私が物心ついた頃には、その子が隣りにいるのが当たり前だった。とっても優しくて、かっこよくて、可愛くて、当時はそのくらいしか分かってなかったけど、大好きだった。
その子がやることを何でも真似して、付いていった。優しいあの子はそんな私を受け入れてくれて、丁寧に真似の仕方を教えてくれた。
でも、小学校が始まって、程なくして知った。
私の幼馴染は、私なんかじゃ届かない、天才だと。
………でも、
大好きだという気持ちは変わらなかったから、
私は、
朝四時に起床して、予習、復習に取り組む。香ばしい香りがしてきたら、切り上げてスキンケア。制服も着用して身嗜みを整える。
「―――!!」
誰かを呼ぶ声が聞こえたら、最後にちょっとだけチェックして、リビングに降りる。
「おはよう!お母さん!」
「おはよう。今日も朝からお疲れ様。コーヒー飲む?」
「んー。飲む!」
テレビのニュースを聞きながら、新聞を読んで朝食を食べる。芸能ニュースもスポーツニュースもなんだって頭に叩き込んで、終わったらお父さんに新聞を渡す。
「はい。お父さん!今日も先に読ましてくれてありがとう!」
「お父さんの方が出るの遅いし、――の方が早く出るんだから当然だよ」
「それでもだよ!」
歯を磨いて、時間になったらお隣の家に行って、入り口で待つ。十分くらい経ってから、
美しく輝く銀色の髪と、パッチリとしたルビーのような目にぷっくりと膨らんだ唇―――ダメだ。私程度の言葉なんかでは表せない。言葉で表すには…そうだ。神か彼女自身でないと不釣り合いだろう。
「おはよう!未来!」
「おはよう。芽依」
彼女は
「はぁ〜」
「芽依、どうしたの?」
「っ!?な、何でもないよ〜」
突然透き通るような声で話しかけられると、どうしてもびっくりしてしまう。意識し始めてからずっとそうだ。幸せだからいいけど。
「ほんと?熱とかじゃない?」
「じゃあ熱測る?」
そういうと、無言でコツンとおでこをくっつけてきた。あ、やばい顔が火照っちゃう///
「ふむ。熱ではない…。あれ?顔赤いよ?」
「気にしないで。次体育だよね。着替えいこ」
「そうだね」
体操服にちゃちゃっと着替えて、念入りに準備運動をする。これを忘れればかなり明日が辛くなるので忘れずに、あと日焼け止めも。
「未来。行こっ!」
「そうだね。ゆっくり行こっか」
「うん!」
のんびりと話しながら、チャイム一分前にはつくペースで歩いていく。このくらいなら先に行ってる真面目なクラス委員が先生の頼み事を終えたぐらいでつけるのだ。たまに終わってないときは、どうしようもないので気にしない。
「いっくよー!」
「いいよっ!」
未来からのパスは目でも追うのがやっとというレベルの速さを持ち、コースも足と足の合間を縫うように来るので油断ならない。そして、パスを受け取った頃には―――
「未来!」
「ナイスパス!」
周りは、見慣れてるとはいえサッカー部の友達がキラキラとした目で称賛し、ライバル心を高めていた。少し羨ましい。
「これ、ちょっと発展問題だけど、わかる人いるかな?――さんとか、どう?」
「…」
「うーん、分からないか。神崎さん。どう?お願いできる?」
「はい」
誰もが沈黙する問題を寸分の狂いなく美しい文字で書き表していく。解説も頼まれると、短く、それでいてわかりやすく要点をまとめた完璧な解答を述べる。いつもうんうん唸る男子も、このときだけは納得しているのだ。
放課後。生徒会の仕事を終えたあと、二人で手を繋いで下校する。特に意味はないが、未来が提案してきたのだから乗らないわけがない。
「ねえ未来?明日って大丈夫?」
「ん?家で色々するけど、来る?」
「いいの?」
「いいよ。今日も明日も泊まっていいよ〜」
「やったぁー!」
ふふっと笑う未来の横顔をしっかりと記憶に焼き付けて、予定を組み直した。
カタカタカタ
キーボードの音が響く中で、未来と一緒に未来が提出予定の論文を見る。内容は少しくらいしか分からないけど、漢字は全部分かるので誤字脱字をチェックするのだ。未来は同時並行で動画を編集していた。将来お金がいるから、と、既に未来のお父さんと株で稼いでると言っていたのに、とてもストイックで素敵だ。
その動画サイトでの評判も良くて、たまに未来が配信すれば、同接が沢山つく。ばらつきもあるけど、一万を切っているのを見たことはない。
「よしできた。誤字脱字も大丈夫だった?」
「うん」
「手伝ってくれてありがと。お礼に何でもしてあげる」
というわけでいつもの何でもタイムだ。彼女は天才故、たまにこういうことをしてくれる。実際本当に何でもしてくれる。半分冗談でキスって言ってみたらほんとにしてくれた。あの日は良かった。
けど、今日は決まっている。
「一緒に寝よ?」
「ん。いいよ」
せっかくのお泊りなのだから、こうしないと損だ。柔らかい体に身を預けて、私は深い眠りに落ちていった。
「よし。寝たかな?」
グーグーと芽依はかわいい寝息をたてて眠っている。この様子だと明日はお昼まで起きないんじゃなかろうか。
「確か最近の睡眠時間は…うわ、一時間か」
芽依は、私の幼い頃からの付き合いで、私なんかじゃ比べ物にならないほどの天才だ。
私には
幼い頃から恵まれた容姿以外は全部魔法と前世の知識を使ったズルだ。スポーツも、身体能力強化の使えない人間に負けるわけないし、前世で必修だった知識を適当に組み合わせるだけで、世紀の大発見となる。かわいい幼馴染もいてサイコー!そんな人生だったけど。
小学生の四年生ぐらいだったかな?少しおかしくなってた期間を終えて、芽依が変わった。
何をしていたのかは分からないけど、深夜や早朝に部屋に電気がつくようになったのだ。ちょっと心配ながらも、いつも通り接していると、芽依が突然小学生の全国テストで2位を取った。
それだけじゃない。運動が苦手〜といつも言っていた芽依は、日に日にもの凄い速度で成長を重ね始めた。
さらに可愛くなった。元々整っていた顔立ちをより引き立てるように、卵のようなお肌は触っていて気持ちがいい。
そして気づいたときには、彼女は、背後にいた。
魔法で強化しているはずの私の肉体に、芽依は追いついている。前世知識をふんだんに使用した論文を、大筋は理解している。中学生とは思えない色気と美貌を持った超絶美少女が通ると、多くの人が芽依を目当てに振り返る。
そんな天才は、私のことが大好き、らしい。
何でもと冗談で言えば、キスを迫って来たが、こんなの好きでもないと頼まないだろう。そう意識したら、私まで芽依をそっち方面で好きになってしまった。
芽依が近くにいるとドキドキする。無防備に眠るその姿に超えてはいけない一線を超えてしまいそうで恐ろしい。ちょっぴりだが、何でもと言ったとき、いつかはそういうのを…。
なんにせよ、芽依をずっと惹き付けるためにも、私は芽依に越されてはならない。芽依をしっかりと管理して、成長の分だけ私は
私は、ずっとずっと、芽依の天才であり続けたいのだ。
まあ、そうでなくなったとしても、もう、彼女の名前を呼び、それに応えて貰えるのは、私だけなんだけど。
次は何を独占しようかな?