【完結】悪役令嬢に好かれたばかりに自分の恋愛がハードモードになった取り巻きのお話 作:丸焼きどらごん
護衛という名のもとに公の場でもアラタさんと一緒に過ごすようになって、一年が経過した。
……一年!?
(なんとはなしに考えてたけど一年はっや!? え、本当に!?)
気づいた瞬間、爆速で恐怖が体内を駆け抜けていった。
年取るごとに一年過ぎるの早くなっていくのは事実だし前世の私が恐怖していたものの一つではあるのだけど、…………私、まだ学生! ぴっちぴちの十八歳!!
学生の時って、もっと、こうさぁ! 時間を濃く長く感じるもんだろうがよ!?
いや、確かに濃くはあったのだ。
濃かったんだけど、濃度高すぎて時間間隔まで圧縮されたっていうか……。
……いやぁ、本当に色々あった……。
アラタさんが護衛についてから直近のイベントは、一番最初の突発的決闘と違った星啓の魔女を決めるための正式な定期決闘。
第一回
でも決闘の方法は二種類。一回目は私とフォートくんが決闘した時のような、化身を戦わせる方法だった。
決闘方法は毎回選べるゲームとは違い、ランダムに決められた第一回以降は前回とは別の決闘方法となる。まあせっかく二種類の方法があるのなら、どちらか一方だけでは見ないわよね。
ので、二回目は魔力を用いた直接戦闘となり、そちらはアルメラルダ様が勝利。
年に二回の定期決闘。現在の所、勝敗は半々である。
どうもフォートくんは後衛軍師タイプというか、自分が直に戦闘を行うより他の対象に指示を出すのが得意のようだ。対してアルメラルダ様は自分で戦うのが得意。前衛戦士タイプ。
逆じゃない? と思わなくも無いが、それぞれ得意分野が決定的に異なる模様だ。
二人とも相手に負けた後、それぞれ次の対策を念入りに考えているようなので"勤勉"という点では共通するのだが。偉い。
ここ一年で変わった事といえば、攻略対象者たちと微妙に接点が出来てしまったことも含まれる。
アラタさんが私たちの護衛についたあと。便乗して行動を共にすることにしたらしいフォートくんだが、もともと彼のスケジュールはイベント管理のために超タイト。
そこまでして一緒に居る必要ある!? と思ったけど、これについては……うん。
フォートくんなりに一度殺されかけた私を心配してくれているのも分かるので、強くは言えないんだよな……。
一緒に行動する事については、原作を極力変えたくないアラタさんも一度苦言をこぼしていた。
が、フォートくんの「目標を達成できるなら方法はある程度現場に任せる。臨機応変に対応してくれ。……そう最初に言ったのはアラタだよね。それに変えたくないも何もアラタが一緒に行動している時点で……ねぇ?」という台詞に撃沈していた。
フォートくん、近くで見ていて思ったが好感度管理マジでほぼほぼ完璧だからな……。
ライバルであるアルメラルダ様が近くに居ても、問題なく稼ぐべき好感度は得ていたように思う。
でもって。
そんな距離に居ればおのずと攻略対象者達と、ちょっとした顔見知りにもなるわけで。
「ハロハロハロ~。ファレちゃんげんき~?」
「ワーォ、今日も見事に無表情! たまには僕らにも笑顔を見せてほしいな~」
「あ、その一とその二」
「双子まで省略するのやめない? せめて双子その一、って言ってよ! 相変わらず容赦ないネ」
「まあ思ってたより愉快な人で、ボクらは楽しいけどサ」
中でもちょいちょい私個人にまで絡んでくるのは、距離感とコミュ力がバグっている双子だ。
ちなみに三年生。一年経過して今年は四年生か。同級生ですね。
よく似た顔で二人とも紫髪だが、赤っぽい紫と青っぽい紫なので特に見分けがつかないとかは無い。
こいつらとは学園祭で縁が出来た。
でもこの二人、個性的なのを気取りたい基本常識人寄りの人種なので、ウザ絡みを許容できれば比較的付き合いやすい。
情報通だから色々教えてくれるしね。
秋に行われる学園祭。
これは保護者や学園関係者に魔法を用いた発表を見せ、生徒たちの現在の実力を示す場として設けられている。
準備から始まり、ゲームでは攻略キャラの好感度を上げたりスチルをとるための重要イベントの一つだ。
重要イベントのくせして制作陣のおふざけがここでもよく発揮されており、その内容は貴族学校のわりに庶民臭かったりするし何より濃い。
いや、ちゃんとそれぞれ由来はあるんだけどね?
体育祭のような面も含まれており、借り物競争で「今宵のパーティーでダンスに誘いたい相手」を引いた双子は双子その一がアルメラルダ様を。双子その二が
それぞれ彼女らの手を取ってゴールへ向かおうとしたのだが……。その時、「親友」という借り物カードを引いていたアルメラルダ様とフォートくんが(お題カードかぶりすぎなんだよ!!)私を左右から取り合っていたので、何故か右から順に双子その一、アルメラルダ様、私、フォートくん、双子その二で手を繋ぎ大きく広がって五人でゴールする事と相成った。なんで???
親友、というカードでアルメラルダ様とフォートくんの二人が私を選んでくれたのは嬉しいのだけど。
最終的に目立つ人間ども四人に囲まれ、センターでのゴールとなった私はクッソ恥ずかしい思いをしたんだよな。
しかも一見「みんなでゴール!」っていう感動的な場面なのに、捕まってた私はお題達成できてなかったのですが。私も参加者だったよ。
「おっ、リア先輩じゃん。今日もちっけぇな。飯食ってるか?」
「ガランドール先輩、この無礼者は無視して構いません」
「んだとテメェ!」
「馴れ馴れしいのだよ貴様は」
食堂で食事をしている時に声をかけてきたのは、フォートくんと同級生のオレンジ髪不良もどきと水色髪眼鏡の優等生。この二人は比較的優しめ難易度なので、ゲームでも攻略したことがある。
一見犬猿の仲っぽいが、だいたいいつも行動を共にしている仲良しさんだ。
そういえば乙女ゲーなのに同人誌でよく薔薇薔薇されてたなこの子達……。
学年合同プチ修学旅行みたいなので学園外に出かけた時、後輩と先輩でグループを組むのだけど。そこでこの二人とアルメラルダ様、私、取り巻きーズの組み合わせになったのよね。
まあ、あれ。それぞれ態度は違えど先輩を立ててくれる良い子たちよ。
「ファレリアさん。先日の試験は頑張りましたね。ここ一年の成長には目を見張るものがあります」
「ありがたいお言葉です、先生」
定期試験でそう褒めてくれたのは、柔和な笑顔と灰色の髪が特徴のフォートくんのクラスの担当教諭だ。
彼はクラスの受け持ちの他、歴史や魔法実技も一部担当しているので入学以来お世話になっている。特別教諭とは違って癒し系だ。特別教諭とは違って。……でも妙に仲は良いんだよな、あの変人と。
生徒一人一人を見ていてちゃんと褒めてくれるめっちゃ良い先生。
ちなみに私が褒められている時はいつもアルメラルダ様が横でドヤ顔している。
そ、そうですね。アルメラルダ様が私のケツ引っ叩いて勉強とかさせてくださってるおかげですものね。ハイ。
「…………マリーデルは、げんき?」
「ご本人に聞いてくださいませ」
「いつも、いっしょに居るから」
前振り無しに好きな子情報を求めてきたのは一つ下の後輩、フォートくんにとっては一学年上の先輩であるピンク髪の不思議くん。
しょぼんと肩を落としている所は可愛いが、もう少しコミュニケーション頑張ってほしい。実際に接してみると大分不安になるぞこの子。
年末パーティで会った時は
そしたら以来よく
「おいおい、あんま嬢ちゃんに迷惑かけんなよ」
「……かけて、ない。いじわるされた」
「言いがかりです」
「ほら、困ってる」
「むぅ……」
けど不思議くん相手に困っていると、こうして保護者が引き取りに来てくれるのでありがたい。
ど派手な金髪に、本当に学生か? と言いたくなる大人フェロモンむんむんなこの色男。攻略キャラだと前世の私一番の推し。
顔も性格もアラタさんとは正反対なんだけど、単純にキャラクターとして見る分にはこういう自信満々包容力タイプが好きなんだよね。恋愛対象というよりキャラクターとして好き。
ちなみに五年制であるこの学校において彼は四年生。先輩だ。今年で最終学年となる。
ゲームだと彼は途中で卒業してしまうから、一年で好感度を上げる必要のある難易度高めのキャラ。
「生徒会長、ありがとうございます」
「いいって。ああ、そうそう。アルメラルダ、今日は会議があるからな」
「ええ、もちろん承知しておりますわ」
気を遣わせない態度でお礼を流すと、シームレスにアルメラルダ様へ連絡事項を告げる色気先輩もとい生徒会長。ちなみに不思議くんも生徒会役員だ。
「やあやあやあ! 奇遇だね。ところでそろそろ演劇部に興味は湧かないかい? 君たちなら僕ほどではないがスターとして輝けること間違いなしさ!」
「あ、結構です。でもあなたは今日もギンギラに輝いていますね。ひゅーひゅー、さすがすたぁですわ~」
「ああっ! おざなりな賞賛にも喜んでしまう自分が憎い! けどそんなところも僕のチャームポインッ! 自分の魅力が恐ろしいよ!」
劇場の近くを通りかかると毎回おもしろポーズを決めて登場するこの茶髪ナルシストとは、音楽祭で知り合った。ちなみにこれまでに接点は無かったが同級生。
音楽祭での催しの一つに歌劇があったのだが、ハプニングで不本意ながら私、アルメラルダ様、フォートくん、アラタさんが劇に出ることになった時。場を取り仕切っていたのが彼だ。
演劇部の部長であり、楽器も歌も演技も監修も高クオリティでこなせる多彩な男だ。
挙動は攻略対象の中でも段違いに面白いが、一番泣けるエンディングがこの人なんだよな。
「やっ、ファレリアちゃん。ねえねえ。このあいだマリーデルにお菓子をもらったんだぁ~。すっごくすっごく、美味しくてね! 僕感動しちゃった~。僕のためにいっしょうけんめい作ってくれたんだってぇ~! かわいいよねっ!」
「ええ、とても美味しかったですよね」
「……君も食べたの?」
「一緒に作りました」
「…………。ふ~ん」
(含み多いな)
きゃぴっとしたノリで話しかけてきた一見中学生……ギリ小学生にも見えなくはない青髪の童顔は二年生。
ナルシストと同じく音楽祭をきっかけに接点が出来たのだけど、もう分かり易いくらいに腹黒だし独占欲強いしで
自分の幼い容姿を存分に活用して周囲の庇護欲を煽ってくるあざと師。作中屈指のひねくれ枠だ。
調整していても勝手に好感度が上がっていくらしく、フォートくんがよく頭を悩ませている。
というか私は先輩だぞ。なにちゃん付けで呼んでんだよこのガキが。可愛いから許すが。
……可愛いっていうのは、ある種の暴力よね。
「やっ。アラタは元気にしているようだな。安心した」
「さすがに慣れたようだしね。まあ弟の護衛をクビにしたわけでも無いのだ。今しばらく……例の犯人が見つかるまで、彼女らを守ることに専念してほしい」
「はい。誠心誠意、守護の任を務めさせていただきます」
第二王子と第一王子はちょくちょくアラタさんの様子を見に来るし、例の犯人探しに積極的に協力してくれているので一番会う機会は多いかもしれない。
第二王子は快活かつ気さくな人で、第一王子は高貴で雅やかな雰囲気を纏いつつも朗らか。二人とも王族のわりに親しみやすいお人柄である。
「おや、ファレリア・ガランドールではないか。今日は……」
「…………」
「おい無視をするな!」
特別教諭は置いておくとして。
などなど。
アルメラルダ様と行動しているのでそれぞれ顔見知りではあったのだけど、今ではその「顔見知り」が「知り合い」程度にはなった。
まあ、なんというか。中々に賑やかな日々となっている。
他に一年で大きく変わったことは、もう二つほど。
フォートくんがアルメラルダ様に生徒会へと引きずり込まれたこともその一つだ。
「私を……推薦?」
「ええ。光栄に思うのね、マリーデル・アリスティ。貴女を生徒会役員に推薦します」
「そんな。とても私には務まりません」
ただでさえ忙しいのに勘弁しろよ! フォートくんのそんな気持ちが透けて見えたような気がする。
そうだよな。大団円のため立ち回ろうと、特定の部活に入らず駈けずりまわってるもんなフォートくん。
だけどアルメラルダ様はお構いなしだ。
「いつもくっついてこられるだけでは迷惑なのよ。少しは役に立ってみせるなら、多少目を瞑ってさしあげてもかまいませんことよ? …………まあ? 出来ないというのなら、それも仕方ありませんわね。所詮、そこまでの小娘だったというだけですもの」
「…………」
あ、と思った時は遅かった。
「別に出来ないとは言ってない」
(あああああ~!)
心の中で頭を抱えた。
フォートくんは基本に合理的、理性的な子なんだけど……。アルメラルダ様には素がバレてからどうも本気で対抗心を抱いているらしく、アルメラルダ様もそれを承知している。
決闘や試験でも本気でバチバチやりあっているから、こうした煽りには敏感なのだ。
そんなことがあり、フォートくんは現在生徒会の仕事も並行しながらイベント管理を行っている。
時々死にそうな顔をしていて心配だが、逆に今まで多忙だったアルメラルダ様はフォートくんにいくつか仕事を押し付けて余裕が出来たようだ。
その余裕で"あること"に取り組んでおり、楽しいらしく日々つやつやしている。
そのアルメラルダ様が取り組んでいる事が、大きな出来事のもうひとつ。
……アルメラルダ様による、アラタさんへの婿教育だ。
「ふんっ。マリーデル・アリスティ、そこそこ使える人材のようですわね。おかげで時間が出来たわ」
フォートくんを口車に乗せちゃっかり生徒会に引きずり込んだアルメラルダ様は、にんまりと悪役令嬢スマイル。
時間が出来た……それはつまり、最近なりを潜めていた私への魔法特訓がまた始まるのか!? と、身構えていたのだが。
アルメラルダ様からは思いがけない発言が飛び出てきた。
「これでようやく! …………アラタ・クランケリッツの婿教育が出来ますわねぇ~! ほーっほほほほほほほ!」
「む、婿教育!?」
驚く私にアルメラルダ様は輝かんばかりのドヤ顔だ。
これ本人の中ではきっとすでに決定事項だし、めちゃくちゃ良い思い付きをした! って思ってんだろうなぁ!
「ええ。ファレリアは……クランケリッツが好きなのでしょう? ならば他に相手をあてがうのも野暮というもの」
「そ、それは私の気持ちをくんでくださり、大変ありがたく光栄ですハイ……」
アルメラルダ様、私に相応しい相手を見極めるって息巻いてたもんな。
例の事件があった後でもアラタさんをその候補から外さないのは、それだけ彼がアルメラルダ様のお眼鏡にかなっているということだ。
「伯爵家五男坊で本人自身が技量のある魔法騎士。……一応聞くけど、当然、結婚するならば婿よね? 貴女、ご兄弟は居ないのだし」
「そのつもりです!」
「そうよね! ええ、ええ。悪くない選択ですわ! ……嫁に行かれるよりは」
最後ちょっと聞き取れなかったけど、アルメラルダ様には私の打算的な部分も見抜かれているようだ。
「でも、まだ。まだまだまだまだまだ! 足りませんわ! ファレリアの婿として認めるには、圧倒的に足りていませんわ!! 全てが!! まず相手が何者であれ、操られるなど軟弱にもほどがある! それでファレリアを守ってこの先の人生を歩めるとでも!? 馬鹿をおっしゃい!!」
「あ、アルメラルダ様!? なにを……」
「つまりこのわたくし直々に、再教育してさしあげるということよ!」
「お待ちください!? まず私はですね、一回フラれて……あっ」
まずい。余計なこと言った。
「…………それは初耳ですわね」
アルメラルダ様の声が低い。
けど次の瞬間、慈母のごとき柔らかい声色が発せられた。
「安心なさい? クランケリッツ程度の相手、いずれ星啓の魔女となる私の手にかかれば結婚一つ整えるなど容易い事ですもの」
(む、無理やり結婚させる気だ!? 本人の意志! 人権! 大事に! あと、それで結婚できても私が気まずいんですけど!?)
あ、アラタさぁぁぁぁぁぁん! 逃げて! 逃げて―!
いや逃げられんわ毎日一緒に居るわ今も部屋の外で待機してるわ!!
私はそっと合掌をした。
最終的に結婚する、しないの段階になったら本人の自由意思で選べるように尽力するしそれまでに好きになってもらえるよう頑張りますので、アルメラルダ様の特訓はどうか耐えてください。
そんなこんなで、ここ一年は実に濃かった。
そりゃ過ぎ去るのも早いわ。
(……あれ、そういえば最近記憶の図書館に入っていないな)
まったく入っていないというわけではないけど、寝る前に一時間とか。以前に比べて格段にその時間は減った。
多分日常が賑やかすぎて、入ってる暇が無いんだと思う。
けどなんとなく悪い気はしない。
毎日疲れるけど、私はそれなりに今を楽しんでいるようだ。
未だ不穏な事は解決していないし、先送りにして目をそらしている案件もあるのだけどね。
……はぁ。
+++++
ある日の夜。
久しぶりの密会の時間である。
普段アルメラルダ様も一緒に行動している分、以前より密会する機会は減ってしまった。今では人が寝静まった深夜に寮を抜け出して会うのが定番となっている。
一年前の犯人が未だ不明のため一見危険な行動だが、アラタさんが隔離結界さえ張ってしまえば問題は無い。
アルメラルダ様のように隔離結界に気付き破壊できる者の数も限られているし、破壊されたらその瞬間に逃げる算段もついている。
……それに多少の危険を冒しても情報交換の場は必要だ。
特に今日の会合は…………一年越しに例の犯人を特定するためのものなのだから。
「ここ一年、直接危険な事はなかったけど……不可解なことは多かったね」
月が明るく照らす中、テーブルに用意された眠気覚ましのお茶に月光を浮かべる。
それを飲むアラタさんとフォートくんは両名共に疲れ果てた顔をしており、日ごろの激務を思わせる。実際近くで見ているしね。
この密会、以前「アラタさんが私に不信感を抱いている」とフォートくんに聞いてから本当に今後も来ていいものかと悩んだこともある。
けどそのアラタさん自身から来てほしいと直接誘われたので、こうして今も参加していた。
……別の意味で少し参加しにくい理由も、あるにはあるのだが。
アラタさんは「不可解」と言ったフォートくんに神妙な顔で頷いた。
「……発生させる予定が無かったイベントだな」
「そう。まあ、そこは僕が上手く男とファレリアの立ち位置を入れ替えたりしてイベントを終わらせたから、全体的な計画進行には問題ないんだけど……」
「今でも思うんですけど私に入れ替える必要ありました?」
「あるよ。だってそのポジションが空いてたら誰かが収まりにくるだろ。だったら事情を知っている相手をその場に据えるしかないし、となればファレリアしかいないじゃないか」
「アラタさんは」
「俺が他の奴らから余計な勘繰りとやっかみを買うだろうが」
「私は!?」
「ファレリアは女の子だからノーカン。女の子同士の友情にとやかく言うのは童顔だけだろ」
「それは、まあ……」
攻略対象の事を話す時、万が一誰かに聞かれても問題ないようにフォートくんが攻略対象者に使用している記号をほぼほぼそのまま利用しているのだ。
それがめちゃくちゃ楽なので、うっかりすると普段でも出る。特に双子相手。
それにしても、イベントなぁ……。
フォートくんは普段から好感度管理が完璧なので、季節イベントなどで大幅な好感度アップを狙う必要が無いのだ。そのため極端に好感度が足りていなさそうな場合を除き、イベントは見送る……というのが方針だったのだが。
それがまあ、起こること起こること。
例えば、学園祭では後夜祭のダンス。
ダンス自体は複数の相手と入れ替わりつつ踊るものなんだけど、一曲だけ特別な曲があり……それを特定の相手と踊って、打ちあがった花火を一緒に見ると恋が叶うみたいなジンクスがあるわけよ。
このへんとか制作陣の誰かの高校時代の思い出とか入っとらんか? と個人的に思ってる。
ちょいちょいファンタジー学園物の皮をかぶった現代学園物っぽいエピソード挟まってくるんだよな。
当然フォートくんはその曲を踊らず、その間は姿を消してやり過ごすはずだったのだが……。
どういうわけか攻略対象が隠れていたフォートくんを見つけ、ダンスの場に連れ出してしまった。
しかしフォートくんは特別な曲が始まる前に、アラタさんを誘おうとうろうろしていた私を確保。華麗に相手を入れ替えた手腕は見事だった。
でもって一緒に踊ったし花火も見た。
……何故か一応教えておいた女性パートでなく男性パートを完璧に踊られてしまって、ポカンとしているうちに終わってたんだよな。
なかなか周囲の視線が痛かったですよ。特にダンス相手を成り代わられた攻略対象くんの。
例えばプチ修学旅行。
海岸沿いの洞窟に攻略対象と閉じ込められて、一緒に洞窟内部の神秘的な光景を見てから脱出し絆を深める! というイベント。
当然スルーのはずだったが、気づけば攻略対象の一人と洞窟の中だったフォートくん。
状況を把握した後、五秒で壁を破壊して脱出したらしい。
別グループで行動していたので後で聞いたのだが、自然破壊にあまりにも躊躇が無いし破壊力こわ……となった。フォートくん、どんどん強くなってないか。
ちなみに洞窟内の魔法苔による神秘的な光景は生き残っていたらしく、夜に私所属のグループとフォートくん所属のグループで見に行けたのは良い思い出。綺麗だった。
例えば音楽祭。
ハプニングで主人公と攻略対象の一人が劇の主役と相手役に抜擢されるというイベントだったが、あらかじめ人員が減る事態を防ぐことで回避は出来たように思われた。
けど原作とは違った理由で彼らは参加できなくなり、劇の手伝いで台本を覚えていた(手伝いは不可避イベントだった)マリーデルに白羽の矢が立ったと。
もう一人の主要人物が決まる前に「やむなし!」とアラタさんを突き出したら、何故か芋づる式に私とアルメラルダ様まで引きずり出された。
必要だった人員二人だけだろ!? と訴えたけど、劇の監修を務めていたナルシストに「こっちの方が面白い! フォローはするからアドリブで頼むよ!」とか無茶苦茶なことを言われた。
死ぬ気でやったし羞恥と緊張で死ぬかと思った。
例えば女神を奉じる年末パーティー。
そのパーティーではその時期に起きる魔法光によるオーロラと、流星群が同時に見られる現象がひとつの目玉となっている。
パーティーではその年で最も優秀な成績を収めた生徒が発表された後……。東にある女神神殿の塔にその時点で最も好感度が高い攻略対象者に呼び出され、天体ショーを共に見るイベントがある。
プレイ最終年だとそこで攻略完了した相手から告白される仕様だ。
これも早々に寮に戻ってイベントをスルーしようとしたフォートくんなのだが、複数の人物に別々の用事を頼まれ……動いている内に、女神神殿の塔へ。
それまでの出来事から最初からマークをつけていた私、アラタさん。事情を知らないながらもついてきたアルメラルダ様は、フォートくんが攻略対象と二人きりになる前に乱入して全員で仲良く天体ショーを見る事と相成った。
青春の思い出ですね、ええ。
大きなところでその辺か。
その他にもちょくちょくイベントはあったのだが、どれも危ういところで回避している。
いや、別に多少イベントが起こったところで調整はきくんだろうけど……。
問題は「回避しようとしていたイベントが強制的に起こった」ことなのだ。
これらの事をふまえ、私たちはひとつの推測をはじき出した。
すなわち。
「……やっぱりもう一人いる感じですかね。"転生者"」
「その可能性は高いだろうな」
イベントを理解して仕込まなければ、これらをすべて強制的に発動させることは不可能だろう。
ちなみにあてがわれた(言い方嫌だな)攻略対象達は容疑者から外している。何故ならイベントごとに相手が違ったからだ。
これも推測なのだが、もしかして犯人は
それを話すとアラタさんは視線を伏せて考え込む。
「……整理しよう。まず原作にはなかった大きな出来事。学園内で王子の護衛が操られ生徒を害そうとした。これが一年前」
自分たちの事であるが、客観的に見るため記号を当てはめて話しているのだろう。
私はそれをメモにとりながら頷く。
「その後は特に妙な出来事は無く、順調に進められていた。ただし起こす予定の無かった好感度を大幅に上げるイベントが立て続けに起きている」
フォートくんが頷く。
この不可解な出来事の一番の渦中にいるため、その不気味さは一番感じているところだろう。
「さらにもう一つ。……イベントに"あてがわれた"攻略対象者。それを一覧にしてみたんだが、ある共通点が見つかった」
新たな情報の提示に、私とフォートくんは身を乗り出してアラタさんが出した紙に書かれた人物名を眺めた。
その数はおよそ六名。
優等生。
不思議くん。
色男。
童顔。
第一王子。
特別教諭。
フォートくんは眉根を寄せていたが、私はそれを見てピンときた。
脳裏に浮かぶのは、あるまとめ動画。
「…………悪役令嬢死亡エンド」
「ご明察、だ」
私の発言にフォートくんは目を見開き、アラタさんは苦々しい顔で頷いた。
「一連の出来事をまとめて考えるのは危険かもしれないが、もし全てが繋がっていて俺たちの推測が正しい場合。……厄介だぞ。俺達の目的と真っ向からぶつかりあう」
「仮に犯人が転生者だとすると、アルメラルダ様の不幸を望む者であると……」
「ああ。それも追放エンドなんて生易しいやつでなく、飛び切りのバッドエンドをご所望のようだ。そして傍から見た場合、それを目的とする者から見た現状はどうだ?」
「アルメラルダ様、性格はあれなままだけど原作通りの悪役令嬢かと言われると……。う~ん。フォートくんから見て、アルメラルダ様ってどう?」
「だいぶ愉快で面白い人だと思うよ」
「だよね」
「他人事のように言うな。多分ファレリア、あなたの影響だぞ」
「……マ?」
「他に考えられないだろ。……で、だ。そうなるとバッドエンドを見たい犯人からすれば、原作との違いにまず混乱するはず。そして次にとる行動は?」
「……原作との差異を探して、排除する」
繋がってしまった……。
「そう。そして原作と一番違う、目立つキャラクター。当然それは決闘なんてやらかした俺と貴女だよ、ファレリア」
「ああ~……」
はい、理解。納得。
まだ確定ではないけれど、これまで生きてきて殺されるほどの怨みを買った事は無いし、ガランドール伯爵家もまっとうな家だ。
私やアラタさんという例があるのだし、もう一人や二人や三人くらい転生者が居てもおかしくない。
流れを見るに、そっちの線が濃厚とみて良いだろう。
「ファレリアを俺に殺させて、その後俺のことも自殺させる。これで綺麗さっぱりだ」
「でもそうなると、僕が本来の主人公である姉さんの弟……とまでは、バレていないわけか」
「原作との違いもフォートの場合はアルメラルダた……様のように周りに居る異物からの影響、と思われているんだろうな」
「一番怪しいなって思ってるのは特別教諭だったんですけど……。スパイだし、とんちきいんちき予言者だし、襲われたところにタイミングよく現れたし。……でも、違いますよねぇ……」
特別教諭についてはアラタさんから「原作ファレリア」の話と合わせて事件の後に聞いた。
あいつ、幼い私が頑張らなかったらとんでもねぇ厄ネタだったんだよな! 原作後に放置すると厄介というのは、スパイだからというだけではなかったのかと納得した。スパイはスパイでも数年がかりで星啓の魔女を貶めようとしてくるとんでもない国賊だったよ。
なんでこいつ攻略対象に入ってんの? いや、原作ファレリアの話は制作陣の一人が出した同人誌だし、多分メタ的に考えるとこいつのスパイ設定使ったろ! って後付けしたんだろうけど……。
けど怪しいだけに真っ先にアラタさんが調査を入れた所……驚くことに真っ白。驚きの白さ。
しかもヤバめの背景だったスパイでもなく、マジに元居た国を裏切ってこの国に再就職かましていたらしいですわね。
これを証言してくれた相手が第一王子だというのだから、もう信じるしかない。信用度が段違いすぎる。
その特別教諭を拾ったのも第一王子。……グルという可能性を考えるにしても、国の次期国王が悪役令嬢のバッドエンド見たいがために暗躍しているとか考えたくないし……割に合わないだろうし……うん。
まあ、とりあえず白とみていいかなぁこの辺は……。
「俺がアルメラルダ様と待ち合わせていたあの場に居合わせたのは、完全な野次馬だろうな。ファレリアに不吉な予兆があると知って周りを見張っていたんだろう。……野次馬と称したことからお分かりだろうが、好意や心配からではなく興味本位でな。あいつ、そういう奴だよ。部屋の中までは見れないだろうから、ファレリアが刺されたときは何もできなかったんだろうが」
「あ、あの野郎……」
「……ともかく、今は相手の目的が朧げに分かった段階だ。単独犯なのか複数犯なのかもわからない」
「少なくとも人を動かせる立場にはありますよね。でないとフォートくんをイベントに追い込めないですから」
「イベントのため動いた者の中で洗えそうな人間だけ洗ってみたが、指示が巧妙に中継されているようで大本にはたどり着けなかった。……力不足で、悪い」
「いや、アラタさんはすごくよくやってくれてますって! ただでさえ護衛やアルメラルダ様の特訓で忙しいのに!」
今日だって遅くまでアルメラルダ様の婿教育とやらでしごかれていたのだ。
……アルメラルダ様、アラタさんが頑丈だからって私相手には出来なかったらしい特訓も嬉々として行ってるんだよな……。こんな所でまだ自分への訓練が手加減されたものだったと知るとは。
そのおかげというかなんというか、私への特訓や
でもこれって……。
「すけーぷごーと……的な……」
「気づいちゃった。みたいな顔で言わないでくれないか!? だいたいの意味を察するから!」
「あ、すみません。また口に出てましたか」
てへぺろっと誤魔化しつつ、「でも」と考える。
……一年行動を共にするようになって、わざわざ出向かなくてもマリーデルちゃんことフォートくんが近くに居る現状。だというのにアルメラルダ様、以前のような虐めはしなくなったのよね。
間近に第二王子の護衛を務めていたアラタさんの眼がある上に、周囲の注目も以前より集まるようになったからやりにくいと言えばそうなのだろうけど。
『マリーデル・アリスティ! 次こそは負けませんわよ!』
『まったく、庶民だけあってもの知らずねこの小娘は! 見ていてイライラしますわ。競っている私の格まで下がるじゃありませんの!』
「…………」
ここ最近の言動やら、仕事を押し付けるためだとしても、自分の推薦で生徒会へ入らせたこと……などなど。
思い出すと「おやぁ?」となる。
(なんだ。もうアルメラルダ様、マリーデルちゃんを下に見てないじゃないですか)
いやぁ、まあ気づいてはいたのだけどね? 改めて考えて、納得というか。
そもそも嫌悪している相手を、文句を言うとはいえ行動を共にすることを許すはずもない。ましてや自分の仕事を任せるなんてないない。
今ではもう、アルメラルダ様にとって気に食わない小娘は気に食わないまでも正しく競い合う
まあ直接的な虐めがなくなったとはいえ、仕事攻めという地獄を味わっているようだから負担的にはどっこいどっこいかもしれないけれど……。
苦笑しつつ、そっとフォートくんの顔を窺う。
う~ん……疲れてるなぁ。
疲労がにじみ出ているのか、綺麗な二重がいつもより深く見える。隈を作っていないだけ流石と言おうか。
長い睫毛が扇のように広がって、青い瞳に影を落としている横顔が麗しい。亜麻色の髪を月光が照らし、月の女神もかくや、といった様子だ。
明かりに使用している魔法光も、なにもかも。彼の幻想的な美しさを際立たせる舞台装置に見える。
本当に綺麗な顔してるわこの子……。
「ん? どうしたの」
「!! いえいえ、なんでも」
き、気づかれた。
こっそり見ていたつもりが視線がぶつかって焦る。
……しかも問いかけてくる声と目がすごく柔らかいのでドギマギしてしまうな。
いかんいかん。落ち着こう。
などと思っていると。
「………………。あ! そうだ。少し小腹が減らないか? 俺、ちょっとクッキーとってくる」
「は? アラタさん?」
しばしの沈黙のあと、アラタさんがこれでもかというくらいとってつけた態度で席を立った。
「隔離結界も張ってあるし、まだ時間あるだろ? 今日はもう少しゆっくりしよう。じゃ、とってくるから寛いでてくれな!」
「おいちょっと待てこら」
荒い口調が飛び出るくらいには焦る。
おいおいおいおいおい! 二人きりにするな!!
ここ一年、フォートくんへの対応にも困ってるんだから!!
しかし持ち前の身体能力で風のようにどこかへ走り去ったアラタさんを止める術は私になく。
……久しぶりに、この密会という場でフォートくんと二人きりになってしまった。
いや、隔離結界が維持されてるからね? ある程度の範囲内にはアラタさんいるんだけどね?
でも実質二人っきりだよ、これ。
「………………」
先ほどまで滑らかに動いていた口は石のように固まっている。
何かしゃべろうにも、口から出る前に喉の奥へとひっこんでしまうのだ。
複数人いる時は気にならないんだけどな……!
……これがもうひとつ。
私が一年前から先送りにして目をそらして、頭を悩ませていることである。
「ん~……ちょっと、疲れちゃったな」
口を開かない私の代わりに、フォートくんがそう言って大きく伸びをする。
「だ、大丈夫です? 最近は生徒会の仕事を押し付けられて忙しそうですもんね……」
「どうってことないよ。野郎どものメンタルケアの方が大変」
「お、お疲れ様っス」
「なに、その口調」
朗らかに笑うフォートくんからは私のような緊張は見て取れない。自分だけ緊張しているのが馬鹿みたいに思えてしまうが……それもしかたがない。
一年前……殺されかけた後。
フォートくんに抱きしめられて、その後で、その。
お、おそらく。キス……されかけた、時。
さっすがに、気づいた!! あれで気づかなかったらアホよ!!
最初は年頃の少年を陥落してしまった事実に「うわぁ、やっちゃったな~。まあ私可愛いからな~。そっかそっか、お姉さんのこと好きになっちゃったか~」と気恥ずかしく照れながらも余裕ぶっこいていた。
気持ちは嬉しかったけど、私が好きなのアラタさんである。それに直接言われてないのに振るのも自惚れが過ぎるし、これからも一緒に行動する上で気まずくなっても困るから……まあこのままの距離感を保っておこうと。ずるい事を考えていたわけですよ。
予想外だったのは、フォートくんが思った以上に恋愛ごとについて思い切りが良くて……さらにはあざとかったこと。
あざとい。そう言うしかない。
だって……。
「ね。ちょっと、肩かして」
「びょわっ!?」
「変な声~」
クスクス笑う声は軽やかで、とても楽しそうだ。
反対に私はぽすんっと肩に頭を乗せられて変な声が出る。
「あの、フォートくん。それは、ちょっと……」
「ん?」
くっ!! 顔がいい……!
横に目を向ければ、やや下にある美少女顔からの上目遣い。
マリーデルちゃんをエミュった無邪気であどけない顔で見上げられたら、こちらに出来ることは何もなくなるんだよなぁ!
……こうして事あるごとにスキンシップしてくるし、その際自分の見た目を利用することに躊躇が無いのだ、この子は。
公の場でもアルメラルダ様のいる前で腕を組んできたりするものだから、対抗したアルメラルダ様がその逆から腕を組んできてよく両手に花状態になる。
たいへん役得なのだが、心臓に悪い。
回避予定のイベントで私を引っ張り込むもんだから、驚くほどロマンチックな経験も共に経験している。
これについても必要だったことに加え、確信的なものでもあるのでは……と勘ぐってしまう。
少なくとも全部が全部、代わりの相手を入れなければならなかったイベントでもないはずだ。
(でも、一線は超えてこないんだよなぁ……)
いやいやいや。超えてこられても困るんだけど。何考えてんだ。
そう。こうしてあざとく可愛く絡んでくるわりに、私が本当に困ってしまうような度の過ぎたスキンシップまではしてこないし、決定的な言葉も言わない。
態度ではこれでもか! と好意を示してくるのに、だ。
……だからこうして二人きりにされると、たいへん困ってしまう。
(アラタさんもアラタさんよ! 人の好意を知ってるくせに場を整えるな場を!!)
内心「あとはお若いお二人で」とばかりに去って行ったアラタに怒りすら覚えつつ、あることを思い出す。
それはつい最近の事。
「一年前、わたくし達見てしまったのよ! アルメラルダ様の部屋近くで、あの小娘がファレリア様にく、く、く、口づけしようとしている場面を!」
「!? く、くちづけ!? キス!?」
「ええ、ええ! 驚きましたわ! 驚きましたわ!」
「あまりに真剣だったので声をかけそびれてしまいましたが……。そこにアルメラルダ様が現れまして。それが無ければ、あれはいってましたね。ちゅっと」
ある日、アルメラルダ様の部屋の外で賑やかな声が聞こえるなと思って部屋から顔をのぞかせた時。
部屋の前で護衛を務めていたアラタさんと取り巻きーズがなにやらキャピキャピ会話していた。
取り巻きーズ、奇妙な四人組が出来てからはそれに遠慮するようにやや遠巻きに取り巻いて(なんだこの言い回し)いたので、アラタさんと会話しているのを見るのは初めてだ。
というか。
(おいおいおいおいおいおいおいおい。取り巻きーズ、何を想い人にとんでもねーことリークしてるんですかァ!? というか、見られていた!?)
そりゃあね? 廊下だったからね? 人気が少なかったからとはいえ誰も通らないという保証も無し。現にこうして見られていた事実が発覚したわけで???
でも何故それを臨時護衛の男に! 言う!!
「な、なるほど。……他には? ファレリア様とマリーデル様に関する情報というか。ああ、これは護衛のためなんだが」
アラタさんも「なるほど」じゃねーんですよ。
護衛のためとか嘘乙。眼が完全にキラキラしてる。
陰から様子を窺う私をよそに、その話題でそこそこ盛り上がりを見せている取り巻きーズとアラタさん。え、何。アラタさんそのガタイでノリが女学生か???
そりゃ人の恋バナが楽しいのは分かる。でもその片方は貴方が好きで貴方にずっとアタックしている私なんですけど!
……とまあ、そんなことがありつつ。
「全部終わったらどうにか俺の養子にして婿に出すとかは……」
不穏な独り言をこぼしていたり。
(や、やばい。アラタさん、確実に私とフォートくんを「カプ」として推してる……!)
これも察した。知りたくなかったけど察してしまった。
こうなると余計にアラタさんを婿にする計画というか、好きになってもらったうえで婿にする計画が遠のくというか……!
フォートくんはフォートくんで決定的なことを言ってこないから動くに動けずで、もうこの辺どうすればいいんだ!? というのが一年の所感である。
などなどと、楽しい反面頭痛の多かった一年間。
これだけ濃ければあっという間に過ぎてもしょうがないか。
でもそれぞれ感情が忙しい私たちは、もう少し考えるべきだった。
"一年"。
その期間を暗躍しても、どうあっても原作通りにならない。
それをふまえた犯人が、次にどんな行動を起こすかを。
+++++
「ファレリア。わたくしは本日生徒会室に詰めていますので、クランケリッツは貴女の護衛につけなさい」
密会から数日。
アルメラルダ様がそう言って生徒会室にこもった日は、珍しく私とアラタさんで行動する日になった。
どうやら生徒会、色々締め切りがヤバいらしい。フォートくんも別室で缶詰である。
休日だっていうのにかわいそうに……。
……まあ生徒会室の周辺は学園内でも守りは強固だ。
生徒会長の色男や、他生徒会メンバーには第二王子や不思議くんもいるし……なにか変なことは起きないだろう。あの人ら強いしな。
むしろ先日の推測からすると、未だ姿を見せない謎の転生者(仮)が狙うのは私とアラタさんのはず。
特別教諭が言うには星啓の魔女(候補)が一度祓った呪いへの耐性は高くなるとの検証結果が出たので(こいつ、今後のため! とか言い張って一年かけてアラタさんに別の呪いをかけては解かせてかけては解かせてと実験しやがった)、以前のように容易く操られることは無いはず……とのこと。
それもあって、こうして呪いを確実に除去できるアルメラルダ様から離れて行動も出来る事には出来るのだが。
狙われてる邪魔者二人がセットで歩いてるのは、流石にカモがネギしょってる案件。
出来るだけ人通りの多い所を通ったり、取り巻きーズにくっついてやりすごした。
ここ最近はあまり相手の動きが無いだけに、逆に不気味なのよね。
(あ、でもこれって! 好きな人と二人きりで過ごせる絶好の機会……では!?)
間抜けなことにそれに思い至ったのは夕方になってから。あたりさわりなく一日を過ごしてしまった。
「あ、あの! アラタさん。ちょっと食堂でお茶していきませんか!」
この学園の食堂はいつでも解放されており、料理人も給仕も常時在中。今日は休日のため生徒たちの利用者は少ないはずだから、人気がありつつ好奇の目を気にしなくてよい穴場とも言える。
せめて楽しくおしゃべりして終わるくらい、許されてもいいのでは!? 修羅場ってるアルメラルダ様とフォートくんには申し訳ないけれど!
アラタさんは少し考えた後……頷いた。
やった。密会以外だと護衛初期以降は堅物真面目護衛キャラを崩さなくて、ほとんどしゃべってくれないからなアラタさん。
なかなかにレアな機会である。
そして食堂の中でも比較的人に会話を聞かれない場所に陣取った私たちなのだが……。
「アルメラルダ様は誰が好きだと思う?」
「それなー!」
好きな人との会話の第一話題が他人の恋バナなの、自分でもどうかと思う。けど気になる。
アルメラルダ様の前じゃもちろん話せないし、密会の時はフォートくんもいるからな。なかなかに話しにくい話題なのだ!
「あ、先に言っておくがこれは好奇心だけで聞いているわけでなくてだな。犯人の動向を知るうえで重要な……」
「建前も本心も理解してるので隠さなくて結構ですよ」
「建前ではないが!?」
「真実だろうけどまったくの建前でもないでしょう! 知ってるんですからね私とフォートくんのこと取り巻きーズに聞いてたの!」
「貴女あの三人のことそんな風に呼んでるのか? だから友達出来ないんだよ」
「公に呼んでるわけではないですし「だから」ってなんですかだからって! 友達くらい居ますが~?」
「え……?」
「心底不思議そうな顔をしないでください」
ちなみにこのやり取り、器用に小声で行っている。
見た目も真面目堅物護衛騎士と無表情伯爵令嬢なので、まさか周りもこんな会話をしているとは思うまい。
「というかですねぇ~。ずっと好き好き言い続けている私に対して、もっとこう……なにか無いんですか? 湧き上がってくるものというか。ドキドキとかしないんですか?」
「いやぁ……。正直最初は少しぐらついたこともあったんだけど、それより不信感が勝ってたし……」
「あー! それ、聞こうと思ってました! なんですか? 私に抱いていた不信感って。この際だから教えてください」
「俺に告白してくる女がいるとかおかしい」
「もっと自分に自信を持て!! かっこいいですよアラタさんは!」
「ええ~?」
「本当に~? みたいな顔しないでくださいよ。この一年好きなところをあげて褒め続けた私の努力、なんだったんですか」
……いざ話し始めれば、やっぱり私とアラタさんの相性悪くないよなぁと感じる。
フォートくんの時と違ってどんどん会話が湧き出てくるのよ。内容はともかくとして。
アラタさんも随分気さくに話してくれるようになった。最初からノリが良い人とは思ってたけど、やっぱり決定的だったのは一年前かな。
最初は私を刺してしまった罪悪感によって不信感がふきとんでいたっぽいが、その後……大団円を共に目指す、といった目的以外に犯人探しまで加わって同志としての面が強くなった。
雨降って地固まる、というやつかしら。危うく振りかけたのは血の雨だけれど。
しかし仲こそ深まったものの、正直……色気らしいものがあるかと言われると、まったく。残念なことに。
「んー、でもさ。ここ最近だと、見守る気持ちの方が強くなっちまって。不信感とかでなく、恋愛対象としては見られないというか……」
「ガチめの振る理由やめろ。え、え、なんです。妹的な?」
「……推しカプに、なってしまったので……」
「おいおいおいおいおいおいおいおい」
引っ叩いていいかな?
もうこれ、言っちゃっていいだろうか。
「でもアラタさん、私との結婚はほぼ舗装されたようなものなので好きになっちゃった方がお得ですよ?」
「なにそれ怖い! どういうことだ?」
「あ、聞いてません? ここ一年のアルメラルダ様のしごきが婿教育だって……」
アラタさんがテーブルに頭を打ち付けるように突っ伏した。うおっ、馬鹿。周囲の視線が集まるでしょうが!
「……聞いてない。護衛としてまだ頼りないから鍛えるって……」
「それも事実ですけど。……まあそういうわけで、もう一度言います。好きになっちゃった方がお得ですよ、と」
「推しカプの片方と俺が!? それは……NTRなのでは!?」
「寝てから言えや! ……こほん。NTRの解釈についてはまた今度話しましょうか」
「や、でも。無理無理無理。今でさえ推しキャラの近くに自分が居ることが解釈違い過ぎて爆散しそうなのにこれ以上とか無理。塵も残さず滅散しちまう」
「めんどくせぇ男ですね!」
「というかあれだけ分かり易く好意を寄せられてファレリアはフォートに対して何も思わないのか!? 自分が好きだって分かってる相手の前で別の男にって鬼畜にもほどがあるだろ!!」
「言うなぁ!! 思うから困って……あ」
あれ、今私。勢いで余計な事口走らなかった?
「……ほう~? 思うから困って……ねぇ」
「ぐ……」
堅物面を崩してにやにやし始めたアラタさんに、私は言葉を詰まらせる。
更に追い打ちも来た。
「……こういうノリで俺と話してる時点で、俺はファレリアにとっての恋愛対象ではないだろ。結婚相手として都合がいいのは、わかるけどさ」
「……でもちゃんと、一目惚れでした」
何気なく始めた会話。
ぽんぽん進んで、その終着駅は思いがけないところへたどり着く。
(ああ……。終わっちゃう、なあ)
納得が心に落とされようとしている。
「……本当に俺に惚れてくれたのなら、ありがとう。でも今は違うんじゃないか?」
「……優しい声でそれを言うのは、反則です」
「ごめん。こういう経験なくて。俺も何て言っていいかわからない」
窓の外から西日が差しこむ。
斜陽の空を見て、私は自分の今世での初恋が終わろうとしていることを理解した。
「しっかり目の失恋をした……」
「ごめんて。でも次の恋を、俺は応援するからさ」
「それ死体蹴りって言うんですよ」
というかですねぇ……。応援されたところで、どうすれば。
しかたがない。話題を変えるか。
「えーと。最初はなんでしたっけ? アルメラルダ様の好きな人について、でしたよね」
「ああ」
脱線しまくった末に失恋するというアクロバティックかましてしまったが、最初の話題はそこだった。
アラタさんも乗ってくれたし、もうこのまま話題を戻させてもらおう。
「近くで見ている限り、誰かに恋してるって感じは無いんですよねぇ……。だからマリーデルに対しての感情も、対抗心はあっても恋愛面での嫉妬心は無いんですよ」
「そうなると犯人が望むであろう"悪役令嬢アルメラルダ"の破滅はどうあっても無理だな。俺としては大歓迎だが」
「あ、そうそう。一番恋とかそれっぽかった挙動って、アラタさんが誤告白した時でしたよ。アルメラルダ様すっごく落ち着かなかったし、ずっとアラタさんから逃げてたし」
アラタさんがコーヒーを吹き出した。おいヤメロ目立つ。
「ふん!」
気合と共に魔法を発動させて吹き出たコーヒーをアラタさんの口に戻す。
ふっ、私の魔法もなかなかのものになったわね……。
「ごふっ。げはっ、がはっ!!」
むせてから荒く息を繰り返すアラタさんに恨みがましく見られたけど、先ほどのお返しである。ちょっとくらい大目に見てほしい。……言った事に嘘は無いし。
「……ま、原作だのゲームだのキャラクターだの。そんなの私たちが勝手に言ってるだけで、人間ですからね。誰を好きになるのも自由。必ず攻略対象を好きになるわけでも無し。これに関しては犯人にとっても私たちにとっても未知数の領域です。与太話で済ませておきましょう。……というか、誰も聞いてないにしても話しすぎましたね。ここまでにしますか」
そう言って締めると、何やらアラタさんが虚をつかれたような顔をしている。
「なにか?」
「いや。当たり前のことを当たり前に言われると、自分ではいくら考えても納得できなかったこともすんなり受け入れられるんだなと……そういうことを、今納得している」
「?」
「いや、これは俺の事情だから気にしなくていいよ」
「そうですか」
聞かれたくなさそうだし、日も陰ってきた。
生徒会室に寄って缶詰しているアルメラルダ様とフォートくんを夕食に連れ出すか……。
そう思って話を畳み、生徒会室へ向かった私達だったのだが。
「汚らわしい!」
「ッ!」
心底相手を嫌悪しているような声に、鋭く響く打撃音。
「!?」
「今のは」
嫌な予感を胸に抱きつつ生徒会室へと駆け込む私たち。
その前では頬から血を流し座り込んでいるフォートくんと、それを手にもった扇で成したであろうアルメラルダ様の、その姿。
周りには色男も不思議くんも第二王子も居たが、みんな一様に困惑しており動けなかった様子が見て取れる。
「あ、アルメラルダ様……?」
どくどく心臓が鳴るままに声をかけると、アルメラルダ様がこちらを向いた。
「なん……」
なんで。
感じるデジャヴ。
……呪いを打ち払えるはずの星啓の魔女候補。
そのアルメラルダ様の美しいエメラルド色の瞳は、以前操られたアラタさんのように……ドロリと濁っていた。