少女姿の深海上位者 作:夕焼けの空を飛ぶ海老
オペレーターになる前から私は服というのは何着かを洗いながら週で決まった順番で着回すタイプで、部屋に居る時はそこまで凝った服は着ていない。流石に今はルームシェアの関係でヤバい服装はしていないが。
アーミヤは寝間着こそあれど、ほぼあのコートとシャツ姿だ。どうやらオペレーターになると非常事態に何時でも出動出来るように大半の時間は制服らしい。ならスルトは大体あの薄着なのか。
新聞配達や園芸をしている所は見た事がないので、スキンの姿は宣材写真か何かなのかな?新聞配達員の宣材写真って何目的なんだろうか。
私の制服はまだ決まってない。というのも私がお気に入りの私服のまま対人戦闘をしてしまったため、このままだとメイドイン信徒の限定衣装になってしまう。流石に一着では心もとないし洗濯せずに着回したくはない。それに私服が丁度欲しいと思ってたところだ。
なので、今日はアーミヤと購買部に出かけていた。日用品や食品、ゲームのようにインテリアや色んな服等様々な商品があるショッピングモールのような場所だ。
謎のチケットやレアメタルのような希少素材、危険物質の純正源石は見た感じ置いていない。ドクター専売。
広い施設になってはいるが店員の姿は見えていない。レジでAIが会計を行っているらしい。
万引きする人間が慈善奉仕活動を行いながら医療事業を担うメガベンチャー企業程度のロドスにいるのかはともかく、防犯カメラが分かりやすい位置に数個と私程度の洞察力がないと分かりにくい箇所に結構な数がある。
死角がなく、もしアーツで気付かれずに取れたとしても商品棚の管理AIが感知できる。抜けがない。
「よっ、アーミヤちゃんとノアリスちゃん!」
「クロージャさんですか、いきなり出てきて驚きました」
「そんなに監視カメラと周りを見てると結構分かりやすく怪しいからね?そしたら、こうやって私や私特製の防犯ロボットが出張ってくる。気をつけなよー?」
「ノアリスちゃんは私と一緒にいるのでそんな事しませんよ。でも、ロボットに任せてもいいのにどうしてここに?」
クロージャとはバベル内では会った事はあるが、部外者がそういったテクノロジー関連の技術者として活動していた彼女に会う機会は最初はなかった。
ただ、昔のドクターに紹介されて関わり、そこから昔のドクターとクロージャの賛同でケルシーに許可を貰い、テレジアと面会出来たので結構思い出深い人物である。
アーミヤが喋っているので、昔から付き合いのあるクロージャとタメ口で話せずに空気と化してる私はそう過去に耽っていた。
ケルシーが口止めしてるらしいから漏洩は大丈夫そう。ワルファリンと同じブラッドブルードだが、あちらと比べて血を求める衝動は無いように感じる。ワルファリンは隙あらば冗談っぽく血を求めるから危険すぎる。
「ここで服を探してるってなったら私がいた方が良くない?割引もするし、オーダーメイドもちょちょいのちょいさ!」
「結構です。ね?ノアちゃん」
「えっ、予算は多めだしオーダーメイドにして欲しいんだけど」
「えっ……」
悲しそうな顔をするアーミヤ。
そりゃ、来る前まではアーミヤとお揃いのコートが良いと言っていた。凄く嬉しげにしながら裏で動く機密性を考えるならやめておいたらと、ついさっきまでアドバイスされていたのだ。
それが今は目の前でどんな服にして欲しいかを他の女と話しているのだから脳が破壊されている。ファッションNTR。
あらかた決め終え、採寸をクロージャに任せていると
「ふむ」
「クロージャ、どうかした?」
「いや、私を知っているはずなのにこうやって採寸室で2人きりなのに全く警戒していないなーって考えてたかな!」
「んー、私は特別な種族だから血を飲まれた所で、貧血気味になるくらいだし、クロージャは信用してるから気にしないよ。彼女に会わせてくれたから」
「……私もそこまで入れ込みはしないけど、他の子にそんな事言ってると食べられちゃうぞ〜?
まっ、
そう言って、すぐに作って来るねー!と出ていったクロージャを見送り、アーミヤと服やアクセサリーを見に行く。
休みが少ない彼女はあまり私服を持たない。寝間着はあるが、それでも少ない。彼女のために服を見繕いながらどんな服が良いかを考える。
アーミヤの好みに合わせて買ったが喜んでくれただろうか。やはりアーミヤは寝間着を優先するくせがあるのが気になる。外用もちゃんと着ようね?
クロージャはあれから2時間程度で来た。1から製造なのに早すぎないか?AIと予め作っておいた製造プログラムの応用だったとしても彼女の技術力の高さが伺える。
見た感じ私が思ってたのとは違う。私は清楚なものにして欲しいと頼んだはずだ。
出てきたのは、所々透けている透明と白のパーカーっぽい何か。それの上に紺色のコートっぽいがカーディガンのようにゆったりとしていて所々透けている謎上着を肩の下ほど羽織る。それに黒のこれまた所々透けているスカートを合わせている。
めっちゃ透け透けじゃん。こんな痴女っぽい透けてるのはケルシーしか着てないぞ。やはり、老人向けの服装は透けるのだろうか。
ただ、この世界での透けている服装は「私は鉱石病では無いので肌を出せる」というある種のメッセージも含まれる。なので龍門でも流行ってるしシエスタでもそれなりに着ている人がいた。
それを清楚(清潔)と捉えた可能性がある。それでもクロージャの好みが入ってる気もしなくもない。
クロージャとアーミヤには好評だ。使われている繊維が頑丈で、謎の技術力で内部で温度を調節する機能もある。さらに透明な部分から光源の内部情報を読み取って擬態も行える機能付き。オーバーテクノロジーすぎる、文句の言いようもない。透けているが。
自室に帰り、他の人に買ってもらった服ではなく、自分で買ってきた服たちを眺めながら明日は何を着ようか悩む時間。これが何より愛おしく好きかもしれない。
「ノアちゃんは今日楽しかった?」
「うん、とっても」
「良かった。私はね、ドクターといつも一緒にいたり、他のオペレーターの方たちも優しく接してくれるけど、作戦以外であまり人と出かける事が無かったんだよ。
だから、今日ノアちゃんと出かけられて本当に嬉しい。
あと5日で龍門に出発するけどその間もその後もずっと仲良くして欲しいって思ったんだ」
「そっか」
「だから制服は私も一緒に選びたかったな」
「いや、それは本当にごめんね?」
何より愛おしい時間、それを私は服を見ている時だと考えていたが、こうやってソファに座りながら他愛もない会話をする時間がすぐに更新してしまった。
────────────────
次の日、私はドクターの部屋で雑談していた。
「あれからお身体に問題はないですか?ドクターさん」
「大丈夫だよ、ノアリス。君のおかげで今もこうやって、アーミヤに仕事を積まれているんだ」
「そうですか、それは本当に良かった」
「その返しは酷くないかい!?
君のように、都合の悪い事は聞けない耳が私にもあったら、私の書類も減ったのかもしれないな」
「それはありえないかと。見てください、あのアーミヤちゃんの顔を。あれはロドスにおいてドクターの労働基準は私の気分次第だと思ってる顔です」
「ノアちゃん?」
「いやいやいや!冗談だよ、冗談!」
「ははっ、アーミヤ。私もその通りだと思うがその辺にしてあげなさい」
「ドクター、ここの棚に置いてある全部の書類の記述と提出もお願いします」
「これが終わったら寝れる予定なんだ!許してくれ!」
そんなたわいのない雑談をしながらタブレットを見てみると気づいてしまった。
赤いマーカーがこの部屋の中にある事を。
「やぁ」
「うわっ、エンカク!?驚いたじゃないか」
「ドクター、少しこいつを貰う。お前はそこで手でも動かしてろ」
「こんにちは、ノアリスと言います。エンカクさん、でよろしガッ」
瞬間。襟を掴まれドアから外に出される。
扉が完全にしまったのを見てから、彼は私を壁に叩きつける。新手の壁ドンかな?♡顔が良い男にやられるのは、とても背中が痛く「答えろ、お前がアイツを誑かしたな?」
「誰」
「ドクターだ」
「何回目」
「2回目だ」
「なら、治療だ。ショック療法によって」
「医者の戯言なんてどうでも良いが、あの年寄りの差し金なのはわかる。あの後からドクターから『影』が薄くなった。上等な結果だな。
で、お前は次に何をしに来たか。それが分からないからこうして聞いてるだけだ」
「手厚い歓迎だねぇ。……手、ゴツゴツしてるね。私は好きかな」
一言答えるたびに、襟首を絞めてくる。息は止まってるが、元々深海で暮らす身なので無呼吸でも問題はない。
エンカクは昔のドクターの敵だった人物だ。バベルにチェスの相手で招待された時に会ったこともある。今はドクターの側で自分探しをしつつ戦場に行ってるのだったか。
ドクターの護衛に見られてはいるが、別に構わない。エンカクも私も彼女たちには分からない程度の声の大きさで話している。
あーあ、ケルシーに協力して風向きが良くなったと思った途端にこれか。まぁ、要注意人物が1人無害になるのならそれでいい。ハッタリを使わせてもらおう。
「私は昔のドクターの護衛だよ。だからたまに会いに来てる。ケルシーにでも聞いて来たら?エンカクが私を見た時も多分その時かな?私も見た事あるよ、ドクターの隣に居たんだ」
「俺は昔の事は捨てた。そんな事覚えていないし、そんな訳がない」
「あー、ケルシーに聞くのじゃダメなの?じゃあ戦ってみる?気にならない?今、昔の彼の護衛と戦ったら刃が通るのか」
「いや、ガキのお守りは無理だ」
「なっ、はっ、はぁ!?ガキが大人と遊んでたら治療完了してたとかマジで思ってるのか?もういいわ!
子供相手に逃げるざーこざーこ♡黒髪悪魔♡平気でDVしてくる♡でも好き♡♡♡」
「貶してるのか褒めてるのか分からんが寒気はするな。
────だが、俺をコケにするくらいには強いんだろ。来い、ままごとの相手ぐらいならしてやる」
向かったのは滅茶苦茶大きいトレーニングルーム。オペレーターのアーツの実験場にも使われている。カメラも観客も入場履歴もない、そんな部屋。
「エンカクって他のオペレーターと一緒に戦った事はある?」
「愚問だな、俺の生き場は戦場だ。ルールは?」
「首に触れたら勝ち」
「いいな、それ」
「なら、動いたら開始で」
そう言うとエンカクが動き出す。私も瓶を使わずに自分の周りに聖水を出す。剣を作ると距離を取るため、後退しながら剣を振る。
それは振った速度で迫り来る深い青の刃を伴う斬撃。
真銀斬っぽいの。これぐらいテンニンカでも出来る。
別に模倣しなくても良いが、相手にも分かりやすい強さを重視している加減した戦い方。
エンカクはそれを避けつつ、たまに腕で受ける────腕で受ける!?剣以上に速い刃を受け止め、広範囲に渡る鋭い居合切りで軽傷とかヤバすぎないか。まぁ、それでは済まないが。
「毒か」
違います、聖水です。硫酸のような効果を指向性で付与し皮膚が裂ける。流石に2.3発受けたところで全部避けるようになった。3発受けたら普通は血管中に入って瀕死になるはずなのにね。おかしい。
エンカクが水の波状を全部避けて私の元へ辿り着く。首の元に剣を振る。普通なら体に当たって斬れてるが、そこに私はいない。上だ。
天井に付着した擬似真銀斬の刃の跡から、空中に出た私は大量の聖水を使用し、フィールドを覆う巨剣を出す。
「───ハッ」
それは
「ラグナロク」
これぐらいテンニンカでも可能だ。
「あいつのはそんな物騒なモンじゃねぇよッ!!」
それでもテンニンカならやってくれるはずだ。
エンカクが避ける前に叩き潰す。殺しはしないがその強度をもって重体になる程度に。
素早く近づき、戦線復帰する前に首を抑えようとする。無理だった、胴体を斬られる。ただ、首ではないので負けでは無い。聖水で完治させ一旦引く。
「三度、お前みたいな怪物と戦った事がある。
人間じゃないな。お前」
「それは知らないけど、人間だよ」
だってケルシーがそう言ってくれたから。
剣を振るう。デストレッツァ、あのテンニンカでも現地で2泊3日の講習がいる。
だが己さえ斬れるその剣をエンカクは手持ちの刀で受けはしない。正解だ、受けた場合液体に戻してからまた剣に戻し身体に当てるからだ。
審問官と戦った時、イベリアの至高の剣技の本懐は鍔迫り合いなのだろうと察した。ソーンズのような液体を飛ばすのがデストレッツァなのかは見ないと分からない。
ただ、これだけは審問官と対峙し見えた。
デストレッツァとは剣とレイピア。どちらでも扱え、両方の強みを併せ持つ。
つまりはそう、先を瞬時に刃を細くし軽量化する。
そこから放てるは常人達が恐魚や強力なアーツ使い達に対抗すべく生み出された至高の突き。
「引き分け?」
「俺の負けだろ」
刀を捨てて蹴りで対応するとは思っておらず、彼の足先は私の喉に触れていた。
私が喉を再生出来るとエンカクは察し、負けとしていても引き分けは引き分けだろう。
「引き分けでもドクターとは会わせてくれない?」
「いや、俺が強者だと思ったのだから好きに会いに行けばいい」
「力を持っているのに仮初の姿で平穏を望むお前は嫌いだが、俺は強い奴と戦えるならそれでいい。たまにドクターの部屋に顔を出すから来い」
そう言って帰って行ったので、私は部屋に戻り心配していたアーミヤやドクターと聞き耳を立てている護衛達に過去は伏せつつ説明した。
ドクターが私とチェスをしてからおかしくなったので、チェスは控えて欲しいと頼まれたってぐらいに。
残念そうにしているドクターとほっとしているアーミヤの構図に少し笑みがこぼれた。