えっ、悪いよそりゃあさ。
かなり昔に終わったライトノベル『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』通称俺ガイル。
その主人公である比企谷八幡が、それまでのハイスペイケメンの陽キャなラノベ主人公とは大きく異なり、いわゆる負け組のキャラクターであった事から、彼に感情移入する過激なファンもいた。
「だって俺=ボッチ=八幡。だから俺は八幡。
ならば八幡を幸せにしたいと願うのは当然だろう!!」
といった感じに叫びながら放火して捕まった男がいた。
別に彼は八幡ではないし、八幡を幸せにしたところで彼の未来は暗いままだ。
取り敢えずはこの男、名前は八幡ではない。
笹電黒狼という、比企谷八幡よりもラノベっぽい名前だ。
名字は中山で、名前が笹電黒狼だ。
読み方は笹電黒狼(さいこう)という。
ふりがなは、なかやまさいこうだ。
取り敢えずは彼がこの話の主人公なのだが、彼は美少女ハーレムが欲しかったし、最強になりたかった。
でも彼は最強を目指すには、平均よりもかなり弱い上に、ナンパをする勇気も無ければ、ナンパするには通報ゾーンの顔をしていた。
結論から言えば、現実では無理だった。
だから、僕が考えたパーフェクト八幡になって、あらゆる世界で活躍して、あらゆる好みのヒロインを手に入れたかった。
現実の彼では何一つ達成出来ない事も、彼が似ていると称する八幡が達成してくれるのなら、彼が達成したのと同じだと彼は主張したのだ。
しかし八幡がハイスペックであらゆることを達成出来るのならもはや笹電黒狼とは無縁の存在だし、笹電黒狼と同じような存在なら八幡は何も達成出来ない存在のはずだ。
そのあまりの不毛さに私は告げた。
「君だって君自身の物語の主人公なんだからそれを誇れよ」
例え笹電黒狼の物語を見に来る人がいなくても。
例え笹電黒狼の物語にヒロインがいなくても。
例え笹電黒狼の物語に盛り上がりがなくても。
例え笹電黒狼の物語の評価がされなくても。
それでも笹電黒狼は彼の物語の主人公だ。
それを諦めて、実在せぬ八幡ではない八幡の物語を貼り付け続けるのだろうか?
いったい何が彼をそうさせたのか。
笹電黒狼の物語において、人気女性キャラクターとのカップリングに笹電黒狼の名前が無かったからなのか。
他の男性キャラクターとのカップリングはあっても、笹電黒狼とカップリングがある人気女性キャラクターのカップリングが何処かに無いかと、未だに不毛な検索でもしているのだろうか。
そもそも彼は人気女性キャラクターの事を理解していたのだろうか?
結局誰と結ばれたのか?
休み時間に毎回教室から居なくなっていた彼女の行方を、理解していた男達がいたのかどうか?
何故あのキャラクターが男子トイレにいたのか。
それを多くの男性キャラクターは知っていたのか。
何故男子トイレの一番奥が何時も混雑していたのか。
何故遠くの学校へ進学しなければいけなかったのか。
言わない方が良い事なのかもしれない。
彼は彼自身の物語に、何の期待もしていないのだという。
彼の物語の第一話からつまらなかったので、諦めたのだという。
私はそれではいけないと思った。
彼は彼自身の物語を続けなければならないと。
例え人気要素を使い果たしたから、余りものの不人気要素で作られたキャラクターであったとしても。
それは私の友人達によって、遂に止められた。
事実を突き付けると、笹電黒狼は暴力的な言葉を喚き散らして、結果その場所を出て行く事になると。
それでも私は彼に、彼は八幡ではなく、八幡は万能のヒーローではなく、万能には無縁な彼自身の物語を歩むように告げた。
その結果──────、彼は私の家に火を付けたのだ。
私は私を罵倒しながら火を付けた事を自白した彼を通報した。
そうして彼は、一般社会から追放されて刑務所に入った。
彼は刑務所で彼の物語を再開するだろうか?
それとも現実とは掛け離れた物語で己を慰めるのだろうか?
願わくば前者であって欲しいと私は祈った。
今の自分を諦めて、自分ではない何かに生まれ変わろうとしても、そんなことは出来ない。
今の自分を、生まれ変わった自分の下位互換と認めるなんて、そんな人生は虚しいだけだ。
今ある人生を最高の物語にしていこう。
読んでくれてありがとう。
感想・評価どんどん待ってます。