無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
初投稿なので違和感調整はおいおいに。
今もたまに夢に見る。それは嘘偽りない事実だ。
目の前で俺を逃がしてくれた両親が、アラガミの無慈悲な牙の餌食になった光景。
確かに今でも夢を見た後は思う。
もしあの時俺に力があったなら、と。
しかし、それはどこまで行っても"もし"なのだ。
現実は無常であり、どれだけ後悔しようとも決して覆る事はない。
ならばせめて、俺は精一杯生きよう。
俺を生かしてくれた両親に、悔いなく生きてきたといずれ伝えよう。
恐れも後悔も己が糧に。
ただただ今という時を生きていこう。
…まぁそれはひとまず置いといて。
「………………………」
ここは極東支部のエントランスホール。
今日も今日とて同輩である神機使い達が忙しそうに任務を受注し、出かけて行っている。
夕方ともなれば任務を終えた面々がやれ今日は映画を見るだの部屋で一杯やるだの楽し気な会話が聞こえてくるが、
流石に今の時間帯からはそんな声も聞こえない。
まぁ俺は正直今からでも一杯やりたいくらいだが。
独立遊軍と言えば聞こえはいいが要は何でも屋のお助け部隊だ。
お声がかかるまでは暇なのだ。
「………………………」
とはいえ今は勤務時間。いくら暇でも流石に飲み出す訳にはいかず、何ともなしにホールにいる面々を観察してみる。
あっちでは相変わらずカレルとシュンが手柄がどうのと言い争い。
あっちではカノンとジーナがクッキーを食べながらブリーフィングを行い。
ん、今から出ていくタツミといるのは新人か。生きて帰ってこれるといいんだが。
まぁタツミが付いているなら大丈夫か。
うん、我ながら中々に偉そうな事を言っている。
まぁ自覚はあるが止めはしない。これでもそこそこ古参なのだ。
「………ッ。」
おっと、任務の呼び出し通知か。思いに耽るのは楽しいが残念ながらお仕事の時間だ。
ゆっくりと立ち上がって神機保管庫へ向かう。
途中、何人か新人が談笑していたが俺が近づくと同時に素早く道を空けてくれた。
おいばかやめろ、その動きは誰かに見られたら誤解されるだろうが。
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一日が終わり。
任務を全て片付けて再びエントランスホールでまったりとする。
この時間帯ともなれば火急の事態が無い限りほぼ全ての部隊が帰還しており、
今朝方には聞こえてこなかった余暇の過ごし方などもちらほら耳に届いてくる。
お、今入ってきたのはタツミと一緒にいた新人か。無事生きて帰ってこれたか。
まぁタツミが付いていたし心配はしていなかったが。
うん、我ながら毎度毎度だが中々に偉そうな事を言っている。止めんがな。
これでも一人で任務をこなすほどの古参だし。
しかし…うん。古参と自称するからには。
ここは一つ、先輩として素直に初生還を祝福してやろう。
ゆっくりと立ち上がって自販機コーナーに向かう。
着いてみると今朝方任務に行く時にすれ違った新人がいた。
「あっ…!す、すいません!今退けます!」
だからばかやめろ、その言動は100%誤解されるだろうが。
退けどころか俺は言葉一つ発していないぞ。
「コラコラ。割り込みは駄目だよ君ぃ?いけないんだぁ、部隊長が新人いびりなんて。」
ほら見ろ、誤解された。最も、懸念していた方面ではなく、面倒くさい方面での絡まれ方だが。
「そんな事してたら君の神機メンテしてあげないんだからね。ほら、君も気にせず好きなの買いなよ。」
スパナ片手にからかい半分で言うのは楠リッカ。
極東支部でも指折りの技師で神機関連ではまず右に出るものはいない。
おかげで俺たち神機使いは彼女に頭が上がらない。
だからどさくさ紛れに割り込みされた事は許しておこう。忘れんがな。
エントランスに戻ると新人と一緒にタツミもいた。
しまった、こんな事なら一本余分に買っておくんだった。
まぁエスパーではないのでしょうがない。
割り切って先程買ったジュースをもって新人の所に向かう。
「…ッ!?あ、貴方は噂の…」
ちょっと待て、噂のってなんだ。
流石に新人にまで知れ渡るような実績は持っていないぞ。
気にはなったが聞くのは怖い。
うん、ここは一つ聞かなかったことにしよう。
気を取り直して手に持ったジュースを新人に投げ渡す。
生きて帰ってきただけあって中々良い反射神経だ。
本当はここで気の利いた祝いの言葉でも言おうと思ってたがタツミがいるなら別にいいだろう。
用も済んだし今日はもう部屋に帰るか。
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「あー、アイツはゴッドイーターになるまでに色々あってなぁ。ぶっちゃけ俺もまだアイツが喋っているところは見たことが無い。」
新人の質問に曖昧に答えながらもタツミは昔ユウマと共同で行ったミッションを思い出す。
アイツは終始無言だった。
言葉一つ発さず、表情一つ変えず、淡々と命令通りにアラガミを倒していくその姿。
暗い過去を持つ神機使いは総じてそのような性格の者が多い。
当初はコイツもそんな過去を持つ人間の一人か程度に考えていたが。
いやいやまさか、思いがけず漏れ聞いてしまった話の内容は想像以上に重く。
何ならアリサのに匹敵するレベルのトラウマである。
(悪い奴ではないんだがなぁ。流石にこれはおいそれとは話せんし…)
長く付き合ってみると決して付き合いづらい人間ではない。
無口無表情なだけで悪い人間ではないのだが、如何せん事情を知らない者にとってあれは中々に威圧感がある。
「ま、悪い人間ではないし、アイツの人柄についてはおいおいわかってくるさ。それよりも今日の無事の生還を祝おうぜ。」
まぁこればかりは時間が解決するしかない。
話題を切り上げ、差し入れのジュースを進めて乾杯をし…
新人が飲んだジュースを勢い良く吹き出した。
"初恋ジュース"と書かれた缶を落としながら。
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-その頃、自室のユウマ・マカヅチ-
…うん、やっぱこれ美味いな。