《死霊術師》の世界へようこそ   作:バベッジ

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あんきも


n重奏の夜:開演

 〈魔法少女とチョコレゐト〉。

 

 魔法少女が戦う世界観を作り出し、その敵役を使役する異能。

 

 創り出せる世界観の数、一度に使役できる敵役の数などには制約なし。

 

 ――これの所有者、栗鼠森 杜巣《りすもり もりす》こそが世界観を増やし散らかし、それらがラズベリーと凪砂達のみでは対処できないので手間をめちゃくちゃかけさせ、散々二人を振り回してきた《死霊術師》の敵の正体である。

 

 

 


 

 

 

「やっぱり本体は生身なんだから、殴れば殴れるんだよね」

 

「ドエーーーッだから我は確かに貴殿を襲いましたがそれはそれとして貴殿にそこまでキレる理由は友を殴られたから!?」

 

「いや、それもあるけど本命は別件」

 

「じゃあ知らないですぞ!?!?」

 

 

 

 私、栞凪凪砂は。今まさに、その栗鼠森杜巣と対峙し、執拗に追いかけ回していた。

 

 ちなみに名前は気が動転した向こうが自分から教えてくれた。この追いかけっこを「お友達になりたいけど話しかけ方が分からないから」の感じかと勘違いしたのかもしれない。

 

 しかし私の目的は当然そこにはなく、彼の異能の無力化にしか興味はない。いっぺんしばき回して捕獲して、ラズさんに回して、《死霊術師》の知らん術式で何とか剥いでもらう……そういう感じになるだろう。

 

 ただの異能者が悪意なく起こした事件ではあるものの、いつ事故に繋がるか分からないため対処は必要不可欠であるのだ。

 

 

 

「こんなところで死ぬなんてたまりませんな!! ええい、再生《プレイバック》!!」

 

「……!! 増えた!!」

 

「『氷塊伍號・永天』!! 『ピースマシン・シヨカナ』!! この女を何とかするんですぞ!!」

 

 

 

 もちろん向こうも無抵抗なわけではない。彼が両手の人差し指で虚空を指すと、その能力によって二体の怪物が現れる。

 

 片方がゴツゴツした氷の獣。もう片方は、ポップな色合いの浮遊機械。どちらも一軒家くらいのサイズはある。

 

 

 

(左側のほうが《月下氷人*プラトニックヘイル》。右側のほうが《魔暴少女ブラッディレイン》の敵)

 

(……あれ、さっき呼んでないよねそっちは。めんどくせっ)

 

 

 

 襲ってくる二匹の怪物は当然私の眼前に立ちふさがってきて、栗鼠森を追跡するのを妨害する。そしてそれは、この手で沈黙させることはできない。

 

 「生み出した敵は対応する魔法少女でしか倒せない」。その能力と制約が分かったとしても、《謳い手》世界観内においては絶対的な戦闘能力を有するし他の殆どの勢力に対しても対抗できる異常な強さだ。

 

 しばらく《謳い手》世界観内で一緒に動いてきた『Pop-in-Fever』なる連中は、栗鼠森が最初に沸かせた二匹の方の足止めをしてもらっているので、これは任せられない。ついでに言うと、本人も自分で乗る用の怪物――マジで見たこともない形をしてるので、また世界観を拵えたのかも――を用意して車くらいの速度で移動している。このままではまんまと逃げられるだろう。

 

 が。

 

 

 

「『陰陽道回路形成、紫炎の界に接続』『装束起動』『陰陽少女態形成』」

 

「えっ何ですか」

 

「倒せなくてもあんたをなんとかできれば別に問題ないんだよ、ね!!」

 

「ウワーーーーーッ股抜けしてえっというか変身してる―――――!?!?!?」

 

 

 

 陰陽少女隊としての姿に変身し、機動力を確保。二体の腕が交錯する隙間を無理やり潜り抜け、彼を追走する。一気に突き放された距離を、一気に詰め返す。

 

 二体はあわてて方向転換してくるが、もう道を阻んでくることはない。そうなればもう放置でOKだ、たまに飛んでくる遠距離攻撃に気をつける以上のことは追跡には必要ない。

 

 最初に変身してふりっふりのミニスカ改造和装出てきた時は流石に騙されてるんじゃないかと疑ったものだが、身体能力の上がり具合は本当に目覚ましいのでありがたい。【循環蘇生】も噛ませれば一歩一歩足ぶち壊す走り方してもいいのでなお最高。

 

 

 

(前は《死霊術師》一本で別にいいかな~って思ってたけど、軸になってるのはやっぱり陰陽系だし……)

 

 

 

 できることの幅が広がって嬉しい。《陰陽少女隊・言祝ぎ千鳥》……本当に復帰してよかった。

 

 

 


 

 

 

「そんな理由で喜んでるんじゃないわよ!! もっと……私たちと一緒に過ごせることとか!! そういうのを喜びなさいよ!!」

 

「奏殿、どうしたで御座るか? 急に大声など」

 

「あれじゃない、かな……千里眼」

 

「あいつそういう家系じゃなかった気がすんだけどな……んなことより行くぞ、《死霊術師》が増援呼んでやがる」

 

 

 


 

 

 

「よし、確保」

 

「ウギュッ」

 

 

 

 倒せない敵は撒けばいい。その方針が固まってからは早かった。

 

 ぽいぽい敵は出されるがそのたびに撒き散らかす。ついに追いついたと思ったら乗っていた怪物も喰らいつかんとしてきたので、栗鼠森を抱え上げさらに逃走。なんとかかなりの距離を取れたので、縛り上げて転がしたところで現在に至る。

 

 

 

「グ、グヌ……再《プレイバ》」

 

「ヤベ……物は試しっ」

 

「ゲーーッ!?」

 

 

 

 毎回指をさすモーションをするので試しに腕を折ってみたら、新たに出現するのは止まった。捕獲しておくのが爆裂に楽になったので嬉しい。

 

 

 

「んま、そういうことなんで。しばらく捕まっててください」

 

「どういうことですかな!?」

 

「うちの上司が来たら……まあ、処遇は確定すると思うんで」

 

「具体的な内容が何一つ知らされないまま概要だけ固まっていく! せめてなんでこんな風になってるかだけでも」

 

「いやです」

 

「ギーーーー」

 

 

 

 じたばたする男を放置し、自分もその辺に座り込む。今の座標と、追いかけっこの途中で出現した連中の座標はラズさんに送り付けておいた。しばらくすれば回収されるだろう。

 

 

 

「んま、最後は魔法少女にやられて……ってのは本望なんじゃないんすか?」

 

「それはまあ……いやそれはどうせ一年もすれば達成されるゆえ今は嫌ですぞ!? というか最後って」

 

「うるさい」

 

「ゲエッ」

 

 

 

 うるさくなってきたので腹パン。結界は貼ってあるので音を聞きつけた別の連中が侵入してくることはないはずだが、裏返せば相手が苦手でも外部と隔絶された空間に一緒にいなければならないということである。

 

 しばらくそのまま無言で座り込んでいたが、

 

 

 

「……しかしまあ、我も愚か極まりないというほどではないゆえ。ある程度の事情は推測できまするぞ」

 

「……へえ?」

 

「結論から言ってしまえば、さっさと殺してもらって構わないですな」

 

 

 

 向こうが、静かに口を開く。どうせ暇なのでなんとなく清聴。

 

 

 

「〈魔法少女とチョコレゐト〉……我の能力で作られた仔たちを倒せないと知り、本体を直で狙う方向にシフトした。単にそう考えるには、貴殿が魔法少女であることがノイズですぞ」

 

「ふむ」

 

「仔たちを倒すために、戦闘に混ざってきうる魔法少女のみなさん。彼女らと遭遇することは、これまでありませんでしたな。試運転のため現界させても、いつの間にか倒されている」

 

「……」

 

「それゆえ、もはや認識が噛み合わない違う世界にいるもの、と推測しておりました。……それでも最後は我が死ぬことで物語は終わる故、いつかは会えると信じておりましたが」

 

 

 

 ……世界観の違いや《死霊術師》の貼る結界の存在。それに思い至っていたのは少々想定外だが、納得感もある。自分が作っているのだから、そりゃあ通例よりも認識しやすいのだろう。

 

 

 

「故に『自分が魔法少女の元凶である』と認識している魔法少女は想定外であり……そうなる可能性もいくつかは思いつきますな」

 

「……」

 

「そして貴殿の衣装は、我が考案したどれとも異なりますな。それ故……」

 

 

 

 しかし、向こうは知らない。自分が生み出す以外にも、魔法少女がいることを。だから、

 

 

 

「たとえば将来、我が新たに作った魔法少女であったりしませんかな? そして、何かしらの権能で未来からやってきた」

 

「どうだか」

 

 

 

 結論は間違ったものとなる。

 

 もっとも、迂闊に否定はしない。否定したことで逆に真実に近づかれると面倒だからだ。

 

 

 

「それならまあ、納得いきますからな。未来から来たなら我が将来ラスボスとなることも知って当然」

 

「ふむ」

 

「そして殺害ではなく捕獲ということは、恐らく異能者の消滅による存在の消失を恐れたのだと思うのですが……実際それは不必要。我が死んでも貴殿らの物語は続きますぞ」

 

 

 

(……つまり今増えた分は増えっぱなし……ラズさん露骨に嫌そうな顔しそう)

 

 

 

「あと、我ある異能者によって蘇らされて、癖強い異能渡されて暴れさせられてる尖兵みたいなものですからな」

 

「えっ初耳」

 

「おや、では我の方を見て頂ければ。呼吸をしておりませんので、それで分かるのではありませんかな?」

 

「……ホントだ……」

 

「なので、魔法少女に殺されるのは本望でございますからな。むしろ成仏できるまでありますぞ」

 

 

 

 とはいえ想定の範疇ではある。事件解決を手伝ってくれたりした《ドリヰム・パレット》のユメミちゃんにいなくなられると逆に悲しいので、こっちの方がいいまである。蘇りの部分もセーフ、《死霊術師》が隠すのは完全蘇生であって死体のまま動くのは別に問題なし。

 

 まあ、大した情報も出なかったので想定通りラズさんに託して――

 

 

 

「でも、貴殿に殺されると他の仔らのラスボスにはなれないのが――」

 

「ん?」

 

「どうかしましたかな?」

 

「……あなた今、自分がラスボスになるって言ってませんでした?」

 

「おっと推測が外れた音がしましたがそれはそれとしてそうですな」

 

「どの世界でも?」

 

「まあそうですな」

 

「あの自分で作った連中と同じ括りになるってことですよね?」

 

「恐らくは」

 

「……倒せなくないですか?」

 

「? いや、対応する魔法少女の手で……」

 

「でも同時に、対応しない魔法少女のラスボスでもあるわけじゃないですか。んで、さっきの攻撃見るに魔法少女はたくさん生み出してて、そうなるともし対応する魔法少女が勝ち確の攻撃撃ったとして」

 

「……対応しない方の性質がトータルでは強いから死なない……????」

 

「あっもしかして気づいてなかったっすね??」

 

 

 

 栗鼠森は縛られたまま器用に頭を抱えるような動きをしているが、それも仕方がないことだろう。想定外というには詰めが甘すぎる気がするが。

 

 そして、自分も頭を抱えそうになっていた。そっとラズさんに通信する。

 

 

 

「……あの、ラズさん」

 

「もう着いたから直でいいわよ」

 

「うおっといきなり背後」

 

「で、何。特定の異能が元凶ってことだしさっさと異能剥奪処理かけて、山のような書類の片付けにさっさと移りたいんだけど」

 

「その異能剥奪処理って奴、あの手こずってた数々の怪物どもに使える感じですか」

 

「無理よ、手順の中に【殺害】めちゃくちゃ入ってるのよ? だから殺せない相手には通じないわ」

 

「詰んだ」

 

「何よ頭抱えて!!」

 

 

 

 残念なことに「抱えそう」から「抱えている」に進化してしまった。ちなみにラズさんにも「あの男おんなじ性質持ってるんでそれ通んないです」と説明したら全く同じ工程を踏んだ。

 

 

 

「えっじゃあどうすんの!? 自然死待ち!?」

 

「……しかしながら、その」

 

「うわっ気づかなかったその男誰……あっ」

 

「当人です」

 

「どうもであります。……そしてその、自然死も恐らくは……ラスボスは主人公にぶっ倒されるものなので……」

 

「は? 終わってるじゃないマジで」

 

「我としても本当に困っておりますな正直!! 我はただ魔法少女に殺されたかっただけでありますのに……!!」

 

 

 

 しばらくワイワイ言い合うはめになった。前提も共有していないラズさんと栗鼠森の口論がなぜか無限に激化する中、ふとあることに気づく。二人が気づく様子がないので、代わりに言う。

 

 

 

「あの、栗鼠森さん」

 

「……はい」

 

「我々、正直言っちゃうと魔法少女が増えると困る側の人間でして」

 

 一息。

 

「新しい魔法少女作らないでくれるなら、我々もう干渉しないんですけど」

 

「……ああ、なるほど。素直に伝えちゃう手があったわね」

 

 

 

 そう、ここまで解決困難なところまで来るともう直で交渉するしかないはずだ。そして先方の回答は、

 

 

 

「は? 嫌でありますが」

 

「決裂したじゃない、ナギサ」

 

「それだと我、新たな魔法少女も妄想できないまま死体として動き続けることになるんでありますぞ!? まだ世に出してないのも数多くあるとはいえ、敵役の生成数も魔法少女ごとに限られておりますので戦えもしませんし!!」

 

「しかもこの男自分のことしか言わないじゃない」

 

「その上その放置なる提案、魔法少女になっちゃった者はラスボスである我倒せないので永久に宿業から解放されませんぞ!?」

 

「訂正、ちゃんと考えてたわ。それは困るわね」

 

 

 

 そういうことだが、本当に困る。抵抗するなら拉致監禁して異能を使わせないのも視野に入れていたのだが、魔法少女サイドが解放されないのをラズさんが気にするなら使えない。

 

 しばらくみんなして考え込む……が。しばらくして、栗鼠森が思いついたかのように言う。

 

 

 

「……つかぬ事をお伺いしまするが」

 

「何すか」

 

「もしかして、我が生み出すほかにも魔法少女は実在するのですかな?」

 

「……あー、その……」

 

「しますよ」

 

「ナギサ!?」

 

「どうせ死んでるらしいし、成仏したがってるしいいじゃないすか。で、よく気づきましたね」

 

「ええまあ、魔法少女たる貴殿の存在が未来とも自分とも関係ないと分かれば……ちょっと感激しますな」

 

「泣くな!! 私だってナギサだって辛くて泣きそうなのよ、なんで嬉し泣きしてんのよ!!」

 

 

 

 私は別に、と言い出す前に向こうが言葉を紡ぐ。

 

 

 

「そういうことであれば、最終手段が取れますな」

 

「……ほう? 聞こうじゃない」

 

「我が、オールスター劇場版ボスとしての宿業も負います

 

「何?」

 

「すごいこと言い出してません?」

 

「つまるところ、異能の力で『数々の魔法少女が協力すれば倒せるボス』としての性質を得るんですな。これは元のに似ておりますので上書きできるかと」

 

「……なるほど?」

 

「多少制御が効かず暴れることになりかねませんが……それでも、誰にも倒せぬ怪物になり果てることはない」

 

 

 

 めちゃくちゃいいアイデアに聞こえる。ただ、その前振りがあったということは、

 

 

 

「もしかして、それ倒すにはあなたの管轄じゃない魔法少女が必要だった。だからためらってた!!」

 

「その通りでありますぞ!!しかし貴殿がいるなら」

 

「なるほど、承知しました」

 

 

 

 胸を張る。自分抜きで話が進んでいることに何か言いたげなラズさんを無視し、言う。

 

 

 

「ええ、きっちり魔法少女の頭数揃えてやりますよ。あんたをきっちり討伐してやります」




デス
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