『Utopia・online』 〜TS獣人少女は、デスゲームの世界で最凶の悪役になる〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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22 乱戦

「一人で追ってくるたぁ、いい度胸じゃねぇか!」

 

 ウルフの言う通り、彼女を追ってきたのはコジロウ一人だ。

 馬車の守りを手薄にし過ぎるわけにもいかないからこその苦渋の選択。

 だが、

 

「舐めるなよ、小娘! 貴様なんぞ、ワシ一人で充分じゃ!!」

 

 気炎を上げながら、コジロウはたった一人でウルフと渡り合ってみせた。

 彼一人では、まず間違いなく勝てない。

 しかし、防戦に徹すればそう簡単には負けない。

 コジロウのレベルは56。

 攻略組の中でも有数の超高レベルに加え、達人級の剣技を持つ。

 技術でステータスの差を埋め、彼はウルフに食らいついてみせた。

 

「ぬぅぅぅぅぅぅん!!!」

「チッ! しぶてぇな、おい!!」

 

 ウルフは少しイラ立ちながらも、的確に攻撃を繰り出していく。

 コジロウの体には、確実にダメージが蓄積していった。

 だが、倒れない。

 倒れないまま、ウルフの足止めという己の役割を全うする。

 できることなら、ブレイブの仇を討ちたい。

 その思いを心の奥底に沈めて、老兵はただ忠実に任務を果たすための『兵士』となって、最凶の魔族に食らいつき続ける。

 ……しかし。

 

「アハッ! 楽しそうですねぇ、ウルフさん!」

「ぬっ!?」

 

 ここは戦場。

 別に一対一の決闘ではないのだから、当然のごとく乱入者が現れた。

 割り込んできたのは、白い着物を身に纏い、禍々しい刀を振りかざす、白髪の女鬼。

 

「おう、『鬼姫』か! あ、そっか。オレとお前で挟む形になってたんだな」

 

 ウルフが閃きをそのまま行動に移した、馬車の外側の部隊への突撃。

 そっちには『鬼姫』達が側面からの攻撃を仕掛けていた。

 奇しくも、魔族二人に前後から挟撃される形になってしまったわけだ。

 ご愁傷様としか言いようが無い。

 

「このお爺様はわたしくが貰ってもよろしいですか?

 攻略組最強の一人、『刀神』コジロウ。

 同じ『刀』を使う者として、刀の神なんて呼ばれるお方には興味がありましたので!」

「別にいいぞ。持ってけ、持ってけ」

「では!」

「おのれ……!」

 

 女鬼が老兵を攫っていく。

 ウルフは彼女の強さを噂でしか知らないが、コジロウと互角以上に渡り合っているのを見るだけで、達人級だというのは疑いようもない。

 技術じゃ完全に負けている。

 もし敵対したら逃げようとウルフは思った。

 プレイヤーの邪魔をしてくれる魔族と戦う気なんて、ウルフにはこれっぽっちも無いのだし。

 

「ふぅ」

 

 そこでウルフは一息ついて、獣化を解除した。

 MPが残り三割を切っている。

 『MP自動回復』のレベルが上がりまくった今、少しすれば全快するだろう。

 だが、それまで休ませてくれたり、ポーチやアイテムストレージに入っている魔力回復ポーションを取り出させてくれる暇は、どうやら無さそうだ。

 

「「「うぉおおおおおおお!!!」」」

 

 さっきまで蹂躙されていた雑兵達が、群れを成してウルフに襲いかかってくる。

 『鬼姫』は『刀神』が止め、『殺戮魔狼(ウェアウルフ)』は何やら変身を解除した。

 魔族二人の脅威が緩まった。

 チャンスだ。

 ここでどうにかしないと、やばい。

 その思いに突き動かされて、彼らはウルフに向かってきた。

 

「ハッ! テメェらごとき、切り札を使うまでもねぇ!」

 

 対して、ウルフは逃げも隠れもせず正面突破。

 獣化を解除してステータスが半減しようとも━━それでも彼は強い。

 

「オラオラオラオラァ!!」

「ぐはっ!?」

「あがっ!?」

 

 振るわれた剣を左腕で防ぎながら、右腕で殴り飛ばして頭部を爆散させ。

 突き出された槍を掴んで止めて、槍ごと持ち主を振り回して他のプレイヤーにぶつけ。

 首筋目がけて振るわれた刀を、歯で噛み砕き。

 ラリアットで首を折り、掌で頭を握り潰し、タックルで全身を粉砕し、倒れた奴を踏み砕いてトドメを刺し。

 

「くたばれぇええええ!!」

「「「ぎゃああああああああああ!?」」」

 

 野蛮で暴力的な、ステータスに任せた我流の戦い方。

 されど、三年に渡る壮絶な殺し合いを続けた結果、我流ながらもそれなりに洗練された喧嘩殺法へと至っている。

 ちゃんとした武術や技術を修めた達人とはまた違う、まるで暴れ回るモンスターのごとき、純粋な暴力。

 

 獣化が無くとも、彼はレベル61のステータスの化身だ。

 各種ステータスの増強スキルも揃っており、魔族としての最低限の強化である五項目のステータス+100、つまり10レベル分の底上げも消えていない。

 獣化を解いても名残のように残る、肘から先と膝から下の漆黒の毛皮に覆われた手足は、トッププレイヤー達が使う最高峰の武器にも匹敵する。

 トッププレイヤーから一段も二段も劣る、レベル40にも満たない者達。

 しかも、『鬼姫』とぶつかって主力が何人もやられてしまった状態では止められない。

 獣化状態に蹂躙されていた時よりは遥かに『戦い』になってはいるが、それだけだ。

 戦えはしても勝てない。届かない。

 

「い、嫌……!」

 

 仲間を殺され、自身も重傷を負った一人の少女が、絶望の涙を流した。 

 怖い。痛い。

 誰か……。

 

「誰か、助けてぇええええ!!」

 

 少女の悲鳴が戦場に響き渡る。

 それに全く頓着せず、全く心動かされず、暴虐の狼は動きの止まった獲物に拳を振りかぶる。

 

「死ね」

 

 無慈悲な一撃が、また一人のプレイヤーの命を……。

 

 

「遅れてすまない!!」

 

 

 ……奪う直前、一人の男がそこに割り込んだ。

 身長2メートルを越える大男。

 筋肉ムッキムキで、それを誇示するようなピッチリとしたスーツを着込んでいる。

 顔の上半分をマスクで隠し、背中にはマントがはためき、まるでヒーローのパチモンのような姿。

 そんな男が、ウルフの拳を受け止めていた。

 

「ヒーローは遅れてやってくる!!」

 

 『超英雄(スーパーヒーロー)』ジャスティス仮面。

 開戦当初は最前線で暴れ回り、先ほどまでは『鬼姫』が引き連れていた名のある悪党どもの相手をしていた男。

 その制圧を完了させて、対人戦最強と謳われるトッププレイヤーが、消耗したウルフの前に立ち塞がった。

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