少女姿の深海上位者 作:夕焼けの空を飛ぶ海老
「こんにちは、ノアリスさん」
食堂で遅めの昼食を食べていると、後ろから声がかかる。アーミヤから紹介された事があった、アンセル君だ。
「はい、こんにちは。アンセルさん」
「こんな時間からランチなんて珍しいですね」
「少し用事に時間がかかってしまいまして」
アンセル君はなんか女っぽい見た目をしている男の子だ。うさ垂れ耳可愛いね♡そして誰に対しても敬語を使ってるので割りと印象が被る。奇しくも同じ構えだ、種族や男の娘か謎性類が女の子しているかの違いはあるが。
「ノアリスさんは今日は予定がある日ですか?」
「いえ、今日はもう何も無い日ですね。ロドスの内部把握ついでに散歩にでも行こうかと」
「散歩、良いですね。こんな良い天気の時にすると、とても気持ちがいいでしょう」
そんな、雑談のような虚無会話をしているとアンセルは何かを閃いた顔で
「でしたら、医療棟に来ませんか?ノアリスさんも医療オペレーターですし、機器は何かと入り用でしょう。貸し出せますよ?」
「えっと、私は自前の機器で行いますので……」
「自前の物は珍しいですね。どんな物ですか?」
「えっ?……別企業の特注品なので、あまり見せられるような物では」
「別企業の特注品!?ロドス製薬の正式なオペレーターなのにそんな事して良いんですか!?」
「えぇ、ケルシー先生に許可は貰っています」
「何考えてんだあの人!?」
やめて……綻びをつつかないで……。そんなにアンセルは私の残り湯が見たいのか?
だが、いくら杖で癒せるファンタジー世界でも、医療オペレーターにもなって不用意にお星様キラキラしてる謎お水を見せながら「私の武器はこいつだぁ!」って言い出したら、私と許可を出したケルシーがヤバい思想に入ってると思われかねない。
親友がどう思われてようが構わないが、私の清楚性が外れるのは嫌だ。話題を逸らそう。
「では、食べ終わったのでそろそろ散歩に」
「えっ、少しだけでも良いので顔を出してみませんか?」
「いえ、結構です」
「そんな事言わずに」
「なにか怪しくありませんか?」
「いえ?何も?」
めちゃくちゃ怪しい。アンセルは嘘をつく時、人の目を真っ直ぐ見るらしい。覚えた。
「ちなみに今の時間帯はどんな人がいるんですか?」
「サイレンスさんやガヴィルさん、ハイビスカスさんが居ますね。皆いい人ですよ?」
「私、嘘をつかれるのが嫌なんです。教えてくれませんか、兄さん」
「えっ!?なんで私に妹が居るって知ってるんですか?」
「兄さん、ダメ?」
「ゔっ。可愛い」
アンセルに兄と妹が居るのは知っている。私は14歳の少女の姿をしている。あとは上目遣いで猫なで声。それでおねだりすればいいだろう。
「誰がいるの?」
「あー、いや、うん。ワルファリンさんです」
「行くのやめます」
「待ってください!お願いします!」
こいつ真っ黒だったよ!なんで私の正体を知ってるマッドサイエンティストの元へ行かねばならない。
そして、この感じ。私がロドスにいる事がバレている。こんな手先がいる物騒な所に居られるか!私は一足先に帰らせてもらうぞ!
「帰らせてください!帰らせて!お願い!」
「いや、いやいやいや!行きましょう!ね?どんな関係かは知りませんが仲良くなれますよ!」
「そんな訳ないです!」
だがどうにもこうにも離してはくれない。どんな弱み握られてるんだ、この子。だが、このゲームには必勝法がある。
「お願い、兄さん。私行きたくないんです」
「許しくたくなるからそれやめてください」
「一緒にアイスを食べに行きましょう?
いえ、購買部に♡服を買いに♡デートに行きたいな♡♡アンセルお兄ちゃん♡♡♡」
「ワルファリンさんの所へ行きましょうか」
「え゛っ!?嫌っ!助けてください!誰かっ!この男の人が路地裏へ連れていこうとしています!!!助けて!!!」
「人聞きの悪い事はやめてください!ほらっ行きますよ!」
「いや!攫われるーっ!!!」
こんなに騒いでいるのに何故誰も助けに来ないのか。答えは簡単。女の子(男)と女の子(謎)がイチャイチャしているようにしか見えないからだ。
逃げ切ってやるからな!絶対勝つぞお前!
────────────────
「よく来た。して、何故そこまで服装が乱れておるのだ?」
「アンセルに襲われました」
「えっ、ちょっと?嘘ですからね?」
そんなこんなでワルファリンの所へ来た。清楚性など、拉致犯とその依頼者においてはいらないに等しいので猫かぶりを外す。
「で、なんの用かな。ワルファリン」
ワルファリン。白髪赤目のブラッドブルードの女性。まぁ、吸血鬼もどきと覚えて貰えれば良い。
拒否ってたのにケルシーから無理やりロドスに入らされて、連れてこられた悲惨な人物だ。その後も研究しようとするがヤバすぎて禁止、ドクターに近づくが危険すぎて出禁。医療に対する見識は折り紙付き。ただ、マッドサイエンティストだ。
私はケルシーに勝てる、ケルシーはワルファリンに勝てる、ワルファリンは私を連れてこれる。見事な三すくみだ。機能はあまりしていない。
「アンセルは少し外に出ていろ」
「えぇー?分かりましたけど」
アンセルが外に出た。雑に扱われる悲しき男よ。やはり、医療棟はロクな所では無い。私も帰らせろ。
「久しぶりだな、ノアディシア。実は、そなたの問題が解決したのだ」
「えっ?」
「そなたはシーボーンなどではない。これが、その証拠だ」
あっあぁ……。
私は
「アビサルハンターは避けるべきだが、共存できるのだ。ノアディシア。だから、もうロドスなぞに縛られなくてもよい。少しの間だけ診させてもらって、一緒にケルシーを騙してドクターに近づかせてくれれば、後は自由の身だ」
「もうやったよ」
「え?」
「前半の内容はケルシーにもう詳しく聞いてるわ!」
「そんな。
蹲るワルファリン、そこに近づかずに立ち尽くし、連れてこられた理由に頭を抱える私。もう、帰りたい。
実験をせずに考察やデータを用いてそこまで辿りついたのは流石だとは思うが、それを私欲に使うのがもったいない。
「帰っていい?」
「いや、まだ要件はある。あの液体を検査させろ」
すぐに立ちながらも、少しショックを受けている顔で言ってくるワルファリンに少し悩む。聖水は絶対に渡したくはない。そのために見せてはなかったし。
「どこで知ったの?」
「そなたの試験映像だ。わりと誰でも見れる」
「制限したんじゃなかったのかケルシーめ……ただって訳はないよね、報酬は?」
「それがあの情報だった。だから代わりはすぐには用意できない」
「ケルシーに実験はさせてたし見せて貰えば?」
「何度も邪魔してきたケルシーが許すと思うか?」
「いや、無理でしょ」
ロドス内で秘密で禁止されている事をしようとして共犯者にされる気分は良くは無い。
でも、私も秘密は隠している。
「私の事はロドスでは秘密にしてくれない?」
「それこそ、あの液体との交渉で良いのではないか?」
「いや、あれは流石に渡すと、私の手の内が割れちゃうから」
「だからさ、私の血を飲ませてあげるよ」
「……」
「意識が残る程度ならいくらでも飲んでいいよ。それで契約成立だ」
本当に、本当に悩むワルファリン。飲んだ事の無い神の血がすぐそこで誘ってるのだから当たり前だ。少しだけ目を細めている、エサとして見るかの逡巡が見て取れる。
誰にも飲ませた事の無い、飲んだ事の無い純潔の血の蜜の味、それは深い、甘さで出来ている。
私は何も置いてない机の上に、倒れ込む。首元を緩め、着ていたワンピースのボタンを1つずつ、1つずつ外していく。完全に開いたそれに肩の部分を外し、大の字に寝そべり、そして、誘い込む。いいんだよって。
ワルファリンは、火照った顔で、首元しか目に映していないそのルビーのような真紅の目で、私の前に来る、理性の無い彼女を、私はそれを抱きしめる。そして、彼女は私の首元を舌でなぞり、キスをする。そして……そして……
「やめた」
「いいの?」
「はぁ、あまりに危機感のない友人に
妾は襲う側であり、血には貞淑を望む。断じて誰かに盛られた皿の餌を食すのではなく、あくまで妾が狩りを行う行為に、意味がある。
──────だから、妾が機が熟したと想うその時まで、それは取っておけ。妾との秘密だ。それまでは、妾もそなたの秘密を守っておく」
その後、液体はもういい。暇にしてたら呼んでやるから遊びに来いと連絡先だけ交換させられて、呼ばれたら行くとは言ってないが帰らせて貰うことにした。
アンセルとの死闘(レスバトル)で時間を使いすぎてしまったのか、出た時には夜だった。
……なんで吸わなかったんだろうか?やはり神性がダメだったか?まぁ、何故か秘密は守ってくれるし結果オーライかなっ!
主人公:レスバ弱め
アンセル:自分が担当している患者の為に新型の医療機器を優先して融通して貰えるかワルファリンにかけ合う心優しき男の娘。その結果、ワルファリンの手先になってしまった。色々可哀想。
ワルファリン:不老不死。血液センターを設立し管理をしている。あれ、血液検査って名目なら血が貰えるのでは?残念。ケルシーに既に懸念点となる事項は全て捏造されてしまっていた。なのに試験の映像は普通に取り寄せられる。謎。
ロドスの古株だが、それよりも主人公と会った期間は古め。そりゃ近くに神って呼ばれてる奴がいたら誰だって興味は湧いて見に行ってしまう。興味の沸かせ方が間違ったのかもしれないけども。