無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.何時も話そうとしたタイミングの間が悪い。
あぁ、やっぱりコイツもそうなったのか。
ブリーフィングを行う予定のホールの一角に歩いてくる人物を見て、紫煙を中空へふかしながら物思いにふける。
少し前にすれ違った時から何となくそんな気はしていたが。
まぁ一神機使いが支部長に単独で呼び出されるなんて、常識的に考えればまずありえないしな。
昇進や配置換えにしても普通は部隊の上官か教官クラスの人間を通して通知されるものだ。
優秀な人員が一人お偉いさんに呼び出される用など…まぁ推して知るべし。
ゴッドイーターなんて仕事は碌なもんじゃない。
どんなにやる気がある奴でも神機が適合しなければ絶対になれない。
代わりに適合してしまったのならどんなに嫌であっても徴兵のような形で就役させられてしまう。
んで特務部隊ってのはそんな不運な奴らの中でも特にツイてない奴らに回されるお役目の事だ。
秘匿性が高い任務と言うもっともらしい言葉で説明されるが…
要するに他に出来る奴がいないから何とかしてくれと貧乏くじを押し付けられているだけの話だ。
まぁ不運な奴らの中でもさらに選ばれた不幸者、と考えれば一周回ってツイてるのかもしれんがね。
…っと。イカンイカン、考え事をしてたらいつの間にかソーマも来てるじゃないか。
まだ残っている煙草を灰皿へ押し付け、気を取り直して端末を操作する。
「揃ったな。んじゃ、ブリーフィングを始めるとするか。」
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接触禁忌種。
その危険性から一般の神機使いは接触を禁じられているという危険な存在だ。
当然、戦闘などもっての外なのだから通常の討伐ミッションなど出せる訳もない。
つまりは特務部隊の出番って訳だ。
今回の討伐対象は"スサノオ"と呼ばれる、第一種接触禁忌種に分類されるアラガミ。
選ばれた他のメンバーはリンドウとソーマ。
小隊としては一人少ないがそこは技量と経験、作戦でカバーしろとのお達しだ。
「そういやお前とミッションに行くのは初めてだったな。」
話を振られて思い返すと確かに一緒になった記憶が無い。
同期と言うには微妙に時期がずれているからか、新人ミッションで一緒になる事もなかったな。
ソーマもだよな?とリンドウが話を振るが、こちらもフンと何時も通りそっけない。
そういえばコイツはコイツで俺より早くからの神機使いだったような気がする。
「お前ら何か言ってくれよ、俺が嫌われ者みたいだろ…まぁいい、とりあえずブリーフィングを始める。」
いや、今のは話し相手を変えるのが早いよ。
無視じゃなくて単に相槌を打ちそびれただけだよ。
………
接触禁忌種といえど今回は別に新種のアラガミと戦うわけではない。
少ないながらもある程度の交戦記録が残っており、おおよその戦闘パターンも事前に知る事が出来ている。
だがそれだけで討伐できるほど接触禁忌種というのは甘くない。
そこで戦術や作戦が重要となってくるのだが、如何せん腕利きとはいえ急造チームと言う事には変わりない。
結果取れるものと言えば基本レベルの簡単なものになってくるのだが。
今回の作戦の基本は概ね二つ。
リンドウとソーマが正面から、俺は背後からアラガミを攻め立てる。
前後が入れ替わった場合はリンドウが俺のカバーに来る。
要するにただの挟み撃ちだ。
ちなみに俺がやられた場合でも挟み撃ちの形は取り続けるとの。
俺としては自分がやられてしまった後の事までは流石に面倒見切れんが。
まぁこの二人なら十分何とか出来るだろう。
…何だか特務兵になってから命の危険を実感するような事が増えてる気がするな。
まぁいいさ、文句を言っても始まらない。
今回は古参の神機使いが三人もいるんだ。
ちょちょいのちょいと任務をこなしてくるとしますか。
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「………………………」
話が違うぞリンドウ君。挟み撃ちだって言ったじゃないか。
リンドウに言っても詮無い話ではあるのだが。
アラガミの前にいるのは神機使い三人。
ミッション開始からしばらく経つものの、未だに挟み撃ちには至れていない。
原因は単純明快、コイツが思ったより手強いのだ。
回り込もうとする度にそうはさせまいと距離を取られるし、深入りせずに三人全員が正面に入るよう軸合わせしてくる。
うむ、コイツ恐らく作戦を読んでるな?
アラガミに知性は無いという話だが、あくまで今までの通説がそうなのであって、そういうアラガミが出てきても不思議じゃない。
さて、よろしくない状況だがどうしよう。
少なくともこのまま大型アラガミと正面から殴り合うほど、俺は酔狂でもバケモノめいた体力もしちゃいない。
パッと思いつくのは誰かが囮になっている間に残ったどちらかが回り込むという感じか。
一度回り込んでさえしまえば、あの距離を置く動きの対策も無くはない。
となると誰が囮になるべきか。
リンドウは若干位置が悪いので俺かソーマの二択だが。
「…おい。」
前にいるソーマが振り返って話しかけてくる。
どうやら同じ結論に至ったようだ。
何だ、それなら話は早い。
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「………………………」
ここは極東支部のエントランスホール。
接触禁忌種討伐の一報が漏れることもなく、任務を終えた神機使い達がいつもと変わらない休息の時を過ごしている。
あの後めちゃくちゃソーマに文句を言われた。
「馬鹿かお前は!?」って突っ込んだ瞬間にも罵倒された。
いや、普通あの流れで他人を囮にはせんだろう?
馬鹿かお前はこっちのセリフだ。
仲良く同時に突っ込んで、そのまま正面で大暴れってどこの世界の高等戦術だよ。
リンドウどころかアラガミも心なしか呆れてたような気がしたぞ。
おまけに戦闘中に怒鳴るものだから途中で良いのを貰いそうになってたし。
ほれ、助けてやったのに礼はどうした。余計な事するなって?
誉め言葉として受け取っておこう。
ちなみに背後に回ったのはリンドウだった。
挟撃してアラガミを討伐した後、「お前が悪いわな」と苦笑いながら断言された。
確かに最初の作戦では背後に回るのは俺の役割だったが。
文句はあったが正論を言われてしまったので何とも言えず引き下がる。
「まぁまぁ、そう不満そうな顔するなよ。せっかくのビールが不味くなるぜ?」
既に始めてるリンドウに言われて我に返る。
指指す先にはキンキンに冷えた水滴の滴るビール。
ふと思ったが最近飲食物を差し入れられる事が多いな?
まぁ美味しく食べられる物なら遠慮なく貰うが。
「気に入ってもらえて何よりだ。まぁなんだ…ソーマの奴もあれで結構、仲間が傷付くってのは好きじゃない人間なんでね。」
飲む手を止めて話を聞く。
どうやら少しばかり真面目な話のようだ。
「あれもお前が傷付くよりはって考えた結果なのかもしれないんでね。アイツの所属部隊の隊長として、そこんとこ汲み取ってくれると助かる。」
言われるまでもない…と思ったが。
そう言えば影で死神とか呼んでいる奴がいたか。そりゃいくらソーマでも多少は気にするか。
まぁ俺は気にしないがな。死神の姿知ってるし。
そうさな、例えば…
-俺の両親喰ったやつとか-
…おっと、少し酔いが回ったか。
イッツ・ア・ブラックジョーク。しかし寒すぎて笑え、ない。
「お?もういいのか?俺のオゴリなんだし遠慮しなくていいんだぜ?」
そう言われると名残惜しいが酒で失敗する方が嫌なんでね。
ここらでお暇させてもらおう。
………
「…酒でも入ればガードが緩むと思ったんだがなぁ。」
さっき見たアイツの遠くを思う目。
相変わらず言葉は発しなかったが、少なくともあの表情はここにきて初めて見た表情だ。
-彼は人との接点を求め始めたのだ。-
支部長の言葉に乗るのは癪ではあるが、それ自体を否定する気は全くない。
むしろこちらから協力を申し出てもいいくらいだ。
しかし前途は多難である。
ブリーフィングどころかミッション中も喋らないし、ソーマの罵倒にも表情一つ変えやしない。
鉄仮面ここに極まれりである。
恐らく素面のままで言葉を待っても埒があかない。
幸いと言うか酒はイケる口のようだし先程の様子を見るに僅かではあるが効果はありそうだ。
気のせいかもしれないが、さっき何かを口走るかのような動きも見えた。
今後は"特務仲間"という建前を生かして飲みに誘ってみるのもいいかもしれない。
「俺もつくづくお人よしだな。アイツといいソーマといい、どうしてこうも言葉が足りない奴ばかりなのか…」
ま、いいさ。支部長も言ってたが、こういうのは焦らずじっくり時間をかけてだ。
とりあえず配給のビールを増やしてもらうよう、嘆願書でも出しておくか。
Q.実は酒癖悪い?
A.自覚してるので自制が出来る。