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ある貴族の屋敷にて。
不治の病に侵され、今にも命を奪われてしまいそうな青年の姿があった。
ここ最近の流行病であるこの熱病。
彼に助かる道はないーー何処の医者も同じことを言っていた。
寝台に横になる彼の隣で父と母が見守っていた。
「はぁ、はぁ......」
「もう少しだ。もう少しの辛抱だ」
息も絶え絶えで、意識も朦朧としている彼を励ます様に両親は手を掴んだ。
彼が助かる希望は、たった一つを除いて全て断たれてしまった。
その時だ。
扉を開けて一人の少女と思わしき人物が部屋に入って来る。
「申し訳ありません。大変遅れてしまいました」
その声の持ち主は、純白の魔女だった。
世間一般的には、あまり良い印象がある存在とは言えない。
だが、例外的に彼女には特別悪い噂と言うものは無かった。
なんでも、病の人々を治して回っていると言う"博愛主義"の魔女だと言う。
「これは、イクス殿......いきなりで申し訳ないが治療の方をお願いしたい。もういつまでもつか......」
「わかりました。直ぐに取り掛からせてもらいます」
イクスと呼ばれた魔女はそう言うと、病に苦しむ青年に手を翳した。
青年の母は不審そうな表情をイクスに向けるが、妨害するわけでも無い。
本来、魔女の奇跡など信じる訳はないのだが、そんな物に縋るしか無いほどに彼らは追い詰められていた。
イクスが手を翳し続けて、どれほど経っただろうか。
「はぁ......うんっ」
青年の荒々しかった呼吸が、急に穏やかな物になった。
「うっ......急に体から楽に......?」
青年はゆっくりと身体を起こす。
今まで、身体を蝕んでいた病魔が嘘の様に消えて無くなっていた。
「だ、大丈夫なの?」
心配そうに問いかける母。
「不思議なくらいに大丈夫だよ......まるで嘘みたいだ」
「よ、良かった、本当にっ、良かった......!」
父と母は歓喜のあまりに涙を流した。
「僕はでも、どうして?」
一体何故助かったのだろう。
今まで、熱病に侵されて意識も曖昧だった。
何故、こうも急に元気になったのだろう。
「魔女様が助けてくれたんだ、どうお礼をすればいいのか......」
父の視線の先には、イクスがいた。
「貴方が僕の事を?」
イクスは、コクッと首を少し縦に振る。
その瞬間、青年はイクスの手を取った。
「この恩は一生忘れたりはしません、ありがとうございます」
「いえ、そんな大層なことはしていません。私は私に出来ることをしているだけなんです」
「そんな事はないです、私は貴方に救われました......」
イクスはその問いに、微笑みで返した。
世間では、魔女狩りの風潮が強まるこの頃。
イクスは、人の為にその身を顧みずに流行病を治める為に、その力を惜しむ事なく使っていた。