トレーナー君はおしまい!–タキオンの薬で『女の子』になった男トレーナーが担当ウマ娘にお世話される話–   作:カンヌシ

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本当にお待たせしました。これで一旦締めとなります。


サトノダイヤモンド:その9『そして終焉へ……』

 

 

 

 

「うう……疲れた……ひどい目にあった……」

 

 

 トレーナー(サトノの姿)は設置されたソファーにぐったりを体を横たえていた。

 

 

「何言ってんだ。アンタの作る夏合宿のトレーニングメニューと比べれば文字通り『お遊び』だろうが」

 

 

 その向かいのソファーにはシリウスシンボリが足を組んで座っていた。彼女はまさに『南国にバカンスに来た若いセレブ』のイメージそのままのラフな格好をしていた。

 

 この島にはサトノグループの社員や研究員が買い物をする為のモールも建設されていたので、ビーチで一通り遊んだ後は皆でそこへ衣服を買いに向かったのだった。そして戻ってきて今は宿泊施設のロビーで小休憩中なのだった。

 

 サトノダイヤモンドが皆が泊まる部屋を職員に用意させると言ったら、なぜかファインモーションとメジロアルダンが彼女について何処かへ行ってしまった。トレーナーは「はて?」と訝しんだが、ビーチでの疲れで頭が回らなくなっていたのでグデっとソファーに沈み込むだけだった。

 

 

「精神的な問題だ……お前らが好き勝手するから……うぅ、思い出したくもない……」

 

「面白い反応をするアンタが悪い。だが、あんな大量の勝負服水着に触れられたんだ。研究バカなトレーナーには寧ろご褒美だったんじゃないか?」

 

「ご褒美なわけないだろっ! 俺は男なんだぞ! ウマ娘といえど、女物の水着を着るなんて末代までの恥だぁ……」

 

 

 そんな会話をしているうちに、3人のウマ娘がロビーに戻ってきた。ファインとアルダンは何やらニッコリとしているが、トレーナー にはそれを気にする余裕は無かった。そして、アルダンはトレーナーとシリウスの座るソファまで近付いてきて言う。

 

 

「お部屋の手配は済ませました。ディナータイムまで暫くございますので、先に入浴を済ませましょう」

 

 

 それを聞いてシリウスは腰を上げた。

 

 

「そうか、なら浴場に向かうとするか。サトノグループのリゾート施設観察を兼ねてな」

 

「俺は夕食の後で良い……疲れたから暫く横になりたい……」

 

 

 トレーナーは未だグデっとしたままだった。

 

 

「ダメだよ、トレーナーさん! 潮風で髪とお肌傷んじゃうんだから!」

 

「そうですよ。同じ姿のウマ娘がお肌のケアをしてないのを見るのは私も辛いです」

 

 

 そう言いながら、ファインモーションとサトノダイヤモンドはトレーナーを引っ張り起こした。

 

 ダイヤは他3人のウマ娘に問い詰められた後に、何とか和解したようだ。もちろん、この島においてトレーナーに関して幾つか条件を科されていたのだが、トレーナー自身はそれを知る余地もない。

 

 

「では、ご案内いたします。皆さん、私の後に着いてきて下さい」

 

 

 そう言ってダイヤが歩き出すと、他のメンバーも彼女の後に続いた。トレーナーは疲労困憊で頭が回っておらず、「風呂なら良いかぁ……」とボンヤリ考えながらトボトボ歩き出した。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 5人のウマ娘(元人間の男性含む)が広い通路を進む。道すがらダイヤがこのホテルについて説明する。

 

 このプライベートアイランドにある施設は全てモデルハウスのようなもので、今この5人がいるホテルもサトノグループの職員がその実際の使用感を確認する為に宿泊するそうである。

 

 ちなみに本日はこのトレーナー&ロイヤリティーズの貸切となっている。

 

 大浴場は別館の様な作りになっていて、ホテルからそこまで通路が伸びている。今、5人はその通路を通っており、そこはガラス張りで美しい庭を眺めながら移動できる。こんなところにまで出し惜しみなく資金を投じているのは流石サトノコンツェルンと言ったところだ。

 

 

「あっ、あそこが入り口だね! すごーい! 向こうに見える大きな建築物が、丸ごとお風呂なの?」

 

「まぁ、まるで巨大なプール施設のドームの様……」

 

 

 ファインとアルダンが口々に言うと、ダイヤはふふん!と鼻を鳴らす。

 

 

「ええ、ここは海外のヘルス・スパを参考にして作られたサトノ自慢の大浴場なのです! 詳しくは中に入ってからのお楽しみという事で。本日は貸し切りなので、先輩方には心行くまでリラックスして頂けたらと!」

 

「へぇ……どんなもんか、見せて貰おうじゃねぇか」

 

 

 女の子は風呂好きが多いと聞くが、4人のウマ娘たちも例外ではなく、その声は心なしか弾んでいた。

 

 そして、トレーナーはボォーッとする頭でとにかくお湯に浸かって疲れを取りたいとしか考えてなかった。

 

 そうして、5人は入り口に辿り着いた。左に女湯、右に男湯と書かれた暖簾が垂れており、それぞれ奥に通路が続いていた。ここは日本の銭湯を意識した作りになっているようだ。

 

 

「それじゃ、俺はここで。後でロビーに集合な〜〜」

 

 

 フラ〜ッと、トレーナーが男湯の暖簾を潜ろうと歩き出すと、突然背後から首に腕を回されて押さえられる。

 

 

「ぐえっ! な、なんだよシリウス! どうしたんだ!?」

 

 

 彼を拘束したのはシリウスシンボリだった。鋭い目付きで、女性としては低めの声で彼のウマ耳に囁いた。

 

 

「待てよ、トレーナー。まさかアンタ、その身体で男湯に行くつもりじゃねぇだろうな?」

 

「へっ……?」

 

 

 トレーナーは混乱する。男性トレーナーである自分が男湯に行かずにどこへ行くというのだ?と。

 

 

「あ、そっか。俺今、ダイヤの身体になってたんだった……」

 

「そっか、じゃねぇだろ。アンタもしかしてだいぶその身体に馴染んじまったのか?」

 

 

 シリウスの言葉に、トレーナーはやっと目が覚めた。

 

 

「い、いや! そんな事あるわけ無いだろ! 今は浴場は貸し切りなんだろ。だったら、俺が1人で男湯に入っても問題ないじゃないか。他の人に見られる心配もないし」

 

 

 慌てた様子で言うトレーナーに、ダイヤがススーッと寄ってきた。

 

 

「でも……トレーナーさんと言う『男性』が居ますよね? あぁ……トレーナーさんは人目がないのを良いことに、あんな事やこんな事をして、私の身体を隅々まで堪能なさるおつもりなのですね……シクシク」

 

 

 身体をくねらせ、自身を抱き締めるようなポーズでダイヤが言った。

 

 

「なっ!? お、俺はそんなつもりなんて無いぞ! 目隠ししてやるし、それにお前たちと女湯に入る方がもっと倫理的に危ないし! その……担当ウマ娘の……見てしまうってのは……(ゴニョゴニョ)」

 

 

 トレーナーの威勢の良い声は段々と小さくなっていった。そんな彼を捕まえていたシリウスはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。今やトレーナーの方が彼女より小さいので、トレーナーはその威圧感にビクッと震える。

 

 

「どうしたんだ、トレーナー。何も心配はいらない。大丈夫だ……」

 

「そうだよ、トレーナーさん! ほら一緒に向こうに行こう……」

 

「ええ、それがよろしいでしょう。ねぇ、トレーナーさん……」

 

 

 そこにファインとアルダンも加わり、トレーナーは完全に包囲されていた。そのままズルズルとトレーナーは連れ去られる。

 

 

「ま、待て! その方向は駄目だって! そこ女湯……あああああぁぁぁぁ…………」

 

 

 トレーナーはなす術なく、4人のウマ娘たちと共に『女湯』と書かれた暖簾の向こうに消えていった……

 

 

 

 

 

…………

………

……

 

 

 

 

 

「わぁ……凄ぇなぁ……」

 

 

 サトノダイヤモンドと同じ姿をしたトレーナーが更衣室を出た少し先で立って呟いた。

 

 彼の眼前には、レジャー施設を思わせる様な豪勢で広大な大浴場が広がっていた。サウナや個人風呂、アロマフラワーの浮かぶ大浴槽、果てにはウォータースライダーらしきものまであった。

 

 これでモデルハウスなのが信じられない、とトレーナーは遠い世界を見ている様な錯覚に陥る。これもサトノグループの財力がなせる技か。

 

 

「これ、大浴場ってレベルを軽く超えてるだろ……」

 

 

 そうトレーナーが呟くと、後方からペタペタと集団の足音が聞こえてきた。トレーナーがくるっと振り返ると、そこにはチームメンバーのウマ娘たちがやってきていた。

 

 彼女たちは裸……と言うわけではなく、ベージュ色に統一されたシンプルなデザインの水着の様なものを着ていた。皆セパレートタイプのビキニ調のものを着用している。

 

 

「へぇ……中々大したモンじゃねぇか」

 

「わぁ、これがお風呂なの!? この前シャカールと行ったバブリーランドみたい!」

 

「まぁ……これは壮観でございますね!」

 

 

 3人の反応に満足した顔のダイヤは、バッと紹介するように腕を広げる。

 

 

「ええ! 我がサトノグループ・リゾート開発プロジェクトチーム自慢の大浴場です! 大人から子供まで楽しめリラックス出来るお風呂、そしてもちろん女性の為のありとあらゆる美容設備をご用意してあります」

 

 

 おぉ、と3人から感嘆の声が漏れ出た。すると、ファインが自分の身体を見下ろして言う。

 

 

「それに、この水着も着心地がとっても良いね! 海外と違って、日本の銭湯では水着はダメって聞いてたけど、ここでは着て良いんだね」

 

「日本の銭湯でも『湯浴み着』と言って、身体の傷などを隠したい方や、混浴温泉などで使用される専用の衣服があるんですよ! 全身を覆うローブの様な湯浴み着もあるのですが、今回は動きやすい水着タイプのものを皆さんにご用意しました!」

 

「へぇ〜〜、なるほど!」

 

 

 ファインとダイヤが会話する中、シリウスはペタペタもトレーナーの元へ歩いていた。チラリとトレーナーが彼女を見上げると、そこにはニヤニヤと愉快そうな笑みを浮かべたシリウスが見えた。

 

 

「残念そうな顔を浮かべてどうしたんだ、トレーナー? 何を期待してたんだ、言ってみろよ。んん?」

 

「べ、別に何も……」

 

 

 トレーナーは顔を赤らめてそっぽ向いた。ちなみに彼も同じタイプの浴み着を着けていた。

 

 

「俺は身体洗ったらすぐ出て行くからな! ダイヤ、洗い場はどこだ!? 案内してくれ!」

 

 

 トレーナーはサッサと歩き去っていってしまう。その後ろ姿を見ながらシリウスはまた楽しそうに怪しい笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

……

………

…………

 

 

 

 

 

「ふぅ〜〜〜……疲れた。とりあえず、さっさと身体洗って出ていこう。いくら俺は今ウマ娘になっていたって、アイツらと女湯に居るのは神経が持たん……」

 

 

 あえて洗い場の他の皆から離れた位置で、トレーナーはバスチェアに腰掛ける。目の前には姿見があり、バツの悪そうな顔をしたダイヤがそこに映っていた。中身が自分だと分かっているが、まるでダイヤにいけないことをしているような罪悪感が襲ってくる。

 

 

「うっ……急ごう。えっと、まずボディーソープは……」

 

「どうぞ、こちらをお使い下さい。トレーナーさん」

 

「ああ、ありがとう…………ってアルダン!?」

 

 

 いつの間にか、トレーナーの側にはメジロアルダンが佇んでいた。

 

 

「はい、アルダンです♡ トレーナーさん」

 

 

 にこやかな微笑みを浮かべてアルダンは言った。

 

 

「ど、どうしてここに? みんなの所に居たんじゃ」

 

「トレーナーさんの事が心配になってしまって……突然ウマ娘の身体になってしまったのなら、そのお手入れの仕方等々で男性であるトレーナーさんは困惑してしまうのではないかと思いまして。不肖、このアルダンがお手伝いに参った次第でございます」

 

 

 ズズイッと近づいて来るアルダンに、トレーナーはドギマギしてしまう。セパレートタイプの湯浴み着姿の彼女はとても魅力的で……かつ『暴力的』だった、色んな部分が。精神が男性であるトレーナーにはあまりにも目に毒である。

 

 

「い、いや! 大丈夫! 身体を洗うくらい、俺1人でも何とかなるからさ!」

 

「トレーナーさん」

 

 

 アルダンは少しだけ怒ったような顔をした。

 

 

「まさかと思いますが、全身を垢すりでささっと洗って、髪の毛は急いでワシャワシャとお洗いなさるつもりではありませんか?」

 

「(ギクッ)えっ、そ、そうだけど……」

 

「なりません!!!」

 

 

 アルダンはピシャリとトレーナーを叱りつける。

 

 

「良いですか、トレーナーさん。ウマ娘は頑丈といえど、乙女の柔肌はとても繊細で傷付きやすいのです。殿方の様に乱暴に洗ってならないのです。私……トレーナーさんが、仮のお身体とはいえ……ウマ娘をぞんざいに扱う姿は見たくはございません……」

 

 

 アルダンは少し悲しそうに目を潤ませる。それを見てトレーナーはドキリとする。

 

 

「そ、そんな顔するなよアルダン! 分かった、分かったよ! 身体の洗い方……教えてくれ」

 

「はい、トレーナーさん! では、私がお身体を洗います。全てお任せ下さい♡ トレーナーさんは、ただジッとしてるだけで良いですから……」

 

 

 打って変わってニッコニコの笑顔でアルダンは答える。トレーナーはその様子に困惑した。

 

 

「え……アルダン?」

 

「まずは全身にシャワーをお掛けいたしますね。あまり熱過ぎてもいけません、まずはぬるま湯くらいで……」

 

 

 そうやって、トレーナーは全身にシャワーを浴びた後に長い髪を丁寧に洗われた。長い髪の女性は大変なんだな、と思いつつ洗われる気持ち良さに身を委ねていた。最後に髪を頭の上でタオルで結うと、アルダンはおもむろにボディソープへと手を伸ばした。

 

 

「さぁ、次はお身体を清めますね。ビーチで遊んだのなら、隅々まで汚れを落とさなくてはいけませんね」

 

「え、ちょっと待ってアルダン。流石に悪いって……」

 

「大丈夫です。私、メジロ家の歳下の子たちをお風呂に入れるのは得意でしたから。まずはお背中から……」

 

 

 アルダンは謎の圧を発してトレーナーを黙らせると、問答無用でその身体を洗い始めた。

 

 

「ひゃう!? まっ、アルダ……んあああっ!?」

 

「〜〜〜♪」

 

 

 アルダンはヌルンヌルンとトレーナーのスベスベの柔肌を揉み込むように洗っていく。トレーナーは感じたことのない感覚に驚いて声を上げた。

 

 

 ちなみに、ロイヤリティーズが取り決めたのはメンバー1人1人がトレーナーと2人きりの時間を作り、その間は誰も邪魔をしない事だった。先程のドレッシングルームではファインモーションがトレーナーを着せ替えていたので、今はアルダンの番という事だ。

 

 

「動いてはいけませんよ、トレーナーさん。ちゃんと洗えなくなりますよ? 全身を隈なく……綺麗にしないといけないのですから……♪」

 

 

 そうして、アルダンの指は湯浴み着の内へと侵入してきて……

 

 

「あああっ……アルダンっ!? や、やめっ……〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

「まぁ、先ほどは確かめられませんでしたが……ココも『女の子』なのですね……ふふっ」

 

 

 未知の感覚に力が抜けて、トレーナーは為す術がなかった。アルダンは心配させた仕返しと言わんばかりにトレーナーの反応を堪能するのだった。

 

 

 

 

…………

………

……

 

 

 

 

 

「うぅ……アルダンって、あんな感じの子だっけ? 俺が今はウマ娘だから積極的になってるだけなのかな」

 

 

 ヘトヘトになったトレーナーは皆から離れた所で1人湯船に浸かっていた。いくら無理矢理に女湯に連れ込まれたとしても、皆の入浴姿を直接見るのは気が引けたのだ。

 

 ちなみに髪の毛は「お湯に髪をつけると傷んでしまいますから」とアルダンがタオルで結ってくれていた。どうせ男に戻るんだからと言ったら、寒気のする美しい笑顔で睨まれたので彼は黙って従ったのだった。

 

 

「はぁぁぁぁ……それにしても……気持ち良いぃ……」ブクブク

 

 

 トレーナーは口元までお湯に沈んで、その温かさに身を委ねた。全身から今日の疲れが溶け出て行くのを感じた。ウマ娘の身体になって血行が良くなった影響なのかもしれない、とぼんやり考える。

 

 

「気持ち良い……んだけど……これは……」

 

 

 トレーナーはほんのちょっぴり、チラッとだけ自分の胸元を見る。そこにはビキニトップ調の湯浴み着に包まれた『ふわふわ』があるわけで……

 

 

(これ……う、『浮いてる』……!? そう言えば、巨乳はお湯に浮くとか聞いたことあるような気がするけど、ホントだったんだ……まさか自分の身で体験するとは……)

 

 

 揺ら揺らとお湯の中を浮かぶ二つの膨らみの感覚に、トレーナーはたじろぐ他なかった。

 

 

(押さえようにも、その為にはこれに触らなきゃいけないわけで……だ、ダメだダメだ! いくら自分の身体でもダイヤと同じ姿なら、トレーナー としてそれは許されない……!)

 

 

 仕方がない、とトレーナーはお湯から立ち上がった。湯の雫がポタポタと白い肌を滴ってゆく。

 

 

(名残惜しいけど、もう上がらせてもらおう。他の子達に止められる前にさっさと更衣室に向かわないと……)

 

 

 トレーナーはこっそりと更衣室へと向かう。かなり広い浴場なので隠れられる物陰はそこそこに存在する。あと少しでたどり着けるというところで……

 

 

「よぉ、トレーナー。そんな怯えた小動物のように隠れて、何処に行くつもりだ……?」

 

「ひっ」

 

 

 ビクッと身体を震わせ、トレーナーはゆっくりと振り返る。そこには腕を組んで立つ、ギラリと眼を肉食獣のように光らせるシリウスシンボリがいた。

 

 

「し、シリウス……いやその、もう十分サッパリしたから出ようかなと……」

 

「ふん、くだらねぇ嘘を吐くな。大方、女湯の雰囲気に耐えられなくなったか、自分かアイツらの身体を見るのが忍びなかったかってトコだろ?」

 

 

 シリウスはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「う……その通りだけど」

 

「ま、アンタその辺りの事はド級に真面目だからな。その上で鈍いところもあるから私らは苦労してんだよ」

 

「……トレーナーとして未熟者だってのは理解してるよ、まだまだ君たちに相応しいトレーナーだって胸を張って言えないからな」

 

 

 そういう事じゃないんだがな、とシリウスは心の中で呟く。

 

 

「まぁ、いいか。トレーナー、ちょっと付き合えよ」

 

「えっ? 付き合うって、何に」

 

「行けば分かる」

 

 

 そう言うとシリウスは有無を言わさずトレーナーの手を握って歩き出した。かなり強く掴まれていたので、振り払うのは難しい。

 

 

「ちょ……シリウス……!」

 

 

 そのまま2人は、浴場のある一角へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

……

………

…………

 

 

 

 

 

 湯気に支配された空間で、まるで熱そのものに抱擁されているかのような独特の居心地に、トレーナーの思考は溶けて行きそうだった。頭に巻いたタオルの中が蒸れるが、外すと汗で大変なことになるのが分かる。

 その隣では慣れた様子のシリウスが全身を熱に委ねていた。彼女は自然体が良いのか、ヘアゴムで髪を束ねてるだけであとは湯浴み着のままだった。

 

 そう、シリウスがトレーナーを連れてきたのは「サウナルーム」だった。取り決めにより他のウマ娘たちはそこには近づかないので、トレーナーとシリウスは2人きりの状況だ。

 

 

(サウナなんて久しぶりだな……それにしてもシリウスは何で俺をこんな所に……ああ、ダメだ……何だこの感覚……ウマ娘の身体だからか……?)

 

 

 トレーナーはまるで皮膚の下で熱湯が煮えたぎるかの様な火照りと、吹き出してくる大量の汗に戸惑っていた。もうすでに座っている場所が水をかけたみたいにビチャビチャになっている。

 チラリと彼がシリウスの方を見ると、彼女も同じ様に大量の汗を流していた。トレーニング直後と同じか、それ以上ではないか?とボンヤリ考えていると……

 

 

「なあ、トレーナー ……アンタはどうしたいんだ?」

 

 

 シリウスは流し目で、トレーナーを見て囁くように言った。その声にはまるでこれから斬り合いに臨む剣士のような真剣味があった。だが、トレーナーは彼女の意図が掴めなかった。

 

 

「シリウス……?」

 

「いくら鈍感なアンタでも気付いてるんだろ? サトノ家もメジロ家もファインの国の王室も、みんなアンタを欲しがっている。もちろん……シンボリ家もな」

 

 

 トレーナーは「う〜ん」と考えるような仕草をする。

 

 

「確かにそれらしきアプローチはされてる気はするけど……俺たちはまだ道半ばだし、俺はレースを走る君たちについて行くのに精一杯でがむしゃらに頑張ってるだけだよ。俺が奇跡的に君たちの実家のメンツを潰さずに済んでるのは、君たち自身の努力の結果だよ」

 

「…………ハッ、アンタ本気でそう思ってるんだな。まぁ、半分は正解ってところだ」

 

「? 半分って……な、うわぁっ!!」

 

 

 突然、格闘技のような素早い動作でシリウスはトレーナーを押し倒した。

 

 彼は両手を拘束され、脚も押さえられ身動きが取れない。滝のような汗を流している背中と肩がサウナ室の木版に押し付けられ、ビチャアッ!とロマンチックさの欠片もない音が彼の耳に聞こえた。

 

 

「っ……シリウス、何を……?」

 

「前提が間違っているんだよ。私たちはな、『アンタ』がトレーナーだから努力してきたんだ。筋金入りの鈍感さゆえか、家柄なんぞお構い無しに私らと向き合いぶつかってくれた『アンタ』だから……レースを走ってこれた」

 

 

 ポタリポタリと、トレーナーの顔に、彼を見降ろすシリウスの汗がかかる。彼女の獰猛な眼差しの奥には、何かに焦がれるような激情が有った。

 

 

「私はサトノのお嬢さまみたく、アンタをウマ娘にするみたいな近道だか遠回りだか分からない手段は使うつもりはない…………なあ、トレーナー」

 

 

 トレーがーがかつて聞いたことのないような真剣な声で、シリウスは問いかける。

 

 

「アンタ、私のものにならないか?」

 

 

 トレーナーは黙って聞いていた。

 

 

「私はアンタとなら世界を獲れる。いや、世界を獲るために……アンタが必要なんだ。シンボリの家名なんざ関係無い……私は、アンタが欲しい」

 

 

 ポタリポタリと、彼女の汗がトレーナーの肌へと落ちる。そんな中、トレーナーは……

 

 

「シリウス…………あれ…………なんだか、景色がユラユラして…………?」

 

 

 グルングルンと、意識朦朧に目を回していた。

 

 

「はぁっ!? おい、トレーナー ! ふざけんなっ! 私がどんな気持ちで……って、おい。アンタ……体温が」

 

 

 シリウスは彼の拘束を解くと、顔や肩を触り彼の様子を確かめる。

 

 

「トレーナーっ! アンタ、水は飲んだのか!? ここに来る前に飲料水のボトル渡しただろ!?」

 

 

 トレーナーは焦点の合わない目で答える。

 

 

「うぅ……あんまり水分取ると……『催しちゃう』から……昼間にも2回トイレに行ってしまったし……さっきは少しだけ飲んで……」

 

「なっ……!!」

 

 

 それを聞いたシリウスが激昂する。

 

 

「バカヤロウッ!! ウマ娘の発汗量はヒトと比べ物にならねぇんだぞ!! 入浴前に多量の水分を摂取する必要がある事くらい、ウマ娘なら常識………って、くそ! アンタは男で……知らなくても不思議じゃねぇか。教養でもそんな知識は習わねぇよな……」

 

「うぅ〜〜〜ん……もう、だめぇ……」

 

 

 目をぐるぐる回して、トレーナーはそのまま気絶してしまった。

 

 

「なっ!? おい、しっかりしろ!! ったく、そのまま運ぶぞ!!」

 

 

 薄れゆく意識の中、トレーナーが見たのは今まで見た事ないくらいに焦るシリウスシンボリの顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「……んぅ……あれ……ここは……?」

 

 

 微睡みの中で、トレーナーは目を覚ます。彼はどうやらベッドの上で眠っていたようだ。

 

 

「っ! トレーナーさん、お目覚めですか!?」

 

 

 トレーナーの視界に、心配そうに覗き込むサトノダイヤモンドが映る。彼女の声に反応したのか、次々とチームメイトが近付いて来る気配がした。

 

 

「あ、トレーナーさん! 良かったぁ!」

 

「まぁ、目を覚まされたのですね! お気分はいかがですか、トレーナーさん?」

 

「お前ら、心配し過ぎなんだよ。軽度の脱水症状なんだから、処置すりゃ問題無ぇんだ」

 

 

 ファイン、アルダン、シリウスがそれぞれ声を上げる。トレーナーはぼんやりとそれを聞いていた。

 

 

「……あれ……俺は確か……」

 

「トレーナーさんはサウナで気絶なさったのですよ。その後、医療スタッフに診察をしてもらって様子が落ち着いてきたので、ちょうど寝室へ運び込んだところだったのです」

 

「そう……だったのか……ごめんな、みんなに迷惑をかけてしまったな……」

 

 

 トレーナーが謝ると、シリウスがベッドのへりに腰掛ける。トレーナーが寝かされていたのはキングサイズベッド並みに大きく広いベッドだった。トレーナーからはシリウスの姿が少し遠くに見える。

 

 

「全くだ。『トレーナーはトイレに行きたくないから水を飲まずに脱水症状を引き起こして亡くなりました』ってニュースの一面を飾るつもりだったのか?」

 

「う……いや、だって恥ずかしいんだぞ! 異性の身体で用を足すのは!」

 

「2人ともケンカはしないの! とにかく、トレーナーが無事だったから良かったの! それでおしまい!」

 

 

 ファインが2人の間に割って入る。

 

 

「今は解決すべき問題が他にあるでしょ。『トレーナーさんの隣で眠るのは誰?』っていう」

 

「…………………………は?」

 

 

 トレーナーは某宇宙猫のような表情になる。

 

 

「ちょっと待ってくれ、ファイン。俺の隣で眠るってどう言う意味だ……?」

 

「え? そのまんまの意味だよ。今夜はみんなでこの部屋で寝ることになったから、トレーナーの両隣で寝るのは誰か決めなくちゃいけないの」

 

「待て待て待て待て」

 

 

 トレーナーはキョロキョロと周囲を見渡して言った。見るからにVIPルームだと分かる豪華な部屋に部屋着のウマ娘たちが集合している。明らかに自分という男トレーナーが居てはいけない空間である。

 

 

「どう考えても俺は1人部屋に行くべきだろ! トレーナーで男なんだぞ、担当ウマ娘と相部屋なんて君たちの親や世間にバレたら……」

 

「トレーナーさん」

 

 

 ニコニコ顔のサトノダイヤモンドが呼びかけた。

 

 

「ここはサトノグループ所有のプライベートアイランドだという事をお忘れですか? ここで起こったことが世間に漏れることはございませんよ」

 

「そうですよ、それに……」

 

 

 いつの間にかメジロアルダンがベッドに乗って詰め寄ってきていた。

 

 

「トレーナーさんの体調の事も心配なんですよ。やはりウマ娘の身体は殿方とは違いますし、元に戻るまでは私たちがお支えすると皆で決めたのですよ」

 

「い、いや……それはいけない! リゾート施設なんだから他にも部屋はたくさんあるだろ! 俺は別の場所を用意してもらう!」

 

 

 トレーナーはそう叫ぶとベッドを抜け出そうとした。しかし……

 

 

「駄目だ。ここで大人しくしてろ、トレーナー」

 

 

 シリウスシンボリが彼を押さえ込む。

 

 

「そうだよ、トレーナー。今は女の子同士なんだし、みんな一緒に寝てもノープロブレムだよね♪」

 

 

 ファインモーションも近付いてくる。

 

 

「トレーナーさん、もう観念する他ないですよ。だから選んで下さい。私たちの中から両隣に添い寝する2人を……」

 

 

 サトノダイヤモンドも可愛らしいパジャマ姿でトレーナーに詰め寄る。

 

 完全にトレーナーはザ・ロイヤリティーズに包囲されてしまった。逃げ場などあるはずがなかった。

 

 

「な、やめろ……離せっ……うわあぁぁぁぁ………!」

 

 

 トレーナーの可愛らしい叫びとともに、夜は更けゆくのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 数週間後……

 

 

 

「はぁ……計画は失敗に終わってしまったわ……」

 

 

 カツーン……カツーン……と冷たい音を響かせながら、サトノダイヤモンドは階段を降りてゆく。

 

 しばらく降り続けて、何やら厳重なセキュリティーの施された扉の前にたどり着いた。機械音が鳴り、指紋認証と網膜認証、声紋認証まで行ってようやく扉が開く。

 

 ダイヤは涼しい顔で扉をくぐると、そのまま進み続けた。そして、何やら妖しい雰囲気の巨大組織の実験研究施設のような部屋にたどり着いた。

 

 

「皆さん、日夜研究ご苦労様です」

 

 

 ダイヤが声を上げると、研究者らしき人々が会釈を返した。そう、ここは文字通りサトノグループの極秘研究施設なのであった。

 

 

「ダイヤ様、ようこそおいで下さいました」

 

 

 すると、1人の中年の研究者のリーダーらしき男が現れた。

 

 

「研究主任、いつもご苦労様です。例の薬の件についての進捗はいかがですか?」

 

「ええ、ダイヤ様が持ってきたサンプルを元に、ある程度の効果は再現できる段階へと至りました」

 

 

 研究主任はダイヤを研究室に案内した。そこには一般人には理解できない様々な機材と機械が所狭しと並んでおり、中央の巨大な実験容器にはピンク色に発光する液体が入っていた。

 

 

「まぁ……素晴らしい」

 

 

 ダイヤは手を合わせて賞賛する。

 

 

「ええ……ですが、まだまだ効果が安定しないのです。アグネスタキオンが制作した薬品と比較すると、薬効はその三分の一にも及びません。彼女はトレセン学園内で一体どのようにコレを精製したのか検討もつきません」

 

「アグネスタキオンさんに常識は通用しません。しかし、サトノグループ最高の研究施設でも作れないものをポンと作るなんて……」

 

「ここでの実験でのデータ収集には限度があります。やはり、ウマ娘と密接に関わっている人物で効果を確かめられないことには何とも……」

 

「そうですか……う〜ん」

 

 

 ピコーン!とダイヤは何かを思いついたように耳を立てた。そしてニッコと笑みを浮かべた。

 

 

「だったら、やっちゃいましょう。データ収集を……『トレセン学園』で」

 

「な……ダイヤ様、それはあまりに危険では?」

 

「トレーナーと親密な関係になりたいウマ娘はたくさんおります。協力してくれる事を条件に、彼女たちにこの薬を渡しましょう。効果が長く続かないのならむしろ都合が良いでしょう」

 

 

 ダイヤはウットリとした表情を浮かべる。

 

 

「いつかまた、トレーナーさんにも再び『サトノトパーズ』になって貰いたいものです……サトノは転んでも、タダでは起き上がらないんですよ……ふふふっ」

 

 

 

 

 

 そうして、トレセン学園に新たな危機が訪れようとしていた。

 

 トレーナーたちの運命や如何に……!!!

 

 

 

 

 

 

 





ここまでお読み頂きありがとうございました。
なんか最後は世界終焉シナリオに一歩踏み出してないかと心配になりましたが、サトノに任せていれば安心ですよね。


この続きは出すにしてもシリーズではなく短編になると思います。
もしよろしければ感想と、どのウマ娘のトレーナーを『おしまい』にしたいか聞かせて下さいませ。

それではまた会う日まで!


後、完全に正反対にドシリアスな物語も書いてるので、こちらもよろしくお願いします。↓
https://syosetu.org/novel/315782/
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総合評価:41579/評価:9.06/完結:79話/更新日時:2022年05月29日(日) 22:00 小説情報


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