『Utopia・online』 〜TS獣人少女は、デスゲームの世界で最凶の悪役になる〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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19 進軍開始

「さて、━━行くわよ」

「「「おお!」」」

 

 作戦決行当日。

 シャイニングアーツのギルドマスター『聖女』ジャンヌは、陣形を組んだ仲間達の陣頭に立って、作戦開始を宣言した。

 この作戦開始日時を悟られないために、今日この時まで色々と策を弄して……はいない。

 無駄だとわかり切っているからだ。

 

 確かに、作戦開始を悟らせさえしなければ、この作戦は間違いなく成功するだろう。

 罪の烙印を持つ敵の連中は町に入れず、転移陣も使えず、移動速度が致命的に遅い。

 タイミングをズラして、奴らが他のエリアへ散ったところを狙えば、簡単に海の大迷宮まで走り抜けられる。

 

 だが、これだけの大作戦となると、動かす人員の数も半端じゃない。

 それだけ派手に動けば、嫌でも目立つ。

 敵は罪の烙印を刻んだ実働部隊だけでなく、一般プレイヤーを装って涼しい顔で町の中に紛れ込んでいる協力者だって大勢いるのだ。

 派手に動けば、そういう奴らに簡単に察知される。

 

 よって、隠密作戦は不可能。

 できたのはせいぜい、焦らせるだけ焦らして、敵が勝手に離散するのを期待した程度。

 それも正直、どこまで効果があるかわからない。

 PKは自分勝手な奴らが多いからワンチャンあるとは思っているが、敵のリーダー格に意外と人望があることもわかっている。

 リーダーが抑えつければ、しばらくは組織の形を保てるだろう。

 

 おまけに、今までの奴らの動きを見るに、攻略組の中にも情報提供者がいる可能性が高い。

 そいつからより具体的な内部情報を漏らされてしまえば、向こうは自信を持って待ち構えることができる。

 こっちだって一枚板じゃなく、主要なギルド同士は決して仲が良好とは言えない。

 どこに裏切る者がいるかもわからないし、準備を終わらせた状態で「待て」と言って、全員が大人しく従ってくれることもない。

 皆、やるべきことを一旦脇にどけて、今回の作戦のために無理して集まってもらってるのだ。

 いつまでも準備完了状態のまま静止はできない。

 ゆえに、我慢比べはここまで。

 

「進軍開始!!」

「「「おおおおお!!!」」」

 

 隊列を組み、十五個の鍵の護衛隊が町を出発した。

 隊列の中心に鍵の所持者達を集めた馬車を配置し、そこを各ギルドの精鋭でガッチリと守る。

 ここが最大の急所なのだから、最大の戦力を割り当てるのは当然だ。

 

 先頭や殿には、死んでも大丈夫な傭兵NPC達を配置。

 その後ろに数を揃えた主力部隊。

 傭兵NPCを盾にしながら迎撃を担当する。

 

 今回の作戦を大雑把に言うと『なんとしてでも、鍵の所持者達を大扉まで辿り着かせろ』だ。

 あくまでも最優先事項はそれで、不本意だがPK達の殲滅は二の次。

 ゲームを進めなければ、いつまで経ってもこの状況が続いてしまうと、誰もがこの三年間で思い知っているから。

 

 迷宮も消滅し、迷宮とほぼ同等のフィールドエリアの奥地まで踏み入っても、効率的なレベル上げはできなくなった。

 現時点で開放されているフィールドだと、レベル50に到達したところで上限に達したかのように成長速度がガクッと落ち、それ以降は遅々とした成長しかできなくなる。

 まあ、レベル50に到達できたのは、痛みと恐怖に怯まず、かなり積極的なレベル上げに挑んで生き残ったトッププレイヤーだけだが。

 それでも、攻略の最前線を突き進むトッププレイヤー達の成長が止まってしまったというのは大きい。

 

 レアアイテムの収集、資金集め、このあたりはエンドコンテンツのごとく、やってもやっても足りないが、そればかりを何年も何年も続けていたってどうにもならない。

 ここでゲームを次のステージに進め、盤面を大きく動かさなければならないのだ。

 

 ゆえにこそ、基本的に戦闘は防衛と進軍重視。

 倒せそうな敵は倒すが、魔族を筆頭とした手こずりそうな相手は無理に倒そうとせず、誰かに足止めを任せて、鍵の所持者達を乗せた馬車とその護衛だけでも、先へ先へ進む。

 なんとしても、海の大迷宮の扉を開く。

 もちろん、状況に応じて臨機応変に対応するつもりではあるが。

 

『ジャンヌ! 敵発見! 迷わずお前らの方に向けて進軍してる!』

「……そう」

 

 偵察に出していた部隊の一人から、通信機能を使ってジャンヌに情報が届いた。

 迷わず向かってきているときたか。

 確かにこちらは目立つ大軍だが、向こうの斥候に見つかったにしては早すぎる。

 通る道だって、それなりに工夫しているのに。

 やはり、裏切り者が作戦か位置情報を流していると見るべきだ。

 

「敵の数と魔族の有無は?」

『数は見えてるだけで500人はいる。モンスターが結構な割合で混ざってるから、かなりの数のテイマーがいるのかもしれない。魔族は……ぎゃあああああ!?』

「ッ!?」

 

 その瞬間、悲鳴と共に通信が途絶えた。

 敵に発見され、奇襲を受けたのだろう。

 やられた。

 

「……ごめんなさい」

 

 また仲間を死なせてしまったことに、ジャンヌの心は張り裂けそうになる。

 けれど、それを無理矢理飲み込んで、味方全体に向かって声を張り上げた。

 

「斥候から連絡! 敵がまっすぐこちらに向かっているそうです! 数は最低500! 魔族の有無は不明ですが、いるものと考えて警戒してください!」

「「「! 了解!」」」

 

 すぐにシャイニングアーツや友好的なギルドから返事が聞こえ、ドラゴンスレイヤーなどの友好的でないギルドも情報として聞いてはくれた。

 開戦が近いと知って、連中軍の間に緊張が走る。

 戦意を高める者。萎縮する者。高揚する者。集中する者。

 それぞれがそれぞれの形で開戦に備え、そして━━

 

「来たぜ、ジャンヌ嬢」

「ええ。私でもわかるわ」

 

 馬車の護衛の一人、高レベルの『索敵』スキルを持つ『傭兵王』アヴニールが声を上げ、ジャンヌも敵の存在を感じ取る。

 前方から音が聞こえてくる。

 大勢が地面を踏み鳴らす、進軍の音が。

 音はすぐに近づいてきて、耳ではなく目で捉えられる場所に、そいつらは現れた。

 

「全軍停止!」

 

 事前に決めていた通り、万全の状態で戦端を開くべく、一度止まって進軍中に多少乱れたフォーメーションを整える。

 対して、向こうはフォーメーションもクソも無いような乱雑な並びで相対する。

 

「久しいな、攻略組の諸君」

 

 敵の一人が、ご丁寧に挨拶をしてきた。

 鱗の生えた馬に跨り、外見年齢10歳くらいの幼女を相乗りさせている、貴族風の装いをした銀髪の男だ。

 

「『吸血公』……!」

 

 攻略組の前に姿を現すことはあまり無いが、大勢の弱い者達を狙い、命と共にお金もアイテムも奪っていく、卑劣な強盗殺人犯。

 馬に相乗りしているダークエルフ、『闇妖精』も共犯だ。

 見た目こそ幼い少女だが、この世界で見た目の幼さなんて何の判断基準にもならない。

 あれもまた同情の余地の無い、倒すべき敵だ。

 

「さて、大人しく鍵の所持者と金目のものを置いていけ……と言いたいところだが、それで素直に応じるお前達ではないだろう」

 

 『吸血公』はそう言いながら、腰にある深紅の鞭に手を伸ばし。

 

「━━始めよう。開戦の時間だ!!」

「「「ヒャッハーーーーーー!!!」」」

 

 彼に率いられたならず者達が、歓喜の声を上げながら武器を高らかに掲げた。

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