「――来る」
「……え?」
僕の視界にはしっかりと映っている。そう、力場の流れが。
すぐそこの曲がり角。
その先の力場に動きが見える。それはモンスターの動きに合わせて揺らめいている。
わざわざ真正面から戦う必要は無い。不意打ちも立派な戦術だ。
気配を消し、地面を蹴る。
曲がり角から、モンスターが現れた瞬間、僕は思い切り拳を振るった。
「――シィッ!」
見えたのは三体。緑色の体に、醜悪な顔つきのモンスター。
僕の右拳は、その内の一体の頭部へと突き刺さり首を飛ばす。
あれ、案外柔らかい。
僕が昨日とは比べ物にならない程に強くなったとは考えにくい。もしかして、昨日の奴は、割と強めのモンスターだったのでは?
仲間の一体の首が吹き飛び、残る二体は未だに驚愕の表情を浮かべたまま動かない。
それなら遠慮なく、残りも片付けさせてもらうとしよう。
「フッ! よい、しょぉ…ッ!」
右肘で、一体の側頭部を抉り、その勢いそのままにもう一体の懐へと潜る。
今度は左の拳を顎に目掛けて突き上げれば、その衝撃でモンスターの首が折れた感触が伝わってくる。
モンスターの亡骸はその場に崩れ落ち、魔石だけを残して灰となった。
「んー、こんなもんかなぁ……。それにしたって、あんまり強くないな」
なんと言うか、拍子抜け。
昨日のモンスターは対峙した時点でその脅威が伝わってきた。
実際問題、僕は傷を負った訳だし、勝てるかどうかの瀬戸際でもあった。
慢心、なのだろうか……?
「アノ……シエロ、サン……?」
振り返ると、クラネルが呆然とした表情で固まっている。
「どったの? クラネル」
「……何だか、凄く自信を失くしマス」
よく分からないが、まあ大丈夫だろ。クラネルがよく分からんのはいつもの事だし。
「次はクラネルの番な」
「……あっ、えっとぉー……。僕ほんとに強くないから、期待しないでね!? そう、具体的には五体以上に囲まれるともう無理だから! 叫びながら逃げ出しちゃうからっ!?」
「まあまあ、いいから行こうぜ? ほんとに危ないと思ったら助けるしさ」
項垂れるクラネルの後に付いていく。
自分以外の戦闘を見るのは初めてだ。
というか、聞き取れない位の声量でずっと何かをボソボソと言っているが本当に大丈夫かコイツ……。
だが、そんな心配は杞憂に終わった。
現れたのは二体のコボルト。
「――ハァッ!!」
――速い。
短剣の鋭い斬撃がその首を刈り取る。もう一体の攻撃も難無く躱し、そのまま回避から攻撃へと転じる。
「セイッ!!」
するりと背後を取り首を一突き。体が崩壊し、灰になる。
「全然余裕じゃん。やっぱり、卑屈になり過ぎてるだけだって」
危なげの欠片も無い。
クラネルは「そうかなぁ……」なんて首を捻っているが、充分過ぎると思う。
「もう少し慣らしたら、下の階層に降りても良いんじゃないか?」
「うーん、そうだね。ダンジョンの事についてとか、僕の知る限りで話しつつ、下に降りようか」
僕は、クラネルからダンジョンが一体どういう性質を持っているのかや、ダンジョンで生まれるモンスターの特徴や呼び名など、多岐に渡り様々な事を教えてもらった。
そのどれもが、僕の知らない事であり、それらを聞くだけでも心が踊る。
ダンジョンに眠る未知、それはきっとロマンなのだ。そしてそれは、
――ダンジョン。
それは未知の世界。未だ誰も拝んだ事の無い未開拓の階層。その一番下。
最下層には何が眠るのか。
僕にはそれが、気になって仕方がないのだ――。
◇
「――い、一万二千ヴァリス……っ!」
あの後、ダンジョンの探索は非常に上手く行ったと言って良いだろう。
僕が力場が見れる事もあって、不意打ちはほぼ喰らわない。囲まれても、こちらの手数も多くなった分戦いやすかった。
実際、一番多い時で八体のコボルトに囲まれたが、割と楽に殲滅出来た。
クラネルが速さで撹乱し、僕がそこを仕留める。
仮に僕が多少危険になった所で、あの脚があれば直ぐにフォローに来てくれた筈だ。そんな事態にはならなかったが。
そして、倒したモンスターから落ちる魔石。
これを回収しなければ稼ぎにならないのだが、僕らは二人いる訳で、単純計算で回収の効率が二倍。更に言えば、持てる量も倍以上に増え、地上に帰る回数が減る。
その結果、モンスターを倒す時間が増え、そのまま稼ぎの増加にも繋がったのだろう。
「やったな、クラネル!」
「うん! 今までで一番の稼ぎだ! これが継続できるなら暮らしもだいぶ楽になるし、装備なんかもすぐに新調できるかも……!」
神様もバイトなんてしなくとも良くなるかもしれない。まあ、神様は優しいから「養われるだけなんてゼッタイ嫌だねっ!」なんて言いつつ続行するんだろうけど。
「折角だし、今日のご飯はちょっと豪華にしない?」
「良いと思う。僕としても、ファミリアに入れてもらった恩を返したいし」
クラネルの提案に僕は即座に乗った。
二人と出会ってまだ数日。
だけど、人の良さというのがひしひしと伝わってきた。そんな二人に、僕はとても感謝している。
感謝と、そしてこれからも宜しくという意味も込めて、今日の稼ぎで美味しいものを食べるというのは非常に賛同出来るものだ。
というか、何より僕も美味しい物が食べたい!
やはり美味しいものは全てを解決する。
僕とクラネルは、換金が終わり用の無くなったギルドを後にし、美味しい晩御飯を求めて街へと繰り出した。
◇
「――こ、これは……っ!?」
それは、今までの暮らしから考えれば、とても豪華――贅沢とも言うべき光景だった。
「今日、二人でダンジョンに潜って、今までで一番の稼ぎだったんです! だから、日頃の感謝を込めて皆で美味しいものが食べたいなぁって……」
「ベル君……!」
机の上には、見慣れたジャガ丸君。
だが、その中身には多くの違いがある。
今までは一番オーソドックスな味しか食べていなかったが、今日は色んな意味で一味違う。
沢山の種類のジャガ丸君。
味の種類、なんと総数5種類!
更に更に、僕とクラネルが作ったものではあるのだが、野菜とお肉を一緒に炒めたものに、野菜をたっぷりと入れた野菜スープ。
ほとんどジャガ丸君しか食べていなかった昨日に比べれば豪勢と言っても差し支えないだろう。
「スープと炒め物は僕達で用意させてもらいました。一緒に食べましょう!」
クラネルの号令で僕達は食事に勤しむ。
うむうむ、簡単なものとはいえ、久々に食べると美味しい。
「う〜ん、やはりジャガ丸君はどの味でも美味しいな! ほらほら〜! ベル君とノア君も沢山食べるんだぜ?」
「ちゃんと食べてますよ、神様」
「あはは……」
酒が入り、上機嫌になった神様の絡み方は結構めんどくさかったりする。
でもまあ、こう言うやり取りをするのが「
「あ、ベル君。そこの塩を取っておくれよ」
「あ、はい。どうぞ」
「ありが――あっ」
アルコールが効いていたのか、神様は塩の入った瓶を受け取り損ねてしまった。
掃除になると面倒だ。
軽く力場を操作して、重力の向きを変える。
――ふわり。
塩入の瓶が空に浮かぶ。
「え、浮い……? あれ……?」
「割れると危ないんですから、ちゃんと受け取ってくださいよ。神様」
「んぇ……? あ、あぁ……すまない……?」
ぎこちなく、浮かんでいる瓶を取り見つめる二人。
どうしたんだろう、二人とも。
「「んんんんんんんっ!???」」
「うるさっ!?」
◇
「僕は生まれも育ちも流星街なんだ」
そう言えば、あの街の外では力場を扱える人はいないんだった。
「流星街かぁ……。そりゃあ納得だ」
「……流星街ってどういう所なんですか?」
神様は知っている様だが、クラネルは聞いた事すら無い様子。
「そうだね……。流星街を簡単に言うなら、『全部が狂っている場所』かな」
「まあ、その辺りが妥当な表現かな」
「全部って……?」
やはり、一度実際に見て貰うのが一番手っ取り早いのだが、生憎とそう簡単に行けるような場所でもない。
「全部は全部さ。重力場も磁場も電場も、光や時間すらも狂ってる、本当に頭のおかしくなる街だよ。光が歪んでるせいで、目に見えているものが存在しているかすら分からない」
三歩歩けば天井に
分かっている人間が居なければ、何人で行動しようと危険が付き纏う。
そんな街だ。
「僕だって、こんな見た目だけど外で換算すれば十八歳だ。街の中でも時間の流れが遅い場所に住んでたんだろうな」
「じゅ、じゅうはちぃ!? うそぉ……」
そんなに驚かなくてもいいと思うんだ僕は。
確かにクラネルよりも身長は低いけれども。
時差――時間の流れの差――を考えると頭が痛くなるから考えたことは無いが、一応十八歳で合っているはずだ。
「まあ、流星街の話はこれくらいかな。これで分かったろ? 僕がこういう事が出来るわけが」
塩の瓶を空に浮かせ、力場で弄びながら言う。
「こういう事が出来なきゃ、あそこじゃあ生活すら難しいんだよ」
あの山の外でも力場を扱えるのは僕だけだったけれど。まあ、そこはどうでもいいだろう。
「そんな事より、ご飯食べようぜ? 折角用意したのに冷めちゃうだろ。それにこの後、ステイタスの更新もして貰わなきゃだしなー」
「ふふん、任せたまえー!」
相変わらずテンションの高めな神様と、まだ興味の尽きない様子のクラネル。
「聞きたい事あるなら後でな。別に隠そうって訳じゃ無いんだから、そんな目で見るな」
やれやれ、クラネルもまだまだ子供だ。
まあ、実際の所、僕も体感では十三歳だけどな!
――その日のステイタス更新で、スキルの欄に新しい記入があった。
ノア・シエロ
Lv.1
力:I 32 耐久:I 11 器用:I 23 敏捷:I 29 魔力:I 26
《魔法》
【】
《スキル》
【
・力場の可視
・力場の掌握
・領域内でステイタスに補正
神様曰く、「
どうにも特殊な
まあ、何にせよ。これが、僕の武器になる。
アビリティの伸びには相変わらず溜息を吐きたくなるが、このスキルは強くなる為の第一歩となる訳だ。
僕がやらなくてはならない事は一つ。
今まで以上に、
――それがきっと、ダンジョンの下層を目指す上での最低条件だろうから。
ヘスティア「あー! その
特殊だったのはホント。力が大きい
ただ、どう考えてもレアスキルだし伝えるべきか迷っていた。
ベルの持つ、早熟とは違い戦闘に直で関わってきそうだったから伝える予定ではあった。
ただ、タイミングを伺おうとしてたら流星街出身という事が分かったので勢いで言っちゃえー!の結果こうなった。
ちなみに、前回ヘスティアがベルに対して「君もかぁああ!!」って叫んでたのは死にかけたのもレアスキル発現したのもどっちも含めて。
実は最初の方の話(大体数巻分くらい)は大幅カットしようか迷ってた。今も軽く後悔してるけど、でもここを書かなきゃ面白く無いので頑張ります。
ダンまちヒロイン誰がお好きですか?(完全に興味本位なので結果が小説に影響する事は無いです)
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ヘスティア
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アイズ・ヴァレンシュタイン
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エイナ・チュール
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リリルカ・アーデ
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シル・フローヴァ
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リュー・リオン
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サンジョウノ・春姫
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フレイヤ
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カサンドラ・イリオン
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ウィーネ