【完結】悪役令嬢に好かれたばかりに自分の恋愛がハードモードになった取り巻きのお話   作:丸焼きどらごん

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バレンタイン前なのでラブコメ回です。
今回も本編+最後にちょっとしたおまけ小話がふたつあります。


六話 戦いのduet~身の程知らずの想いを抱き

 ファレリア・ガランドールは珍妙な生物である。

 それが彼、フォート・アリスティの評価だった。

 

 姉の代わりに女装して魔法学園へ通えなどと言った男と似た境遇の、この世界を仮想遊戯として知る女の子。

 ……その中身を考えると、果たして女の子と言って良いのか迷うところであるのだが。

 

 

 そしてその珍妙な少女は、現在フォートを相手にめちゃくちゃゴマをすっていた。

 

 

「へへ……。フォートさん。こんなことになってしまい、魔法について色々ご教授して頂いている身としてはたいへん心苦しく、申し訳なく思っております。ですがご安心をば。このファレリア・ガランドール、フォートさんのお手を煩わせること無く負けるつもりでおりますゆえ! ……ただ、私も善戦した! というアルメラルダ様に胸を張れるような結果は残さねばなりません。ので! そこだけちょこ~っとお手伝いをしてもらいたいな~……なんて。もちろん! こんなことは大、大、大、天才のフォートさんにとっては朝飯前だとは思うのですが~」

 

 すりすりすり。

 手の摩擦で発火現象を起こせるのでは? というゴマの擦りっぷりだ。ちなみにフォートはゴマをするという言い回しをアラタから覚えた。

 

 さすがは七年間もアルメラルダに取り入り続けただけはあるな、と感心しつつ……フォートは笑みを浮かべて答えた。

 

 

「やだ。全力で()ろう」

「さすがフォートさん! 話が分か……なんて?」

 

 

 ぱぁっと明るい雰囲気を放った後に、濡れた犬のようになる瞬間がたまらない。ぺしょっとしている。

 そんな我ながら性格悪いなという感想を抱きつつ、フォートは続けた。

 

「君の茶番に付き合う気はない、という意味を込めて言ったつもりだけど? 下手な小細工なんかせず正面から決闘する。それでいいだろ」

「いや。……いやいやいやいやいや!? 何言っちゃってくれてるんですか!? そんな殺生な事を言わないでくださいよぉッ!! ね? ね? お願いしますってば~!」

 

 そう言いつつ涙目(なお無表情である)猫なで声ですり寄ってくるファレリア。その距離は非常に近い。

 この生物、薄々感づいていたがフォートの事を男だと分かっているくせに男と認識していないのだ。矛盾。

 接する距離が恋人もしくは極端に仲の良い女友達のそれである。フォートとしてはそれが少し気に食わない。

 

「とにかく、戦うなら小細工は無しだから」

「そこをなんとか!」

 

 いくら断られようともしつこく食い下がるファレリアだったが、なにもフォートとて意地悪だけで申し出を断っているわけではない。

 下手に裏を合わせれば二人が知り合いである、と周囲にばれかねないのだ。

 それは互いに本意とするところではない。

 

 いくらファレリアの天然ポーカーフェイスがあろうとも、その動きや行動にはこれでもかと感情全てが出ている。見る者が見ればファレリアの考えている事などすぐにわかるだろう。

 自分に出来ることが他人に出来ないと考えるほど、フォートは楽観的ではなかった。

 本当に分かってないなら周囲の目が節穴過ぎではないか? とすら思うのだが、同郷者(?)のアラタですらなにやらファレリアを警戒しているようなので見極めが難しいところだ。

 

 

 

 とにかく互いの交流がバレないためにも、下手な口裏合わせは無しだ。

 

 それに今回の決闘はフォートにとっていい機会だった。

 これまでいずれ対決するであろうアルメラルダの様子を遠くから見てきたが……正直、別格だ。

 自分も簡単に負けるつもりは無いし常に研鑽を怠っているつもりは無いが、楽に勝てるかと言ったらそうではない。むしろ幼いころから魔法に触れ、学園生活で二年も先を行く彼女に勝つことは至難だろう。

 だから実戦形式で魔法が使えるこの機会……逃すには惜しい。

 自分の手の内をいくらか明かすことにはなるが、それはアルメラルダも同じ。

 ならば損益を考えるに、この決闘の機会はとんとん、もしくはおつりがくるお得案件だ。

 

 

(それに……)

 

 

 ちら、と。こちらに縋る無表情令嬢を見る。

 

「自信ないとか言いつつ、ファレリアって普通に強いじゃん。手加減してたら僕が負けるだろ」

「え!? ……いやぁ。そんなことありませんよ」

(とか言いつつ嬉しそうだな……)

 

 知り合ってからというものファレリアによる女子仕草およびマナー講座その他を受けているフォートだが、たまにファレリアに泣きつかれ魔法の手ほどきをしている。

 なおファレリアだが、後輩に教わることに対しての抵抗は一切無いようだ。プライドより実を取る女である。

 それを通してファレリアの魔法の実力を見る限り……彼女本人が思っているほど、その実力は低くない。

 

 そも、あの拷問まがいの過酷なアルメラルダ式魔法訓練を受けておきながら弱いはずがないのだ。

 けして真似しようとは思わないが、受ける本人が耐えられれば……という前提条件はあるもののアルメラルダの施す魔法訓練はどれもが非常に効率的、効果的だ。真似しようとは思わないが。

 

 

「君はもっと自信もっていいよ」

「なんですか、なんですか。急に褒めたりして。そんなことで手加減してもらうのを諦めたりしませんからね!」

「情けない事を堂々と言うなよ。というかさ、君って本来ならもっと実力を発揮できるんじゃない? なのに舐めてかかって中級の範囲に居るからアルメラルダにも色々言われるんだよ。僕の手ほどきを受けるより、もっと授業のほうを真剣に取り組んだらどう。正直君が躓くところ、凡ミスがほとんどだよ。一年の僕でもわかるんだから」

「正論パンチやめて泣く」

 

 ファレリアがガクッと膝をついた。

 

 ……本当になんでこんなまぬけな様子を見ておいて、裏があるとか変に勘繰られるんだろう。

 呪いでもかかっているのかな?

 

 そこまで考えて、フォートはつい先日のことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 

 

 これからつきあっていくにあたって、アラタから"原作"ファレリアの事も聞いていた。

 

 

 ファレリア・ガランドール。

 自分と同じように"本編"には出てこない、製作者の一人が描いた番外編のキャラクター。

 

 

 彼女の特徴である赤い瞳だが、これは生まれついてのものではない。

 彼女の両親の瞳は二人とも青色だ。ファレリアもまた生まれたときは両親から受け継いだ色を宿していたようだが、それが徐々に……濁るようにして赤く染まっていったのだという。

 特異な性質を持つその瞳は、『変赤眼(へんせきがん)』と呼ばれるものだ。非常に珍しく、原因も不明とされている。

 フォート自身も魔法学園の書庫で調べてみたが、迷信じみた話しか見つからなかった。

 そしてその話だが……古来より不吉とされ、あまり良くないものとして扱われているようだ。

 

 

 とはいえ、ファレリアはガランドール伯爵家の一人娘。

 

 

 病弱なこともあり(これは原作ファレリアのことである。現実ファレリアを見ている限り「は?」という感想だ)大事に育てられてきた少女だったが、ある日。予言師を名乗る者の策謀でその人生は一変する。

 

 

――――その娘は不幸を呼ぶ。

 

 

 予言師はそれを言葉巧みに伯爵家夫妻に信じ込ませ、ファレリア自身にも暗示のごとく刷り込ませた。

 その後立て続けに不幸な事故が続いたこともあり、やはり自分たちの娘は不吉なものだったのだと……ファレリアの両親は幼い彼女を隔離して閉じ込めた。

 次第にファレリアからは感情がそぎ落とされていき、まるで人形のようになってしまう。

 時折浮かべる微笑は、また両親に愛してもらいたいというわずかばかりの希望だった。

 

 心がぽっかりなくなった、伽藍洞のお人形。

 それが原作におけるファレリアだ。

 

 彼女のもたらす不幸を封印するというていで伯爵家に入り込んだ予言師。彼の正体は次代の星啓の魔女誕生に合わせて、それに対抗しうる存在を生み出そうとしていた敵国の間者だった。

 ファレリアが目をつけられた原因は、呪いの触媒として最適とされる変赤眼(へんせきがん)

 

 心を無くしたまま成長したファレリアは、そこに「憧憬」という形で星啓の魔女となったマリーデル・アリスティへの強い感情を植え付けられる。

 更にはそれが反転。

 ……ファレリアは「呪いの魔女」として再誕し、マリーデルの前に立ちふさがった。

 

 その後。戦いの末に「あなたと、なかよくなってみたかった」と言い残し……マリーデルの腕の中で消えるのだ。

 短編であるためか細かいところは描写がないらしいのだが、ここまでが"原作ファレリア"の辿った人生。

 

 

 

 だが現実ファレリアは今こうしてピンピンとしている。不幸の影など見えもしない。

 

 

 

 試しにフォートは『予言師』についてをファレリアに聞いてみた。

 彼女は普段まともに話せる友人が少ないからか(本人にこれを言うと「は? ぼっちじゃないが?」と嫌がるし否定する)、フォートとの密会中は聞かないことまでぺらぺら楽しそうに話す。

 ので、こちらから話題をふって聞き出すことは簡単だった。むしろ世間話のノリで話されてフォートが驚いたくらいである。

 

 そして、その内容だが。

 

 

 

「予言師? ……あ~。いました、いました。クソボケとんちきいんちき予言師」

「とりあえずファレリアがそいつのことをすごく嫌いな相手と記憶してることは分かった」

「嫌いに決まってるじゃないですか! 危うく一家離散もしくはネグレクトの危機だったんですよ!?」

 

 これまで話す機会が無かったからか、ファレリアは「ふふん」と胸を張って意気揚々と話し始めた。

 

「実はこれ、ちょっとした自慢なんですよね。いいですよ、このファレリアちゃんの武勇伝を聞かせて差し上げましょう!」

「武勇伝……。戦ったの?」

「ええ! 口で!」

 

 渾身のドヤ顔を披露するファレリア。

 ちなみに本人気づいていないが、このドヤ顔はアルメラルダと雰囲気がそっくりである。

 

 

 

「私の眼、赤いでしょう? これって変赤眼(へんせきがん)という特殊なものなんですって。生まれたときは青い目だったのが、だんだんこの色に変わっていったそうです」

「それは僕も知ってる。不幸を呼ぶって言われてるんだっけ?」

「本人の前で堂々と言うなぁおい。いや、好きですけどねそういうところ」

 

 さらっと好きなどと言われて一瞬固まるが、黙って続きをうながす。

 

「私としては生まれた時から赤眼でなくてよかった~! って気持ちの方が大きいのですけどね。だってそしたらお母さまの不貞が疑われるかもじゃないですか! そしたら誕生早々で仲良し家族生活が詰んでいました。おお、こわ。ああ……それでですね。まあうちの両親はいい人ですし私も一人娘なんで、目の色変わってきても変わらず接してくれたわけですよ。使用人の中には気味悪がる人も居ましたけど……ふふふ。そこは私、顔がいいので! ちょっと甘えた表情ですりよればいちころでしたね。いや~。顔がいいって明確なアドですよ。アド! ほほほ!」

「ファレリア。それてる、それてる」

「おっといけねぇ」

 

 放っておくとすぐに横道にそれ始めるので、仕方がなく合いの手を入れる。

 本人が言うように本当に顔だけはいいのだが、こういう所があるのでフォートとしても段々扱いが雑になるのだ。

 気を遣うだけ無駄と思えてくる。

 

「で? 予言師は」

「そうそう。え~と……七歳の時、だったかな? 私の眼にイチャモンつけやがる自称予言師が現れました。まあ~口が上手い事! 思い出したら腹立ってきたな。……最初は否定していた両親も言葉巧みに誘導されて、不幸を呼ぶうんぬんを信じかけちゃって。私自身は怪しい予言者なんて誰が信じるかバーカ! って思ってたんですけど……あいつ、お前は言葉の魔術師名乗った方がいいよってペテンっぷりでして。不穏な空気が漂い始めたんですね」

「うん」

「しかーし! このクソのせいで今の生活を失うとかありえない! そう思った私は頑張りました。えーと……そうそう。まず「プラチナブロンド赤目は呪いがあってもおつりがくるレベルのステータスだろうが!!」っていうのをお嬢様言葉に包み込んで正面からかましてやりましたよ」

「それ、本当に包めた?」

「包みました。面食らってましたねぇ、あいつ。とりあえずそれはジャブでして、その後は「怪しいお前なんか誰も信じない」って予言者の怪しさを隅から隅まで並べ立てて相手への不信感を煽りに煽り、「家族の絆を舐めるな」って感じに両親と使用人を持ち上げつつ良心の呵責を煽りに煽る話術を展開したわけですよ」

「やっぱり煽るの上手いじゃないか君」

「褒められている気がしねぇですわ! やっぱりってなんですか! ……ごほん。そして、とどめに! ふふふふふ。私ですね~。実は前世で趣味ながら小説を嗜んでいまして。あ、読むのも好きですけどこれは書く方ですよ。つまり作り話とか得意なんです」

 

 口元がもにょもにょとニヤついている所を見るに、よっぽど話したいらしい。

 こういった微妙な変化も、すでに読み取る事は容易だ。

 

「……それで?」

「聞いてください!」

 

 我が意を得たり! とばかりにファレリアが身を乗り出してくる。近い。

 

「何をしたって、その予言者より確実に格上そうな謎の魔法使いをでっちあげたんですよ! でもって、私の話術でもってねじ伏せてやったんですよね~! めちゃくちゃ気持ちよかったです! ええ! すごすご帰っていきましたよ! あれはお笑いでしたね~。まんまと私の作り話を信じ切って!」

 

 腰に手を当てて高笑いするファレリアからは伯爵令嬢らしさなどまるで感じ取れない。

 これがそんな言葉巧みに相手を信じ込ませることが出来るとは思えず、フォートは疑いの目でファレリアを見た。

 

「……信じてませんね? 本当ですってば。ある日、森の中で輝く光の湖を見つけてその畔で出会った伝説の魔法使いに『お前の眼は不幸を呼ぶこともあるだろう。しかしそれは栄光ある未来へ向かうための試練。惑わす者に屈してはならない』とか言われたって話を……」

「胡散臭ッ!!」

「これはダイジェストなんです! 本編はもっと壮大に話しました! あとでたっぷり聞かせてあげますよ!」

「いや、それはいい。で? 本編は良いから本筋戻して」

「こ、このわがままちゃんがぁ……ッ! ……まあいいでしょう。……ああ、そうそう。この話ってまったくの嘘でも無いんですよ。元ネタありです。嘘を信じさせるにはほんの少しの真実を混ぜるのが定石でしょう? だから適当に知る人ぞ知ってそうなすごい逸話を引っ張り出して、それに関連付けて創作したってわけです。ここが玄人ポイントですよ~。頭良くて知識ある奴ほど引っかかるから気持ちいいったら。ほほほ」

「本筋」

「はい」

 

 しょぼんと肩を落とすファレリアを見て「これは一応あとでその話も聞いてやらなきゃかな」と考えるあたり、実はフォートもファレリアにそこそこ甘い。

 

 

 

「ん? でも話す事もう無いですね。そんなことがあって、怪しい奴を追っ払ったよという所でこの話は終わりですから」

「そっか。……それにしても、なんだったんだろうね? そいつ」

「さぁ。でも世の中変な輩はたくさんいますからね。出会ったらその場その場で対処してぶちのめす防衛力だけ意識して生きてりゃいいんですよ」

 

 非常に雑な答えが返ってきた。

それに、それは防御力ではなく攻撃力ではないのだろうか。

 

「ファレリアに防衛力あるように思えないんだけど……」

「は~? たった今見事に防衛したエピソードお聞かせしたばかりですが~?」

「運が良かった、というのも自覚しておいた方がいい」

 

 本気で心配になってきたので真剣に返せば、ファレリアは「ちっちっち」と指を左右に振る。

 

「フォートくん。これは人生の先輩からのアドバイスですけど、仕事でも勉強でも人生でも常に百を目指すのはあまりよろしくありません。七十から八十くらいを常に維持する事の方が大事なんですよ。あの時の私も常日頃から想像力を鍛えていたから対処できたわけですが、「もしも」を考えすぎるとドツボでしかないですからね。高パフォーマンスを意識しつつ、考えてもしょうがないところは心から締め出しておいていいんです。疲れちゃいますから」

「微妙に納得できる部分もあるのがなんか嫌だな。でもファレリアは良くて四十から六十じゃない。少なくとも誰か不足分を補ってくれる相手が必要だと思う」

 

 

――――たとえば僕とか。

 

 

「……見てて危なっかしい」

 

 一瞬心にちらついた考えに疑問符を浮かべつつ、何でもないように続ける。

 ファレリアは不満げに頬を膨らませたが、そこで話は終わった。

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 

(あの時、そういえば具体的に呪いらしい事はあったのか聞くのを忘れてたな)

 

 呪いと思い浮かべて思い出した原作ファレリアの話。

 それを聞く限り「呪いの魔女」に見いだされるほどの特異性があの眼にはあるはずなのだが、その内容自体は元の話にもファレリアの話にも出てきていない。

 

 そのことに妙にひっかかるものを感じながら、フォートはなおもゴマをすり続けているファレリアにぴしゃりと言い放った。

 

 

 

「何度も言うけど手加減とかしないから。……お互い健闘しましょうね! ファレリア先輩」

「ぐっ」

 

 駄目押しに(マリーデル)の笑顔で言うと、ファレリアは「……がんばります」とようやく引き下がった。

 

 

 

 さて、そうとなれば決闘の準備をしなければ。

 

 

 フォートはそう思考に区切りをつけ、間近に迫った決闘へ向けて意識を切り替えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 快晴の下。

 魔法学園の生徒たちがにわかにざわつきながら、ある場所へと集まっていく。

 

 本日正午、学園中央魔法実践場にて二つの決闘が行われるのだ。彼らはそれを見に行こうとしている。

 観覧は自由参加であり授業でも何でもないのだが、その決闘の内容が生徒たちを惹きつけていた。

 

 

 

 

 二つの決闘。

 

 ひとつは星啓の魔女候補にして由緒正しきエレクトリア公爵家の令嬢アルメラルダ・ミシア・エレクトリアと、第二王子の護衛も務める第二級魔法騎士アラタ・クランケリッツの勝負。

 ただでさえ行われることの少ない決闘であるが、その中でも生徒が生徒でない者に決闘を挑むという異色のカードである。

 

 もうひとつの決闘に挑むのは、こちらもアルメラルダに同じく星啓の魔女候補であるマリーデル・アリスティ。庶民の出ながらその才能を遺憾なく発揮し、学園内でも注目を集める少女だ。

 対するはアルメラルダと共に語られることの多いガランドール伯爵家の娘、ファレリア・ガランドール。

 

 これらの決闘が本日、同時刻に開催される。

 実践場を囲む観覧席はすでに学園中の生徒が集まっているのではないか、という様相を見せていた。

 

 

 

 

 観衆の中にはひときわ目立つ人物が何人か。

 

 ……それはアルメラルダが"婚約者"もしくは"星啓の魔女の補佐官"にと目をつけている者達であり、フォート達にとっての"攻略対象"である少年もしくは青年だ。

 彼らも決闘を行う人物たちへの興味をもとに、観客席へと陣取っていた。

 それぞれが非常に目立つ容姿をしているため、人に埋もれることなく存在感を発揮している。

 

 そのうちの一人。

 アラタの護衛対象である赤髪の第二王子は、アルメラルダとアラタ二人に激励の言葉を贈っていた。

 自分の護衛が居ることに加えてフォートの見立てでは第二王子の好感度は今のところアルメラルダに寄っているため、そちらへ行くのは当然。

 フォートは冷静に判断しつつ、様子をこっそりと窺った。

 

 

「アラタ、安心しろ。お前の首は私が両方守ってやる。だから存分に戦うと良い! アルメラルダもそれがお望みのようだしな」

「まあ殿下。わたくしが負けたからと首を跳ね飛ばすような狭量な事をすると思いまして? それも殿下の護衛に対して」

「ははっ。そんなことは思っていないが。せっかくの決闘だ。どんな因縁かは聞かぬが私は貴女の本気も、アラタの本気も見たい! ならば余計な懸念は先に取り除いておいた方が良いだろう」

「まあ! さすが殿下でございます。お心遣いに感謝いたしますわ」

「………………」

 

 上司にまで逃げ道を塞がれて、いよいよもってアラタの顔が青い。一方アルメラルダの方はやる気満々だ。

 ここまで整えられて手加減し負けようものなら、それこそ非難ごうごうだろう。このやり取りすら観衆の目にするところなのだから。

 

 それを「いい見世物にされているな」と冷めた目で眺めているフォートだったが、肩を軽く叩かれ振り返る。

 

「やあ! 調子はどう? 今日はがんばってね!」

「わぁっ! 見に来てくれたんですか!?」

「もっちろん! 僕、マリーデルのことはりきって応援しちゃうからね~」

 

 即マリーデルに切り替えて応対したのは、幼げな顔立ちをした青髪の少年。攻略対象の一人である。

 一応これで先輩の二年生なのだが、まったくそう見えない。フォートは内心で彼の事を「年上童顔」とそのままの呼称で記号づけていた。

 

 

 そう、記号だ。

 

 

 フォートは攻略対象である彼らに必要以上の感情を抱かないように努めている。ゆえに接する時以外の呼称も記号で統一していた。

 どうせ彼らが見ているのは姉を真似た張りぼての自分であるし、いずれ切れる縁だ。

 

 『第一王子』『第二王子』『クラスの担当教諭』『不良もどき』『優等生』『双子その一』『双子その二』『ナルシスト』『色気男』『不思議くん』『不審者特別教諭』『年上童顔』。

 この十二人もいる攻略対象の"好感度"などという、不確かで曖昧なものを平等に上げていかなければならない。

 いくらフォートが観察眼に優れているからといってなかなかに過酷な作業だ。

 

(実際の所、どう思われてるかなんて本人にしかわからないしな)

 

 ほころびなど見せる気はないが、担当教諭や特別教諭、上級生などにはいつフォートのまやかしがバレるか気が気ではない。

 それらの視線がすべて集まる決闘という催し。……緊張もするが、いずれアルメラルダとも決闘することになる。

 だからこそこういった面でも今回の決闘、予行演習にはもってこいなのだ。

 

 フォートは密かに緊張の唾を飲み込みながら、かわるがわる激励の声をかけにくる攻略対象達に精一杯のマリーデルとしての笑顔を返した。

 

 

 

 

 

 そんな決闘前のあれこれが終わり、訓練場の中央に進む。

 

 待っていたのは先に準備を整えていたファレリアで、無表情ながらすでに「めんどくせー!」というげんなりオーラを発している。

 それを見てこれから戦う相手本人だというのに、フォートは肩から力が抜けた気がした。

 

 ……ファレリアは以前、なかなか話せない自分の出自を知るフォート相手だからつい色々話してしまうと言っていた。

 だがそれはフォートも同じこと。この学園で自分の正体を知っているのは、アラタとファレリアだけなのだ。

 その相手の前では彼もまた知らず力を抜いてしまう。

 

 

 

 ファレリアはフォートが来たのを見るや、ぼそぼそと声を出した。

 

「なんかめちゃくちゃ纏められましたね……。同時刻開催で、場所も隣り合っているとか」

 

 彼女の言う通り、本日の決闘は隣り合ったフィールドで同時に開催される。知らされた時は驚いたものだ。

 

「ある意味での配慮だろうね。互いの手の内をじっくり見られないようにしているんだろう。決闘の最中に横をまじまじ観察してる暇とかないはずだし」

 

 観覧席のざわつきで聞こえないだろうと高をくくりぼやくファレリアに、フォートもうっかりいつもの調子で答える。が、さすがにまずいかと我に返って取り繕う。

 

 

「ファレリア先輩っ! 今日はよろしくお願いしますね!」

「うおっ、まぶし」

 

 

 気だるげな様子から一変。

 明るい笑顔で元気な挨拶をしたフォートに、ファレリアもまたひとつ咳払いをして同じく取り繕った。

 

「ええ、よろしくお願いしますね。マリーデルさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 決闘の時刻は近づく。

 

 二組による決闘だが、様式はそれぞれ異なっていた。

 おそらくこれもアルメラルダとマリーデル。二人の星啓の魔女候補が対決する時に、相手の手の内を知りすぎていないように……という配慮の一つだろう。

 もっと別に配慮すべきところはある気もするが。

 

 

 

 アルメラルダとアラタの決闘はシンプルに魔法を駆使した戦闘。

 マリーデル(フォート)とファレリアの決闘は術者自身は戦わず、自分の魔力で作り出した化身に魔法を付与して戦うものである。

 

 前者は魔法だけでなく術者自身の身体能力も問われるが、そこが足りないならば魔法で補助効果を得ることも可能。反射神経他、総合的な戦闘能力が求められる前衛~中衛向きの様式。

 後者は俯瞰的に戦況を見ることが出来る分、その場に適した魔法付与を選択する決断力と知識が求められる中衛~後衛向きの様式だ。

 

 ファレリアとアラタいわく「スト○ートファイターと、ポ○モンと遊○王を合体させた奴」らしいが、フォートにはわからない例えだ。

 

 

 

 

 ……時々だが、互いに共有できる知識がある二人を羨ましく感じる。

 

 転生者などという特殊な立場相手ではどうしようもない事だし、我ながら仲間外れを嫌がる子供のようだなと思う。だからその分、二人がこぼした異世界の言葉を早く覚えてしまうのかもしれないなとも。

 

 

(今はそんなこと考えてる場合じゃないか。集中しないと)

 

 フォートは首を振り、雑念を頭から追い出した。

 

 

 

 

 ちなみにこの決闘だが、両方とも対戦者が直接ダメージを受けることは無い。

 実践場の周りでサポートを行っている教員たちが「対戦者の体を覆う結界」と「ダメージの視覚化」の魔法を使っているからだ。

 

 「結界」は対決者が受けるはずだったダメージ全てを防ぎ、「視覚化」で受けたそれを数値として叩き出す。そのダメージ数値で、あらかじめ決められている相手の数値を削り切った方が勝ちとなるのだ。

 数値は特殊な魔法のかかった水槽の水で表され、先に干上がった方が負け。

 

 このシステムはファレリアもアラタも今回初めて知ったらしい。「現実になるとHPゲージの判定こうなるんだ。へー」という感想をこぼしていた。

 それくらいにこの"決闘"が行われることは少ないし、準備のために結構な時間と人員を裂くので受理されること自体もまた、珍しいとのこと。

 同時開催など学園始まって以来だと、フォートは先ほど自クラス担当教員から聞いた。

 

 

 

 

 

 そんなことを考えているうちに、いよいよ決闘時刻となった。

 開始を告げる合図として、魔法の花火が空を彩る。

 

 四人の中、誰よりも先に動いたのはアルメラルダだ。

 しかしその行動は相手への攻撃でなく……。

 

(フィアリ)! (アクトロ)! (シフラ)! (グラド)!」

 

 極限まで圧縮された魔法言語を用いた詠唱と共にドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ! と四つの光がアルメラルダに宿る。魔法を自身へと向け用いたのだ。

 

「四属性同時に!? しかもあんなに短縮した詠唱で!」

「これでアルメラルダ様の攻撃力、防御力、すばやさ、魔法詠唱速度! その他もろもろ全ての能力が向上いたしましたわ~!」

「ですわですわ! すごいですわ~!」

「流石です、アルメラルダ様」

「あ、相手は魔法騎士だからな。素の身体能力がまず違う。最初に自らの能力を上げるのは確かに有効だが……まさか、初手でここまで……」

「異なる属性を同時に宿し融和させるとは、光と闇の魔法力も高いと見える。さすがとしか言いようがないな……」

 

 ざわつくギャラリーが口々にアルメラルダを褒めたたえる。が、相手である魔法騎士……アラタは一切動じていなかった。

 試合前の青い顔など今は無く、泰然と相手を観察している。

 

 アラタは深く呼吸し、その鍛え抜かれた筋肉をしなやかに動かす。それが彼の初動。

 腰に佩いた風変わりな剣の柄に手を添え、そのままぴたりと動きを止める。

 そこにわずかばかりの揺らぎやほころびも無く、素人目にも「隙の無さ」が窺えた。

 

 

 まさに「動」と「静」の対比。

 

 

 直接ぶつかる前から周囲の期待を高める第一手となった。

 

 

 

 

 

 

 

 その真横のフィールドでは隣の様子に気をとられつつ、フォートとファレリアもまた決闘の準備を進めていた。

 

 こちらはまず戦うための化身を魔力で生み出さねばならない。

 化身生成の魔法は特殊である。そのために貸し出された補助器具たる杖を構え、互いに魔力を流した。

 するとそこから魔力の奔流が迸り、光の運河のごときそれは渦巻くようにして二人の前にそれぞれ収束。

 

 現れたのは紫色の光で構築された犬と、オレンジの光で構築された猫。

 犬がファレリアの化身で、猫がマリーデル(フォート)の化身である。

 

「お隣、すごいですね! 私も真似しちゃおうかな」

 

 そう軽やかに笑ったマリーデル(フォート)は手に四枚のカードを取り出した。

 

 

 

 こちらの決闘だが、なんと事前の準備が可能となっている。

 

 準備の内容は化身へと付与する魔法を、あらかじめ十二枚を上限としたカードに込めておけるというもの。

 しかしまず物に魔法を付与すること自体が難しい。そのためカードの用意は事前試合と言っても良いだろう。

 これは他者に付与を頼んでも良いので、コネクション力も試される。

 

 ちなみにフォートだが全て自作した。

 好感度が高い攻略対象がカードをくれたしゲームではそれこそがこの決闘における攻略法なのだが、自分で付与した物の方が強いからと彼はしれっとカード構成を行った。無慈悲である。

 

 

「初手で四枚も使うのか!?」

「アルメラルダ様に合わせたのかしら……。今相対しているのはファレリア様だというのに、挑戦的ね」

「短期決戦を仕掛けるつもりか……! なかなか大胆だ」

 

 マリーデル(フォート)の動きに再びギャラリーがざわつく。

 というのもこの形式。詠唱破棄、もしくは短縮の技術が無くとも速攻で魔法効果を得られるのだが、それゆえに付与可能な魔法は決闘中……カードのみに限られる。

 つまり手札が尽きたら化身の能力のみでの戦闘となり、かなりのハンデを負うのだ。

 

 しかしフォートはためらわない。

 

 強力な一点特化の貫通力。圧縮された四枚重ねの風の魔力を化身たる猫に纏わせる。

 そのまま下した命令は「突進」。

 渦巻く暴風を纏った猫が、ファレリアめがけて真っすぐ突き進んだ。

 

(さあファレリア。どう出る!?)

 

 対するファレリアは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(トラップ)発動」

 

「何!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず素の声が出た。

 

 そんなフォートの目の前で、高火力の攻撃を乗せたばかりの化身から魔力が霧散した。

 

「『相手が二つ以上の魔法効果を化身に積んだ場合に限り、その効果を無効にする』罠を、私は化身を出した直後に発動させていたのです!」

 

 高らかなる宣言。

 

「いつのまに……!」

「化身を出す時の光って、とってもきれいですよね」

「なるほどね。あれに紛れさせてカードを飛ばしていたわけだ? ルール上、化身を出した後であればどのタイミングで付与の魔法を使ってもいい事になっているからね」

 

 つまりフォートの必殺速攻は、たった一枚のカードに防がれたのだ。

 だが効果を発揮するための「条件付与」をした上でのそれは、ある意味博打。フォートが普通に攻撃を仕掛けていれば無駄札を打っていたのはファレリアの方である。

 だがそうはならなかった。

 

 ……読まれたのだ。手の内を。

 

「なんだ、やるじゃん。あんなにビビってたのに」

「あの……素、素!」

「すごいですね、ファレリア先輩!」

 

 完全に地で話してしまっていた事を全力の笑顔で誤魔化しつつ、フォートはファレリアを見た。

 相変わらずの無表情に近い顔であったが、フォートがファレリアの表情を読み取るのは容易。「してやったり」という感情が伝わってくる。

 

 どうやらこの女、フォートが八百長に協力してくれないため自力でいい所を見せるしかないと開き直ったようだ。

 しかしその様子からはそれなりに楽しんでいる雰囲気もにじみ出ており、フォートの口角も自然とあがる。

 

 

 現在、フォートの残り手札は八枚。

 ファレリアの残り手札は十一枚。

 

 

 ――――戦いは、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして準備を整えつつもしばし睨み合っていた、その隣。

 明らかに待ち構えているアラタを前に、しかしアルメラルダはためらいも無く突っ込んだ。

 

「食らいなさいませ!」

 

 手に持った扇に炎と風を宿しそれを振りかぶりながら接近する。

 彼女の足元はといえば、水の流れと地面の流動によって動きを補助するフィールドへと変貌していた。

 その高速移動から繰り出されるのは"炎"と"風"による面の攻撃……炎の津波とでもいうべきそれが、腕を振り切ったアルメラルダの扇から放たれアラタを襲った。

 

 

 

 しかしアラタはその場から動く事すらせず、すーっと息を吐き出したかと思うと……"炎を切った"。

 

 

 

「!?」

 

 その斬撃はアルメラルダの攻撃を無効にしただけに留まらない。

 気づいたアルメラルダはすぐさま地面を隆起させ、その勢いに乗り後ろへと飛び退いた。

 一瞬後。真横を鋭利な光の刃が通り過ぎ、空の彼方へと消えていく。

 

「月光刃ですって……!」

 

 アラタを見れば構えていた剣を振り切った体勢。彼は残りの炎を片手で蹴散らし、今度は剣を水平に構えた。

 

 

 追撃。

 

 

 それを直感で察したアルメラルダはすぐさま風魔法を上方へ向け、飛び上がっていた体を地面へと着地させた。

 宙という身動きがとりにくい場所でそれを迎え撃つのは悪手だと感じたからだ。

 

 更にわずかに削られた自らの体力数値を確認しつつ、目の前に金剛石を模した防壁を生み出す。

 すると直後。壁に何かがぶつかり、砕けた。

 防壁を用意するのが一瞬遅ければ、それを受けていたのはアルメラルダであったのだろう。

 

 アルメラルダの背筋を謎の感覚が這い上がる。

 ……それは決して恐怖からくる悪寒などではなく。

 

「流石は本職の魔法騎士! 褒めて差し上げましてよ!」

 

 浮かべた表情は絢爛豪華で獰猛な笑み。

 

「光栄です。あなた様もあの一瞬で非常に優れた判断をされた。驚きましたよ」

「淡々と言われても嬉しくないですわね。ふふっ、楽しみにしていなさい。このわたくしが、もっと大きな声を出させてあげる!」

 

 ぎらぎら輝く視線に居抜かれアラタは一瞬動きを止めたが、すぐさま体勢を変えた。その様子からは攻撃の意図を読み取ったが、雰囲気や表情の中に嗜虐性は見られない。

 ただ淡々と、自分が今しなければならないことを遂行している。

 

(ふむ……。つまらない男ですけど、まあまあですわね)

 

 高揚した気分を味わいつつもアルメラルダは彼の様子を冷静に分析していた。

 

(でも、勝負はこれからですわ! しっかりとその本性……見極めさせていただきましょう!)

 

 ファレリアが愛した男がいか程のものか。

 それを確かめるためだけにこの決闘でもって挑んだ少女。彼女は厳しい査定の眼力をもって、魔法騎士に攻撃を仕掛け続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時刻は経過し。

 二組の決闘がどうなったかといえば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か……勝った~~~~!!」

 

 突き上げた拳。その指の隙間に勝利の切り札となったカードを高々と掲げ、ファレリアは堂々の勝利宣言をした。

 

「あ、あげるんじゃなかった」

 

 歓喜するファレリアに対して頭をかかえるフォートだったが、それもそのはず。

 勝敗を分けたのは、ファレリアに泣きつかれフォートが魔法付与したカードだったのだ。

 

 ファレリアの周りを化身たる犬が主人と同じように喜び、飛び跳ねている。化身に意志は宿らないため、ファレリアの意識と連動しているのだろう。

 彼女の実力を見たいとは思ったが、負ける気などさらさらなかったフォートとしては予想外もいい所である。

 

「やったー!」

「…………」

 

 しかし周囲がざわつくほどに全身で喜びを表しているファレリアを見ていたら、自然と口元に浮かんでいたのは笑みだった。

 

 

 

(ああ……良いな)

 

 

 

 何に対してそう思ったのか。それを自分でも捉えることが出来ないままに、フォートはファレリアの笑顔を目で追っていた。

 馬鹿だし考え無しだしプライドも無いが、ここまで素直な人間も珍しいだろう。

 初対面時。自分が濡れていることも忘れてファレリアにハンカチを手渡した自分。その時初めて見たファレリアの笑顔が今に重なる。

 

 

 

 ほんのりと、胸の奥が熱を帯びた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に、もう一方の決闘はというと。

 

 

「フン……。仕方がありませんわね。あなたとファレリアの交際を認めて差し上げてよ」

「待ってください!?」

 

 水槽の水が干上がり、敗北を告げるそれを見て悔しそうにしながらも……どこか清々しい様子でアルメラルダは告げる。敗者は彼女だった。

 だが勝者であるアラタとしては焦るばかりだ。自分はファレリアとの交際など望んでいない。

 しかも推したる相手から外堀を埋められるなど、そんな不幸があって良いのだろうか。いや、いいはずがない。

 

 

 

 焦った彼は次の瞬間……思わず口走った。

 

 

 

 

「その! 俺が好きなのはあなたであって……あ」

「!? な、なにを言って」

「いや、違います! 恋愛的な意味ではなく!」

 

 驚愕し目を見開く推し。

 大きな声が出てしまったばかりに観衆の声に埋もれることなく響いた声だったが、その後に発した弁明の声は最初の発言を聞いて一気に大きくなったざわつきに飲み込まれた。

 

(ど、ど、ど、どどどどどどどどうしてこんなことにぃぃ!!)

 

 慌てても後の祭り。

 その場で何もできず固まったアラタは、あたふたとこちらに背を向けて去って行くアルメラルダを止めることが出来なかった。

 

 

 

 

 ともかくこうして慌ただしくも、異例の二組同時決闘は幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それ全てを見ていた者の中で。

 

「ずいぶん原作をかき回してくれているな」

 

 歓声に紛れたその声を拾うものは、誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決闘後。

 その健闘からか、もしくは無表情がデフォルトだと思われているファレリア・ガランドールから無邪気に喜ぶ姿を引き出した功績からか。

 負けたにもかかわらず妙に周囲から褒められたフォートは、それに(マリーデル)の笑顔で返しながらようやく自室へと戻ってきた。

 

「つか……れたぁ……!」

 

 そうつぶやいた顔は少女を演じる彼とも斜に構えた普段の彼とも違い、純粋に年頃の少年のものだった。

 フォートはしっかり部屋の鍵をかけると、ベッドに背中から倒れ込む。

 どっと押し寄せてきた疲労感は、主に周囲への対応によるものだ。決闘に関しては体の疲労はともかく、心は充実している。

 良い経験になったし、単純にファレリアとの決闘は楽しかった。

 

 それに……。

 

 

『やったー!』

 

「……ふふ」

 

 負けたものの、馬鹿みたいに喜んでいたファレリアを思い出すと笑ってしまう。

 戦いの余熱なのか、ぽかぽか温かい感覚も心地よかった。

 

 

 

「あ……。……まあ、いいか。今日はもう、外出ないし……」

 

 ぴりぴりと体を走る電流のような痛みにうっすら目を開くも、今はただただ体を休めたくて放置する。多少服がきつくなるも、破れるほどではないし良いだろう。

 ……鏡で今の自分を直視すればそれなりに嫌な気持ちになるが、それは見なければよいだけのことだ。

 

 

 しかしフォートが完全に気を抜いていた時だ。それは来た。

 

 

「じゃじゃじゃじゃーーーーん! ファレリアちゃんのー! 突撃いきなりお部屋訪問ー!」

「!?」

 

 鍵をかけたはずの扉が勢いよく開いたかと思うと、何かが入ってきてすぐに扉を閉めた。その間、約五秒。

 そしてフォートが誰何する前に高らかな名乗り。気を抜いていた彼はベッドに倒れたまま、目を白黒させるしか出来なかった。

 

「ビックリしました? 驚きました? そうでしょう、そうでしょう! 鍵は預かってましたけど、訪問は初めてでしたものね!」

 

 異様にテンションの高いファレリアはしっかり部屋へ防音の魔法を施すと、ずいっと近づいてきてフォートの隣に腰かけた。ベッドが軋む。

 

「え……何……ほんと何!?」

「ふふふ。君が純粋に驚いている顔、新鮮ですね。いやぁ~。勝者として、健闘した好敵手をたたえに来たっていうか~。ほら、あれですよ。褒めてくれていいんですよ!?」

「秒も目的を隠せないの? せめて建前を先に実行したらどうなんだよ。好敵手を称えに来たってやつをさ」

 

 どうも勝ったから褒めろ! そういうことらしい。敗者に対する要求ではないが。

 

(犬……)

 

 ファレリアの化身が犬の姿をしていたこともあって、今のファレリアは遠くに飛ばした枝をとってきて尻尾をブンブン振っている犬のようだ。褒めろ褒めろと全身で訴えている。

 

「……せっかく来てくれたところ悪いけど、さすがに疲れた。帰ってくれる?」

 

 ともかく今はまずいと、心底うんざりとした声を出して冷たくあしらう。

 するとファレリアは目に見えて落ち込んだ。

 

「そ、そうですか。すみません、そうですよね。ごめんなさい。ちょっと、こういうの初めてで……はしゃいでしまって。申し訳ありませんでした」

(三回も言葉を変えて謝るの、なに! これじゃ僕が悪者みたいじゃないか!)

 

 しょぼくれて肩を落としたファレリアはすごすごとベッドから立ち上がったが、思わずフォートは上体を起こしてその手首を掴む。

 

「……すごかったよ。正直、驚いた。特に最初の罠」

「でしょう!?」

 

 しおれた花のようだった雰囲気が一気にぱああぁっと開花する。

 ファレリアはすぐに座り直すと、フォートの背中をバンバン叩いた。なれなれしい。その強さに思わずむせ返るフォートである。

 

「渾身の一手でしたね! 完全にあれで流れをつかみ取りました! 決闘の風は私に吹いていましたよ! ふっふっふ。一度言ってみたかったんですよ、罠発動! まさかこんな所で夢が叶うなんて、人生ってわからないものですね~! ま、二回目なんですけど! ……ん?」

 

 でへでへと怪しい笑い声をあげていたファレリアだったが、ふと違和感に気付く。

 そしてそのままいつもの距離感でフォートの体をぺたぺたと触った。

 

「ちょ、やめ……っ」

「フォートくん、体固くありません?」

 

 姿勢や所作の指導、女性としての服の着こなしをレクチャーする時、ファレリアはよくフォートの体を触る。

 きめが細かくすべらかな肌に、柔らかい肉の感触。女性と遜色ないそれに「魔法アイテムすげぇな」と感心していた彼女であるが、どうも今日は様子が違った。

 肌のすべらかさは変わらないが、肉は張りがありつつ少し硬い筋肉質。骨格もよくよく見れば少しがっちりしていて、肩幅もやや広く首も少々太い。女生徒用の制服が少しきつそうだ。

 

「……もしかして、魔法アイテムの効き目きれてます?」

「……そうだよ」

 

 かっと頬が赤くなる。

 いつもの姉の姿としてならともかく、今はフォートの元の姿が女性の服を着ている状態。

 それを見られ、認識されたのがどうしようもなく恥ずかしかった。

 

「へぇ~。本当だ。顔もいつもとちょっと違う! へぇ~。はぁ~。ふ~ん。もとのフォートくんって、そんな感じなんですね。ちゃんと男の子の顔だ!」

「あのね……」

 

 黙ってほしくて口を開くが、言葉は上手く出てこない。それがもどかしかった。

 

(こっちはそっちと違って思春期なんだよ馬鹿……ッ)

 

 結局内心で悪態をつくしか出来なかったフォートは、黙らせることは諦めてその話題から逃げる別の話題を探す。

 そして。

 

 

「そういえばさ。ファレリアはアラタの何処を好きになったの? よく褒めてるけど、対応とか雑だよね」

 

 

 出てきたのは、何故かそんな話題。

 だが効果はてきめんだった。

 

 

「え、なになに。恋バナですか~? ふっふっふ。フォートくんもお年頃ですね! 気になっちゃうんですか? 教えてあげてもいいような、ちょっと恥ずかしいような~」

「あ、面倒くさいからやっぱいい。遠慮する」

「ごめんなさい調子に乗りました聞いてくれると嬉しいです! 友達と恋バナするの初めてなの!! させて!!!!」

 

 梯子を外されそうになるや否や、ファレリアは必死に食いついてきた。

 どうやら察するに、友達と恋バナ……恋愛話をするのは彼女の中で憧れのシチュエーションの一つだったらしい。

 

(友達……)

 

 その言葉にひっかかりを覚え首を傾げる。

 この奇妙な関係にそんな普通の言葉を当てはめていいのかという疑問が原因かと思ったが、それも少し違う気がした。

 

(……まあ、いいか)

 

 ともかく今は、自分の姿から意識をそらさせるのが先決だ。そのためならいくらでも聞いてやろうではないか。

 

「それで?」

 

 促すとファレリアは赤い目を輝かせた。

 

「どこを好きになったか、でしたね。う~ん。まずは、顔?」

「……。アラタには悪いけど、一目惚れされるような顔だっけ」

「前世の私、ゲームとかでも攻略できないモブが一番好きになるタイプだったっぽいのですよね。それが私にも引き継がれてるらしくて。ああいう顔が一番好みです!」

「……ふぅん」

 

 ああいうのがいいのか。

 フォートは無意識に鏡を見る。自分は姉に似ており、男にしては細身だがそれなりに整った顔をしていると思う。

 だがアラタと比べると、その系統は明らかに違った。

 

「まあ、恋のきっかけなんて結構単純なものですよ。特別な何かが無くたって、「ああ良いな」となってしまったらもう負けというか? 恋は落ちるものだと言いますからね。足を踏み外したら、あとは転げ落ちるだけです」

「……怖いね」

「おほ~! もしかして、フォートくんは初恋まだですか? 気になる子はいないんです? お姉さんが聞いてあげますよ! どのクラスの子です? 先輩? 同級生?」

「あのさ。そんな暇ないし、第一僕は庶民。全部終わったらここから去るんだ。そんな相手作れるわけないだろ。こんな格好だし」

 

 自分で言いながら、胸のあたりがズクリと痛む。

 

「……?」

「えっと……まあ、そうでしたね。君にとってここに居ることは、本来不本意な事。軽率なことを言いました」

「あ、別に。気にしてはいない」

「そうですか? では続きを!」

(こいつ……)

 

 切り替えの早さが好ましくも憎らしい。

 

「あ~……。でも、恋か。さっきの例をもとに考えると、私のはちょっと違うのかしら。私は「愛せる人」を求めているから」

「愛と恋。それって違うもの?」

「ええ。似ているけど、違うものです。共存することはあっても、同一の感情ではないわ」

 

 断言するそこには妙な説得力。

 いつもまったく年上に見えないファレリアだったが、確かにそこにあったのはフォートより長い年月を生きた女性の顔だった。

 

「私はね。安心して一緒に過ごせる関係が欲しい。恋だけでは疲れてしまうもの」

 

 疲れてしまうほどの恋を、以前したことでもあるのだろうか。

 それがフォートの考えが及ばない"前世"という遠い異世界のことであったとしても。少しその話も聞いてみたい気がした。

 

「でもどうしたって、本当の意味で心を許せる相手に出会うのは無理だと思っていたし諦めていたのですよね。だから私、アルメラルダ様に近づいたの。アルメラルダ様悪役令嬢で性格悪いから適度に嫌われるように留めてもらって、行き遅れたら私も便乗しようって。どうせこの先誰かと結婚して、価値観の違う相手と我慢して生きていかなきゃいけないなら。……せめて実家でぬくぬく過ごせる期間を増やしたかったですからね」

「今、さらっととんでもないこと言った?」

「お~っとっと。これ、オフレコね」

「オフレコってなに」

 

 思わぬところでファレリアがアルメラルダに近づいた理由が転がり出てきたことに驚愕しつつ、フォートは黙る。いちいち突っ込んでいたら話が進まない。

 さっさと全部話させて満足したら帰ってもらおう。

 

「……まあ、そんなガバガバ計画、私だけでは早期から破綻していましたけどね。今のところ婚約者とか決められていないし、半分は達成できたと言ってもいいのかな? でも見ての通り、実家でぬくぬくどころか魔法学校で過酷な日々ですよ。まいっちゃうわよね」

 

 そう言いつつ、ファレリアの様子はどこか楽しげだった。きっとこの生活も悪くないと思っているのだろう。

 本人にそれを言えば「拷問まがいの事されてるこの現状を!?」と全力で否定されるのは想像に難くないが。

 

「でも! 出会っちゃったのよね~!」

 

 華やぐ雰囲気に思わず後ずさった。

 

「アラタさん、結婚相手としてかなりパーフェクトなのよ! いいな~と感じたきっかけは見た目なんだけど、ノリ良いし価値観近いし、私の特殊な事情も知ってるし同じ境遇だし、一緒に居て楽! 楽しい! すっごくしっかりしてそうな半面で、意外とメンタル弱いのも可愛いわ。更には背景! バックグラウンド!! ご実家が伯爵家ですもの! お父様お母様も納得するお家柄だし、その上で五男坊! 私は一人娘だからどこかに嫁ぐ必要は無くてどうあっても婿を迎え入れなきゃいけない立場なんだけど、アラタさんのポジションってなにもかもが都合良いの!」

「…………」

 

 意気揚々と語っているファレリアだったが、対してフォートは石でも飲み込んだような胸のつっかえを覚えた。

 いつもならば「思った以上に打算まみれじゃん!」などと突っ込んだはずだが……今はそれが出てこない。

 

 

 

 

 

 婿に相応しい身分。

 それはどうあってもフォートが手に入れられないもの。

 

 

 

 

 

(あれ?)

 

 何故自分は今、必要もないそれを手に入れられないものとして嘆いたのだろう。

 

(嫌だ。気づきたくない)

 

 そう考えながらも思考は止まらない。

 

 

 ファレリアとアラタ。この二人に関しては、アラタが受け入れたらおそらくその関係は確立する。

 先ほどの試合でアラタが間抜けなことを口走っていたが、それは誤解が解ければいいだけのこと。

 今回の決闘で、アラタはアルメラルダにも認められた。

 

 

 しかし自分はいくら望んでもその可能性はない。

 

(その可能性ってなんだよ)

 

 頭を掻きむしりたくなる。

 

 

 

 

 

 あんな馬鹿に、あんな阿保に。あんな間抜けに!!!!

 

 

 

 

――――恋は落ちるものだと言いますからね。足を踏み外したら、あとは転げ落ちるだけです。

 

 

 

 

 リフレインするその声に、苛立ちに似た感情が体を満たす。

 

 きっと誰よりもあの少女のことを分かっているのは自分だ。

 過ごした時間はアルメラルダに遠く及ばず、異世界の知識でアラタに劣ろうとも。

 特異な魂から成る生い立ちも、本質も、好きなものも嫌いなものも目的も知っている。

 一番本当の彼女と話してきたのは自分だ。それがまだ一年に満たない関係であったとしても。

 

 

 

 …………なのに!

 

 

 

 届かない。

 

 身分も心も、なにもかもが。

 

 

 

 

 ……だからきっと、これは忘れた方がいいものだ。

 

 

 

「……ファレリアはさ」

「はい?」

「なんで、僕たちを手伝おうと思ったの。ハンカチのお礼とか言ってさ。わざわざ、こんな面倒なこと」

「……ええと?」

 

 突然切り替わった話題に困惑する様子。

 

「やっぱり、アラタのため? 近くに居て、役に立って。好きになってもらうため?」

「ああ、そういう」

 

 フォートの言葉に納得がいったのか理解の色を示すが、ファレリアは首を横に振った。

 

「それに関してだけでいえば、フォートくんのためですかね。もちろんアラタさんに会える! て気持ちが無かったわけではないけれど。きっかけは君ですよ」

「僕?」

「ええ。だって、すごいことですよ。いくら国の危機も関わってるとか壮大な話を聞いたからって。いえ、だからこそってのもあるんでしょうが。それでも。お姉さんの代わりにスカートはいて、学校通って、面倒な人間関係築いて。それを十五歳の君がやっている。しかも君はだ~れも「おかしい!」って言わずに放置してた私への仕打ちに怒ってくれた、とっても優しい子」

 

 照れ隠しのように、額を小突かれた。

 

 

 

「そんな子、手伝いたくなっちゃうじゃないですか」

 

 

 

(ああ)

 

 駄目だ。

 転げ落ちる。

 

 

 

「ま、まあ。大した役には立てていませんけど」

「……別に、そんな期待してないよ」

「本当の事だとしても直に言われるとちょっと傷付きますよ!?」

 

 乗り出すようにして不満を申し立ててくるファレリアを押し返すと、フォートはうつむいたまま彼女を立たせ扉へと追いやる。

 

「もう恋バナとやらも満足した? 本当に疲れたから、そろそろ帰ってよ。あと緊急用に渡してはあるけど、部屋の鍵は軽率に使わないで。見られたらどうするのさ」

「そ、それは反省しています。はい」

「じゃあね。また」

「あぴゃっ!?」

 

 最後は突き飛ばすように部屋の外に追い出して(もちろん人が居ないことは確認した)、扉を閉める。

 そのまま扉に背中を預け……ずるずると座り込んだ。

 

 

 

「馬鹿。馬鹿。馬鹿。ファレリアも、僕も馬鹿。なんだって、こんな……!」

 

 

 

 本来ここに自分は居ない。

 いくら魔法の才能があれど、姉のように「星啓の魔女」などという特別な資質があるわけではない。

 だからこの気持ちには一生気づかないふりをするべきだった。

 なのに。

 

「なんで……僕は……」

 

 恨み言のように呟いてから、その気持ちに重石をつけて心の奥底へと沈めていく。

 いくら望もうと、それが手に入ることはないのだから。

 

 

 

 

 

 少年が初めて自覚した身を焦がす感情は、彼にとってあまりに残酷だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく>>

以下、おまけ

 

 

■□ 本編とはあまり関係のないこぼれ話 □■

 

 

 

【十二人って多くない?】

 

 

 ある日、フォートくんが力尽きていた。

 

「大丈夫?」

「じゃない」

 

 べたっと床にうつぶせに倒れ伏したフォートくんをつついてみると、ばっと起き上がって私に詰め寄ってきた。

 

「ねえ!! 十二人って多くない!? 多いよね!! しかもあいつらすぐにネガるし!! いい奴らではあるんだけど重いんだよいい加減!!」

 

 ネガるときたか。順調に我々の前世の言葉を使いこなしていますねとアラタさんを見れば目をそらされた。おいおい照れ屋さんですね。

 

 それにしても、どうしようか。これ。

 

「あー。その時期きちゃったか。ね。重いよね。でも乙女ゲーってそういうもんだから……」

「わかるよ? 色々大変な事情をそれぞれが抱えているのは。でも正直姉さんの代わりに女として学園に通って面倒くせぇ野郎どものケアしてる僕が一番大変じゃない!? ねえ!」

「そ、そうですね」

 

 面倒くせぇって言っちゃったよ。

 

 乙女ゲームの攻略キャラだけに限られないと思うんだけど、人ってそれぞれ色々な問題や闇を抱えている。そういったものに関わるのはひどく大変で、しかも相手は十二人。ストレスを溜めるなという方が無理だろう。

 でも問題込みで向き合わないと、イベントは進まず表面的な付き合いしか出来なくなるのだ。

 よって回避は不可能。

 

「……よ、よしよし」

「具体的な解決策の無い慰めなんていらない」

 

 頭を撫でてみたがパンっと叩き落された。失礼しましたごめんなさい。調子こきました。

 

 ……気まずい。話題をそらすか。

 

「そういえばアラタさん。攻略対象十二人って、恋愛シミュレーションの中でも多い方ですよね?」

「ん……ああ」

「元ネタが干支ってマジですか?」

「それはマジ」

 

 乗り気じゃなさそうだったけど話題が分かると食いついてきた。

 

「本当なんだ。いや、ファンタジーの世界観とミスマッチすぎて半信半疑だったんですよね」

「わかる。星啓の魔女ってキーワードがあるなら素直に十二星座にしとけよって話だよな」

「それか和製ファンタジーにするとか」

「それな」

「僕のストレスが一切解消されないまま前世トークで盛り上がるのやめてくれない?」

「「すみません」」

 

 

 その後、とりあえず中間お疲れ様会でもしようかということに。

 欲しいものは無いかと聞いたら「肉」と言われたので、アラタさんの隔離結界の中で焼き肉をしてフォートくんをねぎらったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【寄り添うは黄金の白金】

 

 

「お、めずらしい」

 

 アルメラルダ様に呼ばれて自室を訪ねると、ソファーにもたれかかるようにしてアルメラルダ様が眠っていた。

 帰ってもいいかなぁと思ったものの、メイドさんに目で訴えられてしぶしぶ起きるのを待つことになった。お出しされたお茶とお菓子が美味しい。

 

(疲れてるっぽいな……)

 

 ふとアルメラルダ様の顔を覗き込めば、化粧で隠しているがうっすらと目の下に隈が見える。

 体調管理も出来てこその貴族! と豪語しているアルメラルダ様にしては珍しい。なにか眠れなくなるような心配事でもあるのだろうか。

 

「……ふぁれりあ」

「ぅお」

 

 寝言で呼ばれた。え、何。私アルメラルダ様の夢の中でもしばかれてるの?

 けどアルメラルダ様の寝顔はどこか幼げで、まるで迷子になった子供のようだ。うんうんと唸ってもいる。

 

 なんとなくその手を握れば椅子にもたれていた体が横にずり落ちてきて、私の肩を通過してトスンっと膝に頭が乗る。

 ばらっと、アルメラルダ様の豪奢な髪が黄金のひざ掛けのように広がった。

 

「……」

 

 ゆっくり、安心させるように。その艶やかな黄金の髪を整え撫でて、一定のリズムで肩のあたりをぽんっぽんっと叩く。

 気づけばうめくような声はなりを潜め、穏やかな寝息が桜色の唇から規則正しく漏れていた。

 

 

「いつもこれくらい大人しければな~って思うけど……それはそれで、アルメラルダ様じゃないか」

 

 嘆息し、目を細める。

 

 

 いつの間にか私まで眠ってしまっていたようで、起こされた時は夜だった。

 アルメラルダ様に何故起こさなかったのかと叱責されてしまったが、その顔から疲労の色は取れていたので……まあ、良しとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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