《死霊術師》の世界へようこそ   作:バベッジ

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投稿間に合いの刃 無限TRPG編


《魔暴少女ブラッディレイン》にこんにちは

 私――栞凪凪砂は、一度部屋を見回す。

 

 洋風の部屋はボロアパートの畳敷きワンルームだったところに術をかけて拡張したものらしいが、5人も6人も招き入れる前提での改造はされていないのだろう。円形のテーブルはそこまで広くないし椅子も4脚しかない。《死霊術師》側が私とラズさん、《陰陽少女隊》側が奏・太郎丸・みなせ・ミカの計6人なので深刻である。

 

 ただまあ、今回についてはその問題は無視していい。

 

 

 

「資料届いたっすね。じゃあちょっと説明をば」

 

「――待った待った待った!! 雇用主吊るしたまんま会議始める奴がどの世界観にいんのよ!?!?」

 

「……あー……暴力に訴えたのは悪かった、から、俺の方もよければ……」

 

「椅子無いんでしばらくそのままでお願いします」

 

「マジでふざけてるだろこの女」

 

「ナギサ、今回に関しては『この女』呼ばわりされてるの流石に擁護できないわよ」

 

「呼び方はどうでもいいので話進めますね」

 

「「ヤッバ」」

 

 

 

 そういうわけである。

 

 というかまあ、喧嘩してたのをわざわざ解き放つ必要もないだろう。話は若干めんどくさいので揉められても困るのだ。

 

 

 

「でまあ、さっきも言った通り。この前の新興世界観魔法少女みたいな事例がめちゃくちゃ増えそうです」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ラズさん、世界観名簿って暗記してます? あの、国内でバトってる連中を一覧にしたやつ」

 

「そうね。というか《ドリヰム・パレット》の項目に至ってはこの前自分で出したわ」

 

「じゃあ《魔暴少女ブラッディレイン》って知ってます?」

 

「……知らないわね」

 

「《月下氷刃*プラトニックヘイル》は」

 

「……そんなのいた?」

 

 

 

 バーミリオン・ラズベリーは、栞凪凪砂が「まあそうだろう」みたいな顔をするのを見た。

 

 眼下で座っている連中は「世界観って何?」「さっき資料かっぱらってきた」などと不穏な発言をしてたが、個人的にはそれどころではない。

 

 前回の事件は滅茶苦茶大変な例だが、そうでなくても世界観が増えるのは一大事である。それを把握できていない?

 

 

 

「今挙げたの2つは、ここ1週間で出てきた連中です。《ドリヰム・パレット》含みだと1週間で3体。配った資料にのっけた過去の記録と比べると時期も数も――」

 

「――待った」

 

 

 

 手を挙げて質問しようとしたが縛られて動けない。その前に《陰陽少女隊》の少女が声を上げた……カナデとミカと言ったか。

 

 

 

「……なんか変じゃない、凪砂? あんたがこの女の下で働き始めたの2、3週間そこらの話でしょ? 技術習い出したのはもうちょっと後よね?」

 

「……なるほど確かに。なんでそれで雇用主――もっと術式の扱いとか、仕事の立ち回りに慣れてる人間の知らない情報掴んでるで御座るか?」

 

「だよ、ね……なんか、騙されて……?」

 

「ああ、それなら簡単」

 

 

 

 至極当然の疑問に、ナギサは至極当然と言わんばかりに返す。

 

 

 

「《死霊術師》の索敵術式って相手の名前出る上に教本載ってるんですよ。それ覚えて色々やってたんですよ」

 

「……その術式って緑の教本の? 私ずっと回してたけど知らないわよ?」

 

「つっても書類に追われて張りついてたわけじゃないっすよね? なんで、書類の方に集中できるようにアラート切って私だけで対処を」

 

「はあ!?!?!?!?」

 

 

 

 めちゃくちゃデカい声が出てしまった。

 

 

 

「……どのくらいヤバいんだ、それ?」

 

「じゃあ聞くけど貴女ら『仲間の凪砂が陰陽魔女を自分だけ見つけられるように術式改造して勝手に向かってた』って聞いたらどう思う?」

 

「……凪砂、お前」

 

「分かったでしょ?」

 

「……いや、その……」

 

「何?」

 

 

 

 質問をしてきたミナセなる少女が、何かを言いよどむ。

 

 

 

「……コイツ、この前もそれやらかしてて……何が悪いって、それで死んで《陰陽少女隊》辞めてるので……」

 

「再犯!?!?!??!?!?!?!?!?!?」

 

「分かりました?私たちの気持ち」

 

「う……おえ……」

 

「凪砂殿!! ミカ殿はこのまえので“ぴーてぃーえすでぃー”患ってるんで御座るよ!?」

 

「反省しなさいよ!!!! 正座!!!!」

 

「……ごめんなさい」

 

 

 

 途端に下も阿鼻叫喚になり、ナギサがすごい勢いで詰められていた。実際そのくらいキレても問題ないラインではあるし、自分もそのくらいキレてるので止めたりする気はない……

 

 

 

「でもちゃんと反省して、今回に関しては自力での最低限の【蘇生】ができるようにしたし、【循環蘇生】も自力でかけ直したし……」

 

「心配かけさせた時点でダメなのよ……!! だいたいいっつも凪砂は――」

 

「えっもうそんな術式使えるの?」

 

「アンタ話の本筋じゃないところで引っかかってないか?」

 

 

 

 とは言っても【循環蘇生】は結構高位な術式のはずだ。何なら彼女の単独行動も露呈していないし、魔法少女が出たという噂も流れていない……つまり【蘇生】を更に応用した各種の記憶処理術式すら習得している可能性が高い。技術という点では本当にとびきりの逸材なのだろう。

 

 そうなると彼女は報告こそ怠ったとはいえ、死霊術師としての仕事を完璧にしたことになる、ので……

 

 

 

「だいたいアンタは今仕事でそれやってるんでしょ?! 友達巻き込むの恐れるならまだいいけど、せめて業務上の同僚なら――」

 

「……あー……カナデとか言ったかしら。私そこまで怒ってないわよ」

 

「私が怒ってるんですよ!!」

 

「じゃあ後で2時間でも12時間でも説教なさい。まあ私の方でもしっかり言ってはおくけど……私たちの方の仕事は、内容だけはちゃんとやってたらしいし」

 

「……この人……凪砂ちゃんに、甘すぎない、かな……うぷ」

 

「よしよし……まあこのラズベリー殿は我が技術盗み見たのもなんか流してるで御座るからな」

 

「聞こえてるわよ」

 

「聞こえてても放置してたら意味ないで御座るよ」

 

 

 

 外野がうるさい。

 

 

 

「……で。話戻すんだけど、ナギサはそれの何がマズイと思ってるのか教えて」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 栞凪凪砂は、ラズベリーが一気に仕事モードに切り替わったのを見た。

 

 

 

(これは……アレか。さっきちらっと言った協力要請の意図が知りたいのか)

 

 

 

 そう判断し、途中で話そうとしていた諸々の経緯とかの内容を中略、見せたい部分の資料をめくる。

 

 

 

「この前の《ドリヰム・パレット》の時のこと、ラズさんは覚えてますよね」

 

「もちろん」

 

「……凪砂。仕事頼むならせめて説明はちゃんとしてくれないと」

 

「あーごめん。端的に言うと、この前《陰陽少女隊》と《死霊術師》がやりあった戦闘の途中で発生した魔法少女」

 

「……戦闘、やっぱりあったんだ……」

 

「? 貴女たちの記憶は消してるけど……ああ」

 

 

 

 一瞬ラズさんの顔に疑問が浮かぶが、すぐさま納得の色に変わる。

 

 

 

「服に仕込んだ奴からの逆算ね。それを仕込めてるってことは、どっかで戦ってるから」

 

「……あ、はい。一応、そういう予測が立ってて」

 

「話の腰折って悪かったわね。――で、《ドリヰム・パレット》の話を出したってことは」

 

 

 

 私は返答する。

 

 

 

「はい。出現した敵性存在には、それに対応する世界観の魔法少女の攻撃しか通りませんでした」

 

「……それって変、なのか? 一応俺たちも、『こうやって変身して戦闘しないと渡り合えない』って触れ込みで勧誘されてんだけど」

 

「……そういえば、そういう感性だったわね。こうなると純粋培養の死霊術師が変なのかもしれないわ」

 

 

 

 そう言うと、ラズさんは太郎丸の方を向く。

 

 

 

「貴女、術式とか詳しいわよね?」

 

「この中ではそうで御座るな」

 

「なんで陰陽魔女とかいう敵は自分たちじゃないと倒せないか言える?」

 

「企業秘密……というにはそっちの秘密抜きすぎてるで御座るからな。『陰陽魔女の封印が可能な呪力特性は一部の少女しか持たず、それに巨体と渡り合えるような肉体強化を積んだらこうなった』で御座る」

 

「じゃあその呪力誤魔化せたら私にも倒せるわよね」

 

「だからそれが現状は無理ゆえ――」

 

「――もしかして、そっちの技術力なら。それ、が、()()()()()?」

 

 

 

 太郎丸の説明を遮ったミカの言葉に、ラズさんは肯定の意を込めて頷く。

 

 

 

「有体に言えばそうね。戦闘特化ではないから時間はかかるけど、【蘇生】もあるし大体は相手取れるわ」

 

「……末恐ろしいで御座るな」

 

「人体エネルギーの練り方改造するだけだから、いつかは貴女たちもその領域叩くことになるわよ。ちなみに魔術無効とかでも核兵器引っ張ってくれば無理矢理圧殺できるわ」

 

「おっそろしいで御座るなホントに……!」

 

 

 

 ラズさんは自慢げな顔をしているが、本題はそこではない。

 

 

 

「で、その先の2……3例ですね。の場合だと、それが通りません。『もっと高位、概念的な特性としてそうなってる』ってラズさんに教わりました」

 

「なるほど……」

 

「新規発生世界観の初戦は、どんな勢力でも完璧な記憶処理や人払いができません。そのため《死霊術師》がいっぺん倒し、それを元にどんなにミスってもいい練習台を作るとのことでした……が」

 

「……話が読めてきたわ。要はその『いっぺん倒す』ができないせいで業務に支障が出るのね」

 

 

 

 奏の発言に大きく頷く。

 

 

 

「正解。『人払い無しで無理矢理張本人を探し出す』みたいな手法しか取れないんだけど、これが嵩むと面倒になる」

 

「――ちょっといいかしら」

 

 

 

 と、ここでラズさんから横やりが入る。

 

 

 

「はいどうぞ」

 

「貴女、この人たち引き込むつもりなのよね? 分かってるかもしれないけど、それだけだとそこまでする理由にはならないわ」

 

「……? 一大事、なんじゃないの……?」

 

「確かにそうだけど、でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ラズさんは事もなげに言う。

 

 

 

「負担は増えるから嫌がられるけど、呼べば一応人は来る。ナギサだって働いてくれるんだから人数はむしろ余るくらい、それで解決するはずよ」

 

「……」

 

「何その目は」

 

「……いえ、その……失礼ながら、頭のどこかで、『もしかして一人でそういう職業を勝手に名乗ってる陰陽師かもな』って思ってたから……」

 

「……そう……」

 

 

 

 落ち込むラズさんを見て、私も『他の人全然見えないしあり得るな』と思っていたことは秘しておこうと思った。

 

 

「で。本当に他に何もないならこの子ら記憶処理して送り返すわよ」

 

「ちょっ」

 

「流石に分かってますって……ほら、これ見てください」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 私がめくった資料のページには、遠くから撮影した成人男性の写真が載っている。

 

 身長小さ目、チェックのシャツでちょっと小太り。今時珍しいくらいのコテコテなオタクルックである。顔は画質が荒く判別しにくい。

 

 

 

「……誰?」

 

「ふりい素材とやらで御座るか?」

 

「正直なところ、私も分かんないです。画像は消す予定の監視カメラからかっぱらってきた奴でして」

 

「……あー、そういえばここに置いといた術式にそういうのあったわね」

 

「で。この人はさっき言った《魔暴少女ブラッディレイン》の発生現場にいた人なんですけど……」

 

 

 

 そう言って、私はもう一枚の画像を見せる。

 

 

 

「……同一人物?」

 

「少なくとも、背格好と……服装も、同じだね」

 

「こっちは《月下氷刃*プラトニックヘイル》……()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……あー。そういうこと」

 

 

 

 私がそう言うと、ラズさんが真っ先に納得する。

 

 

 

「要はナギサ、アイツらが人為的に生み出された線を疑ってるのね」

 

「そうです。《月下氷人》の回では……ほら。映像から一瞬で消えてるので、少なくとも常人側の存在ではない」

 

「自然発生……が基本、なんですよね?」

 

「そうね。というか、世界観の誕生にタッチできる奴はあんまりいないわ」

 

 

 

 ミカの疑問にラズさんが応える。

 

 

 

「基本は貴女たちみたいに、複数世界観(レイヤー)があることにすら気づけないから。だから最低でも自分の分野以上の視野があるはずよ」

 

「あ、だから私たち引き込んだの凪砂」

 

「……どういうこと、カナデ」

 

「だってほら、その……世界観? とかいうのを一番多岐にわたって見てるのは《死霊術師》なんでしょ? だったら、容疑者に真っ先に上がるのは《死霊術師》じゃない」

 

「そういう部分もある」

 

 

 

 奏の指摘に頷きを返し、続ける。

 

 

 

「そして一番ヤバイと思ってるのは、人為的な発生の場合その限界がわからないこと」

 

「……」

 

「考えられる中で最悪なのは、めちゃくちゃな数の新規世界観を同時に発生させられて――」

 

「――なおかつそれらが、これまでと同じように当人たちにしか対処できない。そういうことで御座るな」

 

「そ」

 

 

 

 もしそうなった場合、起こりうる混乱は計り知れない。

 

 人払いが出来ない以上、全ての敵が同時に放つ攻撃を人々はもろに食らう。敵が一体なら私でもカバーできているが、複数からの攻撃が飛び交う戦場で、全ての一般人を庇い続けるのは不可能だろう。

 

 

 

「……なあ、《死霊術師》って蘇生完璧にこなせるんだろ? そしたらそれこそ増援呼んで……あー、そっかダメか」

 

「ん。確定ではないけど、内部の裏切りの可能性があるからね」

 

「握りつぶされたりしたら一番応えそうで御座るからな……」

 

 

 

 ここまで話し、一度ラズさんの方を伺う。

 

 

 

「……わかったわ。協力要請出すのは止めない」

 

「あざっす」

 

「ただ次からはちゃんと事前に報告しなさい」

 

 

 

 その言葉を受けて改めて、私は《陰陽少女隊・言祝ぎ千鳥》――奏、太郎丸、みなせ、ミカの方に向き直る。

 

 

 

「そういうわけだから、人手が欲しい。情報を集めるにしろ、今その災害が起こって対処するにしろ……みんなの力が必要なの」

 

「……ったく、調子のいいこと……」

 

「……ゴメン。都合がいいのは分かってるんだけど、今の状況で一番頼れるの誰かなって考えて、真っ先に思い浮かんだのがみんなで」

 

「な……」

 

 

 

 私がそう言うと、奏が一瞬凄い顔をして、もにょもにょと口の中で何かを言い。最終的にこう返した。

 

 

 

「――分かった、分かったわよ!! 手伝うわよ、みんなもそれでいい!?」

 

「当然で御座るよ」

 

「うん……!」

 

「ああ……あとなんか今の奏、そこの死霊術師くらい甘くなかったか?」

 

「ウーーーーーッ」

 

「威嚇された!?」

 

「……ありがと、みんな」

 

「……代わりに! 私たちの仕事の方も手伝いなさいよね。こっちはこっちで、いつ活性化するか分からないんだから……!」

 

 

 

 彼女はそう照れ隠しのように言って、顔を背けるのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「にしてもその2件の後処理、よく一人でやれたわね。前回だって私との協働だったのに」

 

「あーいや、一人じゃないっす」

 

「?」

 

「そういや言ってませんでしたね。どうすっかな〜って悩んでたら《ドリヰム・パレット》のユメミちゃん助けに来てくれて

 

「待って」

 

「は?」

 

「あの子の対峙してるやつ『過去の記憶の象徴が形を得たもの』らしいんですけど、倒すと使い魔的に使役できるようになるそうで。で記憶の象徴なんで外付けハードディスクみたいに働いてくれるんだとか」

 

「待っ……ちょっ……は!? それだと話変わってくるし報告書書き直さないといけなくなるんだけど!?!?!?」

 

「一番頼れるの私なんじゃなかったの!? 凪砂!! ねえ!!? その子誰?!!?」




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