異世界おじさんvs異世界TS娘   作:SEGA機未プレイお兄さん

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11月更新のはずが、就活が行く手を阻む……!


それじゃあ意味が無い。お前と攻略してこそだ。 リフィア=カルネイアの軌跡5

 

 

 甲冑の冒険者はどうやら仲間を待っているらしい。

 

 一日に七回、定刻に色が変わる珊瑚時計を持っているらしく、そろそろ時間のようだが、一日七回しか変わらないのは中々に厄介だ。

 

 私はシドレラ魔具工房製の懐中時計があるから、いつもそれで時間を確認してるんだけど……時計自体が希少だから、周りの時間感覚とどうしてもズレてしまう。

 

「フォウも打撃系武器持ってて良いんじゃない? 小槌とか」

「確かにな。ナイフしかないと、こういう時は大変だ」

 

 暇だったので、お互いにアイテムボックスの整理をしていた。

 もしかしたら、有用な物をトレードできるかもしれない。

 

「これとかいいよ、東大陸で作られたメイジマッシャー。魔法使いを斬り付ければ、魔法を封じられるんだ」

「⋯⋯マッシャーって、マッシュポテトのマッシュ(磨り潰す)だろ? 短剣っておかしくないか?」

「RPGではよくある事なんだよ」

「よくある事なのか⋯⋯!」

 

 その代わりに闘気を増強させるリストバンドを貰った。

 陽介には全くの不用品だもんね。

 

「物々交換か。使えそうなものがあれば、こちらも品を用意したいが⋯⋯流石に帰ってからになるか」

「まあ、我々は少し特殊だからな」

「その収納できる魔法、くっそ便利で羨ましいよ⋯⋯俺にも使えるものなのか?」

「それは無理だ。これは一応、継承級でね」

「は? 継承級を他人が使えるっておかしいだろ」

「ああ、オーク顔もリフィアもおかしいんだ⋯⋯」

 

 おかしいおかしい言い過ぎじゃない⋯⋯?

 私の場合、転移した異世界人って事で、間隙の精霊と相性が良かっただけなんだよ。吸血鬼族の根源魔法は、陽介のそれよりも使い勝手は悪い。

 

 例えば雷属性は、私が適性とする氷の反属性なので習得の適性は皆無で、根源魔法でも精霊との交渉が難航してしまう属性だ。

 雷の精霊曰く、「なんかあんまり好きじゃない」そうだ。気まぐれにもほどがある。

 

 すると、空からスタタッと、何かが降りてきた。

 

 ────斬竜変、《ザックトーラ・キャトルフ》

 

 それは⋯⋯竜の鋭い鉤爪。

 陽介に向かって、一直線に急降下してきた。

 

 陽介はギリギリで躱して、アイテムも襲撃直前に回収済みだ。 

 

 襲撃者は何かと目を凝らすと、そこには四肢を部分竜変した女性が。躱した陽介にすかさず攻撃を放とうとして⋯⋯

 

「──炎竜変、《形貌変躯(ザックトーラ・キャトルフ)》」

 

 それに対抗すべく腕を炎竜化させて、攻撃を防ぎ切る。

 竜変化使い同士の戦いは初めて見る。

 

「えっ⋯⋯竜変化魔法!? オークなんじゃ⋯⋯」

「シャリオン! コイツはオークじゃない!」

 

 そう騒ぎを起こしたせいだろう。探知魔法に複数の反応が⋯⋯いやこれ、まずいかも。

 

「皆! 骨が⋯⋯最低十体来る!」

「なっ、マジか⋯⋯!」

 

 そう言うと、竜変化使いことシャリオンちゃんの顔が一気に青褪めた。

 

 この通路は両方を大きい通路で挟み込まれた横の一本道だ。挟まれれば一巻の終わりだ。

 

「ご、ごめんなさいっ⋯⋯勘違いしちゃって⋯⋯!」

「気にするな。⋯⋯だがこの状況、どうやって切り抜ける?」

「何とか退路は拓いてみせるわ。しかしこの数、逃げ切れるかどうか⋯⋯」

「わ、私も手伝います!」

 

 騎士甲冑の冒険者が即座に指示を飛ばした。

 

「なら退路はエルフさんとシャリオンに任せた! ⋯⋯二人、撹乱できる魔法は無いか!? それまで囮は俺がやる!」

「それなら問題は無い」

「時間をかけたら、囮も魔法で用意できるよ!」

「心強過ぎるな⋯⋯! 三人と二人で分かれるぞ!」

 

 そして、骨が現れた。目視できるだけで、こちら側に七体も迫ってきている。

 

 その間に、私は貌と影の精霊と交渉。それも五体の同時展開を、こんな魔法減衰下でやるのだから当然だ。

 

 その間に、騎士の冒険者が骨を傷付けない程度に抑えつける。

 そこを、陽介の魔炎竜の腕が一体一体全身を粉々に砕いていく。

 

「⋯⋯こっちはキリがないな」

「シャリオン、そっちはどうだ!」

 

 あちらの方は、シャリオンちゃんもエルフも接近戦で骨を各個撃破している。

 

「た、退路確保できます!」

「よし⋯⋯銀髪さんも行けそうか!?」

「⋯⋯大丈夫。いけるよ!」

「なら、まずは煙幕だ──《闇霧留現(クローシェシオル・ザルラン)》!」

 

 陽介が私と騎士の冒険者を脇に抱えると、黒い霧がぶわっと噴き出してきて、骨達の視界を遮る。

 そして、シャリオンちゃんがエルフを回収、そして誰も居なくなった通路に⋯⋯

 

「《残影創映《ザックフレイズ・ユールエルラン》》」

 

 薄くなっていく霧を突破した骨達が、私達五人を模した動く残像をひたすらに攻撃している。

 効果時間は減衰によってたったの十秒。しかし効果は絶大で、逃げゆく私達は視界に入らなかったようだ。

 

「ぜぇ、はぁ⋯⋯に、逃げられたか?」

「うん、行けたっぽい。周りに反応も無し」

「案外、なんとかなるわね」

 

 素の骨の防御力はそう高い訳では無い。変に魔法を使わなければ、後は物理で倒せてしまう。

 

「あの、本当にすみませんでした⋯⋯」

「⋯⋯三人には、助けられちまったな。ありがとう」

「まあまあ、そう気に病む事でもない。この男がオーク顔なのは事実なのだからな。誰しもまずは攻撃するのが普通の反応だ」

「いやちょっと?」

 

 ツンデレも度が過ぎるとただの嫌われキャラになるからね⋯⋯?

 陽介がぶすっとし始めたので、それを宥めつつも、取り敢えず全員で自己紹介をしておく流れになった。

 

「俺はオートム。職業(ジョブ)は回復が使える〝聖剣士〟だ。この減衰下でも軽めの傷なら任せてくれ」

 

 甲冑さんの素顔は意外と整っていた。目付きの鋭いイケメンだ。

 

「わ⋯⋯私はシャリオン。〝竜変化術師〟です⋯⋯ここでは、体の一部しか変化できませんが⋯⋯」

 

 対するシャリオンちゃんは、ピンクの長髪という珍しいタイプ。竜変化も使えるとなると、並々ならない出自な気もしてくるが⋯⋯

 

「二人パーティーで、キャリアはそれなりってところだ。よろしく」

「よ、よろしくお願いします⋯⋯」

「ほう⋯⋯二人ともレアな職業だな⋯⋯」

 

 まず見ないと言っていい。竜変化術師は疑似竜変化なら色々見たことあるけど、聖剣士なんてどこにいるんだって感じだ。

 

「私は⋯⋯エルフでいい。職業は〝魔道具使いの剣士〟といったところだ。戦力としては先刻の通り。よろしく」

「あ、はは⋯⋯」

 

 オートムの目が笑っていない。

 バケモノ呼ばわりしてたから、気まずさ倍増である。

 

「リフィアだよ。職業は〝赤魔道士〟。一通りの属性魔法と神聖魔法が使えて、接近戦もできる感じ。よろしくね?」

「赤魔道士⋯⋯? でも、回復までできるのは良いな」

「そういうの、オールラウンダー、って言うんですよね⋯⋯!」

 

 もしくはただの器用貧乏。

 作品によって強さが分かれる職業⋯⋯それが赤魔道士⋯⋯!

 

「俺はラブ・ペンギ────」

「フォウ?」

 

 偽名ポンポン変えるのやめよう、と目で訴える。

 何よりそんな名前で呼びたくない。

 

「フォウ・ミサキだ。職業は⋯⋯俺の職業ってなんだ?」

「魔法剣士じゃない?」

 

 魔法剣ばっか使ってるし。魔法もよく使うけど。

 作品によっては、赤魔道士と魔法剣士って明確に分けられないよね⋯⋯

 

「〝魔法剣士〟らしい。魔法やナイフで戦う。ここでも頑張れば色々やれると思う。よろしく」

「「よ、よろしく⋯⋯」」

 

 締まりなく紹介が終わって、探索を始めると、なんとすぐに下階層への扉を見つけた。

 どうやら逃げた方向は、当たりの道だったらしい。偶然に喜びつつ、階段を降りていく。

 

「しかし、咄嗟の戦いだったが、中々のチームワークだったな⋯⋯おまけに、三人とも強者と来た」

「す、凄かったです⋯⋯わ、私たちも、冒険者として、そこそこの強さだと思ってたんですけど⋯⋯」

「いやいや、二人も強いよ! このレベルの冒険者は、『巨獣狩人(ギガントハンター)』のドルドールさん以外知らないし⋯⋯何か二つ名持ち?」

「いやいや、さすがにそこまでじゃない」

 

 この強さで逆に二つ名が無いって事は、あまり外で目立った活動をしていないからなんだろう。

 ダンジョン専門とかだと、結構そういう人はいる。

 

「だが、これなら骨を倒して進めそうだな」

「いや⋯⋯ここに来るまでに、半分も機動の力を使ってしまった。〝隠し扉〟の発見は攻略に必須だ」

「そ⋯⋯そうか⋯⋯!」

 

 オートム君、いちいちエルフの言動にビクビクするんじゃない。

 

「⋯⋯口は災いの元だね」

「⋯⋯わ、悪い」

 

 そんな、ちょっと情けないオートムを弄りながら、地下2階を攻略していく。

 

 どうやら、さっきと同じ構造だ。骨が巡回し、それを迂回できるように隠し扉がある。

 

「隠し扉か⋯⋯何か、見つけ出すヒントが欲しいな。このダンジョンの特徴と言えば」

「魔法の減衰、だろうな」

 

 エルフが即答する。減衰量は大体、魔法ダメージ90%カットぐらい。魔法で攻略するなと言わんばかりのデバフだ。

 

「この減衰って、そもそも何なんだろうな⋯⋯?」

 

 確かに、原因を考えもしなかった。

 もしかしたら、ギミックを解いてデバフを解除する系の⋯⋯?

 

「精霊が言うには⋯⋯『地下から力を吸い取られる感じ』らしい」

「え? ⋯⋯⋯⋯あ、ホントだ。精霊さんダルダルだ」

 

 一番仲の良い記憶さんが、ふええん、最深部マッピングできないよう、と嘆いている。これは一大事かもしれない。

 このデバフ、そんなレベルで酷いんだ⋯⋯

 

「ふ、ふふっ⋯⋯!?」

 

 突然、無口なシャリオンが噴き出した。

 驚いて陽介と共に振り向くと、手を小さくブンブンと可愛く振って、もじもじしだした。

 

「あっ⋯⋯いえっ、その⋯⋯せ、〝精霊の声〟とか言っちゃうんだーって⋯⋯あ、いえ、いいんですけど⋯⋯えぇ〜⋯⋯意外⋯⋯」

 

 ⋯⋯あれっ。これ厨二病扱いされてない!?

 

「ま、待って! 精霊は魔法の媒質なんかじゃなくて、実際は意志ある集合体で⋯⋯ほ、ほら! この古文書には、吸血鬼族の根源魔法は、魔力を使わず精霊との対話を可能にしたっていう記録が⋯⋯」

「ああ⋯⋯俺もよく、伝説の吸血鬼とか、神話みたいの引っ張り合いに出して、そういう設定を考えた⋯⋯まあ、人前で言うのは止めたほうがいいな⋯⋯」

「れ、歴史資料! 歴史資料だからぁ!! エルフもなんか言ってよー!」

 

 事実を言ってるだけなのに、生暖かい目だけが飛んでくる。

 エルフには私の研究を積極的に発表してるから知ってるはずなのに、この場では知らんぷりされてる。

 

 というか、エルガ王族は吸血鬼族と交流してきた一族なんだから、普通に知ってるでしょうが!

 『精霊/神の寵愛を受けし一族(ジャイガギルレアベール)、吸血鬼(バグルド)』って記述もエルガの碑文に書かれてたのに!

 

 このまま厨二病扱いされたらたまらない。

 むむむ⋯⋯と目線で圧を掛けてると、根負けしたのか、エルフが援護を出してくれた。

 

「そうだな。代々エルフは過去の遺物や知識を集めてきたが、それから言わせれば⋯⋯⋯⋯意志ある精霊は実在すると考えられている」

 

 そういった途端、オートムとシャリオンがぎゅるん、とエルフの方を見た。

 さあ、エルフまでも厨二病扱いされるがいい⋯⋯!

 

「ほ、本当なのかよ⋯⋯! でもエルフが嘘言うとは思えないしな⋯⋯こりゃあ、魔法界隈に激震走るぞ⋯⋯!」

「え、エルフさんが言うなら、間違いないですね⋯⋯! 笑っちゃってごめんなさい、お二人とも⋯⋯」

 

 ちょっと? エルフの信用高すぎじゃない?

 

 一瞬にして掌クルーされて、私と陽介の心境は複雑でしかない。理解してもらえたんだか、されなかったんだか⋯⋯

 

「俺はSEGAゲーマー⋯⋯元より、他人に理解してもらおうだなんて⋯⋯」

「フォウには私が付いてるからね。よしよし」

 

 傷心気味の陽介を抱き寄せてヨシヨシする。エルフが極まった凄い目で見てくるけど、あれはすぐ庇わなかったエルフが悪いんだからね。

 

 そうしていると、シャリオンちゃんが、前髪で隠れた目からチラチラと様子を窺ってくる。無口だけれど、人並みにこういうのは興味があるらしい。

 

 これ見よがしに見せつけていると、ちょっとムラムラしてきた。ここの所の共同生活で、発散しきれなかったのだ。

 

 一度離れると、陽介に囁く。

 

「後で、さ⋯⋯HP、吸ってもいい⋯⋯?」

「分かった」

「⋯⋯え、えっちぴー? えっち、ぴー⋯⋯え、ええっ!?」

 

 シャリオンちゃん、言葉尻だけ取って、すんごいいかがわしい単語にするのやめてほしいな⋯⋯

 でも、HPがなんかエロいは分かる。エイチピー派は許さない。

 

 私がくっつくのをやめると、エルフからの瘴気が消滅した。

 ごめんね、後で二人きりにしてあげるから。

 

 探索の最中、エルフが魔力を感知する魔導具を取り出すと、私達が教えられていた通り、吸い取られていく魔力の流れを見つけた。

 それが示すままに何も無い壁に手を当て、力強く押してみると、隠し通路が現れる。

 

「『減衰の流れを辿る』⋯⋯!! これ攻略法見えたんじゃないか!?」

「ふふ⋯⋯フォウのお蔭だね」

「いや、本当に悪かった⋯⋯」

 

 じろり、とオートムに視線をやる。陽介が居なければ攻略は難航していただろう。もっと褒めてやって欲しいのに。

 

「まあ私達には理性があるからな」

「悪かったって!! お前ら根に持ち過ぎだろ⋯⋯!?」

 

 私にエルフと、オートム君がボコボコにされてるのを、シャリオンがあわあわして間に割って入り、頭を下げようとする。

 

 いつの間にか、極悪なダンジョンに笑いが溢れていた。

 

「⋯⋯フォウは、こういうパーティーは初めて?」

「⋯⋯前に、勇者のパーティーに参加した事がある」

「アリシアの?」

「そうだ」

 

 勇者⋯⋯神聖勇者、アリシア=イーデルシア。

 駆け出しながら、教会から直々の二つ名を授けられた、私の一番弟子だ。

 

 前にルバルドラムで会った時は、そんな大層な称号は無かったはずだし、そこまで力があったようにも思えなかったけれど。

 

 彼女は神化魔炎竜の討伐にも駆け付け、その攻撃からメイベルを守り抜いたという。

 

「⋯⋯なんだ、フォウも結構、冒険者楽しんでるんだね」

「そうか?」

「そうだよ! 身内以外とのマルチができるのは一流の証だよ」

 

 私なんて野良マルチが嫌過ぎて、ワールドはPSとゴリ押しでアルバとミラを倒したくらいだ。陽介は尊敬できる。

 

 その事実は嬉しくもあり、少し寂しくもあった。

 このまま仲間が増えていけば、私なんて早々に影が薄れていく。

 

 ────いっそ、陽介を孤立させる?

 

 いやいやいや、何を考えてるんだ、私は。

 陽介は友達⋯⋯友達を悲しませるの、ダメ絶対。

 

 というかもう手遅れだ。エルフにメイベルにアリシア。この三人がいる限り、陽介のハーレムパーティーは揺るがないし⋯⋯無理だ、引き離すなんて考えられない。皆は私の友人だ。

 メイベルだけ少し違う気もするけど。

 

「⋯⋯あ、あの、お二人は」

 

 すると、シャリオンちゃんが後ろに下がってきて、私と陽介に話しかけてきた。

 何の用だろう、と思っていると、彼女はとんでもない事を言い出した。

 

「⋯⋯お二人は、恋人さん、なんですか?」

 

 ⋯⋯⋯⋯殺気!!

 

 前方で誘導しているはずのエルフから殺気を感じる。あからさまに陽介を好いているエルフにとって、これは面白くないだろう。

 

「あー、えっとね。私達は────」

「恋人じゃない」

 

 陽介が私の答えを遮って即答した。

 

「リフィアは掛け替えのない友達だ」

「⋯⋯⋯⋯うん⋯⋯まあ⋯⋯その通り」

 

 は、はは⋯⋯友達⋯⋯トモダチ⋯⋯

 

 いや、友達以外の何でもないけどさ⋯⋯でもさ、ちょっとぐらい照れるとか、なんとか⋯⋯

 

「り、リフィアさん、とてもガッカリしてそうな感じですけど⋯⋯」

「《記憶忘却(イキュラス・キュオラ)》⋯⋯っふー⋯⋯あれ、シャリオンちゃん、どうかしたの?」

「で、伝説の記憶魔法⋯⋯あ、いえ、何でもないです⋯⋯」

 

 エルフから放たれていた殺気が萎んだので、ほどほどに陽介と距離感を取る。

 シャリオンちゃんが陽介と話したそうにしていたし、偵察でもしていようかな。

 

「随分と仲良さげに見える。付き合いは長いのか?」

「まあ⋯⋯たかだか三年ぐらいだ。それに、オーク顔やリフィアとは、いつもパーティーを組んでいる訳ではなくてな」

「へぇ! そりゃ珍しいな。大抵はパーティーが上手いこといったら、解消しないもんだが」

 

 ⋯⋯確かに。離散集合するパーティーって何?

 

 そんなル○ーダの酒場でもあるまいし。そもそも旅の道すがらとか、そんな思いがけない出会い方ばっかりしている。どうして集まれるんだろうか⋯⋯

 

「各々で目的がバラついているからな。今回の探索も、偶然集まって、偶然利害が一致したんだ」

「あんたら、それで良く息が合うな⋯⋯」

「──エルフとフォウは友達だからね! 気が合うし、当然だよ」

「⋯⋯友達、かぁ」

 

 私がちょろっと口を突っ込んでみると、オートムが何やら感慨深そうな、意味深な溜息を吐いた。

 

 エルフと目を合わせる。

 男女のコンビパーティー。それも長年と来た。前髪から覗かせる顔を見た感じだと、オートムがそういう嗜好でもない限り、コロッとときめいちゃっても不思議じゃない。

 

「そう言えば、冒険者長いって言ってたけど、シャリオンとのコンビも長いの?」

「⋯⋯そうだな。まだ、十年は経ってないか。俺がまだ14とか15とか、そこらの話だ」

 

 めちゃめちゃ多感な時期だ。しかし、そういう雰囲気を私達の前で見せた記憶は無い。

 

 すると、くいくいと服を引っ張られる。

 

「ちょっとリフィアっ、シャリオンがオーク顔に誑し込まれそうになってるわ⋯⋯!」

「「!?」」

 

 後ろを振り返る。異世界人には嫌われる陽介に、シャリオンが笑って楽しそうに話し込んでいる。

 

「オートム殿⋯⋯このままだと貴方のパートナー、オーク顔に掻っ攫われるわよ」

「は、はぁ? いや、そんな⋯⋯」

「やつは並行して三人に強制婚姻行為を行っていて、うち一人は男性。手当たり次第の異常豚(者)よ⋯⋯!」

「えええっ⋯⋯!?」

 

 陽介の強制婚姻行為⋯⋯婚姻⋯⋯

 

 何かを思い出しかけると、記憶の精霊が警告してきた。

 まずい、と急いで耳栓を突っ込む。割と乱用する陽介とは違って、私は必要以上に消さない。

 

 逆に言うと、消してきた記憶に碌なものは無いんだ。

 

 思い出したら絶対鬱になる。こんな所で暗い気持ちになりたくない。絶対死ねる……

 

 そうこうしてると、エルフはシャリオンの方にも行ってしまった。

 耳栓を外すと、オートムが後ろをチラチラと見ながらドン引きしていた。

 

「な、なぁ。本当にあのフォウってやつは、強制婚────」

「やめて、その言葉を話さないで」

「あっ、ハイ⋯⋯⋯⋯」

 

 思考を放棄する。

 そんな事より敵の確認の方が最優先だ。

 

 気を入れ直して偵察を続けるも、この階層には骨の気配が見当たらない。

 やがて魔力の流れる方向を辿っていくと、行き止まりにぶち当たった。

 

 少し壁を調べると、床に面した一部が引き戸になっていて、四つん這いで進めそうな幅だった。

 

「まあダクトより広いか⋯⋯」

「いや狭いだろ!?」

「ああうん、こっちの話」

 

 流石に伝説の傭兵(ス○ーク)達と比べちゃ駄目だ。

 

「まずは俺が先行する。団子になるとまずいから、少し距離を置いて進もう」

「殿は私に任せて。一応、何か来ないか探知だけでもしておくから」

 

 サクサクと話が進み、オートム、シャリオン、エルフ、陽介、私の順でダクト⋯⋯ではなく抜け穴を進むことになった。

 

 十秒おきに入り、最後に私が入る。喰神剣は畳んでもつっかえるので、収納魔法に仕舞ってから、四つん這いになって入っていく。

 少し先で、陽介が照らしているのだろう光が見えるが、基本真っ暗闇だ。私の夜目でギリギリ見えるかというぐらい。

 

 匍匐前進じゃなくて本当に良かったと安堵しつつも、長い通路を進んでいく。

 

 ある程度進んでから、《大地走査(バハマリオン・スラドラーチ)》を前後に広げる。

 

 すると、私の背後から猛スピードで迫る反応が⋯⋯

 

「──え、骨ぇっ!?」

「はっ⋯⋯骨ぇ!?」

 

 それに慌てて滑るようにスピードを上げると、陽介も目を剥いて叫んだ。

 

「ホネホネホネホネぇ!! 来てる、来てるからぁ!!」

「うおおおおおまじかよおおおお!!」

 

 デモ○ズウォール戦でもこんな緊張感無かったのにぃ!!

 こんなのに比べたらカル○ック城なんてカスだよ!

 

「オートム、後方から骨! 早くしないとリフィアが──きゃんっ!?」

「エ⋯⋯エルフか!?」

「へ? えっ?」

「先行ってくれ、さき! ほね!! 骨が!!」

「ちょっ、みゃっ!?」

 

 なんとか陽介の真後ろに辿り着いたけど、何やらもたついてる。

 後ろをチラッと見ると、白い影がカシャカシャと⋯⋯

 

「ぎゃあああああ!! 無理無理むりむりむりむり!! はやく、はやくううう!!」

「来たきたきたきた!! 急げ────!!」

「あーもうっ!! わかったっ!! わかったから離れなさいっ!!」

「死んじゃう!! 私死んじゃう!! 死にたくなぁい!!」

「あっやめろ! ストール引っ張るなリフィア!! エルフいそいでくれええええ────!!」

「ふみ゛ゃっ!! たっ、叩いた! お尻叩いたァ! ああああ、あんた、あんたねぇ⋯⋯!」

 

 やばいやばいやばいやばい、つっかえてる内に骨がすぐそこに⋯⋯!

 

「エルフさんっ、フォウさんっ!!」

「手を取れ! 引っ張り上げる!」

 

 っ、出口!

 

「よし、リフィアもこっちだ!」

 

 這いずって痛む手や膝をぐいと伸ばして、オートム達の手を取り⋯⋯⋯⋯!!

 

「⋯⋯あっ」

 

 右の足が、引っ掛かった⋯⋯否、掴まれた。

 

 私の手を掴んだオートムとシャリオンが驚きに包まれた。

 

「ぐっ⋯⋯な、なんで!?」

「ごめん、やられ────ぁが!?」

 

 足首が強烈な握力で締め上げられる。肉と骨がグチャグチャになるような、形容しがたい痛みに襲われて、涙が滲んできた。

 しかも、人間綱引き状態で、腕も外れそうなくらい軋んでいる。

 

 これは、ちょっと耐えられそうにないかも⋯⋯!

 

「オーク顔!!」

「駄目だ! 魔法を放とうにも、狭すぎてリフィアに当たる!」

「それ、 はっ⋯⋯止めたほうが、いい⋯⋯! 骨が、倒せなく、なるから⋯⋯っ」

 

 こんな所で巨大化されたら、一溜まりもない。しかも骨の全身が壁に埋まる。そうすれば皆が危ない。

 

 かくなる上は⋯⋯

 

 ⋯⋯⋯⋯。

 

 ⋯⋯……皆は巻き込めない。

 

 私は、ここまでだ。

 

「──《疾風断刃(ワーグレント・グラッカ)》」

「リフィアさん!?」

 

 私の右足に向けて放つ。

 

 均衡は崩れた。オートムとシャリオンに引っ張られ⋯⋯血を撒き散らしながら、地面を転がる。

 

 骨の腕は、私の足だったものを掴んだまま現れた。

 出てきた所を、私が囲んで叩きのめした。

 

 戦闘は、終わった。

 

「っ、はぁ、はぁっ⋯⋯たお、せた?」

「待ってろ、いま傷口を治してやるっ⋯⋯だが、もう、足は⋯⋯俺の術じゃ⋯⋯」

 

 返り血を顔に貼り付けたオートムが顔を真っ青にして、足に回復術を施してくれている。

 

「ま、待って下さい! リフィアさんは、神聖魔法が使えるんじゃ」

「そんな高位のは、使えないかなぁ⋯⋯器用貧乏だから……」

 

 神聖魔法は根源魔法のように、精霊との対話だけでは成立しない魔法だ。

 したがって理論と原理を学んで習得するしかないのだけど、私はこれまで熱心に習得してこなかった。

 

 その理由は単純で……そもそも、私が回復を必要としないからだ。

 

「なっ⋯⋯魔法も無しに、足が再生してきたぞ!?」

「ま、まさか、伝説の吸血鬼ぞ────」

 

 シャリオンがハッとして、口を押さえた。

 

 《形貌変化(ザックトーラ・キャトルフ)》を解き、元の銀髪と赤眼に戻って、犬歯が鋭くなる。

 人前にこれを出すのは、久し振りだ。

 

 血を失って、ぐったりと壁に寄り掛かったまま、はは、と渇いた笑みが溢れた。

 

「カルネイア。多分、聞いたことあるでしょ?」

「⋯⋯確か三年前だかに、神聖十字騎士団が大々的に指名手配してた、吸血鬼の」

「そう。私は⋯⋯吸血鬼族の、生き残り。リフィア=カルネイア」

 

 だからもう、父の名は⋯⋯カルネイアの名は残念ながら、もう滅多に出せない。

 

 オートムが、腰の剣に手を伸ばす。グランバハマル人なら自然な反応だ。

 吸血鬼族のお伽噺は山程あって、どれも吸血鬼の極悪さを強調された、教会に捻じ曲げられた印象で語られている。

 

 吸血鬼族は、歴史的にも忌み嫌われた種族なのだ。

 だから、分かり合う事なんて⋯⋯

 

「彼女を殺すというならば、私と敵対するという事に相違ない……それでも構わないなら、剣を抜けば良い」

 

 私とオートムの間に、エルフが魔道具の剣を持って割って入った。

 

 そして、オートムの後ろから陽介が魔法を構えて迫る。

 

「⋯⋯オーク顔」

「あまり手荒な真似はしたくないがな⋯⋯だが、リフィアは俺の友人だ」

 

 ……やっぱり、二人は凄いや。

 

 何度でも言おう。

 私は、かなり恵まれている。

 

 誰に聞いても、吸血鬼は人類の敵にして悪である……そう言われてるこの世界だ。

 そんな世界の常識に反して、私を友人だと思ってくれる人達がいるのだから。

 

「⋯⋯私だけ、外に出ても良かったんだけどなあ」

「それじゃあ意味が無い。お前と攻略してこそだ」

「三人旅の約束でしょう? それを破るなんて、エルガの流儀に反するわ」

 

 あ、やばい。これ普通に泣ける。

 人の優しさが胸に沁みてくる。

 

 二人を敵に回したと、シャリオンが口をパクパクさせて、オートムの肩を揺らした。

 

「オ、オートム⋯⋯だ、ダメだよ! そんな吸血鬼の人を────」

「いやー、こりゃ参ったなー」

「へ?」

 

 オートムから、そんな棒読みな台詞が飛び出した。エルフも陽介も、ポカンとして反応に困っている。

 しかも、わざとらしく降参みたいなポーズまでとって、頭を振り、困った困ったと、お粗末な演技を展開した。

 

「俺達冒険者は、指名手配犯を発見したら、ギルドへの報告義務だのが生じるんだが、こうも脅されて命まで危ないってなったら⋯⋯なあ? シャリオン?」

「あっ、うん⋯⋯?」

 

 シャリオンちゃん分かってなそうだよ、オートム。

 陽介は未だに首を傾げ、エルフはジトッと半目をオートムに向けている。

 

 なんだか居た堪れない空気感の中、オートムが咳払いをした。

 

「そう、これは何かの見間違いだった。そういう事にしておこう」

「⋯⋯あっ。そ、そうだよね! すみません、私、勘違いしちゃって」

「気にしないでね。そう言ってくれただけでも、私は嬉しいから」

 

 ⋯⋯ええっと、どういうこと?

 

 だって、吸血鬼族だと分かったのに、「あーそっかー」で済む事なんて普通は有り得ない。寧ろ陽介やエルフを説得して、私をとっちめようとするのがグランバハマル人としての思考だ。

 

「種族の特性を考えたら、あれが最善の策だったんだろ? そこが分からないほど、俺も馬鹿じゃない。むしろ、よく正体を曝け出す勇気を出してくれたとすら思う」

「あ、その、えっと……一応、仲間だし⋯⋯?」

 

 なにこれ。

 思ってた反応と全然違くて、私も些か戸惑いを覚えている。

 

 吸血鬼族への世界的な偏見。それをぶち壊すのには、かなりのハードルがあるはずだ。

 一般グランバハマル人のアリシアだって、そういった常識が記憶喪失で抜け落ちていたから、私と交流できたわけで、特殊なケースだ。

 

 どんな都合の良い夢だろうと思っていると、シャリオンちゃんがスススと寄ってきて、私の手を取ってブンブンと上下に揺すってくる。

 

「き、吸血鬼族もやっぱり、人、ですよね⋯⋯! ダンピール(アバグルド)が私の知り合いにいて、それで⋯⋯!」

「いるの!?」

 

 吸血鬼と人族の混血とされる、ダンピール。

 彼らは絶対数が少ない上、教会や多くのグランバハマル人から迫害の対象になり、魔女狩りのように罪をなすりつけられ、磔にされたり、奴隷として搾取されているという。

 

 私は未だに出会ったことがない。

 それほどまでに珍しく、世間からは秘匿された存在なのだ。

 

「なるほどな。それで、オートム殿にも偏見の目が無いと」

「今は、と付くがな……そういう事だ。脅すような真似をして悪かった。お前ら二人が、仲間が吸血鬼だったとは知らない可能性を考慮していたが、杞憂に終わって良かったよ」

「じゃあ、俺達が吸血鬼と知らなかった時は、どうしていたんだ?」

「適当にやられて、リフィアに逃げる隙でも作る。アイツの数少ない同胞を、殺す訳にはいかないしな」

 

 彼なりに、行動の理由があったらしい。

 まずい、私の中でオートム株が爆上がりしている。陽介が居なかったら余裕でトップに躍り出てるまであるよ。

 

 ⋯⋯陽介が居なければだけどね!

 

「フォウ、HPを分けてくれる? さっきのでストックが無くなっちゃって」

「構わない。神聖魔法は使えそうか?」

「陽介のHPを補填するぐらいの魔力は残ってるから大丈夫。⋯⋯じゃあ、いただきます」

 

 かぷり、と陽介の首に犬歯を喰い込ませる。身体に血が染み渡るこの感覚⋯⋯

 

「んあ⋯⋯んぐ⋯⋯ぅん⋯⋯⋯⋯」

「はわ、わわ⋯⋯」

 

 ただでさえ欲求不満なのに、それが加速してしまう……ああっ、これ以上はダメだ……!

 我を抑えて遠慮がちに吸っていたいたから、最低限のストックに留まった。

 

 あ、危なかったぁ……

 

「⋯⋯⋯⋯ごちそうさま」

「歩けそうか?」

「ありがと。もう大丈夫だから」

「こ、これが、えっちぴー⋯⋯?」

 

 シャリオンちゃんが卑猥そうで卑猥じゃない単語を頭でグルグル回しているのを、面白おかしく眺めつつも⋯⋯あとエルフの嫉妬の視線から目を逸らしつつ、下に続く階段へと降りていく。

 

「あ、そうだ──《形貌変化(ザックトーラ・キャトルフ)》」

「あれ? もう戻しちゃうんですか?」

「まあ、忘れない内にやっておかないと、外出る時に戻し忘れたら阿鼻叫喚だから⋯⋯」

「あー⋯⋯」

 

 貌の精霊さんとはこの見た目だけ変化に関して契約を結んでいるから、ごく短期間の変化でも柔軟に対応してくれる。あとで労っておかないと。

 

 ダンジョンの方はというと、それから何層に渡って隠し扉を辿って歩いたが、その間に敵の反応は全く確認できず。

 一応警戒はするも、すっかり暇になった私達は、それぞれの出会いを記憶操作魔法で上映するという、不思議な事になっていた。

 

『⋯⋯癒しの光を』

『⋯⋯ハッ、ハぁっ⋯⋯ほうっといてください⋯⋯人の役に立てたなら⋯⋯もう⋯⋯十分⋯⋯私は満足⋯⋯』

『⋯⋯高価(たか)そうだ。死ぬならくれよ』

 

 生きようとする対象の意志で発動する、聖騎士の回復術。

 それを行使するため、大事な物であろう精神防護の魔導具を奪う素振りをして怒らせる⋯⋯

 

 どこかの戦場で死にかけていたシャリオンちゃんと、その戦いに参加していたオートムは、こうして出会ったのだという。

 

 エルフはクスクスとからかい、陽介がそういうの良いよなと、幽○白書の飛○を持ち出して同意していた。

 

 やはりオートム株は買いのようだ。こんなのされたら惚れる。間違いなく惚れる。

 二人の馴れ初めはかなりロマンチックだった。こういうのいいよね⋯⋯

 

 その次に、エルフと陽介の出会いが投映された。私も観るのは初めてだ。

 

 なんだけど⋯⋯

 

『だだだだ誰も助けてなんて頼んでないわ! 触らないで!』

 

『嫌っ! 近寄らないでいんらんオーク! 豚豚豚豚! 醜いオーク!』

 

「⋯⋯⋯⋯あの、エルフさん」

「やめて、何も聞きたくないわ」

「な? お前らも酷いと思わないか?」

「これはどっちもどっちだろ⋯⋯」

 

 エルフは顔を赤くして耳を閉ざした。

 出会い方がオートムとシャリオンのそれに近いのに、どうしてこうも最悪のファーストコンタクトなのか。

 

「早くそれ消してちょうだい」

「ああ⋯⋯あまり良い思い出でも無いしな」

 

 この罵詈雑言とすれ違いさえなければ、エルフが陽介にとって最強のヒロインだった可能性がある。

 侮りがたし、エルフ⋯⋯

 

「その前に、リフィアと出会えたのが、俺の最初の心の支えになったな。あれは確か⋯⋯」

「《記憶再生(イキュラス・エルラン)》っと⋯⋯そう、このあたりだね」

 

 あの頃、私は吸血鬼狩りに追われていた。

 今世での実質的な育ての親、サリファとその友人、キルロが処刑されてしまい、私は二人に逃がされて、命からがら逃げていた。

 

『おい、居たか!?』

『くそっ、見失った⋯⋯捕まえりゃたんまりと懸賞金が貰えるってのに』

『慌てるな。まだ近くにいるかもしれない。聖十字騎士団に先越される前に見つけるぞ』

 

 たまに後ろを気にしながら、昼の森を駆ける。

 しかし、何も食べれず、結果的に血液を摂取できなかった為、すぐにヘロヘロになり、転んだ拍子に、動けなくなってしまった。

 

 射し込む太陽の光が、ジリジリと熱かった。

 意識も朦朧としてきて、このまま、また何もできずに死ぬのだろうかと絶望している時に、彼はやってきた。

 

『だ、大丈夫か!』

『……あぇ、誰……そこに……いる……?』

 

 終わった、と思ったけど、彼は私に駆け寄って、心配する素振りを見せた。

 だから、私はつい、言ってしまったのだ。

 

『取り敢えず、水を』

『待って……お願い……血を分けて……』

『え、それはちょっとなぁ……』

 

 必死だった。もう、血のこと以外何も考えられずにはいられなかった。

 

 血を分ける⋯⋯蘇生⋯⋯リンクエイド⋯⋯と変な風に頭が回ってしまい、果てに発した言葉が、結果的に私を救うことになる。

 

『じゃ、じゃあ、ヒットポイント(HP)で……』

『いいよ』

 

 異世界人にヒットポイントなんて伝わるはずがないのに、通じてしまった。

 

 しかも、その血の味が極上過ぎて、血迷って変なゲームオタクムーブをかましてしまい、ちゃんと話が通じてしまったがために興奮してしまって⋯⋯あの時の私は、色んな意味で正気じゃなかったと思う。

 

 だけど内容の八割がゲーム話で、皆の頭にハテナマークが浮かんでいるから、ちょっぴり安心しつつも、とても申し訳無かった。

 

「リフィアが居なかったら、俺は完全に人間不信になっていた自信がある。ちゃんと話が通じるって⋯⋯いいよな」

「いいよね⋯⋯皆、問答無用だもんね」

「お、お二人とも、よく生きてこられましたね⋯⋯」

「まあ、リフィアもオーク顔も、特殊な出自ゆえに力はあってな。実力で修羅場を乗り切ってきた、ホンモノだ」

「修羅場とかそういう次元じゃないだろ⋯⋯これ」

 

 本当なら、夢の異世界転生のはずなんだけどなぁ⋯⋯ラノベの内容にするとしたら、ダーク過ぎて若者向けじゃないくらい凄惨だ。チート無双させてくれ、頼むから。

 

 上映会もそこそこに、また階段を降りて、これで地下十階。今度はだだっ広い空間にたどり着いた。

 

 玉座の間だろうか。奥には剣の刺さった骸骨が、玉座の上で横たわっている。

 

「あ、あれがダンジョンの主⋯⋯?」

「いや⋯⋯でも刺されてるぞ!?」

 

 いかにも、ボス部屋と言わんばかりの場所だが⋯⋯既にボスが居なくなっているのか、それともあの骸骨がボスなのか。

 

「⋯⋯剣だ。精霊の力はあの剣に吸い込まれている」

「あれが減衰の正体か⋯⋯!?」

「古代魔導具⋯⋯? いや⋯⋯ここまで広範囲に作用する魔導具なんて⋯⋯」

 

 各々が考察しようとする中、玉座の間に踏み込んだ途端、両側の壁から、何十もの隠し扉が出現した。

 

 そこから出てくるのは、当然⋯⋯

 

「骨⋯⋯!」

「まずいぞ、どうする⋯⋯!?」

 

 嫌な予感。動作源は間違いなくあの剣だ。しかし、あれを取れば解決と、フ□ム並みに小賢しいダンジョン設計でそう上手く行くだろうか。

 

「剣を取って地上に戻るっ! あんたたちは回れ右!」

 

 エルフはそう言って玉座に走り出した。最後の試練を無事に持ち帰る類の逃走系と判断したらしい。理屈はよく分かる。

 

 でも⋯⋯本当にそれだけで終わるのだろうか?

 

「エルフ待って! その役目、私に任せてもらえるかな!?」

「簡潔に!」

「ブービートラップの可能性! 私なら死なない! エルフは機動を温存! 私に何かあれば剣を回収!」

「へえ、そういう作戦か!」

 

 エルフが回れ右、と言ったはずのオートムとシャリオンが、私達の後ろに追従していた。

 

「逃げなきゃ死ぬわよ!? マジで!?」

「まだ切り札はあるんでね!! あんた達に乗るよ!」

「つきあいますっ!!」

「あははっ、二人とも良いイカれ具合!」

 

 この状況で逃げ出さないとは、大馬鹿の集まりだな、これは。

 

 しかし、直線距離はまだある。辿り着く前に骨に追いつかれる。

 ここだと、私の《機動纏身(レグスウィッド・ザルドーナ)》だけではまともに機能しない。加速する手段は⋯⋯

 

「エルフ、リフィア! 手を!!」

 

 エルフの雷属性による機動、そして陽介による風魔法の強化(エバスト)⋯⋯

 

「《疾風駆送(ワーグレント・スラドセルド)》──《烈駆(エバストスラド)》!」

 

 そこに重ねて⋯⋯ダメ押し。

 

「──《機動纏身(レグスウィッド・ザルドーナ)》!!」

 

 瞬間速度は、音速の何倍かはあったんじゃなかろうか。

 

 その一瞬で剣ごとひったくって、この加速を利用したまま、ボスの出現なりトラップなりの発動を見極め⋯⋯⋯⋯────

 

 

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 

 

 ⋯⋯⋯⋯。

 

 

 ⋯⋯クハッ。

 

 

 ……流石は女王の肉体。この我を以てしても、全力は御しがたいか。

 

 そのまま、我が神器を振るう。臣下が統率を取り、片膝を立て平伏した後、空から来襲するそれを睨み上げた。

 

「〝長星破断〟────!!」

「ほウ? 我ニ気付くカ、エルフ君」

 

 雷属性を纏わせた新型嚮導魔具を携えるエルフ君に、王神剣で相対する。

 

 これは⋯⋯のっけから出し惜しみしては敗北は必定か。

 

「〝神威解封〟────奪え、王神剣」

 

 決して万全とは言えない身体の状態ゆえに、解封時間はほんの一瞬。

 しかし、解封状態で刀身をぶつければ、その吸収範囲も限定的にでき、体力の消費も抑えられる。

 

 まあ、それなら神威解封せずとも直接接触で簒奪(うば)えば良いのだが、嚮導魔具の使い手が相手では、吸収しきれない可能性もあるしな。つくづく考えさせてくれる。

 

「ちいっ⋯⋯減衰の力!!」

「簒奪ト言ってくれたマエ」

 

 魔導具は、なべて魔法の力を必要とする。

 須(すべから)く心得(こころう)べし理だ。語るまでもなし。

 

 雷の刀身を簒奪されたエルフが、鎧の魔導具の力で仲間の下に撤退する。

 

 ⋯⋯ふむ。

 

「オートム⋯⋯シャリオン⋯⋯オークがお⋯⋯エルフ⋯⋯」

 

 並び立つ四人を睥睨しながら、手に入れた身体の感覚を味わう。

 多少の消耗はあるが⋯⋯⋯⋯まさに最高の肉体と言ってもいい。

 

「ズット⋯⋯見てタ⋯⋯君たちガこの城に入ってきてかラ、ズット⋯⋯ズット欲しかっタ⋯⋯女王のチカラ」

 

「幾星霜ヲ経て蘇りシ我が名は、屍(かばね)の王マガツコトノヌシ」

 

「神より賜りシ神器・王神剣により────総てを奪イ凡てを与エ、永遠に君臨すルものなり」

 

 さあ、我の大願を成就させたまえよ、オークがお君とその一行諸君?

 

 




小学生藤宮さんの片鱗が見られる最新話、『異世界おじさん【第74話】』は12月26日からカドコミのアパンダにて配信中!(ダイマ)
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