《死霊術師》の世界へようこそ   作:バベッジ

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前話で主人公の名前にルビ振ってないのに気付いたので振ることにしました。栞凪凪砂(かんなぎ・なぎさ)とバーミリオン・ラズベリーです、以後よしなに。


《剣豪摩訶》を追いかけて

「ラズベリーさん。あの襲ってきた犬、どこの奴って言いましたっけ」

 

「襲って……あー、《死海連合》のことね」

 

「いつお礼参り行きます?」

 

「行かなくていい行かなくていい。アレは『うっかり深淵覗いて知識を得たはいいものの、根っこが善良な中学生な上技術も伴わない』の連中だから……犬も死体を目にしない限りは可愛いチワワだし、それ以外も脅威じゃないわ。時間かければ一人でもしばけるし」

 

「いえ、それはこの辺の書類で確認したんすけど……でもケジメってものが」

 

「なくていいなくていい。それより目立たないのが重要なの、《死霊術師》は」

 

「でも」

 

「もしかして私マジの狂犬拾った?」

 

 

 

 栞凪凪砂(かんなぎ・なぎさ)――私が《死霊術師》バーミリオン・ラズベリーに蘇らせられ、「することもないし彼女に協力するか」と決めてから早数日。

 

 私は彼女のねぐら(ボロッボロのアパートの一室。不動産屋の情報ではトイレも風呂も窓もないらしいが、彼女の部屋は時空が歪んでいてなんかめちゃくちゃ綺麗)に居着き、国内各勢力の知識を片っ端からインプットしたり、彼女の作った飯をかっ食らったり、寝たりしていた。

 

 

 

「あーあ……一瞬便利かなって思った私がバカだったわ……」

 

 

 

 こんなことを言っているが、私のことを追い出そうとはしない。むしろ適当に野宿でもしようとしていた私の腕を引っ掴んで引き止めてねぐらに連れ込み、「死霊術師として働くんだから」と言ってフリッフリの黒ゴス系の服(制服らしい。男はどうなるんだろう)まで貸してくれたのは彼女の方である。そもそもが別組織の尻拭いを勝手にする組織なのだ、魂の形が善良なのだろう。

 

 

 

「……何考えてるか知らないけど、適当なとこで寝られて、発見されて『生きてる』って知られたら面倒だから。それだけよ」

 

「え、挨拶しに行っちゃダメなんすか」

 

「ダメに決まってんでしょ……!! というかそんなことする気だったの!?」

 

「資料読むので忙しかったんでなかなか行けなくて……でも一応一通り目は通しましたよ」

 

「えっ全部……? ……でもそうね、それは……その素直に凄いというか……とにかく! 家に居てくれて良かったわ!」

 

「……なんでそんなに会いに行っちゃダメなんすか? 直接顔合わせたら術が解けて泥の塊になるとか?」

 

「……逆よ」

 

 

 

 ラズベリーさんは、ちょっと言いにくそうに、頭を搔きながら口を開く。

 

 

 

「……《死霊術師》の蘇生魔術って、文字通り『完璧』なの。一度蘇生したら寿命死まで持つし、なんかの妨害で止まることもないし、何なら寿命死でも若返らせて蘇生させられるし、情報収集式オフにすれば痕跡ほぼゼロだし」

 

「は?」

 

「そんなのが毎日元気に命の奪り合いしてる連中にバレたら、《死霊術師》は全員いいとこペット、悪ければ死ねもせず毎日切り刻まれることになるわけ。分かったかしら?」

 

「……なるほどぉ」

 

「……ちょっと引いてない?」

 

「や、凄すぎて言葉が出なくて。習得もさぞかし大変だったんだろうな、と……」

 

「でしょーーっ!?」

 

 

 

 チョロくて良かった。

 

 

 

「私みたいに16で実戦投入レベルまで活躍してるの、かーなーり希少なのよ! もうほんとに苦労を――」

 

「興味ありますけど、もう出るんじゃないんすか」

 

「じゃあ道中で解説したげるわ!」

 

 

 


 

 

 

「おー、さっっっぶ……!! この時間に警備のバイトなんてするもんじゃないわ、ホント」

 

 

 

 時刻は午前2時。俺は給料の良さに釣られたことを激しく後悔しながら、駅ビルを巡回していた。

 

 先輩は良い人揃いだがそれにしたって、という感じである。どうせ何も起こらないんだし、適当にサボって……と思ったとき。

 

 

 

――カン、ガキン、カンカンカン……

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 何か、鉄の塊がぶつかり合うような音が聞こえた。周囲に人の気配はなく、見えてる範囲でそんな音を立てそうなものもなく……

 

 

 

「……換気扇のダクトを通して、聞こえてきてる……?」

 

 

 

 真上を仰いでそれが目に入った瞬間にほぼ唯一の可能性に気づき、急いで管理室にあった図面を思い返す。この辺のダクトが繋がってるのは――屋上だ。持っててよかった、手癖の悪さと完全記憶能力。なければ気づいても辿れなかった。

 

 

 

「注意しなきゃだもんな、全く……よーし」

 

 

 

 息が上がるのにも構わず、階段を駆け上がって屋上を目指す。警備の仕事なんて本当は何もないのがいい……のは重々理解していたが、不謹慎にもワクワクが止まらない。ひょっとしたら見たらマズイものなのかもしれないが、それでも新しい世界を見たいのだ。昨日と同じ今日には飽き飽きなのだ。

 

 そうして、屋上一歩手前まで走りぬけ、最後の踊り場でターンしたところで、

 

 

 

「オラッ」

 

「うっぐへ」

 

 

 

 誰かに思いっきり腹を蹴られて、たまらず体がくの字に折れたところで頭にもっといい一撃を食らい、俺は意識を失った。

 

 

 


 

 

 

キンキン、ガギンガン、グワラグワラ。

 

 ドアを一つ挟んだ先の屋上から聞こえる、剣戟の重低音を聞きながら。私は気絶させた警備員の男の転がし方を模索していた。階段なので適当に置くとずり落ちていきそうで困る。

 

 

 

「やるじゃないナギサ。手際がいいわね」

 

「ラズさん、これどうしとけばいんすか」

 

「決定的瞬間を見たわけじゃないし、アレ食らえば記憶も飛ぶわよ。一旦そこに寝かしといて――ラズ? 私の名前がラズベリーだから?」

 

「ダメすか」

 

「……まあ、いいけど。どっちかって言うとそっちは名字で」

 

「唸れ『灘斬峠(なだぎりとうげ)』ッ! このビルをあの男の墓標に変えてやれ!」

 

「ノンノンだよそんなの、墓石は日本列島がすっぽり収まるくらいデッカいのって決めてるからね! 報いろ『彼鉈(かなた)』!」

 

「「うるさっ」」

 

 

 

 屋上で斬り合いをしていた連中がドアをぶち抜き、大声で煽り合いながらこちらに突っ込んできたことで私たちの会話は中断された。

 

 突っ込んできたとは言ったが、攻めに攻めている大柄な武人の方も、飄々と受け流すホストみたいな方も私たちに気づく気配はない。そのまま真横を通り過ぎ、階段を踏み砕き、壁に傷を残しながら駆け下りていった。

 

 

 

「……《剣豪摩訶》。『斬り合いにしか興味がない異常者の集まり。江戸時代から脈々と続く日本刀版ファイトクラブ』――ですっけ」

 

「あいつら異能もクソもないから目撃者対策が『見られたら鏖殺』しかないのよね……ホント、誰のおかげでバレずに済んでると思ってるのかしら」

 

「でもアレ概要読む限りだとバレたらバレたで生き生きと"証拠隠滅"しそうっすよね」

 

「本当に滅んでほしい……」

 

「……嘆いててもどうにもなりませんし、仕事始めましょ。教えてくれるんですよね?」

 

「……あー、そうね。そう……よし」

 

 

 

 猪みてえな暴走男どもに頭を抱えていたラズさんが立ち上がる。

 

 

 

「隠蔽対象、《剣豪摩訶》の白兵戦闘――やるわよナギサ。出勤までに間に合わせるわ」

 

「いよっしゃ、何だって命令してください」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「基本は壊れたところに【蘇生】当てるだけなんだけどね……【蘇生:内壁ssw4-5】っと」

 

「うお、ギュンギュン巻き戻ってる。この前も見たけどキモっ」

 

「また壊れるかもだけど、ちまちまやらないと間に合わないのよね……」

 

「私も出来たら早いんすけどね……いや、意外と……?」

 

「……どうかしら。呪力とかって《死霊術師》の基盤術力と同じ?」

 

「ワンチャンそう……あーでも、私の呪力、拳にしか詰められないんでミスるとただのパンチに」

 

「OK、今はやめときましょう。もう一遍壊れて気づかれたら目も当てらんないわ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「zzz……」

 

「あ、さっき拾った奴戻しときますね。そこ警備室なんで」

 

「ちょっとちょっと、普通に他の警備員いるでしょ。背負って入ったらバレ」

 

「……いや、杞憂っすねそれ。中に人いないっす」

 

「もう開けてんじゃ――ワンオペ? このサイズのビルを?」

 

「これ見てください。防犯カメラの映像なんですけど、ラズさんが直したエリア以外全部見えてないです」

 

「そういえばカメラ全部切り捨てられてたような……」

 

「シフト表見るにあと2人いて……たぶんカメラがぶった斬られたところで、ここに詰めてたのが確認に行っちゃったんだと思います」

 

「……で、戻って来てないってことは……ズバーーッと?」

 

「恐らく」

 

「最悪ッ…………!! 死体が二個!?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「拾ってきました」

 

「あーあー血まみれじゃないもう……下のフリフリは制服だし替えあるけど、そのジャンパー私物でしょ?」

 

「別に……気にしては……?」

 

「いいから後で洗うわよ……で、どこよ死体は」

 

「こっちの台車載せてきました」

 

「ウワッ真っ二つ……! 現代日本でやらないでよこんなの!!」

 

「『蘇生は完全』って豪語してたんで一瞬いいかなって思ったんですけど、どうせ片付けるんで上下回収してます」

 

「最高よ、おまけに30分で終わってるし。やっぱ肉体労働は得意なのに任すのがいいわね」

 

「目あった時はマジビビりしましたよホント。死霊術の人払いすごいっすね」

 

「でしょ――いや見えなくても怖すぎないそれ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『馬鹿にしやがってェ―――ッ!!!!!!』

 

「ウワーーーッ駅ビルの上部分が斜めにぶった切れて商店街の方に―――ッ!?!? 蘇生の手間が増え」

 

「――止めます、この前の呪力動かす奴ください!!」

 

「えっ、ちょっ、3階から飛んで……あーもう、【緊急蘇生:能力回路/30秒】!!」

 

「――破ッ!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「な……なんとかなりました……ラズさん……!!」

 

「う……うん……うわ、ホントに家潰すギリギリで止まってる……」

 

 

 

 飛び降りた駅ビルは西側の壁が完全に斬り捨てられており、反対側の窓ガラスの向こうで白み始めた空が見えるようになっていた。

 

 向こうの戦闘も終わったのか、金属音は止みラズさんも魔術でゆっくり降りてきた。長い長い夜だった。週刊連載マンガだったら単行本一冊分にはなる。

 

 

 

「その……つかぬことを伺うんだけど、どうやって止めて……?」

 

「……あー? 呪力パンチの衝撃をいい具合に流し込んで、とんがった部分を地面にぶっ刺して……」

 

「……途中で黙られると怖いんだけど」

 

「あ、じゃあ言っちゃうと自分でもよく分かんないです。なんで出来たんですかね」

 

「ごめん、そっちの方が怖いかも」

 

 

 

 そういうわけで、袈裟斬りで斜めに両断されたビルの上半分(正確には2階から最上階まで)は、私の努力によって、眼前でアスファルトに突き立って静止していた。

 

 正直自分でもよくやったと思う。「外壁のアスファルトぶっ壊さないように衝撃だけ下に流す」とか狙って出来る気しないし、そもそも真上から降ってくるこのサイズのものに対峙してるし、窓ガラスは壊れちゃったから降ってきた破片が痛いし。

 

 

 

「でもそのおかげで……ほら。一応向こうから見た時に違和感は感じない仕上がりじゃないですか?」

 

「それは……そうね。変に粉々になってたりしたらアイツら勘づきそうだし」

 

「……これ下手に復旧したら向こう勘づきますよね」

 

「じゃあどうしろってのよマジで……なんか、向こうの上の方で上手い事説明とか――」

 

 

 


 

 

 

――『花蘇芳落とし』。《剣豪摩訶》に伝わる、正真正銘“命の奪い合い”を目的とした立ち合い方式。

 

 

 

「……チェッ。番付上位、『剣刃』称号持ちなら……と思ったけどこんなもんか」

 

 

 

 剣刃十三位、名刀『灘斬峠』を扱う大男。彼こそがビルを砕くほどの一撃を放った張本人――であったのだが。

 

 今、彼の首は胴から離れ。対峙していたもう一人……二回りは体格の小さい優男、夕暮崎血祭(ゆうぐれざき・けっさい)の左手でポンポン投げて遊ばれていた。

 

 

 

「派手なのは最高だけど、ちょっと雑過ぎ。人斬りの業で人以外斬りに傾倒してどうすんのさ」

 

 

 

 今夜の花蘇芳落としにより、剣刃十三位の座は血祭の元に移動。18歳での剣刃就任は史上最年少のため名誉であるが、彼の顔は鬱々としている。

 

 

 

「あーあ。もっと長ーくイカれた連中と死合いたかったんだけどな」

 

 

 

 一言嘆いて、

 

 

 

「ちょろちょろ警備員の死体拾って回ってた奴ら斬り捨てて帰ろっと。変な感じしたけどまあ見つかるでしょ」

 

 

 

 「死霊術師の魔術を無視して捕捉している」という、ラズベリーが聞いたら卒倒しそうなセリフと共に歩き出す。

 

 そう、獣めいて研ぎ澄まされた第六感を持つ人類の上澄みの方は、大抵の気配を察知できるのだ。その上澄みに遭遇しないと気づけず、気づいても共有前に斬り殺されるため死霊術師間では広まっていない。

 

 とは言え、彼の第六感はこの戦いで目覚めたばかりだ。戦闘中の集中力でないと上限値は出せず、それ故に今の気が抜けた状態では見つけることはできない。適当に諦めて昼ごろに帰ることになる。

 

 

 

「『彼鉈』もお疲れー。帰ったら綺麗に研いだげるからね」

 

 

 

 そのはずであった。

 

 

 


 

 

 

 ……ヴーーーーーッ!! ヴーーーーーッ!!

 

 《陰陽少女隊:言祝ぎ千鳥》の『白海の巫女』、桐野奏の自宅。

 物の少ない落ち着いた部屋に、スマホのバイブ音が響く。……朝4時に。

 

 

 

「……うっさい太郎丸!! 今何時だと思って」

 

『凪砂殿の呪力がしたで御座る!! 駅の方から!!』

 

「2分で行くわ。みなせとミカは?」

 

『二人とも不眠症になっちゃった故“ちゃっと”のみにて反応したで御座る』

 

 

 

 変化の呪符(起動すると改造和装のコスチュームを着装できる)と連絡用のスマホを引っ掴み、鍵もかけずに家を飛び出す。

 

 

 

「――全く心配させんじゃないわよ、凪砂のバカ……!!」

 

 

 

 とはいえ《言祝ぎ千鳥》には、第六感を持つものがいない。呪力に気づいた太郎丸も、その力は陰陽師の名家の生まれゆえ仕込まれた技術だ。ルーツの異なる《死霊術師》の術式を知識0から辿りはできない。

 

 奏はそのことを知らず――あるいは、知っていたとしても走り出したかもしれないが。そもそも《死霊術師》に気づけていない彼女たちの努力は、無駄足に終わるだろう。

 

 

 

「――『陰陽道回路形成、白海の界に接続』『装束起動』『陰陽少女態形成』――!!」

 

 

 

 そのはずであった。

 

 

 


 

 

 

「ン、ンン……少々心苦しいですが、これもやがて来たる戦いへの下準備というわけですな」

 

「では、再生(プレイバック)としますか――〈魔法少女とチョコレゐト〉

 

 

 


 

 

 

 ――その瞬間。空が暗転し、幼稚園児の絵のような月と星が昇った。

 

 

 

「……ほお? 面白いじゃん」

 

 

 

「――見つけたわよ太郎丸! アレも凪砂でなんかしてる怨霊魔女の仕業!?」

 

「いっいや怨霊魔女の気配ないで御座るよ!? 出現周期も合わないで御座るし!!」

 

 

 

「わっ、大規模。こういうの資料では見てない気します」

 

「……あー……最悪」

 

「どうしたんすかラズさん。犯人がまた厄介な勢力なんすか」

 

「……似たようなもんね。無知は最大の敵っていうし」

 

「?」

 

 

 

「――新規発生の世界観(テクスチャ)よ、アレ。めんどくさいタイプの残業になるわ」

 

 

 

 落書きの夜は駅の周囲を包むようなドーム状に広がり、その中心でカラスのような落書きが蠢きだす。

 

 夜は――それも、4つの世界観が交雑する夜は。まだまだ終わらない。

 

 

 




風呂敷デカくない?(素朴な疑問)
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