《死霊術師》の世界へようこそ   作:バベッジ

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この栞凪凪砂とかいう女、思ったよりパワーがないか?


《死海連合》にさよなら

 星野巧、男子、13歳。保有禁忌名「くそったれ人生にさよならポンポン(グッバイ・クリーピー・ライフ)」。

 

 彼がその日の放課後、所属する《死海連合》の本拠地である墳化第二中学校の美術室を訪れると、

 

 

 

「……そ、粗茶ですが……」

 

「ん、ありがと。……うわ何これすご、ビッグマックの味する。変な能力……」

 

 

 

 我が物顔で居座っている女子高生と、ガチガチに緊張している先輩の姿があった。

 

 女子高生の方は黒の短髪、美人。高校生と分かったのは制服を見たことがあるからで、その顔に見覚えはない。

 

 先輩は男子で14歳なので、まあそういう反応も当然だろう。姉がいて多少耐性のある自分が話しかける。

 

 

 

「誰ですか、アンタ」

 

「ん? あー、そっか初めましてか」

 

 

 

 彼女は無表情のまま、口を開く。

 

 

 

「まあ、あなたたちと同じようなものだと思ってくれていいよ。《死海連合》さん?」

 

「……禁忌保有者……!! まさか、俺らの他にも……!!」

 

「とうとう何らかのリバウンドが来たのか……!?」

 

「違う違う、攻撃する気はないから。というかそれなら準備される前に攻撃するでしょ」

 

 

 

 慌てて禁忌解放を構えるが、完了する前に腕を抑えられる。思ったよりも力が強い、あと先輩は「触られた!?」とか言うな、顔を赤らめるな。そう言う場合じゃないだろ。

 

 彼女は俺たちを片腕で押さえつけたまま、胸ポケットから写真を取り出す。そこに映っているのは、

 

 

「……犬?」

 

「そ。これについてちょっと確認したいだけ……これ作ったの誰? そっちの管轄だよね?」

 

「た、巧くん……」

 

「いやっ、俺もやりましたけど……!! これ先輩との合作っすよね!?」

 

「ほう、詳しく」

 

「しっ、しかしですね!! 自分の保有する禁忌なんて他人に軽々しく教えるもんじゃイデデデデデ」

 

 

 

 口ごたえした先輩の口が万力のように締められる。

 

 

 

「で、君でいいや。詳しく」

 

「あーはい。先輩の禁忌、ざっくり言うと『ビッグマックをなんでも好きな物に変えられる』で」

 

「本当に変だね」

 

「で俺のが『対象が危険な状況になると攻撃能力を得る』なんすよ。それで作ったのがあの“ヴァスカビルMark.2”です」

 

「……物質変化と攻撃能力付与。それだけ? 他のメンバーは?」

 

「まだ見つかってな……まあ、こういう暗黒領域の話に巻き込まれるのが増えても嫌なんすけど」

 

「……よっ、よければおっお姉さんが入っていただければ――」

 

「あーごめん。そういうのじゃないんだ」

 

 

 

 一通り話を聞いた彼女は、指を俺たちの額に当てる。

 

 

 

「色々教えてくれてありがとね。――恐み恐み申す

 

「あっ、ちょ――」

 

 

 

 そこまで言ったところで俺たちの意識は途切れ、以降このことを思い出すことはなかった。

 

 

 


 

 

 

「あ、もしもしラズさん。《死海連合》白でした、資料も本人たち問いただした結果も問題ないです」

 

『そ。じゃあ帰投しなさい、お疲れ様』

 

 

 

 ラズさんの通信を切ると同時、室内で倒れ伏す二人の少年を横目に見ながら私――栞凪凪砂は窓から飛びだした。

 

 そのまま地面に着地し、すぐそばにあるフェンスを乗り越え校外へ。運動部の生徒がうろちょろしているのが見えるが、前もって仕込んでおいた《死霊術師》の術式によって私に気づくことはない。

 

 

 

 ラズさんの秘密基地に《陰陽少女隊・言祝ぎ千鳥》の面々を集め、未知なる脅威に対する協力要請をかけた日から2週間。

 

 私は《死霊術師》的な情報操作からは一旦離され、代わりに2つの仕事が与えられていた。

 

 

 

『これで5件目の白確……無駄骨っぽくなっちゃってごめんね、ナギサ』

 

「いえ、これも仕事なんで」

 

『でもさっきまでのはともかく、直前の《月下氷人*プラトニックヘイル》は潜入調査だったでしょ。そこから休み無しって』

 

「大丈夫ですって。アイツらだったら確かにキツイかもですけど、自分いっぺん死んだおかげで学校行かなくて良くなってますし」

 

『そういえばそうね……』

 

 

 

 その1つ目が、各世界観と接触しての能力精査。さっきまで《死海連合》にやっていたような奴だ。

 

 これはあの後具体的な策について考えた時、太郎丸から出てきた案に基づくものである。

 

 曰く、

 

 

 

『死霊術師の組織がどういう構造か分からないので御座るが、そんなホイホイと裏切って色々仕込めるので御座るか?』

 

『他の勢力に潜り込んでひっそり活動している……みたいな線もあり得るで御座ろうかと』

 

 

 

 そういうことで調査することになった。で、ラズさんの方は顔が割れていてもおかしくないので新入りの自分が行くことになった。

 

 自分が潜入捜査だったりをしている間、ラズさんはラズさんで死霊術師組織内の調査を行っているらしい。「全国的な動きじゃないから上層部は噛んでない誰かの独断」とか言って色々仕込んでいるそうだが、まあラズさんなら何とかするだろう。

 

 

 

「んじゃ、次のとこちょっと見学してから帰りますね」

 

『ほどほどに――』

 

『――凪砂!! 緊急出動よ!!』

 

『びっくりしたっ』

 

「りょうかーい。座標送って、すぐ行く」

 

 

 

 二人の通信に割り込んできたのは、奏の声。

 

 与えられたもう一つの仕事の方の要件である。そしてその内容は、

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「――来たっ!! 遅いわよ!!」

 

「ごめん、状況は!!」

 

「出現したのは怨霊魔女の『あ』、荒覇吐“くらいく・きゃれい”! 全長5m、吐息に石化効果あり、今は――」

 

()()餓雅瓦臥画(ガガガガガ)――唖亞通(アアッ)!?!?』

 

「どおおおりゃああああっ!!!!」

 

「――あのように、みなせ殿に顎かち上げてもらって発生阻止してるで御座る」

 

「おっけ、万事理解」

 

 

 

 《陰陽少女隊・言祝ぎ千鳥》の戦闘員である。

 

 元々はこの面々にもバレたらいけない、という理由で復帰していなかったのだ。協力体制を敷くにまで至り、死霊術師としての仕事も比較的少なめな現在、元通りに戦わない道理はない。なお彼女たちの上司はラズさんの手によって上手い事誤魔化されているらしい。様様だ。

 

 

 

「な、凪砂ちゃん大丈夫だよね? また死ぬようなこととかしないよね?」

 

「もー、心配症だな」

 

「それだけの、前科が、あるから、言ってるんだけど……!!」

 

「ごめんて。ただまあ、かといってミカたちにも無理させられないから、さ!」

 

 

 

 そう。この復帰は向こうからの「また5人で戦いたい」という要望も、私の「なんだか申し訳なくなってきたので少しでも恩を返したい」という要望も汲んだものではあるが、それ以上の目的として最も大きいのが彼女たちの負担を軽減することである。

 

 《陰陽少女隊・言祝ぎ千鳥》には、避難や一般人保護の人手を補ってもらうことを期待している。そしてその場合、手伝ったせいで体力に余裕がない状態で、本業の怨霊魔女退治をわざわざフルメンバーから一人欠けた編成でやって負けたり死んだりしたら目も当てられないのだ。仕事も五割増だし、個人的にもなんとなく嫌だ。

 

 

 

『陰陽道回路形成、紫炎の界に接続』『装束起動』『陰陽少女態形成』……うし、久しぶりだけど完璧」

 

「いよーし手伝え、こいつの腕ぶった切って喉突っ込んで二度と臭い息吐けないようにすっから!!」

 

「任され……いやちょい待ち」

 

 

 

 あと副産物として、変身がもう一度出来るようになったのでやれることの幅がめちゃくちゃ増えた。シンプルにありがたい。

 

 能力の高まった身体の調子を確かめるように、私は怨霊魔女を押さえつけるみなせの方へ跳躍……する前に。

 

 

 

「よっ」

 

「えっ車?」

 

 

 

 近くに置いてあった4tトラックを担ぎ上げ、

 

 

 

「てやっ」

 

「あっ馬鹿!!」

 

阿亜(アア)ーー!?』

 

 

 

 口に放り込んだ。やはり物理的に持ち上がる幅も、それを精密に投げ込むコントロール能力もかなり上昇している。気分がいい。

 

 そして狙い通り、トラックを口に突っ込まれた怨霊魔女はブレスを使えなくなった。もだえ苦しんでいる。

 

 

 

「へ、へえ……意外と物理攻撃も通るんだ……そう……」

 

「わざわざ腕切り飛ばさなくても、こっちの方が楽でしょ」

 

「……投げ込んだトラックは【蘇生】で復元するつもり? ダメじゃなかった?」

 

「あっ」

 

 

 

 失念していた。

 

 

 

「……まあいいか。いよっし解体ショーすっぞ!! 気張れや!!」

 

「ほほーい。……で、凪砂殿。死霊術師に就職して以来【蘇生】軽く使い過ぎで御座る。

 

 

 

 四肢を振り回してがむしゃらに抵抗するしかできなくなった怨霊魔女を捌きつつ、太郎丸から注意が来る。

 

 

 

「戦略の幅が広がったのは至極いいことで御座るが気を付けたほうがいいで御座るよ」

 

「そうね。私たちだからいいけど、今潜入捜査とかもしてるんでしょ? 迂闊に見せると大変なことになるわよ」

 

「……ウス。気を付けまーす……」

 

「で、次どこ行くの」

 

「ええと、確か次は所謂異能バトル系でーー」

 

 

 


 

 

 

 ーー歌は力である。

 

 歌は時に病んだ心を奮起させ、時に晴れた心を破壊する。

 

 不屈を支え、元気を与える。

 

 人々を駆り立て、世界を変革する。

 

 ではその力を、任意に引き出すことが出来たら。

 

 活力を励起させ、心を壊し、集団幻想を狂わせ、世界構造にすら干渉できるのだとしたら。

 

 その者は、世界すらも統べられるのではないだろうか?

 

 

 

 我々は彼らを“謳い手”と呼ぶ。

 

 その力が、我々に牙を剥かないことを祈りながら。

 

 

 


 

 

 

「――というわけで、君は僕たちと同じ“謳い手”としてデビューしたんだ。ここまではいいかい?」

 

「はあ……」

 

「人間の枠組みを超えた君を妨げるものはない、思う通りに生きるがいい……と言いたいところなんだが」

 

「はあ……」

 

「生憎、超越者同士でも人間関係というものがあってね。僕たちはいくつものグループにも分かれて抗争を繰り返しているんだ」

 

「はあ……」

 

「ちゃんと聞いているかい?」

 

 

 

 栞凪凪砂は、目の前の男装の麗人が楽し気に語る姿を見つつ、面倒だなあと心の底から思った。

 

 現在彼女が紛れ込んだのは、廃ビルを根城にする《謳い手》のグループ。世界観としては端的に言えば、異能者がいくつもの団体に分かれて抗争を繰り返しているものだ。

 

 

 

「私たちがいるのが、『運命論革命』というグループ。構成員がお姉さんともう二人いて、全員異能者……《謳い手》なんですよね」

 

「聞いているのなら重畳。ついでに私の名前も呼んでくれると嬉しいんだけどな」

 

「……えーと」

 

「ふふ、無理言ってすまないね。最初にさらりと名乗っただけだから覚えていなくても詮無いことだ。医師園(いしぞの)ファンクだ、改めてよろしく」

 

 

 

 握手をしながら、現在の状況を考える。

 

 今の目標は、特殊な世界観を生み出している男を捕縛すること。そのためにはこの男がどこに潜んでいるかを炙りださなければならないので、《謳い手》に潜入することでこの世界観に当該人物がいないか確認しようとしていた。

 

 が、

 

 

 

「……ファンクさん以外のメンバーは?」

 

「申し訳ないことに、暫くの間は紹介できない」

 

「じゃあ能力は」

 

「ますますダメだ。というか、一人については私も知らない」

 

「えー」

 

 

 

 問題は、彼女たちが結構しっかりした秘密主義であることだ。

 

 それが彼女たちだけなら、まだ他のグループに転がり込めばよかったのだが、

 

 

 

「いや、すまないね。前に『ミランダ小隊』と名乗るグループが、一人新たな“謳い手”を引き込んだ時の例があってね」

 

「どうなったんですか」

 

「その正体が実は、異能で偽装した他グループのスパイでね。情報を丸っと抜かれた挙句全員死体で発見された」

 

「わあ」

 

「下手人は死体側よりも格下。しかし被害者はそれぞれの異能の弱点を突かれ、抵抗も碌にできなかったそうだ」

 

「……それは、それは」

 

「以来、どこも出来るだけ情報を漏らさないようにしていてね。疑うようで申し訳ないがーー」

 

 

 

 まず信頼がおけるかどうかを私に判定させてくれ、とファンクと名乗る女性は私に目線を合わせて言った。

 

 そういうわけなので、どこの勢力に言っても大した情報は即座には得られないだろう。君のような可愛らしい子にそんなことしたくないんだけどね、と彼女は笑いかけてきたが、いい感じに笑い返せたかは自信がない。

 

 

 

 死体がぽこじゃか出るようなのも、こちらにとってはマイナスだ。この事実は、「彼女たちが死んだ仲間を蘇らせる手段を常に求めている」とイコールで結べる。

 

 すなわち《死霊術師》の技能を持つ私が完璧な蘇生ができると知られた場合、どこの勢力も一斉に襲撃してくる可能性が高い。そして何かしら致命的なミスをしたら捕獲→飼い殺しまでつながる、バッドエンドルートが一直線に広がっている。

 

 要するに、その事実は隠しながら各勢力と渡り合って基本隠匿されている情報を収集しなければならない。

 

 

 

(無理ゲーだろ)

 

 

 

 私は脳内で悪態をついた。正確には不可能ではないが、あくまで技術的に可能というだけだ。

 

 出来はする。出来はするが、時間はありえないくらいにかかってしまうだろう。しかも“信頼を勝ち取る”ための潜入なので、迂闊に抜け出して《陰陽少女隊》を手伝ったりもできない。

 

 それで見つかるならまだしも、全然見当違いのところを調査していた場合は私たちが追っている男はその間いくらでも悪事ができるだろうし――

 

 

 

「ーーどうしたんだい、レディ?」

 

「ッ! ああいえ、別に何も……」

 

「ふふ、別に取って食ったりはしないからなんでも聞いてくれていいよ。私の能力だって言っても良い――それなら私にしか迷惑かからないしね」

 

「あ、じゃあ……他の人の能力を効率的に知る方法、ってありますか?」

 

 

 

 聞いてから、少し脳内にある内容が直接出過ぎたなと反省。

 

 しかしファンクさんは、本当に気にすることなく。素直にしばらく考え、申し訳なさそうに口を開く。

 

 

 

「すまないね。ただ、そんなものがあったら僕たちで好き勝手利用している」

 

「ですよね。ちょっと、その、聞いてみただけで」

 

「諜報なんかも盛んだけど……一番手っ取り早いのはやはり相手との直接戦闘になってしまうだろうね。具体的な運用方法まで掴みたいなら文章には限度がある」

 

「なるほど。ありがとうございまーー」

 

 

 

 その時。彼女の言葉がきっかけとなり、脳内で歯車がかみ合う感覚が生まれた。やはり質問はするものだ。

 

 

 

「さて。君を信頼するためにも、今度はこちらからいくつか質問しようかな……君が有するの、どんな異能なんだい?」

 

「ーー」

 

「……別に答えなくたっていいさ。むしろ意識が高く」

 

「死者蘇生の異能です」

 

「て安心、す、る…………え?」

 

 

 

 目の前の医師園ファンクが言った通り、この環境下での最高効率の情報収集手段は直接戦闘だ。

 

 だったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「能力名は付けていないというか分からないのですが、完璧な死者蘇生が可能です」

 

「……なあ。君、それ、本気で言っているのかい?」

 

「そうです。時間制限は多少ありますが、蘇生後は本人でも死んでいたことを理解できないくらいには完璧です」

 

 

 

 そして、そのための最適手段は。私自身と蘇生の存在を、釣り餌としてしまうことではないだろうか。

 

 一切身バレに気を使わないだけで、必要な情報が片っ端から入ってくるのだ。文字通り前提がひっくり返る……我ながら天才かもしれない。

 

 

 

「そして、人数制限も――おっと」

 

「……へえ。結構身体能力もあるんだ」

 

「いきなり四肢壊そうとしないでくださいよ、ちょっともー」

 

「……あー、うん。君、自分の言ったことのヤバさ分かってないでしょ」

 

 

 

 さらにスペックを口頭で解説し続けていると、彼女が途中でヤバいと判断したのかメスを投げ放ってきた。《死霊術師》としての、あるいは《陰陽少女隊》としての身体能力で回避する。

 

 

 

「死者蘇生、って。本気かい?」

 

「大マジですよ」

 

「重要性分かってる?」

 

「いまいち」

 

「……本当は、もっと反りの合うところがあるなら送り出してあげることもあるんだけどね。悪いけど、私たちと一緒に来てもらうよ」

 

 

 

 後ろ手にはスマホを握っているので、恐らく仲間への連絡をしている。

 

 ファンクさんの味方の情報は今日手に入るものではなかったはずなので、とりあえずこれで一つアド。後は《謳い手》世界観から飛びださないように戦いさえすれば、いい具合に他の勢力も釣れてくるだろう。

 

 

 

「君にとっても、大量の《謳い手》を相手にするのは酷なはずだ。さあ、大人しく」

 

「生憎、大量なら大量なだけ嬉しいもので。――かかってきてください」

 

 

 

 じゃあまあ、まずはこの人の能力を丸裸にするところからやっていこうか。




脚本が想定の斜め上にカッ飛んでいる!!もう止まらない!!
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