『Utopia・online』 〜TS獣人少女は、デスゲームの世界で最凶の悪役になる〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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15 三年後

「おうおう、姉ちゃぁぁん」

「ダメだぜぇ? フィールドを一人で歩きまわっちゃ」

「怖ぁいお兄さん達に出くわしちゃうからねぇ」

 

 とある町の近くのフィールドで、大勢の男達が一人の少女を取り囲んでいた。

 全部で三十人はいる屈強な男達だ。

 彼らのうち、二十人くらいの頭上には、PK(プレイヤーキラー)の証であるドクロの識別マーク『罪の烙印』が浮かんでいる。

 

 PKの集団。いわゆる盗賊団というやつだ。

 デスゲームが始まって、早三年。

 この三年で、彼らのような輩は急激に増えた。

 PKをやる上でのマニュアル本のようなものが過激な掲示板にアップされ、実際有用だったそれを踏襲して、悪役プレイに走る輩が急増したのだ。

 

 法律という鎖から解き放たれれば、人間は容易く獣になる。

 死と痛みへの恐怖だけでは縛りつけられないほどに、人間のドス黒い欲望の力は強い。

 それは歴史が証明している。

 

 デスゲームになって以降、R18なところまで割とリアルに再現されたこのゲームでの女性の一人歩きは、もう殆ど自殺と同義だ。

 恐らく、この少女は道中で仲間なり傭兵NPCなりを失ったか。

 あるいは何も知らずにログインしてきて、アップデートで追加された後続救済措置『人造迷宮』でPKに出会わないままレベルを上げて調子に乗った、悪の怖さを知らないデスゲームルーキーなのだろう。

 鴨が葱を背負って来たこの状況に、男達の顔は嗜虐心で醜悪に歪んだ。

 

「そうだな。フィールドを不用意に歩き回っちゃいけねぇよな」

 

 その少女が声を発した。

 可愛らしい高い声と裏腹に、はすっぱな男のような口調だ。

 もしかしたら、ネカマかもしれない。

 だが、そこらへんの葛藤を、既に男達は乗り越えていた。

 中身がなんだろうが、顔とスタイルが良ければ、それでいい。

 そして、キャラメイクをかなり自由にできるこのゲームにおいて、ブサイクなプレイヤーというものは基本存在しない。

 やったぜ! パラダイスだ!

 ……彼らは色んな意味で剛の者であった。

 まあ、そんな彼らに誤算があったとすれば。

 

「怖ぁいお兄さんに出くわしちまうからなぁ!」

 

 目の前の深くローブを被った少女が、絶対に手を出してはいけない存在だと気づかなかったことだろう。

 少女がローブを脱ぎ去るようにしてアイテムストレージにしまい、その下に隠されていた露出度の高い姿を晒す。

 それに鼻の下を伸ばしそうになった瞬間、少女の体が変異し始めた。

 身長が伸び、横幅が伸び、全身が毛皮に覆われ、骨格まで変わっていく。

 気づいた時、彼らの目の前には、身長2メートル半はある二足歩行の狼がいた。

 

「へ?」

「は?」

「ま、まさか、こいつ……!?」

 

 殆どの男達が呆然とし、一部の者だけが瞬時に相手の正体に思い当たって絶望した。

 各地でプレイヤー達を狩りまくり、彼らからすれば絶対的な強者である攻略組すら何人も屠っている、最凶のPKの一人。

 

「『殺戮魔狼(ウェアウルフ)』!?」

「ワォオオオオオオオオオオン!!!」

「ひ、ひぃ!?」

「や、やめてくれぇ!?」

「ぎゃああああああああああ!?」

 

 狼らしく雄叫びを上げ、人狼と化した少女が男達を蹂躙していく。

 格下をいたぶることには慣れていても、格上にいたぶられることには慣れていなかった連中だ。

 ものの1分もしないうちに全滅し、悲鳴を上げながら地面に転がった。

 

「なんだよ。いくらなんでも弱すぎだろ。ちょっとは期待してたのによぉ」

「た、助けて……! 殺さないでぇ……!」

 

 少女の姿に戻った狼は、リーダーと思われるリーゼントヘアの男の首を掴んで宙釣りにした。

 散々調子に乗って弱者をいたぶったくせに、自分の番となると情けなく泣き喚くド三流の小者に、彼女はニッコリと笑いかけ。

 

「安心しろ。殺さねぇよ。お前らみたいなのが普通のプレイヤーの足を引っ張ってくれれば、オレとしても好都合だからな」

「ほ、本当ですか!?」

「おう。ただし、有り金と武器以外の金目のもんは全部置いてけ」

「喜んでぇ!!」

 

 リーダーの男は歓喜の表情でメインメニューを操作し、言われた通りに有り金と金目のものを全て差し出した。

 彼の仲間達も怯えた目をしながら、同じく奪って集めた財産を吐き出してくれる。

 

「お前ら、ギルド名はなんだ?」

「はい! 『暴走倶楽部』であります! わたくしがリーダーのリーゼント・ドライブです!」

「ほぉ。カッコイイ名前じゃねぇか」

「ありがとうございます!」

 

 リーダーの男、リーゼント・ドライブはとても従順になっていた。

 やはり人間は獣。

 あんな凶暴だった連中が、躾をされるとこの通りだ。

 

「お前ら全員、オレとフレンド登録しようぜ。

 オレ、基本的にボッチだからよぉ。横の繋がりで情報集めないとキツいんだわ」

「はい! よろこんでぇ!」

 

 そうして、彼女はフレンドという名の、体のいい使いっ走りを手に入れた。

 この三年間で特に力を入れていることの一つ、仲間集めである。

 

「じゃ、なんかあったら連絡するわ。お前らも、なんかあったら連絡しろよ? ハミダシ者同士、仲良くしようぜ」

「サーイエッサー!」

 

 そうして、天災のように現れて猛威を振るった狼は、脱ぎ去ったローブを纏い直して去っていった。

 彼らは、あんなものと遭遇して生き残った。

 

「い、生きてる……? 俺達、生きてるよな……?」

「ああ、生きてる! 生きてるんだよ!!」

「お前らぁ! 生きてるって素晴らしいなぁ!!」

「「「ホントだぜ、リーダー!」」」

 

 暴走倶楽部の男達は、肩を抱き合って大いに喜んだ。

 ハミダシ者の外道ども。

 しかし、共に死線を乗り越えたことによって、彼らの仲は非常に良くなり、身内にはとても優しい外道集団に生まれ変わったそうな。

 なんだ、結局外道じゃないか。

 世の中、そう簡単には綺麗にならないものである。

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