無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.今は平気。
Q2.ところどころ溢れてない?
A2.オーバーフローしてるから大丈夫。
溢れる事がある意味リミッターになってるようですので安心ですね。
※溢れないようにするのが正しいリミッターだとか指摘してはいけません。
-Side_レン(?)-
「…そっか。それじゃあやっぱり彼女には、いざそうなった時の決断は難しそうだね。」
深夜の倉庫。
人気のない最奥に積まれた荷物の傍らで密談を続ける二人の姿。
盗難監視のために備え付けられた監視カメラがその光景を捉えるものの。
電子の通路を経由して映し出されたモニターには、いつもと変わらぬ静寂が映し出されている。
「良い人ではあるんだけどね。リンドウが気にかけていただけの事はあるよ。」
「良い人かぁ。僕の記憶の中のあの人は女の子には似つかわしくないくらいぶっきらぼうだったような気がするんだけど…」
「人は変わるものさ。それに彼ほどじゃないだろ?」
「ははっ、それは確かに。」
明かり一つ無い暗闇の中。
赤外線にすら反応しない二つの影が会話を続ける。
「そっちの方はどう?頼みの綱には出来そうかい?」
「うん、こっちの方は問題無いと思う。それに僕の方も面白い物を手に入れる事が出来たし。」
暗闇に浮かぶ燈色の眼。
その中央に穴のように浮かぶ黒点を互いに向き合わせたまま、尚も会話は続いていく。
「…それが彼の心を覗いた時に得た答え、と言うやつかい?」
「そうさ。今はまだ出来る事は少ないけど…そう遠くない内に、僕達がリンドウを苦しみから救うための切り札になると確信してる。」
音も無く取り出されたのは片刃状に形どられた刀剣。
本来は持ち出しも含めて厳重に管理されている神機と呼ばれている代物。
それが誰の許可を得る事も無いまま。
このような人気の無い場所にひっそりと持ち出されていて。
「切り札、か…確かに強力な力である事は認めるけど、正直僕は気が乗らないな。」
「君の気持もわかるんだけどね。でも手段を選り好みしていられるほど、今の僕達に大層な力は無い。」
苦笑と共にそう答えながら、一方の影はさらに続ける。
「…君だって憶えているだろう?リンドウが腕輪と共に僕達を失った、
その問いに対する答えは紡がれなかったものの。
沈黙が続きを促していると判断した影は、淡々とした口調で続きを話す。
「無力だった。リンドウの手を離れただけでアラガミ一匹喰らう事が出来ず。それどころかあんな腕輪一つ無くなったくらいで、途端にリンドウの事を喰らう事を止めれなくて。」
--悔しかった。
--情けなかった。
少し前までの自分であれば。
理解はおろか考えすらもしていなかったであろう思考の数々が湧き続ける。
それは彼女や彼に触れた事でようやく自覚出来たもの。
けれど目の前の存在が語る姿を見るに、それは知るべきではなかったものだったのではと、迷いを抱いてしまう程に鮮やかな色を帯びていて。
「もしもあの時、僕に力さえあれば。アラガミを、
言葉を遮るように肩を掴む。
途端脳裏に溢れるのは視界を覆い尽くす程の赤と黒。
耳障りな甲高い破砕音。
不愉快に飛び散る水の音。
体感にして極めて僅か。時間にしてもほんの一瞬の出来事ではあったが。
それは人ならざる身である自分ですら、胃の腑から不快な物がこみ上げてくるのを感じるほどで。
「…ゴメン、ちょっと気が高ぶってたみたいだ。」
「気にしないで。それよりも気分は大丈夫かい?」
「それは僕の台詞だよ。あの情景、慣れてきた僕でもキツイのに…君、最近行動がリーダーさんみたいになってきてるよ。」
「心外だね…と言いたいけど。何だろう、ちょっと嬉しいと感じるのは変かな。」
謝罪の言葉を遮り、手を離して相手の顔色を窺いながら心配する一方の影にやや皮肉気味にそれを指摘してみたものの。
苦笑交じりに困惑する相手の表情に、もう片方の影は呆れ気味に息を吐いた後、仕切り直すように話を戻していく。
「…まぁとにかく。僕はリンドウを救うための手段は選ぶつもりはない。どんな物だって用意するし、どんな人だって利用する。そして--」
どんな結末だって、僕は受け入れる。
だから--
「もう、博士も人使いが荒いなぁ。えーと、確かあの辺りに…あ、あったあった。」
不意に開いた倉庫の扉。
開くと同時に室内の明かりが全て灯され。
キョロキョロと二三度室内を見渡した後、目当ての物を見つけたリッカが駆け寄り、それを手にして倉庫を後にする。
再び閉じられた倉庫の扉。
無人となった室内は再び元の暗闇と静寂が取り戻され。
二つの影は、もうそこにはいなかった。
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-Side_ルミナ&榊博士その1-
ここは極東支部の支部長室。
普段拠点としているラボラトリとは別に、執務全般をこなす際に利用している榊博士の第二の拠点。
「結論から言おう。彼は確かに、ある人物から指示を受けて動いていると思われる。」
大仰な机の向こうに陣取ったまま神妙な面持ちで告げる榊博士に思わず言葉を挟みそうになるものの。
寸での所でそれを飲み込み、黙って続きの言葉を促していく。
「そして同時に、彼に新たな指令が下る可能性は無い。そういう意味では、今の彼は完全に独断専行で動いていると言えなくもないね。」
うん?
指示している人間がいるのに新たな指令が下る事は無い?
一体どういう事だろう。
指示している人間がいるのであれば、少なくとも状況が変われば新しい指令が来るのでは?
矛盾する報告に疑問符を浮かべている事に気付かれたのか。
糸のように細い目を更に窄ませながら榊博士が疑問の答えを紡いでいく。
「そんな難しい話じゃない。既に彼に指示していた人間はこの世にいないと言うだけの事…何を隠そう、君もよく知っているあの人物さ。」
極東支部前支部長、ヨハネス・フォン・シックザール。
かつて選ばれた人類だけを次世代へ繋ぐ『アーク計画』を立案し。
志半ばで私達とシオにその計画を打ち砕かれた人物。
「ヨハンこそが、今尚彼が忠実に従い続ける指令を出した人物。…
………
「前半は君に取って気分の良い話ではないだろうし、私も詳しく話すつもりは無いので要点だけ語ろう。ヨハンはかつて、己が計画の邪魔になるリンドウ君を罠に嵌め。その後始末を彼に命じた。」
任務を改竄し、接触禁忌種と呼ばれるアラガミをけしかけ。
手駒の人間を使ってアリサ君を洗脳し、リンドウ君を撃つよう差し向けた。
「その上でヨハンはリンドウ君が生き延びていた時のための保険として彼を差し向けた。通常であれば生存は絶望的ではあるものの、万が一生き延びていたとしてもアラガミ化の兆候が少しでも見られれば介錯の名目で葬りさる事が出来る。」
ましてや彼はアラガミに両親を殺されている人間だ。
いざその場面に出くわしたとすれば、例え旧知の人間であっても躊躇いも容赦もする事は無いだろう。
「そこまではヨハンの筋書き通りだったんだろうけど…そのダメ押しともいうべき保険を掛けた事により、逆にヨハンは彼に自身の思惑を勘付かれてしまった。」
どこでどのように彼が勘付いたのかは正直わからない。
指令を下す際にしたって、まさか馬鹿正直に本当の目的を話していたとは思えない。
だがサクヤ君がそれに気付いたように。
彼もまた当時の状況に不信感を持った人間だったんだろう。
「その根拠と言えるのは彼からの報告書だ。一見ベテランの経験に基づいた報告に見えるものの、その後皆に公布された情報と比較する事で、彼がこの報告書を提出した本当の狙いが浮き出てくる。」
彼が提案したのはあくまで一般隊員による捜索であり、完全な打ち切りに至れるだけの情報は記載されていない。
特務案件として処理するにしても、何も探索から何まで彼に一任する必要は無いし、何より神機使い一人に任せるにはあまりに役割が集中し過ぎている。
「神機使いとて人間だ。得手不得手もあれば当然ミスだって普通にする。そしてそのような懸念に対する考慮はミッションを発注する側である我々が常日頃から目を光らせている事項でもある。」
やや乱暴な物言いになるが、神機使いと言うのは貴重な存在なんだ。
無茶な任務によって無為に消耗させるような真似はしない。
ましてや特務のように機密性が高く、失敗時のリスクが容認出来ないような案件であれば猶更だ。
「だが結果としてそんな当たり前の懸念が考慮される事は無かった。リンドウ君の捜索は全面的に打ち切られ、一人の神機使いにその後の全権を委ねられることになった。…何故だろうね?」
「それは…」
たった一人の人間に全てを任せる理由。
組織としての道理、すなわち"効率"を無視してでもそれを押し通した理由は。
「信用できる人間を使って、秘密裏に事を済ませようとした…?」
聞かせるでも無く漏れ出た言葉に。
博士が細い目を向けながら満足そうに頷き、続きを話す。
「ヨハンにしては本当に珍しいミスだ。旧知の友として擁護するなら、長らく望み続けた悲願への道筋が見えて気が緩んだのかもしれない。」
言ってしまえばそれだけの話。
たった、たったそれだけの僅かな先走りを見せたばかりに--
「--猟犬に不信の臭いを嗅ぎ付けられてしまったのさ。」
………
「…さて、ここからが本題だ。黒幕の正体はヨハン…ヨハネス・フォン・シックザール前支部長だが…君も知っての通り彼は既に故人。故に状況が変わったところで新しい指令が彼に下されることは無い。」
頭の中でここまでの話を整理しつつ。
改めて断言する榊博士の言葉に私も頷き、肯定の意志を表示する。
「彼に下された指令はいわゆる介錯と呼ばれるもの。アラガミ化した神機使いが被害をもたらす前に、部隊長クラスの人間が秘密裏に討伐するという重い責務を伴う任務だ。」
それは以前アーカイブで読んだ、神機使いのアラガミ化に関する記事に付随して記載されていた内容。
万が一部隊の人間がオラクル細胞に蝕まれてアラガミ化した場合。
所属する部隊の人間がその命を絶つという極めて過酷な義務の事。
…思い返してみれば。
リンドウさんがいなくなった後の第一部隊は見るも無残な状態で。
サクヤさんは憔悴し、アリサは意識不明。
ソーマは苛立ちで荒れ狂い、コウタですらどことなく空元気を振り絞っているような有様。
かくいう私も言いようのない焦りと不安からあの人に八つ当たりまでしてしまって。
もしあの時リッカさんが窘めてくれなかったら一体どうなっていた事か。
おそらくはそういう周りの状況も支部長の都合の良いように働いたのでしょう。
今の第一部隊の人間に介錯を任せられるような信頼に足る人間がいるのかと。
「…あれ?でもリンドウさんが生きているというならその任務に従う必要も無いのでは?」
口に出たのは素朴な疑問。
アラガミ化した神機使いを討伐するのが責務というなら。
アラガミ化していなければそんな任務を果たす必要は無いのでは?
「うむ、その疑問に答える前に…申し訳ないがちょっとそこのソファーに座ってくれるかな?」
「ソファーにですか?別に構いませんが…急に何故?」
「何、ちょっとした危機管理と言うやつさ。出来ればなるべく端っこの方に…そうそう、そのくらいで大丈夫だ。」
促されるまま椅子の端に腰掛ける私。
その姿を確認した後で自身が座っている椅子を引き、こちらから可能な限り身体を遠ざける榊博士。
「このくらい距離が空けば十分か…それでは君の疑問に答えよう。簡単な話だ、彼は
博士の叫びに我に返る。
先程まで座っていた位置は遥か遠く。
気付けばいつの間にか博士の正面にある机に手をかけていて。
「…詳しく説明してください。」
「もちろんだとも。だからとりあえず、また元の場所に座り直してくれるかな?」
なるほど。
離れた場所に座れと言ったのはこの事を予見していたからなんですね。
やや狼狽気味ながらも落ち着いた様子で着席を促され。
大人しくそれに従って腰を下ろし、突沸した感情を落ち着けるように軽く深呼吸を繰り返す。
「しかし意外というかなんというか…君もソーマも普段は冷静なのに、この手の話に対しては思いの外激情家だね。」
失礼な、あんな事いきなり言われたら誰だって興奮するに決まってるじゃないですか。
それに私はソーマに比べたらまだ大人しい方です。
何しろか弱い女の子ですから。
暴れて物を壊したりもしませんし。
まぁ今回は既にやらかしてしまった後なので。
言い訳せず甘んじて受け入れておきましょう。
ルーキーちゃんも存外感情的な人。
それが表に出にくい人でもありますが。
その感情が限界まで発露したのがこの先訪れるあのシーン。
長くなったので区切ります。