『Utopia・online』 〜TS獣人少女は、デスゲームの世界で最凶の悪役になる〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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37 復讐者VS殺戮魔狼

「うぉおおお!!」

「コロ太郎の仇ぃ!!」

「報いを受けろぉぉ!!」

 

 痛む体を怒りで無理矢理動かして、復讐者達がウルフに襲いかかる。

 技術も何もない、ガムシャラな突撃。

 当然、そんなものが超格上(ウルフ)に通じるはずもない。

 

「失せろ! 死に損ないども!!」

 

 腕を振るう。

 圧倒的なステータスの差によって、薙ぎ払うウルフの腕に当たった者達は簡単にHPを全損し、データの塵に変わった。

 元々、最初の魔族四人がかりの不意打ちで、本来なら立てないほどにダメージが蓄積していたのだから、さもあらんだ。

 だが、

 

「「「あああああああ!!」」」

 

 仲間が死のうがお構いなしに、復讐者達は突撃をやめない。

 このままでは無駄死にだ。

 それがわからないほどに、思考回路まで復讐の狂気に染め上げられているのかとウルフは訝しみ……直後に行われた異様な攻撃に目を剥いた。

 

「『ボルティックランス』!」

 

 まず放たれたのは、クリームからの援護射撃。

 これは普通だ。

 ちゃんと仲間を巻き込まないように、身長が高い獣化状態のウルフの頭を狙っている。

 先ほどと同じく鳴り響く警告音に従い、彼はサイドステップで雷の槍を避け……。

 

「『ノックアップスラッシュ』!」

「ッ!?」

 

 避けようとした瞬間に、前方から必殺スキルの一撃を受けた。

 背を屈め、復讐者達の中に埋もれるようにして紛れて近づいてきていたジークフリートが、下から上へと斬り上げる強烈な必殺スキルを放ったのだ。

 

 ━━先行した仲間を斬り裂き、その体を目眩ましに使いながら。

 

「おいおい、マジか!?」

 

 クリームの魔法と肉壁、二重の目眩ましによって撹乱され、咄嗟に反応はできたものの、完全には避け切れずに脇腹を斬られてしまったウルフは驚愕の声を上げた。

 

 今のは上手かった。

 ウルフの回避能力の根幹を担っている『危機感知』のスキルは、食らったら受けるだろうダメージに比例したアラートを鳴らしてくれるというもの。

 今みたいに殆ど同時の攻撃を仕掛けられてしまうと、より強い攻撃に対するアラートが、もう片方の攻撃に対するアラートを塗り潰してしまう。

 だが、もちろん問題はそんなことではない。

 

「パーティー内、ギルド内、同盟内でのフレンドリーファイアは事故にカウントされて罪の烙印は出ない。

 あまりにダメージを与えすぎれば故意と判断されるが、それも相手側が事前に了承の契約をしていれば問題ない。

 知らなかったか?」

 

 ジークフリートが平然とそんなことを言う。

 復讐者達にも動揺は無い。

 最初からそう決めていたと言わんばかりに。

 たとえ塵になろうとも刺し違えるという言葉に嘘は無いのだと言わんばかりに。

 

「イカれてんなおい! オレ以上にトチ狂ってんじゃねぇか!」

 

 見れば『鬼姫』と『死神』の方も、このゾンビ肉壁戦法に苦しめられていた。

 特に『死神』の方が少しやばそうだ。

 彼の固有スキルは滅茶苦茶凶悪だが、死を恐れない死兵どもとは相性が悪い。

 

 ウルフはパワーで、『鬼姫』は刀の圧倒的な斬れ味で雑兵どもを鎧袖一触できるが、シンプルな攻撃力に関しては二人に劣る『死神』はそうもいかない。

 あと、単純に彼に群がってる連中が一番多い。

 一番殺してるから、一番恨みを買ってるのだ。

 

「「「死ぃぃぃねぇぇえええ!!!」」」

「参りましたね、これは……!」

 

 『死神』が苦々しい声を出した。

 雑兵と言っても、さすがは命よりも効率を求めるドラゴンスレイヤーと言うべきか、全員が最低でもレベル40を超えている。

 中にはレベル50を超えてそうな奴も何人もいる。

 

 そんなのが何人も何人も、命を捨ててでも道連れにしてやるとばかりに群がってくるのだから、堪ったものではない。

 死の神と呼ばれた男に最も有効なのが、死を恐れぬ者達による特攻というのは、中々に皮肉だ。

 

「おおお!!」

「「きゅい!?」」

 

 そんな『死神』を助けるべく援護に回っていた、二体のマッスルドルフィンがやられた。

 他のモンスターはまだ来ない。

 不意打ちのための隠密を優先して、『吸血公』は『闇妖精』と一緒に、彼女の最大射程ギリギリの場所で隠れていたので、彼の近くにしか呼び出せない召喚獣や使役獣が来るまで、まだ少し時間がかかる。

 『闇妖精』による援護射撃も、距離があってはフレンドリーファイアの可能性が高くて撃てない。

 それはカメ吉も同じだ。

 

「イカれてるだと!? お前が言うな!! お前にだけは言われたくない!!」

「お前が俺達をこうしたんだろうがぁ!!」

「自分の罪の報いを受けて死ねぇ!!」

 

 ウルフの「イカれてるな」という発言を聞いて、復讐者達の特攻は苛烈さを増した。

 怒りに任せて、恨みに任せて、憎しみに任せて、彼らは命を捨てる。

 

「お前のせいだ!! お前のせいであいつは!!」

「返せ!! 私の恋人を返せ!!」

「なんでだ!? なんで平然と人の命を奪えるんだ、この悪魔がぁあああ!!」

 

 彼らは叫ぶ。

 憎い仇に向けて、溜まりに溜まった激情をぶち撒ける。

 なんで自分達の大切な人達を奪った?

 なんで大切な人達が、あんな目に合わなければならなかった?

 

「お前のせいだ!!」

「お前のせいだ!!」

「お前のせいだぁああああ!!」

 

 目の前の敵は、自分達のことをイカれていると称した。

 お前にだけは言われなくない。

 自分達がイカれているというのなら、その原因は間違いなくお前だ。

 

 お前のせいで自分達はこうなった。

 報いを受けろ。

 報いを受けろ、報いを受けろ、報いを受けろ!

 彼らはそう叫びながら、魔族達に襲いかかる。

 

 己の罪の象徴。

 己が狂わせてしまった被害者達。

 そんな彼らの憎悪を叩きつけられて、ウルフは……。

 

「うるせぇえええええええ!!!」

「「「ごふっ!?」」」

 

 懺悔するどころが、逆にキレた。

 キレて復讐者達を力の限り殴り飛ばした。

 

「さっきから黙って聞いてりゃ、ギャーギャーと……!」

 

 ウルフは、イラ立っていた。

 彼らの()()()()()()()()()()()()に、怒り狂っていた。

 彼の全身から、ドス黒く悍ましい威圧感が放たれる。

 

「踏みつけられて奪われたのがそんなに憎いか? ああ、そうだろうなぁ。オレもそうだった。

 社会に見捨てられて、誰も助けてくれなくて、地獄の底で死んだように生きてたよ。

 オレが苦しんでるのに、平気な顔して回ってる社会を憎んでたよ」

「「「!?」」」

 

 ウルフの眼光が復讐者達を射抜く。

 ━━怖い。

 何故か、そう何故か、彼らは反射的にそう思ってしまった。

 

「なぁ、おい。オレが苦しんでる時に、テメェら何してた?

 のほほんと笑って生きてたか? 自分のことで精一杯だったか? オレのことなんざ知りもしなかったか? それとも、オレみてぇな奴がいるって知ってて無視してたか?」

 

 怖い。

 その眼から感じるあまりの怒気に、あまりの殺意に、体が勝手に震える。

 

 今まで殺してきたPK達は、ドラゴンスレイヤーの狂気に怯えて飲まれて死んだ。

 殺すことはできても、殺される覚悟が無い奴らばかりだった。

 けれど、目の前の狼は違う。

 怯えるどころか、自分達以上の殺意で、逆にこっちを飲み込もうと……。

 

「━━どうでもいい」

 

 その時……フッと、ウルフの目から色が消えた。

 

「テメェらの事情なんざどうだっていい。

 テメェらがオレの事情になんざ見向きもしなかったのと同じだ」

 

 ゴミを見るような目で、ウルフは復讐者達を見た。

 

「オレを助けてくれたのは救世高徳と、同じく現実に絶望するダチだけだ。

 なのになんで、それ以外の奴らに、助けてもくれなかった奴らに、オレが配慮しなきゃならねぇ?

 テメェらは苦しんでるオレを見捨てたのに、オレにはテメェらを傷つけるなってか?

 ふざけんじゃねぇ。ふざけんじゃねぇぞ!!」

「「「ッ!?」」」

 

 ウルフの眼に激情が戻る。

 復讐者達は、それに気圧された。

 

 相手が悪で、自分達は被害者。

 この行いは正義じゃない。

 けれど、正当な復讐である。

 そんなドラゴンスレイヤー達の認識が、ウルフの憎悪に満ちた言葉で揺らぐ。

 

「何もしなかったことが無実と同義だと思うな。

 テメェらは普通に生きてるだけで、オレみてぇな奴を踏みつける腐った社会を回してるだけで、オレ達を見捨てて踏みつけて苦しめてるんだってことを自覚しろ。

 報いを受けろだと? こっちのセリフだ!!

 テメェらがオレを恨むように、テメェらもオレに恨まれて当然の立場なんだって知って死ね!!」

 

 ウルフの憎悪。

 それは、社会全体に向けられている。

 現実世界では、誰も彼もが彼を助けてくれなかった。

 彼のように苦しんでいる者達がいるということは、社会問題として何度もニュースで取り上げられていたはずだ。

 なのに、皆が彼を無視した。

 町行く人達は皆が皆、彼になんて見向きもせずに、自分のことだけを考えていた。

 

 ウルフは憎んでいる。

 そんな腐った社会を。腐った現実世界を。

 恨んでも憎んでも、圧倒的な力で押さえつけられて、ロクに歯向かうことすら許されなかった地獄のような世界を。

 そんな地獄に送り返そうとする攻略組は特に嫌いだ。

 けれど、

 

「この世界は平等だ! 相手のことが気に食わなけきゃ、強くなってぶん殴ればいい!

 テメェらはオレが許せねぇ! オレはテメェらが許せねぇ!

 なら、正々堂々と勝負しようじゃねぇか! 同じスタートラインから積み上げてきた力を使ってよぉ!

 生まれの差、貧富の差、環境の差、才能の差、色んな差で喧嘩すら成立しねぇ、あの腐った現実と違って、ここではそれが許されるんだからなぁ!!」

 

 奇しくも、救世主が言いたかったことを誰よりも実践している狼が、押さえつけられることの無くなった殺意を全開にして、目の前の敵に襲いかかった。

 牙を剥き出しにして、殺意の拳を握って、憎悪の化身となった漆黒の人狼が迫ってくる。

 

「ガァアアアアアアアアアア!!!」

「ぁ……」

 

 復讐者達は……意気込みで負けた。

 激情をぶつける復讐だけを考えていた彼らは、自分達以上の激情をぶつけ返されることを想定していなかった。

 あまりにも強すぎる感情の宿った言葉と威圧感によって、ほんの少し、ほんの僅かにでも『悪いのは自分達じゃない。全部こいつが悪い』という思想が揺らいでしまった者達の動きが乱れる。

 

「おらぁあああああああああ!!!」

「あがっ!?」

「ぐぎゃっ!?」

「ひぃ!?」

 

 ウルフの拳に叩き潰され、牙に噛み千切られ、掌に握り潰され、脚に踏み潰され。

 そして、何より殺意に飲まれて。

 彼らは次々にデータの塵となって死んでいく。

 

 集団心理による高揚で纏まっていたのだから、一部の者達がそれ以外の感情に飲まれてしまえば、飲まれた者達の弱気と恐怖もまた、即座に伝播してしまう。

 それが徒党を組まねば復讐などできなかった者達の致命的な弱点。

 

「ブルルル……!」

「ギョギョ!」

「キィ! キィ!」

「カァアアーーー!」

 

 更に、ここで魔族側に援軍。

 『吸血公』の使役獣と召喚獣が到着し、互角だった『鬼姫』との戦いも、優勢だった『死神』との戦いも、全てがひっくり返されていく。

 

「『ダークランサー』!」

「ッ! 『ボルティックランス』!」

 

 『吸血公』と一緒にいた『闇妖精』も、援護射撃ができる距離まで近づいた。

 それでもまだ距離があり、距離による威力減衰があるおかげでクリームがどうにか相殺できているが、今だけだ。

 

 もう少し近づかれたら、レベル差と種族差で押し潰される。

 それを覆すための数の差は、モンスターの援軍と、ウルフと相対していた者達の心が折れたことで瓦解している。

 

「……ここまでだな」

 

 そんな酷い戦場を見て、ジークフリートがポツリと呟いた。

 彼は即座に行動する。

 ウルフに蹂躙される仲間達を見捨て、一番優勢だったおかげで、まだ付け入る隙の残っている『死神』のところへ走った。

 

「『ヘビースラッシュ』!」

「む!?」

 

 ジークフリートが『死神』に向けて必殺スキルを放つ。

 重さを大きく増しているかのような強烈な一撃。

 『死神』はそれを大鎌で受けたが、目の前の復讐者達の対処に必死で、不完全な体勢で受けたことが祟り、押し切られた。

 

「うぐっ!?」

 

 『死神』の左腕が切断されて宙を舞う。

 思わず残った右腕で左腕の切断面を押さえてしまい、大鎌は左腕と共に地面に落ちた。

 その代償に、ジークフリートという戦力を失った対ウルフ部隊がやられるスピードが跳ね上がる。

 

「『死神』の象徴は奪った! そのまま押し潰せ!!」

「「「うぉおおおおおお!!!」」」

 

 ギルドマスターの活躍に奮起し、対『死神』部隊の指揮が跳ね上がる。

 狂気を引っ剥がされたのは、ウルフと相対していた者達だけだ。

 他の者達は、未だに復讐の狂気で狭まった視野のまま、命を捨てた特攻を続けている。

 

「撤退するぞ、クリーム。少し苦しいが、この腕と大鎌を証拠に、奴らにも痛みを与えることには成功したという設定で、他の連中を納得させる」

「ちょ!? ジーク!?」

 

 だが、彼らを焚き付けた当のジークフリートは、『死神』の大鎌と左腕を回収し、その足で一番使えるクリームも回収して、彼女を無理矢理肩に担いで二人だけで逃げた。

 当然、最高戦力二人が抜けてしまえば、残った者達に勝ち目は無い。

 無いのだが……皮肉なことに、復讐心に染まって視野の狭まっている者達は、自分達のリーダーが逃げたことに、まだ気づいていない。

 

「逃げんなコラァ!!」

 

 ウルフが彼らに向かって咆えるが、実際に追いかけることはできない。

 このままジークフリート達を追えば、目の前で片腕とメインウェポンを失って追い詰められる『死神』を見捨てることになるからだ。

 

「……チッ!」

 

 ウルフは忌々しそうに舌打ちしながら、『死神』に加勢した。

 こんな勝ち確定の場面で欲をかいて、貴重な協力的な魔族を失うなんてバカげている。

 相手の思惑に乗るのは癪だが、ここはこちらの損耗を最小限に抑えつつ、残った敵を確実に殲滅するのが正解。

 

「も、申し訳ない……。助かりました、ウルフさん」

「気にすんな!」

 

 その後、ほどなくして逃げた二人以外の敵は全滅。

 こちらの被害は『死神』の大鎌と左腕、あと使役獣が何体かやられた程度。

 召喚獣も結構やられたが、あれは『吸血公』のMPがあればいくらでも召喚できる上に、召喚してから30分で消える使い捨て戦力なので問題ない。

 その程度の損耗に対して、敵はレベル40以上の精鋭が48人も死亡。

 完全勝利と言って差し支えない戦果だ。

 

「……チッ」

 

 しかし、敵の首魁である『竜殺し』を逃してしまったことに、そこはかとなく嫌な予感を覚えて、ウルフはもう一度舌打ちをした。

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