稼ぎ(推測)であれば懐は痛まないだろう。むしろ他国への就職などという根回しの方が大変だったと思われる。

 けどフォートくんに使われている魔法アイテムの性能を考えると、特殊アイテム入手の伝手を維持するための金額込みで継続的に購入する額は恐ろしいものになるのでは? というのが私の見立てだ。

 私も何か支援出来ればいいのだけど、個人で動かせる現金とかほぼ無いからなぁ……。

 せいぜい自分の持ち物を売るのがいい所だけど、それだと足がつきそうだ。

 何のために売ったのか問い詰められた時に「友人のチンと玉を小さくするための薬費用に使いました」なんて口が裂けても言えないのよ。

 

 けど私がうんうん唸っていたからか、アラタさんは少し考えてから「良い表現を思いついた」とばかりに顔を明るくした。

 

 そして。

 

「ファレリア。俺はアルメラルダ推しだが、もちろん主人公であるマリーデルも大好きだ。……キャラクターとして」

 

 フォートくんからの視線が強くなったからか、最後をとってつけたように付け加えたアラタさん。

 彼はまっすぐな目で言った。

 

 

 

 

 

「推しに課金する時、理由なんているか?」

 

 

 

 

「納得できるんですけど曇りなき眼で闇深いアンサー出すのやめろ」

「これ以上に通じる例とか無いだろ!?」

 

 心外! とばかりに驚かれるけど、いやいやいや。

 

「すみません。前世あなたがどれだけ推しに課金してたか聞くの怖いんですけど」

「いっせ……」

「あーあーあー! 聞こえない!!」

 

 ヤバい数字出てきそうだったから聞くのをやめた。

 世の中にはそういう人も居ると知ってはいるが身近で居ると怖い!!

 

 そういえばこの人、同人ゲームの激レアスピンオフまで網羅している人だった。

 私なんかとは原作への熱の入れようが違う。しかも現在の活動は娯楽目的などではなく国の存亡とリアル推しの命、幸せがかかっているのだ。歯止めなどきくものか。

 

 

「この話は聞かなかったことにします」

 

 

 世の中、聞かない方が心穏やかに過ごせるものはたくさんあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【薔薇の髪飾り】

※魔法学園入学一年目くらいの時期。

 

 

 

 

「ファレリア様。僭越ながらお聞きしたいことが……」

「あら、なにかしら」

 

 め、珍しい! 取り巻きーズ達がひっじょーに珍しく私に話しかけてきた!

 普段は同じ取り巻きなのにわたしの事をハブって自分たちだけで楽しそうにしているくせに!

 

 浮かれているのを知られると「こいつマジで友達いないんだな」と思われそうなので、平静を装って聞き返す。

 どうした。聞きたいことがあるなら何でも言ってごらん。ファレリアお姉さんが答えてあげよう子猫ちゃん達。

 

「ファレリア様の……その。胸元にいつもつけてらっしゃる薔薇のアクセサリーって、アルメラルダ様の髪飾りと同じものですわよね?」

「とってもとっても素晴らしいお品ですわ~!」

「是非、どちらで手に入れたものかお聞きしたく……」

 

 三人娘が興味津々! とばかりに見てくるのは、いつも身に着けている大輪の薔薇を象ったアクセサリー。彼女たちが言う通り、アルメラルダ様が身に着けている髪飾りもこれも、つける場所が違うだけで同じものだ。

 この飾り、花びら一枚一枚の造りが精巧でまるで瑞々しい生花のよう。幼い頃の私が目を輝かせたように、彼女たちが興味をもつのも分かる。

 

 けど入手場所となるとなぁ……困った。

 

「私は誕生日プレゼントの一つとして頂いたのですけど、もうどなたが下さったものなのか覚えていないの」

「まあ……そうなのですか」

「とてもとても、残念ですぅ……。わたくしたちも、ファレリア様、アルメラルダ様とおそろいの物を身につけたかったですわぁ……」

 

 あらやだ、可愛い事言ってくれるじゃない。

 

「では偶然アルメラルダ様も同じものを持っていた、ということですか?」

「ん? ああ、いえ。えーと、なんといえばいいのかしら。私が頂いた誕生日プレゼントの薔薇は、アルメラルダ様が身に着けているものなの。……そうだ! 入手場所を知りたいのならば、私よりアルメラルダ様に聞いた方がよろしいわ」

「へ?」

「んん?」

「え?」

 

 思い至ってパンっと手を叩いたが、取り巻き三人娘は要領を得ないという顔をしている。

 まあ、そうよな。

 

「……その、ね。私もこの薔薇のアクセサリーがお気に入りで、貰ってから毎日身に着けていたのよ。そしたらある日、アルメラルダ様がこれを欲しいとおっしゃったわ。エレクトリア公爵家の家紋に薔薇が入っているから、きっとお気に召したのね。そしてアルメラルダ様がお望みならばと私はそれを差し出したのだけど……後日。アルメラルダ様がまったく同じものを見つけだして、私にくださったのよ」

「!!」

「まあ、まあ!」

「ほう……!」

 

 え、何。なんかえらく食いつきが良いな。全員身を乗り出している。

 

「……以来、これを身に着けていないとアルメラルダ様が不機嫌になるのよね」

 

 きっと下僕の証とか犬につける首輪とかと同じ感覚なんだろうなと思いつつ、それだけで不機嫌になられても困るので一応毎日身に着けている。

 

「ええと……。だから同じものが欲しいなら、アルメラルダ様に聞いてほしいのよ。きっとどこで買ったか知っているはずだから」

 

 そう提案するが、何故か全員がすごい勢いで首を横に振った。

 

「いえ!」

「そんな!」

「その薔薇はお二人の絆そのもの!」

「わたくしたちが!」

「身に着けるなど!」

「おこがましい!」

 

 なになになに。怖い怖い怖い。

 三人で一つの会話を繋いでるんだけど!? 仲良しにもほどがあるだろ! 見せつけてんのか!

 

 「ま、まあ入り用でないのなら、よかった? です」

 

 勢いに押されてそのまま会話を終わらせてしまったが、いったい何だったのか。

 

 その後私は三人がおそろいのマリーゴールドの髪飾りを身に着けているのを見て、またもやハブられたことに歯ぎしりをすることとなる。

 

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 

「~~♪」

「お嬢様。本日もお美しゅうございます。髪飾りもよくお似合いですよ」

「ふふっ、当然でしょう」

 

 朝。

 身支度を整える時、アルメラルダは髪の毛をとても楽しそうに、嬉しそうに編む。正確には編んだ髪の根元に薔薇の髪飾りをつける時が最高にご機嫌だ。こればかりは使用人に任せず、必ず自分でやる。

 それを褒めるのも、長年仕えているメイドの仕事の一つだ。

 

 

『アルメラルダ様の黄金の髪に薔薇色はとてもよく映えますね。よくお似合いになると思います。どうぞ、おもちください』

 

 

 幼い頃。ファレリアが大事そうに身に着けていた薔薇の飾り。

 それが自分以上に大切にされているようで気に食わなかったアルメラルダは、理不尽にそれを自分によこせと強請った。

 しかしファレリアは大事にしていたはずのそれを、あっさりアルメラルダに譲った。しかも「似合う」と微笑んで。

 それ以来アルメラルダはずっとその飾りで自分の髪を彩っている。

 

 その後、せっかく同じものを見つけだしてプレゼントしたのに自分の様に髪に飾らないファレリアに最初はむっとしたが、その飾りをつけた位置が左胸元……心臓の真上であることに気が付いて、とりあえず満足をした。

 それほど自分からの贈り物が大事だということだなと。

 

 

 

「黄金に似合うのは赤色。当然よね」

 

 アルメラルダは幼馴染の少女の目の色を思い出しつつ、嬉しそうにほほ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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