殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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長らくお待たせいたしました。


#154 鉄扉

 

 

 B棟にあるMRK回収を目的とするゼロツー一行。

 

 本来、B棟に向かうには東西南北の中で最も危険な南区を突っ切る必要がある。

 

 しかし、昨日の乱闘で南区の最大危険要因であるきゃるとる~ぜが死亡。

 そしてきゃるとる~ぜが放った広域火炎魔法により南区の建物が根こそぎ焼き払われ、南区は炭と化した木くずが散らばるだだっ広い空き地へと変貌した。

 

 一昨日までは、B棟の狂囚人たちは南区に潜伏して他棟の囚人を奇襲していたらしいが。

 現在の屑炭まみれの南区には人間の隠れる場所は存在しない。故に奇襲は不可能である。

 

 

 乱闘できゃるとる~ぜが死んだことに気を病んでいた俊介にとっては皮肉だが。

 南区の実質的支配者だった彼女の死亡により、現在の南区は全区の中で最も安全な場所と化していた。

 B棟にMRKを回収しに行くのにこれほど好都合な状況はない。

 

 警戒を深めながら進む四人とは裏腹に、何事もなく、彼らはB棟の入り口前に辿り着いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「…………意外と、あっさり着いたな……」

 

 ゼロツーが目の前にある鉄扉(てっぴ)を見つめながらそう言う。

 A棟やC棟の入り口と全く同じの構造の鉄扉だが、B棟の扉は心なしか他棟の物よりも綺麗だ。ヤバい囚人が集まる棟ならば、他の棟より汚れていそうなイメージなのだが。

 

 俊介がそんなことを考えながらゼロツーと同じように扉を見ているとき。

 すぐ後ろにいたウィザードが腕を組みながらジャンに話しかける。

 

「ジャン。B棟内部については詳しいのかい?」

「危険なトラップが腐るほどあること以外は殆どなにも。基本的な構造は多分A棟と同じだろうが……」

「ふうん……」

 

 ジャンの言葉を聞いてウィザードが含んだ息を吐く。

 そして組んだ腕を解きながら、ゼロツーに言葉を向けた。

 

「B棟囚人の道案内が欲しいところだけれど、アレ(MRK)のことを考えると悠長に探してる時間もないね」

「だなぁ……。ここまでの道中でワンチャン見つからないかと思ったけど、まあ無謀な望みだったな……」

 

 諦めたようにそう言葉を呟くゼロツー。

 万が一南区の道中でB棟囚人を見つけたところで、その人物がB棟内を道案内してくれるほど正常な人物の可能性はさらに低い。

 B棟囚人は話の通じない()()()だからB棟にいるのだ。

 

 ウィザードやゼロツーの言う通り、今すぐ道案内を見つけるのは至難の業だろう。

 

 

 そんな風にB棟内の進み方を考えるウィザード、ジャン、ゼロツーの傍らで。

 俊介は自身の首に右手を添えながら小さな声で呟く。

 

「B棟の中はトラップだらけらしいけど……。ニンジャ、道案内いけそうか?」

『……B棟を調査しきれていない現状、内部構造やMRKの位置まではわからぬ……が。今さっき中をチラッと見てきた感じ、拙者の眼を欺けるトラップはなさそうでござるなぁ。粗末な地雷やワイヤートラップが殆ど、あとは神経ガスの噴射罠がひとつまみでござる』

 

 いつの間にか俊介の横にいたニンジャがB棟の鉄扉を見ながら言葉を吐く。

 地雷やワイヤートラップはともかく、神経ガスなんて何処から仕入れてきたんだよ。刑務所の外でもそうそう手に入るもんじゃないだろうに。

 

「つまり、道案内はできるってことでいいか?」

『無論。ああ、体の主導権はどうするでござるか? 俊介のままか、拙者が変わるか……』

「ん……」

 

 ニンジャの問いに俊介は一瞬右手を首から離して考える。

 

 体の主導権をニンジャに渡さない場合、ニンジャには人格体のままトラップを探してもらうことになる。

 そしてニンジャが発見したトラップの情報は、()()()()()ゼロツー達に伝えられるわけだが……。俺にはトラップの専門知識など全くないので何らかの伝達ミスが発生する可能性がある。

 B棟囚人からの奇襲でも受ければさらに状況がこじれて伝達ミスは多くなるだろう。

 しかし主導権が俺のままならヘッズハンターとの同調を維持できる。B棟内部でもある程度の戦闘なら安全に済ませられるはずだ。

 

 そして体の主導権をニンジャに譲った場合、ニンジャが発見したトラップの情報は直接ゼロツー達に伝えられる。伝達ミスはまずない。

 なんならその場でトラップの発見どころか解除もできてしまうだろう。

 しかし、この刑務所にいる囚人は戦闘に秀でた強力な連中が多い。

 ニンジャだって決して弱いわけではないが、この刑務所の中ではいざというときに少し不安が残る。

 

 

 俊介は視線を下に向けて少し考えたあと。

 ニンジャと目を合わせ、手を再び首に当ててから口を開いた。

 

「……俺がこのままヘッズハンターと同調したまま動く。ニンジャは人格体のまま、罠の位置と避け方を横で教えてほしい」

『了解でござる。……ふうむ、しかし、いいのでござるか?』

「? 何が?」

 

 まだ何か見落としがあったか? と。

 俊介がきょとんとした顔を浮かべるのを見ながら、ニンジャはゼロツー達を見つつ言葉を発する。

 

『おそらく拙者が人格体のまま探索すると言ったとき、ゼロツー達は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と聞いてくるはずでござる』

「…………」

『拙者たちと俊介が1()0()0()()()()()まで離れられること。それは今話すということでいいのでござるか?』

「…………」

 

 ニンジャの言葉に俊介が少しの間固まる。

 そして額に汗を一筋垂らし、口角をひくつかせながら言った。

 

「あれ……。まだ100メートル離れられることって言ってなかったっけ?」

『……忘れていたのでござるか……』

「いや、なんというか、ここに来てから色々ありすぎて忘れてたっていうか……」

 

 呆れた顔を浮かべるニンジャに俊介が恥ずかし気に顔を逸らし、思案にふける。

 

 この刑務所に来てからシスター・イートと戦ったり、厭勝と戦ったり、きゃるとる~ぜと戦ったり……。

 今思い返したらこの刑務所来てからそんなに経ってないのに戦ってばかりだな。密度が濃すぎるだろ。

 

 そう思いながらも、俊介は視線をニンジャの方に戻して口を開く。

 

「でもまあ、こんな状況になってまで隠しておくことでもないだろ。初めて会ったばかりの時ならともかく、今はもう運命共同体みたいな感じだし」

『ま、俊介がそう言うのならば拙者としても問題ないでござるよ』

 

 

 

 そう返答したニンジャの言葉を聞いて頷く俊介。

 首に当てていた右の手のひらを外してから、少し離れたところで話し合う三人に近づく。

 

「ゼロツー、ちょっといいか?」

「ん。どうした日高?」

「B棟の道案内のことなんだけど、俺の中にいるトラップに詳しい人格に頼んだら『大丈夫だ』って」

「なにっ!」

 

 一筋の光明。灯火。

 ゼロツーの顔が一気にパッと明るくなるが、3秒と経たないうちにすぐに曇る。

 彼は口角を下げたまま、右手の指を3本立てて言葉を発した。

 

「でもさ……。宿主と人格って確か3メートルくらいしか離れられないんじゃないの? さすがにその距離じゃあいくら何でも狭いんじゃないか?」

 

 ニンジャが予想していた通りの質問がすぐに返ってくる。

 それに対し、俊介もあまり身構えず何でもないような声色で返答をした。

 

「いや、実は俺は人格と100メートルまで離れられるんだよ。だから距離云々は問題ないと思う」

「へー。じゃあ道案内頼んでもだい……じょ……――――」

 

 

「――――はッ?!?! ひゃ、100メートル!?」

 

 

 目をかっぴらいたゼロツーが大声で叫ぶ。

 

「ひゃ、100メートルってことは……()()2()0()0()()()()()?! はぁ!? ってことはつまり――――()()1()0()0()()()()()?!!?」

「ゼロツーが壊れたね。B棟冒険譚は入る前に終了かな」

「れ、0.1キロ……!!」

 

 ウィザードの冗談じみた言葉を耳に入れることなく、ゼロツーが混乱の渦に落ちていく。

 彼にとっては人格と100メートル離れられることはかなり衝撃的な事実だったらしい。そんなに叫ぶほどなのか?

 

「……しかし、なかなかの凄まじさだね。お兄ちゃんを宿す宿主だけはある」

「はあ。ずっとこうだったからあんまり実感湧かないんだけど、やっぱり100メートル離れられるのって凄いんだな」

 

 10歳の時にみんな(殺人鬼たち)が宿ってからずっとそうだったから、いまいち100メートルという数字に特別感が湧かない。夜桜さんと話すようになるまで他の人格持ちと一切交流しなかったことも影響しているのだろうか。

 ダークナイトが冗談で暴れた時に大惨事が起きるから、むしろ100メートルでもちょっと狭いと思ってたくらいだけど。

 

 

 そんなことを思っている俊介の思考を見抜いたのか。

 ウィザードがすすっと近づいてきて、俊介の背後に回りながら粘り気のある声を出した。

 

「少し前から思っていたが、君は浮遊人格統合技術に関しては間違いなく()()()()()()だね。桁違いの行動範囲に、正気を保ったままの複数人格持ち……」

「な、なんだよ」

「お兄ちゃんを宿しているのが何よりのグッドポイントだ。どうだい、この刑務所を出たら私と組織を立ち上げる気はないかい?」

「首っ、顎っ――――唇を触るなッ!」

 

 奴が後ろから抱き着くように左手と右手を肌に沿わせ、挙句には右手の指を口の中に少し突っ込んできた。ウィザードの爪が歯にあたる硬い感触が一瞬走る。

 さすがに気色悪さが勝ち、ウィザードの体を無意識に強く振り払った。

 

 

 ヘッズハンターとの同調で身体能力が超強化されている影響か。

 思ったよりもウィザードの体が軽く吹っ飛び、1メートルほど離れたところで奴が尻もちをつく。

 

「おっとっと」

「流石に気持ち悪い! 口に手突っ込むのはやりすぎなんだよ!!」

「ふふっ。すまないね……」

 

 ウィザードが妖しい笑みを浮かべながら砂を払いつつ立ち上がる。

 ブラコン仕草をマッドパンク相手に出すならともかく、俺にまで出し始めたらもう見境がなさすぎるだろう。

 

 そう思いながらも、いまだ混乱の渦から帰ってこないゼロツーに目を向けようとしたとき。

 ニンジャが突然姿を現し、俊介の視界の端でウィザードを指さしながら低く声を吐いた。

 

『――――俊介。ウィザードの()()()()()を取っておくでござる』

「え? ()()?」

ん! …………」

「…………おいなんだ今の反応」

 

 俊介は立ち上がったウィザードに近づいてその右手を掴む。

 閉じられた指を力づくで開くと、その指の中には少し濡れた綿棒が1本だけ入っている棒状の透明なプラ容器があった。

 

「……なんだこれ?」

「さあね~」

『口の中に指を突っ込んだ瞬間、その綿棒で()()を採取していたでござる。おそらく俊介のDNAでも採ろうとしたのでござろうな。まあ、たかが1mlにも満たない唾液を保存状態の悪いプラ容器に入れたところで何かができるとも思えんでござるが……』

「DNA……って、お前……」

 

 俊介は目の前の阿呆に怒ればいいのか、呆れればいいのか、説明がつかない感情に襲われる。

 とりあえずウィザードの右手から容器を奪い取り、その場で勢いよく踏みつぶした。プラ容器は簡単に割れて中の綿棒は砂ともみくちゃに混じり合う。二度と使えはしまい。

 

 「あ~あ~」と割れるプラ容器を見ながら呑気な声を出すウィザード。

 そして俊介の顔を見て、あきらめたような声色の言葉を吐く。

 

「いやぁ。君のDNAがあればいろいろ役に立つかと思ってね。世界一の人格持ちのクローンとか作っちゃったら凄いことになると思わないかい?」

「お前……お前さ……マジでさ……」

「実に惜しいね。榊浦美優の奴がいるときに、君のことに気づいていれば……」

 

 本当に油断ならねー奴だな。

 やっぱりウィザードの前で明かしちゃったのは失敗だったかな……。でもこんな奴でもいざというときは頼りになる……なる……のか……?

 

 

 

「――――ハッ! 100メートルは100メートルだ!」

 

 

 と。

 ウィザードとのやり取りがちょうど終わったところで、ゼロツーが正気に戻ったらしい。ちょっと怪しいけど。

 

「100メートルな……OKOK、やっと飲み込めた」

 

 トントンと自分の胸を拳で叩くゼロツー。

 それを見た俊介は「どんだけ重い事実だったんだ」と思いつつも、ニンジャとゼロツーをチラ見しつつ声を出す。

 

「そりゃよかった。それで、俺の人格に道案内してもらうって方針でいいか?」

「うん……いや、ちょっと再確認だけど、日高って複数人格持ちだよな?」

「おう、その通りだぞ」

「…………」

 

 腕を組みながら何かを考えるように言葉を紡ぐゼロツー。

 

「別に僕様たちが今すぐ突入して探索しなくてもさ。まずB棟の外から人格にアレ(MRK)の場所を見つけてもらって、それからその場所に向かえばよくね?」

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 確かに。

 なんで頭から抜けてたんだろ。俺がゼロツー達を守るために頑張らなきゃって気持ちが強すぎたのかな。

 いつもみんなの力を借りながら進むのが俺の一番の強みなのに。

 

 

「デメリットがあるのは理解してる。僕様たちも突入しながら人格に探してもらうのが一番早くアレ(MRK)を確保できるとか、そもそも100メートル以内にアレ(MRK)がないかもとか……」

『え~。拙者は今すぐ中に入る方が好みでござるな~。なかなか愉快な構造で楽しめそうでござるし』

 

 あっこのニンジャ野郎!

 外からみんなに探ってもらうのが一番安全なことに気づいてたけど、あえて言ってなかったな!

 ゼロツーの言う通り俺たちが突入するのが一番早いけども! さすがにこんな危なそうな場所に突っ込むなら安全第一が基本だろ!

 

「別に決して、僕様がB棟の中にいる時間を極力減らしたいとかそういうワケジャナイヨ」

「いや、俺もぶっちゃけそっちの策の方がいいなと思ったよ」

「おおっ! ならそれで行こう! なっ!!」

 

 

 嬉しそうなゼロツーの顔を横目に俊介は両手を首に当てる。

 そしてぼそりと中にいる全員を呼び出す言葉を呟き、殺人鬼たちを一斉に呼び出した。

 

 

『くぅ~っ、久々に呼び出されたな~! ま、俺の吊り技の活躍場面はなさそうだけど』ハンガー

『実につまらない雑用仕事じゃのう。最近ヘッズハンターばかり頼りにされて、わらわはベリベリに悲しいのじゃ……』キュウビ

『マッドパンク。MRKの外観にある程度のイメージはつかないか?』ガスマスク

『つってもなぁ。僕も実物見たことないからわかんないぞガスマスクよぉ』マッドパンク

 

 一斉に出てきたみんながわらわらと声を出し始め、周囲は一気に喧騒に包まれる。

 この騒ぎがゼロツー達にはまったくわからないというのだから不思議な感覚だ。

 

 俊介がみんなの顔を見て安心感に包まれながら首から手を離すのと同時に。

 ヘッズハンターとトールビットが2人で近づいてきて、こちらに申し訳なさそうに声をかけた。

 

『悪いな俊介。俺たちも、俺たち(人格)がMRKを探すのが一番安全だってのは気づいてたんだが……』

『ニンジャが『俊介が自分で気づくまで言うな』と口止めしてきたのさ。この男は本当に……』

 

 トールビットがそう言いながら俊介の横にいたニンジャの肩を拳で小突く。

 このニンジャ野郎、『俺の成長のため』とか言いながら自分が面白く感じる方向に物事を運ぼうとしてないか? 昔から本当に油断ならない奴だな……。

 

 

 俊介は触れられないニンジャに対して()()で小突いてから、コホンと咳払いする。

 そして全員を見渡しながら少しだけ声を大きくする。

 

「みんなに今から頼みたいことが……って言っても大体わかってるっぽいけど」

『ギャオ~……?』

「ダークナイトはわかってないっぽいし、改めて言っておくか」

 

 大げさに首を傾げたダークナイトを見て、俊介は少しクスリとしながら言葉を続ける。

 

「今からB棟の中に入って例の奴(MRK)を探してほしい。可能ならその道中までの危険そうな罠も」

『俊介。私はMRKの見た目がわからないのですが、どうすれば?』

「……先行した看守達を見つけられるのが一番なんだけど……。とりあえず、それっぽい物を見つけた場合でも教えてほしい」

 

 エンジェルの質問に簡単に答えたあと、俊介は話を終わらせる。

 頼みごとの内容を聞き終わった全員……あんまりやる気がなさそうなダークナイトを除いた12人がB棟の扉に足を向けた瞬間……――――。

 

 

「――――ッ!」

『――――!!』

 

 

 俊介とヘッズハンターの肌がピリリと危険信号の合図を感じ取る。

 信号の発信元はB棟の鉄扉。

 2人はすぐさまB棟の鉄扉の前から飛び退く。

 

 

 

 ――――ガァァァアアアアアアアンンッッッ!!!

 

 

 

 2人が飛び退いた刹那の後、悲鳴のような金属音を鳴り響かせながら鉄扉が勢いよく吹っ飛ぶ。

 ゼロツー達は運よく鉄扉の前にいなかったおかげで巻き込まれることはなかった。人格はもともと物体を透過するのでノーダメージだ。

 

「な、なんだ……?」

 

 俊介は体を起こしながら吹っ飛んだ鉄扉の方を見る。

 地面に転がる鉄扉は、悲鳴のような金属音を上げて内側へ歪んでいた。厚さが半端じゃない鋼鉄の板がまるで粘土細工のようにひしゃげていた。

 

 扉の中央には巨大な陥没が穿たれ、引きちぎられた蝶番が力なく仰向けになっている。

 蝶番を固定していたコンクリート片があたりに散らばり、砂埃がぶわっと舞い上がる。

 

「…………」

 

 俊介は無言のまま鉄扉の方に近づく。

 今ここで確認すべき重要なことは吹っ飛んだ鉄扉本体ではない。

 『いったい何が鉄扉にぶち当たったのか?』

 それを確認するために近づくのだ。

 

 

 

 歩みをゆっくりと進め、鉄扉が足先に触れそうな位置まで近づき。

 俊介は何が扉を吹っ飛ばしたのか、その正体を確認することができた。

 

「……『()()』だ……」

 

 俊介の顔が思わず歪むほどの無残な姿。

 おそらく扉に頭から当たったのだろう。頭部は衝撃により完全に粉砕し、白っぽい破片と黒い液体が飛び散っている。首から上がない死体の人相を把握することは永久に不可能だろう。

 黒い防弾チョッキにナイフ等の近接武器、そして小銃を持っている。マガジンが抜き取られた形跡もない。

 全身が未だわずかに痙攣しており、既に死んでいるものの、ついさっきまで生命活動を続けていたであろうことが伺える。

 

 

 そして。

 何より、この死体で俊介の眼を引いた物は。

 

 

 『右半身が植物の太い茎に覆われている』ことだった。

 

 

 皮膚の内側から食い破るように植物が生え、それが右半身を完全に隠してしまっている。

 体から植物が生えるその様子は、俊介にとっては記憶に新しい光景だった。

 

「……厭勝がきゃるとる~ぜに使った薬と同じ奴か……?」

 

 厭勝がきゃるとる~ぜに使用した、血瑠璃教という危険な宗教団体が作った薬。

 使用者を超興奮状態に陥らせるという効能と知雫が言っていた。しかし、きゃるとる~ぜの背中から生えてきた赤青緑の花と極彩色の瞳は超興奮なんて言葉では到底説明がつかない。

 

 あの時のきゃるとる~ぜとは違い、この看守の死体には緑色の茎だけで花は生えていない。

 厭勝の使ったものとは違う薬なのか、看守ときゃるとる~ぜで何か違いがあるのか……。

 

 

『B兵器か……』

 

 ガスマスクが死体を見下ろしながら重い声を吐く。

 すぐ横に来た彼に対し、俊介は声をかける。

 

「B棟の中に入ってもいいと思うか、ガスマスク」

『……MRKのことを考えると入るしかない。そして入るなら……俺たち人格で様子見などせず、速攻を決めるべきだ』

「どうして?」

『この死体が囚人ではなく看守なのが問題だ。何が目的かはわからないが、『()()()()()()()()()()()()()()()()』ということだからな』

「B棟の狂った囚人が計画性なく凶行に及んだ可能性も……」

『その可能性もある。だが俺が言ったこともひとつの可能性だ。真実は中に入るまで分からない』

「…………」

 

 

 『看守を襲う理由』……。

 囚人の中には重装備の看守に勝てる奴もいるだろうけど、襲うメリットなんて殆どないはずだ。

 看守は囚人に仕込んだ殺害装置を起動させることができるのだから、上手く数人の看守を殺せたとしても最終的には装置で殺される。

 

 それを知ってもなお。

 看守を襲う理由がある奴が本当にいるっていうのか?

 

 

 俊介はガスマスクの顔を見て、さらに言葉をかける。

 

「看守を襲うつもりはなくて、B兵器に感染した囚人からたまたま看守に移ったとか……」

『もしそうなら……さらに最悪な状況だ。B棟の中が重装備をした看守ですら感染するほどの地獄と化しているんだからな』

「…………」

 

 ガスマスクの言葉に冷や汗を垂らす俊介。

 本当にどうなっているんだ、B棟の中は。

 

『感染防止策を十分できずに入るのは不味いが、状況が状況だ。状況が最悪になる前に入り、素早く外に出るのが今取れる一番の防止策となる』

 

 それで大丈夫なのか……?

 B兵器の専門家のガスマスクが考えた最善の策なのだろうが、最高の策ではない。

 いや、ガスマスクですら不安が残る策しか出せないほどにメチャクチャな状況なのだろう。

 

 

 どうすればいいんだ。

 『行くか』……? 『退くか』……?

 

 

 俊介が死体を目前に、頭の中をかき回すように二択を悩んでいるとき。

 いち早く決断を下した者が心底嫌そうに頭を掻きむしり、拳を強く握りしめた。

 

「…………くぅ~っ……仕方ねえッ! ブツ(MRK)が変なのに渡ったらどの道おしまいなんだ!! 全員腹くくって行くぞッ!!」

 

 ゼロツーが自分の恐怖をかき消すように覇気のある声を出す。

 それを聞いた俊介は、不思議と自分の迷いも消えた。

 

 リーダーであるゼロツーが決めたのだ。ならば彼を守る役目の自分も行くしかあるまい。

 図らずとも彼に背中を押される形で覚悟を決めることができたのだ。

 

 

 ゼロツーが覚悟を決め、全員の意思統一ができた直後。

 ウィザードがすかさず看守の死体をあさり、手際の良い動きで小銃を肩紐ごと奪う。

 

「あ、看守の持っている小銃は私がもらっておくよ。拳銃も一丁あるが……ゼロツー、いるかい?」

「…………もらうッ!!」

「使用経験は?」

「ないッ!!」

 

 ゼロツーの小さな体格で拳銃を扱えるのかは少し不安だが、彼に撃たせるようなことがあればそれはもう詰みに近い。

 基本は他の3人で守ることになるだろう。

 

 ウィザードはさらに看守の腰からナイフを鞘ごと剥ぎ取り、俊介に向かって投げる。

 

「日高。さすがに銃の使用経験はないだろうからナイフをあげるよ。君ならそれで十分だろう?」

「……ああ、ありがとう」

 

 素直に礼を言う。

 銃禁止の国で育った自分に銃など渡されても使える自信はない。ウィザードの言う通りナイフの方がありがたい。

 ズボンのポケットに鞘ごと突っ込み、緊張を混ぜた息を吐く。

 

 

「……ニンジャは俺の近くでトラップを見つけて教えてくれ。他のみんなは先行して偵察頼む」

 

 俊介が人格たちにそういうと、彼ら彼女らは呼応するように頷いた。

 ニンジャ以外の全員はB棟に素早い足取りで向かっていく。……いや、ダークナイトだけは緊張感のないだらけた足取りでB棟へと歩いて行った。

 

 少しの間みんなが歩いていくのを見届けたあと、俊介はゼロツーの方に向き直る。

 彼は拳銃をおぼつかない手つきで背中側のベルトに差し込み、大きく深呼吸してから、キッと眼光を強めた。

 

 

「先頭は日高、殿はジャン! さっさと見つけてさっさと出るぞ!! 僕様はここで死にたくないからな!!」

 

 

 恰好つけているのか情けないのか、どちらかわからない台詞をゼロツー吐いた後。

 

 脱獄4人組は隊を組み――――B棟の内部の暗闇へと姿を消していった。

 

 




久しぶりの投稿で文章力が落ちてると感じる次第……。
B棟の前でずっと話してるだけで展開があまり進まないし、話を進める力も落ちてるなぁと感じます。

これからちびちび投稿して徐々に力を取り戻していくので、少しだけお待ちください……。
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