アルフレッド・バクスターの半生   作:マロニエ19号

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俺の両親

俺は両親のことはあまり良く覚えていない。

 

無理もない。俺が六歳の時に、両親は捕まってアズカバンに行ってしまったのだから。だけど、ある晩に帰って来た時、昏くて醜い笑みを浮かべていたのはよく覚えている。多分、誰かを拷問してきたのだろう。

 

そして、両親が捕まってからはジルク叔父さんや屋敷しもべ妖精のヘザーの助けを得てこれまで生きてきた。もし二人がいなかったら、俺は孤児院とかに行っていただろうな。もしくは野垂れ死にしてたかも。父方の方の実家は、ジルク叔父さん以外誰もいなかったし、母方の方も全員捕まってたからな。そういう意味では本当に二人には感謝してもしきれない。

 

そういう訳だから、俺はこんなことになった両親のことがハッキリ言って、嫌いだ。だけど、そんなことを言うと、二人はどこか悲しげな顔で「そういうことは絶対に言うな」と怒るので口には出来ない。

 

ヘザーはまだ分かる。彼女は屋敷しもべ妖精だ。俺の前の主人は当然、あの両親になるので、彼女からすれば前の主人を悪く言われるのが嫌だと思うのは何となく理解出来る。あの人達はヘザーに理不尽な暴力を振るったりはしていなかったしな。屋敷しもべ妖精にとって良い主人というのは、理不尽な暴力を振るわず適度に仕事を命令してくれる者のことを指す。あんな両親でも、ヘザーにとっては本当に良いご主人様だったのだろう。それに、ヘザー以外の屋敷しもべ妖精達にとっても。

 

両親が逮捕される前はヘザー以外にも何人か、屋敷しもべ妖精がいたけど、両親がいなくなってからは皆“ようふく”にした。というより、せざるを得なかった。彼らは全員泣きそうな顔をしていたけど、皆事情を分かっていたから、一言も恨み言を言ってこなかった。見てるこっちが申し訳なくなる程に。彼らとはそれっきりだ。今どこで何をしているのかは分からない。良いご主人様のもとで働けていると良いんだけど。

 

一方で、ジルク叔父さんはよく分からない。ジルク叔父さんは、兄である父親と仲があまり良くなかったと思う。まだ父が逮捕される前、何度か二人が言い争いをしてたのを見たことがあったからだ。なのに、叔父さんは父のことを絶対に悪く言わなかった。兄弟だからこそ、色々複雑なのかもしれない。

 

「……やっちゃった」

 

ヒッポグリフクラブで魔法薬作りの練習をしていたのだが、台無しにしてしまった。魔法薬をかき混ぜ過ぎたのだ。とろみが付きすぎて、水飴みたいになってしまっている。本当に、あの人達のことを思い出すとロクなことにならない。思わず溜息を吐いた。

 

「どうしたの? 何か考えごと?」

 

近くで俺と同じように魔法薬を作っていたペニーが尋ねた。

 

「あ、すみません。失敗しちゃって……」

「良いのよ。私だってよく失敗するもの。でも、何か考えごとをしながら魔法薬は作らない方が良いわ」

「うぐっ……」

 

確かに、ペニーの言う通りだ。材料だって有限なのだから。ペニーは優しく問いかける。

 

「アルが考えごとしてたのはひょっとして、両親のこと? それとも、友達が離れていってしまったこと?」

 

……ペニーは鋭い。ちょっとした機微の変化もすぐに見破ってしまう。そういうところがホグワーツでも人気の女子たる所以なのだろう。スリザリン生でもないのに、あのスネイプ先生からも気に入られているのだから相当なものだ。

 

「……友達……のこともありますけど、やっぱり両親のことですかね。俺はどこまでいっても、犯罪者の息子でしかないんだなぁって思ってしまって」

 

ペニーは何も言わず黙って聞いているが、魔法薬を作る手は止めない。

 

「スリザリンにも似た境遇の人がいない訳じゃないけど、あまり参考にならないし……」

 

スリザリンには俺と同じように死喰い人を身内に持った人はいる。一つ上のメルーラやバーナビーとかがそうだ。でも、メルーラは性格に難ありだし、バーナビーは控えめに言って悩みとか無さそう(おバカ)なので正直言って参考にならないだろう。話を聞いたペニーも確かにと頷いた。

 

「あの二人も悪い人ではないんだけどね……」

「……意外だな。バーナビーはともかく、ペニーはメルーラと仲が悪かったのに」

 

俺がそう言うと、ペニーは苦笑した。

 

「まあね。でも、相手がどういう生き方をしてきたのかを知ると案外見えてくるものがあるわよ」

「どういう……生き方……?」

「そう。その人が今までどういう人生を歩んできたのか、それを知るだけでも少しはその人の見方が変わると思うんだ」

「………」

 

確かに言ってることは正論だけど、所詮は理想論だ。現実はそう簡単にいかないだろう。そもそも俺と話をしてくれるだろうか。

 

「……それが出来たら、戦争なんて起こらないよ」

 

俺がそう皮肉を返すと、ペニーは苦笑したまま頷く。ペニーも自分の言っていることが綺麗ごとだと分かっているのだろう。特に反論されなかった。

 

 

ーーーーーーーーーー

その数日後、俺は決闘クラブでまたまたミアと対決することになった。決闘クラブは、基本的に実力が拮抗した者同士で組まされる。具体的には同級生同士、優秀であれば上級生と組むこともあるといった感じだ。俺は、実力的にはそこそこなので、基本的に同級生とばかり組まされる。

 

ミアとの戦績は五戦中、四勝一分。俺が勝ち越してはいるが、正直油断は出来ない。ミアは決闘の中で確実に力をつけているからだ。

 

そしてようやく、俺達の番になったので、前に出る。そして、お互いに礼をして下がった。決闘の作法だ。お辞儀が終わると、俺とミアは同時に魔法を飛ばす。

 

「「エクスペリアームス!」」

 

赤い閃光が同時に衝突する。

 

「エイビス」

 

ミアは複数の鳥を作り出すと、俺を襲うよう命令する。

 

「オパグノ!」

 

鳥達は俺目掛けてダーツのように勢いよく飛んでくる。

 

「ヴェンタス」

 

俺の周りに強風が吹き荒れ、鳥達はバランスを崩してボトボトと墜落していく。今度はこっちの番だ。走ってミアを攪乱しつつ、呪文を放つ。

 

「ペトリフィカス・トタ……」

「ルーモス・マキシマ!」

「うわっ!?」

 

突然の眩しい光で、呪文が不発に終わってしまう。

 

「くっ、ノックス!」

「遅いです! エクスペリアームス!」

 

俺の杖が弾き飛ばされてしまった。俺の……負けだ。

 

「勝負あり! 勝者、ミア・ベイカー!」

「やった……!」

 

周囲から歓声が上がる。初めて俺に勝ったミアがどこか嬉しそうにしているのを尻目に、俺はそのまま決闘場を後にした。このままいるのも少し気まずいからだ。

 

しばらく廊下を進みながら、俺はさっきの決闘について考えていた。

 

「うーん……やっぱり、距離を詰め過ぎたのがまずかったか。あの呪文、至近距離じゃないと満足に当てられなかったから仕方ないけど。いや、それならもっと別の魔法を使えば……」

 

そんなことを色々考えている……その時だった。

 

「……ル。アル! アルってば! 待ってください!」

「んあ?」

 

自分の名前を呼ばれて歩みを止めて振り返ると、ミアがこっちに走ってくるのが見えた。どうやら、俺を追いかけて来たらしい。一体何の用で話し掛けに来たのか、少し身構えてしまう。勝ったことを煽りに来た……訳じゃないよな。

 

「……どうしたんだ?」

 

俺がややぶっきらぼうにそう尋ねると、ミアは少しだけビクッとしつつも、口を開いた。

 

「あの……今から少し話をしませんか?」

「……はい?」

 

まさかの提案だった。一体どういう風の吹き回しだ? 鏡を見ていないが、今俺が怪訝な顔を浮かべていることが分かる。そんな俺を見て、ミアは慌てて弁解するように言った。

 

「いやっ、あの、その……私、アルのこと何も知らないなって……そう思ったんです。だから、アルがホグワーツに入るまでどういうことがあったのか、知りたいって」

「……」

 

正直、驚いた。こうやってド直球で聞いてくる辺り、猪突猛進なグリフィンドールらしいが。ふと、この間のペニーの言葉が脳裏をよぎった。考えてみれば、これはチャンスなのかもしれない。

 

「……良いよ」

 

俺がそう言うと、ミアはホッとした表情を浮かべた。

 

それから俺とミアは階段を上って、トロフィー部屋に入った。この部屋は今まで生徒が受賞したトロフィーや盾が所狭しと並んでいる。そして、この部屋では魔法は一切使えない。悪戯が出来ないようになっているのだ。俺が話し合いでこの部屋を選んだのも、そういった理由がある。部屋に入って、壁に寄りかかりながらミアに尋ねた。

 

「……それで話って?」

「さっきも言った通り、アルがホグワーツに入るまでのことを教えて欲しいんです。ごまかしとか、そういうのは無しで」

「……そんなことを聞いてどうするんだ?」

「私が知りたいんです。アルの口から」

 

ミアの真摯な目を見て、俺は折れた。

 

「……分かったよ。モンドとかから勝手な憶測で決められても嫌だしな。話を聞いて、それでも俺を闇の魔法使いと思いたいなら好きにしてくれ」

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