宇宙に一番近い場所   作:雨宮祷

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難産だったので初投稿です


四話 一夜明け、それぞれ

 

 ――いつも通りの時間、その、更に前。

 

 自然と、瞼が開く。

 時計の針は、まだ三時を指している。

 

 腹は空かない。(むし)ろ丁度いいくらいだ。

 

 息を一つ。

 部屋の扉を開く。

 

 人の気配が無い。

 クラネルも、神様も居ない。

 

「クラネルは兎も角として、神様は何を……探しに行ったか?」

 

 家族(ファミリア)想いな神様の事だ。何ら不思議な事では無い。

 

「んー、まぁ、ほっといていいか。疲れたら帰って来るだろ」

 

 クラネルも引き際くらいは分かるはずだし、神様も居ないと分かれば諦めて帰ってくるはず。

 神はダンジョンに入れないからな。

 

 それより、僕もやらなくてはならない事がある。

 

 クラネルは、きっと強くなって帰って来る。

 そんで、これからもどんどん先へ進んでいく筈だ。

 

 クラネルに置いていかれる訳には行かない。

 寧ろ、アイツの事を置いていくくらいの気概じゃなきゃやっていけない。

 

 幸いにも、僕はショートスリーパーであり、使える時間は多い。

 

 ダンジョンに潜らずとも、出来ることはあるし、やるべき事も多い。

 僕は、まだまだ足りないものが多過ぎる。

 

「――ふーっ……」

 

 二倍は慣れた。

 次、行ってみようか。

 

 重たい体に鞭を打ち、鉄製の短剣を二本持ってホームの外へと繰り出した――。

 

 

 

 

 

 

 ――夜中は良い。

 

 まず、音が無く集中しやすい。

 次に、光が無く夜目の練習になる。

 そして、人も居ないためある程度は何をやっても問題にならない。

 

 騒音とかになってくると話は別だけども。

 

「――ッ!」

 

 まず行うのは、慣らしだ。

 今まで二倍の重力にしていたものを二倍以上へと移行する。それだけで、今まで出来ていた事が殆ど出来なくなる。

 いきなり高重力にしても何も出来ずに終わるのが関の山。ほんの少しずつ出力を上げ、最終的に取り敢えずは三倍近くまで強めていく予定だ。

 

 重力の強化によって起こるのは、ズレだ。

 

 今まで問題無く振るえていた拳が、剣が、思い通りの軌跡を辿らない。

 真っ直ぐに突き出す事さえ難しくなる。

 

 これが克服出来た時、もたらされるものは安定感。

 体幹とか、そういう(たぐ)いのものだ。

 

 『ブレない』という事は、武器になる。

 

 実戦では冷静さを欠いた者から死んでいく、とはよく聞く言葉だ。

 これは、冷静さを欠くあまり、普段通りの事が出来なくなる事に対して言われている言葉だと認識している。

 

 故に、こういった基礎的な事をやるのも必ず後になって必要になる――。

 

 ――筈だ!

 ――分からんけど!

 

 知らないよそんなの。だって生粋の武人って訳じゃないし。

 

 でも、こうやって色々考えながら試行錯誤して鍛錬をするのは楽しいし好きだ。

 

 そう、例えば。

 

 今まではあまり扱っていなかった磁場。

 これはどう使おうか、とか。

 

 今、僕が持っている短剣は鉄製。

 見当違いな方向へ投げても、磁場を上手く扱えれば必中になり、僕が動かなくても手元へ戻す事さえ出来る。

 

 ――かもしれない。

 

 まだやった事ないから分からない。

 でも、考えるだけなら色々と利用出来そうだ。

 

 僕がこの力を戦闘に取り入れようとしてから、まだ一週間程しか経っていない。

 

 今やるべき事は、今までの使い方の練度を高めつつ、新しい使い方の模索。

 つまり、この力に対する理解を深める事。

 

 動きながらの力場の操作は、非常に骨が折れる。

 やること、やりたいことが多すぎて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。

 

 

 ――しかし、これが当然の如く扱えるようになった時、僕は更に一段階、上へ行ける筈だ。

 

 道のりは遥か遠い。

 それはつまり、まだまだ成長の余地があり、数々の未知が残っているという事。

 

 これほど胸が踊ることは他にない――。

 

 首筋を垂れる汗に、僕が気付くことは無かった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ふと、意識を周囲に巡らせると、既に日は登っており、街は喧騒で賑わっている。

 

 服は汗でベッタリと張り付き、少し気持ち悪さを覚えた。

 

 今の時間帯が分からない。

 ホームへと一度戻るか。

 

 取り敢えず、時間を確認した後バベルでシャワーを浴びる。その後の予定はその時になってから決める。

 

 体は疲労が溜まっているのかバキバキだ。

 だからといって、重力場を緩めたりはしないけれど。

 

「ただい、まぁ……? 誰も居ない……」

 

 ホームへと帰りついたが、そこは相変わらず人の気配が無い。

 だが、少し前までは人が居た形跡がある。

 

 さては、僕が帰って来る前に二人ともどこかへ出ていったな。

 僕の間が悪いのか、しょうがないとは言え、入れ違いになり過ぎている気もする。

 

 時計をチラリと見やれば、短針が丁度九時を指すところだった。

 クラネルの居場所は分からないが、神様はいつもならバイトをしている時間。北のメインストリートにバイト先であるじゃが丸くんのお店があった筈だ。

 

 一度、神様には会っておいた方が良い気がする。

 シャワーを浴びた後、訪ねてみるか――。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 燦々と輝く太陽の下、一人の少年が人通りで賑わうメインストリートを小走りで進んでいた。

 人だかりが出来るほどの賑わいを見せる中をスルスルと進み、とある店の前で立ち止まる。

 

 ドアに掛けられた、「Close」の文字を無視してドアを開ける。

 

 カランカランと鐘の音が鳴り響く中、その少年は意を決したように酒場『豊饒の女主人』へと足を踏み入れた。

 

「申し訳ありません、お客様。当店はまだ準備中です。時間を改めてお越しになっていただけないでしょうか?」

 

「まだミャー達のお店はやってニャいのニャ!」

 

 店内に入ると、二つの声。

 テーブルクロスをかける作業をしていた、エルフとキャットピープルの店員が発したものだった。

 

 少年――ベル・クラネルは、申し訳なさそうな表情で言葉を紡ぐ。

 

「すみません、僕はお客じゃなくて……その、シルさん……シル・フローヴァさんはいらっしゃいますか? あと女将さんも……」

 

 ベルの言葉に、二人の視線が交わる。

 そして、何かに気付いたように声を張り上げた。

 

「ああぁ! あの時の食い逃げニャ! シルに貢がせるだけ貢がせといて、役に立たニャくニャったらポイしていった、あん時のクソ白髪野郎ニャ!!」

 

「貴女は黙っていてください」

 

「ぶニャ!?」

 

 キャットピープルの発言に対し、間髪入れずにエルフが一撃を見舞う。その動きは非常に洗練されたものである。

 

「失礼しました。すぐにシルとミア母さんを呼んできます」

 

 一撃で()された獣人の少女の襟首を掴み、ズルズルと奥へ引きずっていくエルフの店員。

 その様子を見て、ベルは何とも形容し難い表情で冷や汗を垂らした。

 

 特にする事も無いベルは、店内をぐるりと見渡す。

 ベルとノアの二人が訪れた夜とは違い、喫茶店の様な落ち着いた雰囲気の装いとなっている。

 

 ベルが、ボーっと店内を眺めているとすぐに、パタパタと階段を急ぎ足で降りてくる音が聞こえた。

 

「ベルさん!?」

 

 すぐに店の奥からシルが現れる。

 ベルは、体に力を込める事でこの場から逃げ出したくなる衝動を抑え、シルに歩み寄る。

 

「昨日は、すいませんでした……」

 

「……いえ、大丈夫ですから。こうして戻ってきてもらえて、私は嬉しいです」

 

 頭を下げ、謝罪の言葉を述べるベルに、温かく包み込むように微笑むシル。

 ベルは、その優しさに涙を滲ませた。

 

 ゴミを取るかのような素振りで、軽く目元を拭い、用意していたお金の入った袋を手に取る。

 

「これ、払えなかった分です。足りないって言うなら、色を付けて払わせて貰います……」

 

「私の口から、そんなことは言えません。そのお気持ちだけで十分です……私の方こそ、ごめんなさい」

 

 ぽつりと呟かれた言葉に、ベルは慌てたように罪悪感を覚える必要は無いと答えた。

 

 身振り手振りを大袈裟にやって説明するベル。

 

 シルは、それを見てきょとんとした後、クスクスと、肩を揺らして上品に笑を零した。

 

 微笑ましそうに瞳を細めてベルを見つめていたシルは、ふと何かに気付いたように、ぱんっと両手を打ち鳴らした。

 

「少し待っていてください」

 

 そう言って、シルはキッチンの奥へと消える。

 

 戻ってきたシルは、両手で大きめのバスケットを抱えていた。

 

「ダンジョンへ行かれるんですよね? よろしかったら、もらっていただけませんか?」

 

「えっ?」

 

「今日は私達のシェフが作った(まかな)い料理なので、味は折り紙つきです。その、私が手をつけたものもあるんですけど……」

 

「いえ、でも、何で……」

 

 どうして自分なんかに、とでも言いたげな表情を浮かべたベル。

 

「差し上げたくなったから、では駄目でしょうか?」

 

 そんなベルに対し、照れ臭そうに苦笑するシル。

 その表情はどこか優しさを感じさせる。

 

 それはきっと、ベルを応援するものであった。

 

「……すいません。じゃあ、いただきます」

 

 シルの気持ちを汲み取るように、ベルはバスケットを受け取る。

 見つめ合う二人は、少しだけ紅く染まった頬で、穏やかに微笑を浮かべていた。

 

「坊主が来てるって?」

 

 そこへ、ぬぅとカウンターバーの内側にある扉から出てきたのは、この酒場の主――ミアだった。

 

 突如として現れた圧倒的な存在感に、ベルは無意識の内に少し後退してしまう。

 

「ああ、なんだ、金を払いに来たのかい。感心じゃないか」

 

「ど、どうも……」

 

「シル、アンタは引っ込んでな。仕事をほっぽり出して来たんだろう?」

 

「あ、はい。わかりました」

 

 シルはお辞儀をして、その場を去る。

 その傍ら、ミアは豪傑な笑みを浮かべ、ベルの胸をその太い指でどついた。

 

 ミアが言葉を重ねる度、ベルの中で安堵が膨れ上がる。

 割と死の危機に瀕していたため、当然とも言える。

 

「……坊主」

 

「何ですか?」

 

 ミアは先程までとは少し違う、何とも表現し難い雰囲気を纏って言った。

 

「冒険者なんてカッコつけるだけ無駄な職業さ。最初の内は生きることだけに必死になってればいい。背伸びしてみたって碌なことは起きないんだからね」

 

「……!」

 

 ベルは目を見開き、その言葉を自分の中で反芻する。

 ミアは、ニッと笑みを浮かべて言う。

 

「最後まで二本の足で立ってたヤツが一番なのさ。惨めだろうが何だろうがね。すりゃあ、帰ってきたソイツにアタシが盛大に酒を振る舞ってやる。ほら、勝ち組だろ?」

 

 それは、女将としての貫禄とでも言うべきものだ。

 

「気持ち悪い顔してるんじゃないよ。そら、アンタはもう店の準備の邪魔だ、行った行った」

 

 ベルをくるりと半回転。

 そのまま背中をドンッと押した。

 

 その衝撃にベルの呼吸が一瞬止まりかける。

 

 それでも、その衝撃のお陰か、ベルの表情は憑き物が取れた様に朗らかなものだった。

 

「坊主! 忘れもんだ!」

 

 店を出ようとしていたベルが、その言葉に振り返ると、ミアから何かを放り投げられた。

 

「……え? でも、これは……」

 

 それは、先程渡した筈のお金の入った袋。

 

()()()()()()()()()なんざ受け取れないよ。――坊主、あの小僧にちゃんと礼を言っときなよ?」

 

 その一言で、ベルは全てを察したようだった。

 ベルの体が、感謝の念で熱くなる。

 

「それと、アタシにここまで言わせたんだ、くたばったら許さないからねえ」

 

 それは激励。

 今のベルにとってこれ以上ないほどの、原動力。

 

「大丈夫です! ありがとうございます!」

 

 ベルは、勢いよく駆け出して店を出る。

 

 彼の体が熱いのは、感謝の思いか、悔しさの反動か、はたまた、店を出る際に「いってきます」と叫んだことへの羞恥心か――。

 

 今の少年を突き動かすのは、強さの渇望。

 

 今現状、出来ること、最高速度で、無茶は無く、後は我武者羅(がむしゃら)に必死で生きる。

 

 その紅潮した顔には、一つの陰りも見えなくなっていた――。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 夜。

 空には輝く月が浮かび、星々がキラキラと瞬く。

 

 帳が降り、辺りを闇が包む中、草原の中に突如として現れる、巨大で、厚く、高く、堅牢な『市壁』の存在。

 

 世界で唯一の迷宮都市――オラリオの姿だった。

 

 ――さて、そんなオラリオのとある敷地内。

 

「よぉーっす」

 

「おー、おひさー。何百年ぶりだっけ?」

 

「ん、四日ぶりだな」

 

「あー、そんなに会ってなかったかー。お前も元気でやってたか?」

 

「話が噛み合ってないところ悪いんだが、『宴』の会場はここでいいのか?」

 

 通常ではとても考えられない数の神達が、群衆さながらの大きな団体を作り上げている。

 

 どこか胡散臭いオーラを持ち、どこか胡散臭さを感じさせる風貌の、どこか胡散臭い彼等を見下ろす建物が、一つ。

 

 この巨大な迷宮都市の中でも、一際大きな建造物の一つ。

 

 【ガネーシャ・ファミリア】の本拠点、『アイアム・ガネーシャ』である。

 

 ちなみに、構成員達にはもっぱら不評だとか。

 

 今宵、ここで行われるのはガネーシャ主催で開かれる『神の宴』だ。

 

 『神の宴』とは、詰まるところ神達の会合。

 とは言え、そんなに堅苦しいものでは無く、寧ろどの神主催か日程はいつか等、そのような決まりは一切無いゆるゆるの会合だ。

 宴をしたい神が開き、宴に行きたい神が足を運ぶ、それに名前を付けただけのものだ。

 

 【ガネーシャ・ファミリア】はオラリオの中でも巨大なファミリアであり、開かれる『神の宴』の規模も巨大。

 具体的には、オラリオの神達全てに招待の声がかかつている。

 

 ヘスティアも、その一人である。

 

「むっ! 給仕君、踏み台を持って来てくれ! 早く!」

 

「は、はいっ!」

 

 美味しそうな食べ物を手当たり次第に口の中へと放り込み、むぐむぐと頬を膨らませて咀嚼する。

 食べて美味しかった物の中でも、日持ちの良さそうなものは持参したタッパーへと詰め込むという暴挙を繰り返すその姿は、もはや神と言われても首を捻りたくなるものだった。

 

「何やってんのよ、あんた……」

 

「むぐ? むっ!」

 

 そこへ呆れたような、力のない声が投げかけられる。

 

 燃えたぎる炎の様な赤い髪と深紅のドレス。

 右眼に大きな眼帯をした麗人、そのあまりに整った美貌を持つ女性は、呆れの色を浮かばせる左眼でヘスティアを見下ろした。

 

「ヘファイストス!」

 

「ええ、久しぶりねヘスティア。元気そうで何よりよ。……もっとマシな姿を見せてくれたら、私はもっと嬉しかったんだけど」

 

 ヘファイストスは、溜息を一つ。

 何も言えないヘスティアは苦しそうに笑った。

 

 とはいえ、元々二人は神友(しんゆう)だ。

 会うのも久々とは言え、会話は弾む。

 

 一人では何も出来ないダメダメなヘスティアと、面倒見の良いお姉さん気質なヘファイストスは相性が良いとも言えるだろう。

 

「ふふ……相変わらず仲が良いのね」

 

 二人が会話に花を咲かせる中、ヘファイストスの背後から、コツコツと靴を鳴らして現れたのは圧倒的に完成された『美』そのものだった。

 

 何処を切り取っても、分かるのはそれがただひたすらに美しい事。

 

 超越している、と言い換えても良い程の比類なき美貌。

 

 美に魅入られた神、フレイヤの姿がそこにあった。

 

「な、何で君がここに……」

 

「ああ、すぐそこで会ったのよ。久しぶりー、って話していたら、じゃあ一緒に会場回りましょうかって流れに」

 

「か、軽いよ、ヘファイストス……」

 

「お邪魔だったかしら、ヘスティア?」

 

「そんなことはないけど……」

 

 常に薄く微笑を浮かべているフレイヤに対し、口を曲げているヘスティア。

 

 フレイヤにはそういう感情は無いが、ヘスティアはフレイヤの事が苦手である。

 ヘスティアが『処女神』である事も多少は関係しているかもしれないが、そもそも『美の神』が一様に食えない性格をしている事もあり、程度の強弱はあれどあまり関わりたくないというのがヘスティアの本音だ。

 

「おーい! ファーイたーん、フレイヤー、ドチビー!!」

 

 しかし、上には上がいるもので、フレイヤ――というか美の神――以上に大っ嫌いな存在がヘスティアには存在する。

 

「あっ、ロキ」

 

「何しに来たんだよ、君は……!」

 

 朱色の髪と朱色の瞳。

 細身の黒いドレスを着こなしており、当然の如く整った顔立ちの女神、ロキだった。

 

「なんや、理由がなきゃ来ちゃあかんのか? 『今宵は宴じゃー!』っていうノリやろ? むしろ理由を探す方が無粋っちゅうもんや。はぁ、マジで空気読めてへんよ、このドチビ」

 

「……! ……!!」

 

「凄い顔になってるわよ、ヘスティア」

 

 ロキに対し、ヘスティアが語ることは何も無い。

 そう、ただの敵。それ以上でも以下でもない。

 

 天界に居た時、初めて出会った時からずっとそう。

 ロキが持っていないもの(ヘスティアの巨乳)を目の敵にし、顔を合わせる度におちょくり、何なら馬鹿にするためにわざわざ自分から会いにやって来る。

 

 フレイヤとヘファイストスの二人が居たからこそ平和に進んでいた会話も、すぐに崩れ去る。

 

 ロキが、ヘスティアを煽るからである。

 

「――ドレスも着れない貧乏神をぉ、笑おうと思ったんやぁ」

(うぜぇえええええええええええええ!!)

 

 ヘスティアは青筋を浮かべ、今にも噴火しそうな怒りで顔を赤く染める。

 

 

 ――これが、この二人の常なのである。

 

 

 ちょっかいをかけるロキ、そのお返しにコンプレックス(無乳)を刺激するヘスティア。

 ロキとヘスティアが出会う度に起こる(いさか)い。

 

 ロリ巨乳とロキ無乳による熾烈を極める(クソほど無価値な)争い。

 

 毎度、周囲の神達は見物だと騒ぎ出すが、その結末は大体同じだったりする。

 

 ロキのコンプレックス(無乳)が刺激され、体を震わせてその場を離れていく。

 その後ろ姿には、なんとも哀愁が漂っていた。

 

「ッゥ……! 今度現れる時は、その貧相なものをボクの視界に入れるんじゃないぞっ、この負け犬めっ!」

 

「うっさいわアホォーッ! 覚えとけよぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 果てには、ヘスティアの追い打ちにより涙を撒き散らしながら会場を飛び出していった。

 

「本当に丸くなったわ、ロキ……」

 

「丸くなったっていうか……小物臭しかしないんだけど……」

 

 ぽつりと漏れるように呟かれたフレイヤの言葉に、ヘファイストスは困惑した様に言葉を吐いた。

 

 天界でのロキは、暇さえあれば殺し合いを仕掛けるような殺伐とした日々を過ごしていた。

 それに比べれば、『丸くなった』という言葉が零れるのも無理は無い。

 

「ロキは子供達が大好きみたいね。だからあんな風に変わったのかもしれない」

 

「……甚だ遺憾だけど、まぁ、子供達が好ましいっていうのはボクもロキに賛同してあげるよ」

 

 フレイヤの言葉に、よろよろと立ち上がったヘスティアが答える。

 

「へぇ、前まで『【ファミリア】に入ってくれなくて子供達は見る目がなーい』なーんて言ってたくせに……貴方の【ファミリア】に入ったベルっていう子のおかげ?」

 

「ふふん、まぁね。それにベル君だけじゃなくて、あれからもう一人ボクの【ファミリア】に入ってくれた子もいるのさ! 二人とも、僕にはもったいないくらい、良い子達だよ」

 

「ベル……は白髪で赤い目をしたヒューマンだったわよね? 【ファミリア】が出来たってあんたが報告しに来た時は驚いたけど、あれからまた増えたのねえ……」

 

 しみじみと、感慨深いとでも言いたげな顔で、頷きながら声を零すヘファイストス。

 

 ――と、その隣でフレイヤが動きを作る。

 

 コトン、と手に持っていたグラスをテーブルへ置き、その白銀の髪を翻す。

 

「じゃあ、私もこれで失礼させてもらうわ」

 

「え、もう? フレイヤ、貴方用事があったんじゃないの?」

 

「もういいの。確認したい事は聞けたし」

 

「……貴方、ここへ来てから誰にも聞くような真似してなかったじゃない」

 

 会場へ来てから、ヘファイストスは最初からフレイヤと共に居た。

 そのため、その言葉にはどうにも引っかかる所があり、怪訝そうな表情を隠そうともせず疑問を口にする。

 

 フレイヤはヘファイストスの言葉を華麗にスルー。

 ヘスティアを一瞥した後、笑んだ。

 

「……それに、ここにいる男たちはみんな食べ飽きちゃったもの」

 

『『『『『『サーセン』』』』』』

 

「……」

「……」

 

 それじゃあ、と一言だけ言い残してひしめく神の群れに消えていったフレイヤ。

 残された二人は、何とも微妙な表情で瞳を交差させた。

 

「で、あんたはどうする? 私はもう少しみんなの顔を見に回ろうかと思うけど、帰る?」

 

 は、と小さくため息を吐いたヘファイストスに言われ、ヘスティアの肩がピクリと跳ねる。

 今まで忘れていた本来の目的を思い出したからだった。

 

 スーッ……と、か細く息を吸い込むヘスティア。

 

「そのぉ……ヘファイストスに頼みたい事があるんだけど……」

 

「……」

 

 すっ、と紅い瞳が細まる。

 

 それもそのはず。

 今まで散々ヘファイストスの世話になり、懐を漁り、スネをかじり続けてきたヘスティアが、この期に及んでまた頼み事をしようと言うのだから。

 

 なんなら、もう懐は食いあさらないと先程の会話で言ったばかり。

 

 その眼差しは絶対零度。

 もはや汚物を見るかのような目でヘスティアを見つめるヘファイストス。

 

「……一応聞いておいてあげるわ。な・に・を、私に頼みたいですって?」

 

 仁王立ちするのはヘファイストス。

 そこには、とてつもない圧と存在感を感じさせる。

 

 挫けそうになる心を、歯を食いしばって耐え、子供(けんぞく)の顔を思い出して胸を奮い立たせる。

 

 目の前の親友に遂に愛想を尽かされてしまう事を覚悟しながら、ヘスティアは大きな声で自分の望みを放った。

 

 

「――ベル君にっ……ボクの【ファミリア】の子に、武器を作って欲しいんだ!」

 

 

 

 




遅くなっちまった……!
ほんとすいません


前回より長くなっちゃった。

次も待っててくれると嬉しいな。

ダンまちヒロイン誰がお好きですか?(完全に興味本位なので結果が小説に影響する事は無いです)

  • ヘスティア
  • アイズ・ヴァレンシュタイン
  • エイナ・チュール
  • リリルカ・アーデ
  • シル・フローヴァ
  • リュー・リオン
  • サンジョウノ・春姫
  • フレイヤ
  • カサンドラ・イリオン
  • ウィーネ
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