《死霊術師》の世界へようこそ   作:バベッジ

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読んでくれてる兄貴姉貴に、心から感謝を…


《謳い手》と共にダンスを

 《謳い手》医師園ファンクに、死者蘇生が可能であることを開示して十数分後。

 

 彼女が拠点としていた空き家を飛び出した栞凪凪砂は、気づけば空きテナントだらけのビル街の大通りを疾走していた。

 

 

 

「空間操作系にしても、出力めちゃくちゃすぎるでしょ……!」

 

 

 

 多少の愚痴は許してほしい。何せ、こんな地域は私の住むこの町にそもそも存在しないのだ。数秒間追跡がどんなものか確認するために振り返っていただけ、さして注意を外した自覚もないのにコレなので、だいぶ厳しい。

 

 睨むように通りの奥を見るが、少なくとも目に入る限りの範囲は同じビルが繰り返されている。

 

 

 

「最初に接触したファンクさんか、その味方の『運命論革命』。そのどちらかは『異界を作成する異能』を保有している、が――」

 

 

 

 整理するように言葉を紡ぎつつ、後方から飛んできたメスを首の動きだけで回避。

 

 

 

「――ファンク側はたぶん別の異能……!」

 

 

 

 そう言ったところで、さらに多量のメスが飛んでくるので細い路地に飛び込む。

 

 壁に固定された室外機を足場として蹴り、何用か分からないパイプを握り方向転換する。

 

 中も確認せず窓ガラスを蹴破って、足からビルの二階に突っ込む。

 

 駆け出そうとして踏み込んで、

 

 

 

(は!? 回転床!?)

 

 

 

 その箇所に何らかの機構が仕込まれており、体重がかかるそのままに回転する。

 

 一切の抵抗を許さないまま、下方向に叩き落された一階に待ち構えるは、

 

 

 

「逃げ切れそうかと思ってたんですけどね!!」

 

「ハッ。何かしらの前歴があるのかもしれないが……残念ながら《謳い手》としては、此方が一枚上手のようだ」

 

 

 

 いつの間にか追い抜いていたファンク。

 

 無理矢理空中で姿勢を整え着地しようとするが、

 

 

 

「再生《プレイバック》」

 

 

 

 彼女が私の足元を指差すと、なんの変哲もなかった床が変形して噛み付いてくる。姿勢を変えるのは間に合わない。

 

 

 

「……ッ…、!! 右、足首から先……!!」

 

「殺すのは心苦しいけど、それでも生け捕りにはさせてもらうよ。君は危険すぎる」

 

 

 

 向こうは捕えて一息ついていそうだが、残念ながらまだまだ状況は捲れる。

 

 周囲を観察すると、喰らいついてきた床はその姿を変え、歯車がギチギチと回転するトラバサミめいた機構になっている。

 

 そして壁は少しずれて噛み合わない形状になっており、ファンクの足元には円の一部のような切れ目、そしてコンクリートとコンクリートが擦れて出来た粉塵。まるで、地面と構造物の一部が超巨大なターンテーブルのように回転してきたかのような――

 

 

 

(――これまで行ってきたメスの高速射出、とかも鑑みると)

 

「能力は、『任意の機構の生成とその自在操作』……規模に制約はないが、機構には回転が必ず含まれる。合ってますか? ファンクさん」

 

「……驚いた。まさか私の〈ハイパーゴアムササビスティックディサピアリジーニャス〉の効果を完璧に看破するとはね」

 

「長っ」

 

「格好いいだろ?」

 

「というか、そんな簡単に正解っつっちゃってよかったんですか?」

 

「確かに、多少迂闊だったかもね。しかし――再生(プレイバック)

 

 

 

 彼女は再度、床を指さす。動けない私の左方と右方、その部分に機構が誕生する。

 

 回転しめくれ上がった床面は、手枷の形となって手首に殺到する。多少振りほどこうとしてみるが、自動で追尾してきて瞬く間に拘束が成った。

 

 

 

「君はこれ以上どうすることもできない。そうだろう?」

 

「……」

 

「何安心したまえ。食事は私がちゃんと運んでくるし……その、排泄に使える機構もその場に用意する」

 

「……なるほど。理解しました」

 

「飲み込みが早いようで何より。さて、それじゃあ君の異能の性能を検証させてもら――」

 

「いえ、そうではなく」

 

「?」

 

「こっちに来るのはファンクさんだけで、残り2人いるというメンバーは見せないということを理解しました」

 

 

 

 どういうことか分かりかねた顔をされるが、言ってしまえば単純だ。

 

 私はこの状況から逃げられないとは言っていない。

 

 甘んじて拘束を受けたのは、「廃ビル街生成の異能者」以外の仲間とファンクさんの異能を確認するためであり、

 

 

 

「それができないなら、さっさと退去するに限る。そういうことです」

 

「ッ……だが、どうやって」

 

「こうですよ」

 

 

 

 そう言うや否や、()()()()()()()()()()。呪力をごく大量に流し込んだことによる、過負荷での崩壊だ。

 

 

 

「は……?」

 

 

 

 流石に即座の自害は予測していなかったのだろう。呆然とするファンクさんを見つつ、意識が急速に薄れる。さもありなん、この体にかかった【循環蘇生】の魔術は、自分の意思で機能を停止させたのだから。

 

 ただ、ここで私の生が完全に終わるわけでもない。別の場所に残された【循環蘇生】の残ったパーツから蘇ることになる――

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……医師園、もう拘束終わったかなあ」

 

「ん~? 何、ファンちゃんのこと心配してんの~?」

 

「バッ……! おっ、俺はただ、裏世界へのゲートの維持がかったるいから!」

 

「はいはい。んま、ファンちゃん何だかんだ僕ちゃんより強いし心配しなくても――」

 

「――へえ。こっちに待ち構えてたんだ、これは予想外」

 

 

 

 ――たとえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「「……!?!?」」

 

「となると、最初からずっとこの建物のどこかに隠れてたのか。もっとちゃんと調べてればな……」

 

 

 

 私が蘇生先に選んで出てきたのは、最初にいた廃ビルの一部屋。誰もいないだろうし、適当に逃げ出してもいいと思っていたが……想定外にも、この場にはもう二人いる。

 

 一人は制服の黒髪短髪少年。先に会った《死海連合》の連中と同じ制服なので中学生、話してた内容的にはこっちが異空間のヌシ。

 

 もう一人はやたらとポップな服を着た、髪がピンクと青のツートンカラーの青年。恐らくこちらの役割は、

 

 

 

「何がどうなって……いや、一旦下がってて!」

 

「やっぱり護衛か」

 

 

 

 しかしこの状況は好都合である。何せしばらく特定できないだろうと思っていた相手の能力が見れるのだから。

 

 ピンク髪の男が腕を振るうと、目の前の二人の姿が見えにくくなり……いや、違う。目の前を砂嵐が吹きすさび、覆い隠して、

 

 

 

「うん、魔法少女関連じゃないな。砂精製か」

 

再生(プレイバ)――何?」

 

「じゃあ別にいいや。『陰陽道回路形成、紫炎の界に接続』『装束起動』『陰陽少女態形成』

 

「えっ何だあれ!?」

 

 

 

 砂嵐は結構な出力で、生身で行ったら【循環蘇生】込みでもギリギリ再生が間に合うか怪しく、少なくとも逃げに徹されたら追い切れなかっただろう。

 

 ので、変身を噛ませて再生を間に合わせ、砂嵐の特に濃い部分を突っ切り、

 

 

 

恐み恐み申す

 

「ぐげっ」

 

「もいっちょ」

 

「ゲフッ」

 

 

 

 続けざまに二人を殺す勢いでぶん殴り、意識を確実に狩る。

 

 

 

「――!? な、なんで!? さっき死んだはずじゃ」

 

「あ、そっか。能力が解除されて……まあよし、もいっちょ」

 

「……な、クソ……どういう……」

 

「ヨシッ」

 

 

 

 それで異空間生成の能力が解けたのか、向こうにいたファンクさんも出てきたので沈めて制圧完了。

 

 とりあえずこのグループの持つ異能は把握、魔法少女関連がいなさそうなことは確認できた。

 

 

 

「それじゃあ、これはこの辺に縛り付け……いや待て、私が蘇生持ちって他のグループに言ってないだろうし、これを利用して……?」

 

『……ナギサ。無茶しすぎよ貴女』

 

「あ、ラズさん」

 

 

 

 ぶつくさ言いつつ三人を縛り上げていると、魔術的通信越しにラズさんの声が聞こえる。

 

 

 

「聞いてたんですね」

 

『というか貴女も気づいてたでしょ。じゃなきゃ確定した異能読み上げたりするタイプじゃないし、あれ私に聞かせて報告端折ろうとしてたわね?』

 

「分かってるじゃあないですか」

 

『……何か腹立ってきたわね。作ったメモ燃やしてやろうかしら』

 

「サーセン」

 

『あとちょっといくらなんでも暴れすぎ。世界線内部では『そういう異能者がいた』で流せるかもしれないけど、こっちでは報告書もめちゃくちゃ書かなきゃいけないし流せなかった時の記憶処理も』

 

「あーはい。要は報告書と緊急記憶処理の準備しとくだけで調査の手間を軽くできるんすよね

 

『……それでいいわよ、もう』

 

「あざす。じゃあ、ちゃっちゃか暴いてくんでよろしくお願いします」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「いよし、まずこいつらを全員殺して死体にします」

 

『おい』

 

「でも仕方なくないですか? 完璧な蘇生手段があるっていくら口で言っても、ただのフカシにしかなりません。それを受けた人間を見せつけないと」

 

『そこじゃないわよ! そっちには3人いるらしいけど、その数故意に殺すと問答無用で免停なのよ!?』

 

「あっそういう」

 

『せめてどれか一人にしなさい。それなら報告書倍になるだけで済むから』

 

「だけどそれだと、残った二人が死体回収して【蘇生】かけるタイミングなくなっちゃうかも……あ、そうだ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「んぐ……」

 

『おはようナギサ。全身に異常出てないか一応確認しときなさい』

 

「ん、そうだ……うん、大丈夫です。【遠隔蘇生】、普通の【蘇生】と大差ないですね」

 

『私だからできる神業よ、感謝なさい』

 

「ありがとうございます」

 

『よろしい。それで出歩いたら準備完了ってことでいいのよね?』

 

「はい。世界線間の結界も自力解除無理なくらいちゃんと貼ってますんで、他世界線に伝わることはないかと」

 

『あとはどのくらい釣れるか、ね。死体が出たのはナギサが広めてたけど、今の貴女を見て蘇生能力と結びつけられるか……』

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「バリバリ杞憂でした。釣り放題です」

 

『あっそうなの?』

 

「しっかり何勢力も食いついてくれて、潰し合いの大抗争中なのでこっちから襲撃しなくても能力見放題です」

 

『良かったじゃない。……あれ、じゃあ今どうしてるの? 前線にはいるのよね?』

 

「はい。善良そうなところに同行できたので、ガンガン巻き込んで逃げに徹してます」

 

『人としてどうなの?』

 

「戦闘教えてるんで許してください。んで、そいつらの能力が『体を異形化する』と『光線発射』と」

 

『待ちなさい、待ちなさい! 今メモ用意するから!』

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『今いい?』

 

「すいません、最初に会った『運命論革命』の連中に追われてるんで後で。――やーいやーい、奇襲で即ダウンしてる雑魚ども」

 

『敵に回すだけ損な連中煽るんじゃないわよ』

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 《謳い手》世界観への潜入開始から、3日。

 

「……もしもし、ラズさん」

 

『何? 今こっちはこっちで忙しいんだけど』

 

「いました。探してた張本人、大当たりです」

 

『マジ?!』

 

 

 

 物陰で通信を送る私の視線の先にいるのは、数人の男女。しばらく私と行動を共にしてくれた『Pop-in-Fever』の面々だ。

 

 そして彼らが相対しているのが、

 

 

 

「■■■■■■■……!!」

 

「……刃*鏡*天*開」

 

 

 

「……《月下氷人*プラトニックヘイル》、それから《ドリヰム・パレット》。その各世界観の討伐対象です」

 

『は!? どうなって……?!』

 

 

 

 ラズさんは怒号と共に疑問を飛ばしてくる。まあ無理もない。

 

 私たちは「死霊術師が裏切って色々やっており、それを誤魔化すためにどこかの世界観の木っ端異能者として隠れている」と予想していたのだ。こんな堂々とやられたらそりゃ困惑する。

 

 だが、困惑も束の間。ラズさんは即座に、別の可能性に思い至る。

 

 

 

『……もしかして。「()()()()()()()()()()()()()()」みたいな、安直なのがある?』

 

「見てる限りだとそれっぽいです。正確には、『魔法少女の敵役を生み出し、コントロールする異能』」

 

『……それで生み出す敵役って、もしかして』

 

「世界観ごと生み出してるっぽいです」

 

『こっこの、クソ異能……!! そうよね!! 自分の世界観だと倒せない敵をポイポイ生み出せるならそりゃ最強よ!!』

 

 

 

 その声からは多分に気疲れが感じられる。それも仕方ないことだ。私だって散々思い悩んで来た問題の原因が()()()()()()()()()()()()()()()らブチ切れるかもしれない。

 

 絶対にありえないと言い切ることもできないのが、なお神経を逆撫でしている。だってこの世界観は普通に異能の一環で異世界を生み出せるんだから、そういう方向に発展しても実現可能性は十二分にあるのだ。

 

 

 

「で。どうします?」

 

『異能者張本人いる!?』

 

「えーと……」

 

 

 

 戦闘している方を伺う。ずっと戦闘中に独り言してたら怪しまれるので離れていたが、こういう時には不便だ。

 

 

 

『どうなってんだ、コレ!! オレサマの光線まともに喰らってるはずなのにビクともしねエ!!』

 

『なら、私が直接攻撃で……!!』

 

『無駄無駄無駄無駄、無駄ですぞ。我の〈魔法少女とチョコレゐト〉は完全無敵!! 理解したら早く白魔術師ガールを渡すんですな』

 

「あー、うん。いますね。最後の奴」

 

 

 

 前に犯人とおぼしき人物の特徴として挙げたものと、体型や服の趣味が完全一致している。

 

 

 

『普段は干渉タブーだけど、今回はいいわ。何が何でも制圧するわよ、最悪殺しもアリ』

 

「了解です。で、場にでちゃった二体の敵キャラは」

 

『……何とか、世界観外に排出して……対応魔法少女の連中に対処させるかしらね。私が現場行くし応援も要請してる』

 

「……となると。私がするべきなのは」

 

 

 

 戦っている面々を改めて確認しつつ、考える。

 

 たとえ蘇生できるとはいえ、うかつに死なせるのは褒められたことではない。

 

 が、さらに最悪なのは、あの二体を捌くのを手伝っている間に、当人に逃げられてしまうこと。

 

 

 

「じゃあ、こうするかな」

 

 

 

 私は、物陰から飛び出して、大きく踏み込んで。

 

 

 

「……カンナギ?! ダメだ、狙われてるのはお前だゾ!?」

 

「んんん!! それが噂の白魔導士ガールフギュウウッ!?!?!?」

 

「殴ったあ!?」

 

 

 

 思いっきり、顔をぶん殴った。

 

 

 

「今すべきなのは、こいつを逃がさないこと。……というか」

 

 一息。

 

「別に、私だけでこいつ制圧しちゃってもいいんですよね。この場の出てる連中も何とかできるかもですし、応援いらないかも」

 

『よ~く分かってるじゃない!! やっちゃいなさい、でも応援は行くわよ!!』




〈魔法少女とチョコレゐト〉……魔法少女を生み出す異能。自身の手で魔法少女が登場する全50話のストーリーの設定を書き綴ることで、そのストーリーに登場する存在が全て実体化され、お話をコントロールできるようになる。

 自身は強制的に敵勢力のラスボス(最終倒される)の立ち位置に押し込まれるため一度起動すると寿命が1年になること、魔法少女は神聖なものなので手だしできず出てこられたら確実に負けることなど縛りも多いが、それでも魔法少女にしか御せない敵キャラを自在に操れるのはトータルで得。
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