少女姿の深海上位者 作:夕焼けの空を飛ぶ海老
深海上位存在とアーミヤ
次の日、私の勤務が始まる。まだ研修期間って感じだけどね。
ケルシーの執務室でソファに座って待っていると、ノックの後にロドスのCEO様が顔を出す。
私の姿が確認されたのを見計らって怯えた様子を見せる
「おはよう。よく来てくれた、アーミヤ。そこにかけてくれ」
「はい、おはようございます。それで……その子が呼び出しの理由ですか?」
「それと昨日の会談をもっての連携事項の確認も兼ねている。ノアリス、怯えていないで挨拶をしてくれ」
「……この人は『大丈夫な人なのでしょうか』?」
「あぁ。あの子はお前の親を差別をして襲ったりしないし、お前に暴力をふるってきたりはしない。善良なロドスの管理者の1人だ。そう怯えないでくれ」
当然、そのままの意味では無い。名前を知らない禁止リストの人間であるかどうかを無理のない形で取るための演技だ。確認を取り次第、前に出て嘘で固められた自己紹介をする
実際、アーミヤも接触に注意が必要な人物である。バベルにいた頃の幼少期に会っており、来る度にバベルにいた子供達にお菓子や玩具をあげて、ドクターが不在の間には遊び相手になったりしていた。その頃の私はあほあほちゃんだったので何も考えてなかったが、今憶えられているかの運ゲーが始まっていることを考えると軽率でしかない。
「はい。ケルシー先生。私の名前はノアリスっていいます。亡くなった母親が先生の友人で、危ないところをケルシー先生に助けられて、少しの間ケルシー先生の周りのお世話をする形で下宿させて貰っています」
「私の名前はアーミヤ。その、よろしくお願いしますね。ノアリスさん」
「はい、よろしくお願いします」
私の容姿はアーミヤと同年代の中学生に見えるほど幼い。透明に近い灰色の目、長い透明に近い白の入った銀髪で、信徒から龍門のトレンドの限定品としてお供えされた暖色系のカーディガンを羽織って脚を覆うほど丈が長い薄橙色のワンピースを下につけているだけで、神秘的なまでに清廉な雰囲気を漂わせる少女。全然別の種族だが、種族としての特徴はアビサルに近い。
億万年単位で信徒相手に女神様してきた私の外ヅラ清楚は中々堂に入っているのではないだろうか。
近づいてニコニコしながら握手を求めてくるアーミヤにわわ、まつ毛長!すごい顔がいいねぇ!流石マスコット様だぜ!!などと思いながら目を細め微笑しながら握手を返す。
「……?ノアリスさんは私と昔会った事ってありますか?」
「いえ、無かったかと。母がケルシー先生と働いていた時に会っていたかもしれませんね」
そう言って何か思い出そうとするアーミヤ。服は違うけど、昔会った時と容姿全く一緒だからね。仕方がないよね!……仕方なくない?
むむむって感じで考え込むとうさ耳揺れてて可愛いね♡
だが、そんなアーミヤの姿を見て潮時と見たのだろう。ケルシーが経過を見て声をかけてくる。
「ノアリス。今からアーミヤと少し話があるから自室に戻っておいてくれ」
「了解しました、先生」
「えっ!? もう少し私はお話したいです! いいですよね?」
そう言いながらケルシーに懇願するアーミヤ。演技テストという事で会ったが、会話を続けてもいいとアーミヤに見えないようにケルシーにアイコンタクトを送る。
「良いだろう。だが、予定が詰まっているわけなのだからこれ以上は支障が出ると判断したらノアリスには退出してもらう。君もそれでいいな?」
「大丈夫ですよ」
「じゃあ、ノアリスさんって何歳なんですか?」
「14歳ですね。龍門で学生をしていましたが、今は休ませて貰っています」
「じゃあ、同い年だね! ノアちゃんって呼んでいい?」
「はい。私もアーミヤちゃんって呼んでも良いですか?」
「全然大丈夫だよ。ノアちゃんは普段何をしてるの?」
「本を読んだり、昼間の市街を散歩に出かける事が多いですね。アーミヤちゃんは龍門に遊びに行った事はありますか? 同年代で人気のある場所なら案内してあげられますが」
「本当? 嬉しいな!」
「でも、そうですか」
「どうしたの?」
「いえ、愛称で呼ばれる事なんて今までになかったので。嬉しくて、少し恥ずかしいです」
「ノアちゃん……っ!」
めっちゃ距離詰めてくるやんって思いながら、私も少しづつ心を開いていく。とても甘ったらしい友情百合の雰囲気が漂ってるけど、そんなに同年代の友達に飢えているのだろうか。
ロスモンティスは同年代だと分かっているけど記憶を失う訳ありだし、グムやポデンコは同年代に見えるが実年齢が分からない。CEOとオペレーターとして身分に合った接し方やどこか一線引いたり引かれたりしてて友情に飢えているのかもしれない。めっちゃ可哀想じゃん……。想像の話でしか無いけど。
なお、後ろで聞いてるケルシーは愛称の所からめっちゃ微妙な顔してる。そりゃ、身内との一線を引くものだと思っている愛称をアーミヤから呼んだり、その実めっちゃ仲良くなってたらそんな顔にもなるか。
その愛称だって深海から地上に信徒の方舟を引いた私の自画自賛をしているだけなのだが。現シーボーンや龍門の小言言ってくる上の奴には皮肉だが、昔からの付き合いのケルシーに対しての冗談以外ではただの愛称でしかない。知り合いには呼ぶ奴もいるし、信徒の中でもアイドル的な立ち位置でノアちゃん呼びは多いし、好きに呼ばせている。
そんなアーミヤとの友情を築き上げた感動の場面でこれ以上酷い状況にならないよう、ケルシーから終わりを告げられる。
「アーミヤ、ノアリス。時間だ」
「えっ、もう少しお話ししていたいのですが……」
「アーミヤちゃん、今はダメってだけでまた会話ができる機会は沢山あります。私もロドスにまだいるのですから。だからその時にまた、いっぱいお話しましょう?」
「……はい、分かりました。ノアちゃんっ! また今度ね!」
そんな感じで手を振りながら退出していく。とはいえ、ケルシーの自室は棟を跨いで歩けば着く距離だ。防音加工で常人では絶対に不可能だがそこまでならある程度は会話に耳を傾ける事ができる。深海イヤーは地獄耳。
まず話題出たのは先の龍門での連携の話だった。近衛局との連携について、レユニオンの動向、ドクターに説明する内容の吟味。
そこから私の話題に移っていく。
「その、彼女はケルシー先生の友人の子供ではありませんよね?」
「先に出たケルシー先生とノアリスちゃんとの会話はかなり説明的でした。おそらく他の機密を守る為に出したブラフではないですか?」
ヒェッ。私とケルシーに緊張が走る。だが、ケルシーは上手く隠して不服だなといった様子を見せる。
そこにアーミヤは1つのファイルを取り出す。
「これを見てください。昨日の夜からケルシー先生の自室の隣が貸し出されています。きっとノアリスちゃんの為に取った部屋でしょう?」
「そうだな」
「ですが、今日の早朝に連絡が来て挨拶に行った際には家具が何一つないもぬけの殻でした」
終わりだ……。このまま審議にかけられてケルシーと逃避行をした先で討伐されてしまうのか。儚い命だった……。
「そして、見たんです。ケルシー先生の部屋から時間を置きつつ一緒に出ているのを」
「それは……」
「はっきり言ってください。────ノアリスちゃんはそこまで不安定になるほどの何かを抱えているんですか?」
「……」
「『大丈夫な人なのでしょうか』。そういったノアリスちゃんの目には本当に何かを恐れている様子がありました。
体をワンピースと長袖で隠しているのは体表に源石が出ているのかと考えましたが、そういった事を隠すような仕草は見受けられません。きっと、もっと深刻な何かなのでしょう?
───────ロスモンティスちゃんの様な」
流れが変わったな。あとはケルシーが上手い具合に丸め込めば済む話だ。
何故にロスモンティス? と思わなくもないが、同じような髪色で大人しめな性格、訳ありな雰囲気で私にケモ耳は着いておらず身長は私の方が少し高い大人な雰囲気だったとしても、そこにロスモンティスを感じたと。分からん。昔は友達同士だったからその時の事を思い出したとかかもしれないが、私がいくら考えたとしても答えはアーミヤの中にしかない。
「答えてください、ケルシー先生。私はまた、友だちを失うんですか……?」
「今はまだ話す時では無い。ただ、記憶喪失等の障害も一切ないし、鉱石病のような病も見受けられない。いたって元気な健康体であり、本人の精神も安定していて受け答えも正確に行えている。そこは医者として保証しよう。普段は私が世話をしていくが、いつでも訪問して貰っても構わない。若い者同士で娯楽を楽しめるのは君とノアリス、双方のメンタルケアにもなるだろう」
「分かりました。そこで、相談なのですが」
「彼女の事は彼女が決める事だが、言ってみるといい」
「ノアリスちゃんも本当は学生で友人がいてもおかしくないし、それでも親がいなかったりあだ名で呼びあったりできる信頼出来る人がいないというのは、人の温かさを知らないのは本当に辛いと事だと思います。だから、少しの間だけでも良いので一緒の部屋で過ごせたりは出来ませんか?」
「──────彼女の事は彼女が決める事だが、部屋を貸してる部屋主として、私の権限を持ってできる限りの力にはなってみせよう。彼女もきっと友人同士で暮らせてとても嬉しいだろうからな」
……おい、そこの友人。体のいい厄介払い先を見つけて喜んでいるんじゃない。マジで魔王の城住まいにする気か。正気かよ。
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自室に戻ってきたケルシーは頬を膨らませている私を見て、先の会話を聞いていた事を察してか困った笑い顔をしている。
「思いやりのあるとても良い勘が鋭い友人が出来て良かったじゃないか。アーミヤの性格については保護者として太鼓判を押そう。彼女の部屋にもバスルームはあるが、問題があるのなら私の元へ借りに来て貰って構わない。
彼女の部屋は私の部屋とも近いし、食事についても部屋に備え付けのキッチンがある。親友のために彼女が料理を振舞ってくれる事だろう。手が空いている時には君が作ればいいし、調理用の器具や食材がないなら私が手配しても構わない。
それに君が彼女の前や部屋で能力を使うとは考えづらい。君がそんなヘマをするとは思えないが、もし親友が敵かどうかを疑われる時があるとするのならば、彼女は彼女が持つ全権限を持って君を守ってくれるだろう。」
ケルシーに負けた事なんて初めてかもしれないし、こんなに悔しがったことは永い命の中で数回しかない。たまにはこんな感情も良いのかもね。