《死霊術師》の世界へようこそ   作:バベッジ

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2月、暇かも それはそれとして計画的な書き溜めはできない


四重奏(死霊術師×剣豪×陰陽魔法少女×???)の夜:終幕

 住宅地が上下に分かれる。

 

 アスファルトが切り裂かれ、水道管が断裂し水が噴き出す。

 

 その噴き出した水が真っ赤に染まる。私の血の色だ。

 

 頸動脈からそれが噴き出し、意識が急速に失われていく。というかこれ首だけになってるな私。

 

 さっきまでならこれで戦闘不能だった、が。今の私は【循環蘇生】をその身に受けている。

 

 

「て、め……」

 

「喉裂けてんだから喋らないほうがいいよ~、っと」

 

「――いいんすよ、どうせ蘇るん、です、から!!」

 

 

 

 自動的に呪力で繋がれた経路を通し、意識を脳から離す。

 

 下に残された胴の方から首をぐいっと生やし、蘇生。視神経などが新造なためか、殆どない光に目が眩む。

 

 が、問題なし。切り離された直後に確認した位置関係を元に、大きく踏み込む。狙いは胴、デカくてふらついた状態でも狙いやすいから。

 

 

 

「恐み恐みッ――!?」

 

「申し訳ないけどさっきも見た。もっとバリエーションがないと格上にはノンノンだぜ」

 

「誰が格上っ……!!」

 

 

 

 しかし刀の峰で完璧に受けられ、アドバイスまでされる。

 

 戦闘開始から5分。私、栞凪凪砂は未だに、《剣豪摩訶》の男に一撃も食らわせられていなかった。

 

 自分は結局のところ力に急に目覚めた女子高生に過ぎないということと、だとすると相手が鍛錬しすぎだろと身に沁みて感じる。噛みついたはいいものの格上なのは間違いない。

 

 

 

「例えば、うーん――丁度真っ二つにしたら二人に増えちゃったりしない?」

 

「ガッ」

 

 

 

 そう言いながら、正中線に沿って分かたれる。

 

 

 

「……あー畜生、増えれねえっすねえ!!」

 

「残念」

 

 

 

 一瞬の検証は挟むが、蘇ったのは右側のみ。当然のようにもう一度細切れにされたので、一旦距離を取るために遠くに飛んだ破片から蘇生――成功。男を見据えながら立つ。

 

 

 

「……『一番大きい破片が蘇生するわけではない』、なるほどね」

 

「……なんかパターン見つけようとしてます?」

 

「そりゃそうだよ、あのデカいのの練習台になってもらわなきゃ」

 

「強いのに向上心もある最悪の敵だ……」

 

 

 

 彼が剣で指したのは、遠くで暴れ続けている鴉の怪物。誰か――たぶんさっき話した屋良ユメミ女史が相手としてあてがわれたおかげか、戦闘の余波はこちらには流れてこない。

 

 

 

「ぶっちゃけアレと私ら技術体系違うんで参考にならないっすよ」

 

「ノンノン、発想が貧弱だね。いつも相手取ってる剣士よりは化け物寄りだ、掴めることは沢山ある」

 

「……」

 

 

 

 彼我の距離は10mと少し。ぶっちゃけ呪力込みなら一歩で踏み込めるので攻めることも考えたが、向こうは大げさにジェスチャーしてるくせに隙が一切ない。

 

 ただ幸いなことに、話している内容の限りでは向こうももう少しは付き合う気であるようだ。攻め手を一旦譲り、蘇生に任せたカウンターでのダメージを狙う。相手から目を離さず、呪力は右手に集中させ、

 

 

 

「――それに」

 

「……急急如律令ッ!?」

 

 

 

 実際に向こうが踏み込んで来た瞬間にあり得ないほどの悪寒が走り、構えた攻撃を第六感に任せて()()()()()()()()()()()

 

 結果として、私の五体は爆散する。カウンターチャンスは完全に失われたが、繰り出された袈裟斬りの直撃は回避できた。

 

 

 

「おー、気合いの入った回避方法……うわーっ返り血飲んじゃった、キモっ……!!」

 

 

 

 遠くの破片から蘇りつつ、思考を高速で回す。全身が「アレを受けてはいけない」と危険信号を出した理由を、ようやく理解する。

 

 爆散によって生じた破片のうち半分くらいは、斬撃の軌道上に残っていたので真っ二つにされて立っていた位置にボトボト落ちている。

 

 それらに呪力のパスが繋がらない。意識は送れなくなるので、あの破片からはもはや蘇生は不可能だ。

 

 

 

「やっぱりわざわざ啜りに行く連中おかしいって、こんなの……『彼鉈』もそう思う?」

 

「……【()()()()()。《 ()()()()()()()()()()()?」

 

「ん? あーうん。筋肉とか空気とかの動きとは違うのが動いてたから、斬ってみた」

 

 

 

 その調子だと大当たりっぽいね、と笑いかけられる。こちらとしては一切笑い事ではない。

 

 こちらの不死を破る方法が見つけられたとなると、話がまるっきり変わってくる。

 

 さっきまでのような自傷上等の攻撃は使えない。カウンターもキツイ、一欠片でも無事な破片がないと戦闘不能になる。そうなれば向こうの黒い化け物のところに突っ込んでいくだろうから、再びぐちゃぐちゃになってラズさんでもロールバックできないレベルの被害に繋がる。

 

 

 

「……本当に最悪。なんで呪力とか術式とか、認識できんもの斬ってんすか……!!」

 

「意外と斬れば分かるもんだぜ、そらそらっ」

 

「危なっ」

 

 

 

 軽い攻撃だが、「当たったら欠損する」という事実を恐れてしまう。バランス感覚を崩したところでの完封がよぎり、大きく飛びのいての回避を選んでしまう。

 

 戦況は、かなりジリ貧な状況に陥っていた。

 

 

 

「……まあ、ここで戦えば戦うだけラズさんのためになるんで。死ぬ気でやりますか」

 

 

 


 

 

 

 一方。バーミリオン・ラズベリーは、

 

 

 

「凪砂、ちゃんを、返せっ……!!」

 

「それに無辜の民まで巻き込みやがって、ふざっけんじゃあねえぞ!!」

 

「貴女たちさっきまで()()()()にされてなかった!? 元気すぎないかしら!?」

 

「ささがきって何かしら」

 

「金平牛蒡の切り方で御座るよ……あ、恐み恐み申す」

 

 

 

 現行《陰陽少女隊・言祝ぎ千鳥》のフルメンバー、4人総出での襲撃を全力でしのいでいた。

 

 先ほどまでいた屋良ユメミ邸をこれ以上ぶっ壊すわけにはいかないという理性か、その辺の壊れた物品に【蘇生】を絡めて想像の外側に位置する攻撃を送られることを嫌ってか、彼女たちはラズベリーを連れまわすような戦術を取っていた。

 

 みなせとミカ――先ほど血祭にボコボコにされていた二人組――が回復したので再度前線を張り、奏と太郎丸――先ほどラズベリーを追い掛け回していた二人組――が支援をし、遠距離攻撃で退路を制限している。実際この戦法によって、ラズベリーは数十メートル離れた公園まで連れまわされていた。

 

 

 

「ったく、こちとら貴女たちみたく戦闘専門じゃないのよ……っ!!」

 

「それ分かってるからそこ突いてるに決まってんだよなあ!!」

 

「動きが鈍って来てるわ、畳み掛けるわよ……!!」

 

 

 

 彼女たちの指摘は正しい。人数有利を取っている陰陽少女隊側は、常に全力で立ち回ることを求められるラズベリーと比べて回復を図る時間を交代で取れる。おまけに、

 

 

 

(……肉弾戦が思ったより巧い。これあの男に揉まれて強くなったパターンね?)

 

 

 

 向こう側の近接戦メンバーが、ラズベリーの想定以上に出力が出ている。長丁場と死の際をくぐったことでアドレナリンが出まくっているのか、凪砂が言っていた『ピンチに強い』が本当に強くなるタイプだったのか、彼女の想像通り強者にあてられたかは分からないが……苦しくなることには変わりない。

 

 おまけに遠距離から狙ってくる連中がこっちと対峙した経験を生かしてくるので本当にいやらしい。このまま戦闘が進行したならば、後数分のうちに全身バキバキに破壊されて捕獲、拷問が開始していたであろう。

 

 

 

 ただ、陰陽少女隊側に誤算があったとすれば。

 

 

 

「……これ、エグイ量の始末書いるから本当はやりたくなかったんだけど……しょうがないわね」

 

 

 

 本人が自覚しているように、確かに《死霊術師》の本懐は戦闘ではない。

 

 

 

「何か来るで御座る!! その前に仕留めるで御座るよ、急急如律令ッ!!」

 

「――【瞬間蘇生:時限殺害実体m-134-32-A】【瞬間殺害:間隙321】

 

「っ!?」

 

 

 

 だがそれは戦闘が不可能であることとイコールであるわけではなく――

 

 ――むしろ、自分と相手の戦闘能力を把握している情報アドバンテージ分だけ有利である場合がある。

 

 

 

「『《陰陽少女隊・言祝ぎ千鳥》の攻撃は、怨霊魔女と呼ばれる霊的実体を対象とするが人間にも効く』……そうよね?」

 

「……ハーーッ……ハーーッ……お、前……!!」

 

「な……」

 

 

 

 太郎丸が撃った攻撃は、射線を遮るように割り込んだみなせの背に直撃した。

 

 なぜそのようなことをしたのか? その理由は、単純である。

 

 ――ラズベリーが実体破壊処理を解除し、斜線上に子供を盾として配置したのだ。

 

 ラズベリーは、それで死んだとしても万全に蘇生できることを知っている。……が。向こうはそれをきちんと知っているわけではないし、理解していたとしても割り切って攻撃できるほど大人ではない。

 

 

 

「ふざけ、やがって……!!」

 

「……? お姉ちゃん、だれ……」

 

「はいはいおやすみなさい、【殺害:記憶×全意識1h】

 

「死……死っ、そんな、あの時……」

 

「そっちは精神科行きなさいな、【殺害:記憶×全意識1h】

 

 

 

 精神の激しい動揺は、逆転の要因として十分すぎた。

 

 傷を負ったみなせと庇われた子供の記憶と意識を奪い、トラウマがぶり返して動きが止まったミカも流れるように無力化。

 

 

 

「……『さぶぷらん』に移行! 吶喊に御座るよ!」

 

「え、ええ……!! 恐み恐み申すっ!!」

 

 

 

 後方要員として立ち回っていた奏と太郎丸が突撃に切り替え打ち込んできた拳に対しては、

 

 

 

「……畳み掛けられないなら、【循環蘇生】のリジェネで間に合うのよ」

 

「……ようやるで御座るな」

 

「酷いギミックね」

 

【殺害:記憶×全意識1h】。はいおやすみ」

 

 

 

 ボディで受けて【循環蘇生】で回復、肉体が生えてくるのでそれで攻撃に使った腕を絡めとり、記憶処理。

 

 かくして、こちらの戦闘は一瞬のうちに終了した。近くの戦闘音が止み、遠くで起こっている剣戟と怪物の絶叫が良く聞こえるようになる

 

 

 

「……そろそろ向こうも決着したかしら。折角だし向かって……」

 

 

 

 そう言って、走り出そうとして。

 

 

 

「……嘘。この子戻さないといけないわね」

 

「【蘇生】で全部の運命ひっくり返せるのはいいけど、死生観とか一般人の扱いとかが雑になるのだけはよくないわよね……」

 

 

 

 今は気を失っている、盾として呼び出した少年を拾いあげ。家に帰すため、ちゃんとした座標を調べ始めた。

 

 

 


 

 

 

「はい、これにて御仕舞」

 

「――」

 

 

 

 夕暮崎血祭が【循環蘇生】を破る方法を見出して、3分26秒。

 

 栞凪凪砂は172個の肉片に分かたれ、一切動かなくなっていた。

 

 

 

「途中から恐れずにカウンター狙うようになったのは偉かったし、痛みを気にしないのは良かったんだけどねえ……謎パワーに任せるのもいいけど、やっぱり基礎技術も鍛えたほうがいいぜ」

 

「……んー? どうしたの『彼鉈』、死んでるのに講評しても意味ないって?」

 

「プラナリアみたいな連中だ、もしかすると味方が何かすると蘇ってくるかもしれない」

 

「となると意識がこの辺に残っててもおかしくないだろ? 俺ってばやっさしい~」

 

 

 

 右手に握られた日本刀も、口がついた肉片(3つくらいはある)も返事を返すことはない。当人も分かっているのか、適当に切り上げて暴れていた怪物を見やる。

 

 

 

「……なんか調伏されかかってるなあ?」

 

「えー……鼻先で浮いてる子、斬ったら仕切りなおせるかなあ……」

 

 

 

 「生かしておいてはめちゃくちゃにされる」という凪砂の懸念が正しかったことを裏付ける発言をホイホイしながら、得物を拭いて納刀。

 

 いずれ蘇生されるだろうとは言ったものの、血祭はその心配はしておらず、ただ黒い怪物とサシでやり合う方法を考えていた。

 

 人の気配はないので、さっき押し付けてきた女が即座に蘇生させる心配はなし。術式ごと斬られた肉片から蘇ってくる様子はないし、蘇れるのだとしてもどの肉片からも距離があるので十分斬り返せる。おまけに向こうが自爆してできた肉片も全部刺し貫いて殺してあるので――

 

 

 

「――――」

 

 

 

 その時。血祭は気づいた。気づいてしまった。

 

 

 

(待て)

 

(まだ術式の影響下にあるあの女のパーツが、俺の近くに残って――)

 

 

 

 

 瞬間、夕暮崎血祭は一瞬の迷いもなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 実際、その判断は正しかった。あと数瞬早く天啓が降りていたなら、勝利が彼の手から零れることはなかったであろう。

 

 だが現実は非情である。割腹は間に合わなかった。うっかり飲んでしまったそれを完全に排出することは叶わず、自力での爆散で発生したものである故にそれに仕込まれた術式は切断されておらず。

 

 

 

「――やりやがったね君!!」

 

「賭けとしては分が悪い方でしたよ流石に……!!」

 

 

 

 ――結果として。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 身長171cm、体重68kg。人間一人を壊すには十分すぎる大きさの肉塊が、血祭の体を内側から蹂躙する。臓器が次々と破壊され、当然のように再生しない。

 

 あっぱれと言うべきか、それでもなお相打ちに持ち込まんと右手が高速で振るわれるが、

 

 

 

「――恐み恐み申す」

 

 

 

 これまで煮え湯を飲まされ続けてきた栞凪凪砂は、それを読み切ることに成功し。

 

 予め用意していた掌打によって刀を握る腕の肘を破壊し、斬撃を左腕が吹き飛ぶ程度に収めた。

 

 なおも数多の反撃手段が脳裏をよぎるが、もはや体が動かない。

 

 

 

「……自分の技術でどうにかしたとこ、最後しかない上にマジでギリギリっすね。ダサくてすいません」

 

「……ノン、ノン……見事、だ……!! 配られた、手札で、よく、勝負しきった……!! ミスした俺の負けだ……!!」

 

「そんなめちゃくちゃな体でそんなに喋れるの怖すぎる」

 

 

 

 かくして、至近距離で、自分に辛勝を収めた女の顔を眺めながら。夕暮崎血祭はその意識と命を手放した。

 

 

 

「……ま、ラズさんが記憶消して蘇らせるんですけどね。今から呼ぶのでしばらく寝てて……あっしまった、当然っちゃ当然だけどスマホ斬れてる」

 

『……あー、あー。終わったっぽいわね?』

 

「うわっ頭の中に声が響くっ……ラズさん?」

 

『そういう術式で通信もできるの。古巣への連絡用に電話蘇生しなくてすむように今度教えてあげるわ』

 

「おおー、助かります」

 

『若干の皮肉じゃびくともしないの忘れてた……まあいいわ、あのデカブツの方見なさい』

 

 

 

 そう通信が入ったので、ふっと振り向く。

 

 そこには、中空に浮かぶ純白衣装の少女と、彼女に傅くさっきまで暴れ倒していた怪物の姿があった。

 

 

 

「……うまいことやった、ってことでいいんですか?」

 

『みたいね。一応事情は聞きに行くけど……反応は薄れつつあるし、空もほら』

 

「……本当だ。ドーム薄れてってますね」

 

『朝日もだいぶ昇ってきちゃったわね、ホント』

 

 

 

 落書きみたいな夜空は霧散していく。怪物は光を放ちながら小さく収縮していく。

 

 朝日はほとんど昇り切り、空は真っ白と青の二色を取り戻し。その中に、白の少女――ユメミが揺蕩っているのが見える。あ、今こっち気づいて手振ってる。

 

 ――とにかく。ようやく、変に滅茶苦茶になった長い長い夜は、《死霊術師》の勝利という形で終わったのだ。

 

 

 

「んじゃ、倒壊したビル直して全員の記憶処置して終わりですかね」

 

『あ゛っそうじゃん序盤で《剣豪摩訶》がビルぶっ壊したの忘れてた……!!』

 

「安心してください、そいつらの記憶処置はやりやすいですよ。私がさっきやり合って殺したんで抵抗しないっす」

 

『貴女の倫理観本当に心配になるけどそれはそれとしてちょっと元気出てきたわ』

 

「じゃあちゃっちゃかやりましょう。何だって手伝いますよ」




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