月と導きの青い星   作:源石古龍観測隊

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最終投稿から時間が経ち孤星やローグライクなどでアークナイツの世界観が広がったこともあり、プロットが完成しました。

これを機に暫定的だったタイトルとあらすじも変更します。


アークナイツ×ムフェト・ジーヴァ→月と導きの青い星



第4話 ターラーの王であるということ

p.m.1:25 天気/曇天 レム・ビリトン エウレカ州 

 

 

 エウレカ州の中央区、貴族や商人たちが居を構えるその一角にその邸宅は存在した。周りを掴むところさえ無い高い壁で囲まれ、壁の四隅には衛兵たちが見張りについている。出入口も一つしかなく、大きな鉄柵の向こう側にもまた、衛兵たちが待機していた。

 ヴィクトリアからの流刑地として使われるようになったレム・ビリトン、そこへ送られてくる流刑者の中でも身分の高い者用の収監施設である。

 此処へ収監されたものは嘆くのであろう。鉱山から絶えず運び込まれ、加工を続ける源石工場では帝国の基準を超えた労働が行われており、黒々とした煙を昼夜垂れ流す。青い空など生きているうちに見られるかどうか。

 ただし、それは収監されたものが普通の人間の場合である。古めかしくも品のある椅子に座っている男はどこか退屈そうにしていた。黒い巨角に赤褐色の髪、背には髪と同じ色の翼があり棘の生えた大きな尾、そして黄金色の瞳は閉まったままの扉を見据えている。ムフェト・ジーヴァと呼ばれるその男は足を組みながら何かを待っているようだった。

 

 10分ほどして待ち遠しく思っていた者の足音が聞こえてくる。足音は止まることなく扉を開け放った。

 

「閣下、トランスポーターから連絡が届きました」

 

 飛び込んできた男はフェリーンだ。彼が手渡してきた手紙はムフェトが好む紅茶メーカーの新製品紹介チラシのように見える。

 

「ご苦労だった、ニコラス。荒野での密書の受け取り大変だったろう?」

「いえいえ。閣下のお世話をするよりもこちらが本業ですので。大したことなかったですよ」

 

 ニコラスはチラリと手紙を見やり、何かを思い出したかのように棘のある口調で返答する。ムフェトには彼が今思考を飛ばしたであろう出来事がありありと思い出された。

 

「……お前、紅茶の入れ方に文句つけたのまだ根に持ってるな」 

「それはもちろん。私の敬愛を込めた渾身の出来を否定されたのですから」

 

 二人はひとしきり笑った後、顔を真剣なものへと変えた。

 

「閣下、急ぎご覧ください。トランスポーターが命がけで運んできた情報です」

「ああ、どうにも最近きな臭くなってきていたからな。二月に一回という契約を破って伝えてきた情報ともなると嫌な想像がつくが」

 

 ヴィクトリアを離れてから1年。ヴィクトリアの実情を探るため、時には紅茶メーカー、時には調度品製造会社に姿を変え、監視を搔い潜りながら情報を届けさせていた。怪しまれないようにと二月毎という契約を結んでいたが、ある日トランスポーターから『二月毎の契約でしたが、閣下に()()()のご紹介をと思いまして』という連絡が入ってきた。

 国を超えた通信回線など未だ無く、暗号化が可能な秘匿回線なども収監中の身であるため手に入らない。結局は古来からのように監視の目を言葉で欺き、時間をかけてでも正確に伝えなければならない。

 この連絡を受けてからニコラスはレム・ビリトンの荒野まで赴き、決死の思いで密書を受け取っていた。

 

 逸る思いを堪え、アーツの炎で手紙を炙る。浮かびあがってきたのは一匹の龍が守る様に花冠を抱く姿、ターラーの国章である。ターラーの術師によって編み出されたドラコの炎に反応する特殊な造物であり、さらに暗号化もされている。

 

「間違いない。キズルのアーツだな」

 

 長年ドラコ王家に仕えた宮廷術師の名を挙げ、暗号の解読に移る。

 

「どうも急いで書いたらしく字が歪んでいるな。……ブライアンの反乱、アスランの影あり。ヴィクトリア議会の干渉確認。それに…………」

「……閣下?」

 

 解読途中で長く手を止めた自分を訝しみ、尋ねてくるニコラス。しかし、彼に直ぐに返答することが出来なかった。

 予感はしていた。このような結末になることを。最後に話した時に感じた彼の覚悟も、戦士たちのくすぶり続ける怒りも自分は感じていた。ヴィクトリアの昏い思惑もアスラン達の野心も分かっていた。ただ、それでも沸き上がる悲しみと怒りは抑えることが出来なかった。

 

「……シトリックが、シトリックが死んだ」

 

 

 

 

 

      ◆◆◆

 

6年前

p.m.2:11 天気/晴天 ターラー王国 ゲル城

 

 

「ゲル王陛下、あの御方がご到着したと」

「うむ。此方にお通ししろ、丁重にな」

 

 近衛の報告から待ち望んだ相手が来たことを知る。押し込まれつつあるこの現状を変えることになる一手と信じて呼び出した。それは間違いない。ただし、その選択はどちらかと言えば失敗するだろうという前提をもったものであり、参戦するという返事を聞いた時には酷く驚いたものだった。

 今から古の龍に会うということはゲルをどこか落ち着かない気持ちにさせた。ゲルは一度だけ彼に会ったことがあった。

 アルトリウス家の先王が即位した時、父王に連れられて西部大広間に行ったことがある。父は『この地も元はターラーのものであった』といつも通りの、いや、ヴィクトリアに来たことでさらに激しくなった口調で伝承を長々と語り、辟易とした自分は一人、パーティー会場を抜け出していた。

 そこで見たのだ。バルコニーに佇み、月を眺める一人の龍を。天災が形を成したかのようなその姿は幼かった自分に恐れと憧れを抱かせた。

 その頃の思い出が落ち着かない気持ちにさせるのだろうと一人自嘲し、襟を正していた。

 

 大きく開かれた扉に視線を向けるが、そこには予想と違った男が立っていた。

 走ってきたのだろうか、息は荒く肩を震わせている。胸には彼の功績を誇る様に勲章が並べられ、顔立ちはゲルと似通った部分があった。

 いくら戦時中で儀礼にこだわっている場合ではないとは言え、王の居室にズカズカと入り込むなど許されることではない。それが例え王の血縁であったとしてもだ。しかし、それは男の溢れんばかりの怒りを表していた。

 

「ブライアン公、どういうつもりだ。客人を招いている。疾く退出せよ」

「陛下こそどういうおつもりか。奴はヴィクトリアの龍ですぞ!」

 

 目を血走らせ、唾を飛ばしながら言うその姿にヴィクトリアとターラーの埋めることの出来ない溝を見る。

 国力で劣るターラー王国は幾度となくヴィクトリアの侵略を許し、ターラーの文明は抑圧され破壊されてきた。今ではヴィクトリアのターラー地区といった方が正しいのかもしれない。

 そのような現状にありながら彼はヴィクトリアとの国境で強欲な貴族たちと長年にわたって戦ってきた。先祖代々から受け継がれた憎しみが形になったような男がブライアン公であった。

 

「しかし我らが二つに分かたれる前の祖王でもある」

「それが甘いというのです。奴はヴィクトリアが送り込んだ刺客かもしれませんぞ。ターラーの大地に影を落とし根を腐らせるやもしれぬ」

「其方はあの御方を見たことがないからそう思うのだ。あの御方が小細工を弄するようには見えぬ。……話は終わりだ。もう一度だけ言う。退出せよ」

「クッ、忠告はしましたぞ」

 

 この場では考えを変えられないと思ったのだろう。来た時と同じように足早に去っていくブライアンを横目に一人考える。ブライアンに言ったことそのままに彼を信用しているわけではない。いや、一度遠目に見ただけの相手に信用も何もない。ただ、論理的ではない何かがゲルの背を押したのも事実だった。

 

 少し考え込んでいたゲルの頭の上から声が掛けられる。驚く一方で、ブライアン公がやけに速く引き下がったのもこの溢れんばかりの力を感じ取ったからなのかと頭の冷静な部分が思考する。

 今度こそ待ち望んだ相手、古の龍王、ムフェト・ジーヴァがそこに立っていた。

 

「彼の言うこともあながち間違いではないな」

「…聞いておられましたか」

「ああ。ドラコの王国が分かたれた時、俺がヴィクトリアに加勢したのは紛れもない事実だ。ヴィクトリアに攻め込まれるターラーに今の今まで手を貸すこともなかった」

「そのようなことは。陛下は昔、ターラーの地を襲った天災を退け、飢えに苦しむ民に支援をしてくださったと聞いております」

 

 臣下の失態を挽回しようと言葉を尽くすゲルに対して、ムフェトはどこかバツの悪そうな顔をしている。

 少し意外だった。あの夜見た龍はそのような顔などしない、もっと超然とした存在だと思っていたからだ。

 

「気遣い感謝する。だが、下手に出る必要はない。特に陛下などと。お前は臣下になるために俺を呼び出したわけではないだろう?」

「確かにその通りですな。それでは何とお呼びすれば?」

「ムフェトでいい。友は皆そう呼ぶ」

「……友、ですか?」

「お前の計画では俺を陣営に引き込むことで貴族の支持獲得や兵の士気向上を図ったのだろう? 支持表明だけでもよかったところを俺が来てしまったのだからな。有効利用しない手はないぞ」

 

 自分を利用しろなどとあけすけに言うムフェトに対して、本日二度目の驚きがゲルを襲った。これが周辺諸国も恐れるあの赤龍なのか?

 だが嫌いではなかった。むしろ好ましいと言える。親族同士で争いあうドラコの価値観に慣れたゲルには新鮮に思えたのだった。

 そして続くムフェトの言に笑みをこぼす。

 

「ただ、ヴィクトリアならいざ知らずターラーで俺の名が士気向上に作用するかわからないのだが」

「ふっ、ターラーの地でも赤龍伝説は広く浸透していますよ。特に悪夢のハガンの軍勢を追い払った話など人気ですな。それに……」

 

 ゲルのからかうような口振りから悟ったのだろうか。ムフェトは嫌そうな顔で続きを促す。

 

「……それに?」

「それに皆の思い描いた通りの()()ですな。本の挿絵から飛び出したかのようです。我らも赤龍の末裔と呼ばれますが、本物を前には霞みますな」

「まったく、あまりからかうな。まあ、あの伝説はともかくとして効果があるならばお前の期待には沿えそうだな」

 

 溜め息をつきながら言ったムフェトは肝心なことを忘れていたと言わんばかりにゲルの方へ目線を向けた。

 

「そうだ、お前のことはどう呼ぶべきだろうか」

「……? ゲルで構いませんが……」

「それはヴィクトリアがお前たちに与えた部族の名だろう? 本当の名前で呼びたい」

 

「……シトリック。シトリック・ダブリン・シルケンベアード」

 

 久々に口から出した自分の名前はどこか当惑の響きを持っていた。 

 父から王位を継いで15年。自分はずっとゲル王であり、そのことが当たり前となっていた。ゲル王という鎧が無くては王位を狙う親戚の悪意もヴィクトリアの息が掛かった貴族たちの野心も制すことは出来なかっただろう。しかし、鎧の下の心はずっと疲弊していた。心が休まる所は城の中でも多くなく、自分の名前など思考の外側に追いやられていた。

 あの時臣下の反対も受けながらムフェトの招集を決めたのはなぜだったろうか。

 

 まだゲル王ではなかった頃に見た憧れが今、目の前に立っていた。

 

「シトリック、良い名前だな。これからはそう呼ばせてもらおう」

「……あなたは本当に想像していた人とは違いますな」

「幻滅したか?」

 

「いや、あなたとは本当に友人になれそうだ」

 

 シトリックは本当に久々に大声で笑ったのだった。

 




3話から繋がっていないように感じられると思い、一応時系列をば。これから繋がりますので少しお待ちを。

【時系列】
数千年前 ムフェト、ケルシーと出会う。神民統治時代最初期。
 ↓
数百年前 ムフェト、諸国周遊の旅からロンディニウムに帰還。
     カズデル統一の報を聞き、カズデル行きを決意。
 ↓
二百数十年前 ドラコ・アスラン戦争←今ここ 
       二百年前のカズデル襲撃がアスラン王の配下によるものなので、数十年前なのは確実。

【ムフェト】
 南下しようとするハガンの軍勢をしばき倒して迂回させたらしい。
 紅茶に変なプライドを持っており、面倒臭い。

【シトリック】
 最後のゲル王。名前は史実の都市ダブリンの王から。(反乱を起こしたブライアンはシトリックを倒した者の名前) 

【思い描いた通りの赤龍】 
 モンハン民はびっくりした。青く、複眼の様なものがたくさんあったゼノ・ジーヴァが成長したら正統派のレッドドラゴンになったのだから。
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