無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.無理。
このSSでもルーキーちゃんがやってくれる予定。
-Side_ルミナ&榊博士その2-
「まず十中八九、彼はリンドウ君がアラガミ化していると見ているだろう。これはリンドウ君がいなくなった直後と今回の捜索における彼の任務受注率からも明らかだ。」
机の上に組んだ手に顔を乗せ、先程に比べると随分警戒を解いた様子で榊博士が話始める。
「前回のそれにおいては、彼は非常に多岐に渡る関わりを積極的に行っていた。単純な捜索任務以外にも、討伐や回収などと言った本来管轄ではない任務においてもリンドウ君の捜索が絡むよう尽力していた。…キミやサクヤ君、それに第一部隊の面々も、彼には随分と便宜を図ってもらった筈だね。」
やや意地悪気な口調でそう告げる博士に思わずぐっと言葉が飲み込まれる。
確かにリッカさんにも言われた通り、あの人には随分と迷惑をかけてしまいましたけど。
「彼とリンドウ君の交友関係についても決して悪いようには見えなかった。彼自身もまた、他の人たちと同様にリンドウ君に戻ってきて欲しいという想いは抱いていたのだと私は思う。」
-ところが、だ。-
「その積極性が災いしたのか。調査を進める中でリンドウ君がアラガミ化している、もしくはその可能性が非常に高いという情報を手に入れてしまった。それも専門家である私への相談すら必要としないレベルで精度の高い情報を、ね。」
言いながら博士が取り出したのは黒い羽。
リンドウさんが生きているという証拠であるとともに、アラガミ化の進行状況を如実に表す物言わぬ証拠品。
「君の言葉をそのまま受け取るなら、彼はかなり以前からリンドウ君の痕跡を集めていたという事になる。もしそれがヨハンが健在だった頃からの話だったとすれば…リンドウ君の生存とアラガミ化の可能性、その両方をヨハンから伝え聞いていた可能性が非常に高い。」
-その話を聞いた時、彼は一体どんな考えを巡らせていたのだろうか。-
「言うまでも無く、現状アラガミ化してしまった神機使いを元に戻す術は無く。さらに神機使いがアラガミ化した場合、その初期段階では既知のアラガミとは似ても似つかない形態となる事が多い。」
人間一人が対象ならばいざ知らず。
極東支部総出での捜索が続いている状況下では新種のアラガミなど容易く発見されてしまう。
「そしてそれがリンドウ君であるという確証など取れてしまった日にはどうなるか…今の君なら、多くを語らずとも理解できるのではないかな。」
ゴクリ、と。
その言葉が指し示す最悪の仮定に思わず唾を飲み込み黙ってしまう。
アラガミ化した神機使いは決してその存在を許されない。
そのような事態が発生した場合、始末を付けるのは他ならぬ同じ部隊の人間。
「しかし、彼はそれを良しとしなかった。それまでに得たリンドウ君に関する情報に加えて当時の第一部隊、そしてこのアナグラの様相を総合的に鑑みた結果…"自身の他にリンドウ君の介錯にふさわしい人物は無し"の結論を下したという訳だ。」
その後の彼の動きは非常にわかりやすい。
捜索系のミッションの受注率は著しく下がり。
代わるように討伐に関する任務の件数が跳ね上がった。
本来彼の部隊の役割は遊撃であり。
第一部隊のように積極的な攻勢に出るような立ち位置ではないにも関わらず。
「またその際においても
「それって確かリンドウさんの捜索再開が告知されるより前じゃ…」
思わず口に出た言葉だが。
待ってましたとばかりに大きく頷いて見せる榊博士。
「捜索が再開される以前は普通に誰かとミッションに出向いていた彼が突然単独行動を取るようになり。受注するのはどれもこれもが討伐任務で出撃時は毎回完全装備で現場に赴いている。」
「それってまさか…」
「そう。恐らく彼は、もしリンドウ君とおぼしきアラガミと遭遇した場合、誰に報告する事も無く秘密裏に事を済ませようとしている。ヨハンの意図からは明らかに外れはしたものの、結果的にヨハンから下された指令を忠実に遂行しようとしているのさ。」
戦場で苦楽を共にした戦友。
その帰りを待つものは大勢いるものの、その姿は既に己が両親を喰らった仇と同じに成り果てた。
人としての死を与えるのは仲間の役目。
それは生涯に渡って心に影を落とす瑕となるであろうが、"適任者無し"で片付ける事は決して許されない重大な役目。
「でもっ!だからってあの人がそれを背負わなければならない必要なんて「それじゃあ、君が代わりに背負うかい?」
感情で熱の籠る私の叫びを遮り。
突如として凍てつくような視線を向ける榊博士から言葉が被せられる。
「もしリンドウ君がアラガミ化していたとした場合、私は極東支部を統括する人間としてこう命じなければならない。"アラガミ化したリンドウ君を介錯しろ"と。」
「ッ…!」
「これは万が一などという確率の低い話ではない。当人が望む望まないに関わらず、その際は誰かが手を下さなくてはならない。」
それを理解しているからこそ。
自身こそが適任であると、誰に相談する事も無く彼は判断したのだろう。
心は当の昔に壊れたまま。
未だ言葉を失ったままでいる以上、今更傷が増えたところで構うまいと。
「それに待ったをかけるというのであれば、少なくとも代案は用意すべきだ。感情だけを理由にただ否定する事は彼の覚悟に対する侮辱に他ならない。その上で今一度、君に問いかけるとしよう。」
万が一。
いや、現状ではほぼ確定的になりかけていると言っても過言ではないが。
「リンドウ君がアラガミ化していた場合。君に…彼を殺す事は出来るかい?」
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目を閉じて静かに思いを馳せる。
浮かんでくるのはまだ自分が神機使いになって間もない頃。
-おー、これまた随分と若いのが入ってきたなぁ。俺もまだまだ若いつもりだったが、流石に世代差を感じちまうなぁ。-
-あー、もう集合時間だったか?悪い悪い、これ一本吸い終わったらすぐ向かうわ。-
今だからこそ正直に言いますと。
第一印象は決して好感触とは言いづらいものでした。
軽薄な物言いにだらしない時間感覚。
酒好きな上に愛煙家で、ミッションで一緒になった時は何時も煙草の臭いが付き纏っていて。
-命令は三つ。"死ぬな"、"死にそうになったら逃げろ"、"そんで隠れろ"、"運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ!"…あ、これじゃ四つか。-
初めて受けた命令してもこの通り。
レンが言うように数すらあっていない程の適当ぶり。
-お前さん暗いなぁ。そんなんじゃせっかくの可愛い顔が台無しだぞ?-
-ほれ、これやるよ。配給の余り物で悪いが、生憎甘いものじゃ酒のツマミにならなくてなぁ。-
家族でもないのに、窘めるように頭を撫で回し。
家族でもないのに、あやすようにお菓子を施し。
-美味いか?そいつは良かった。俺もやった甲斐があるってもの…おいおい、賄賂渡したんだから煙草くらい大目に見てくれよ。-
-サクヤはともかく、姉上に見つかると煩いからな。…羨ましい?ハハッ、何だお前さんもそんな表情出来るんじゃないか。-
-…全部忘れろと言うつもりはねぇさ。ただお前さん
行く道を誤らないよう指し示してくれたあの人は。
いつしか私にとってはいなくなった家族のように大切な存在となっていた。
--だからこそ、気に入らない。
そんな大切な存在となったあの人の業を。
私達に相談の一つも無く、全て自分が背負って片付けようとしているあの人が。
頼られていないことは知っていた。
信用されていない事もわかっていた。
でも、いくら何でもこれは無いだろう。
頼らなくてもいい。
信用しなくてもいい。
それでも、ただの一言も告げる必要がない。
その程度の存在とまで見られているのか。
…いいでしょう、貴方がそれほどの態度で臨むというなら。
「…わかりました。その覚悟が、あの人への意見に必要だというのなら。」
時間にして一、二分程度。
ようやく紡がれた言葉に対し、博士は変わらない冷やかさを持って再度確認する。
「…非公式とはいえ、これは極東支部長代理としての確認だ。後悔も取り下げも認めない。それでもなお、その意思に変わりはないかい?」
突き刺すような視線。
先程と同じ冷やかさを帯びたまま、値踏みするかのように見つめる榊博士にはっきりと言葉を返す。
「変わりません。これがあの人とリンドウさんへ見せられる、私の最大の覚悟です。」
あの時レンに言われた事に対する覚悟。
認められず。わかりたくなく。
感情的に否定してしまったあの言葉。
それが、この先に進むために必要なものであるというのなら。
-パンッ!-
突如として冷やかな視線を向けていた表情がニヤリと変わり。
打ち付けた両手が奏でる軽い音が室内に木霊する。
「よし!話はまとまった。ではここからは、
「…はい?」
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「つまりだ、彼はああ見えて物事の道理を非常に重んじる性格をしている。感情論だけで立ち向かった所でヨハンの時のように噛付かれるのが関の山。故にまず初めに彼と同じ土俵に立つ所から始めなければならなかったんだ。」
怪訝そうな視線を向ける私を気にすることなく説明を続ける榊博士。
真面目な雰囲気こそは変わらないものの、その雰囲気は先程とは打って変わったように希望を持った物言いで。
「覚悟はあるかってそういう意味で聞いたんですか…というか感情論は通じないにしろ、榊博士があの人に命令を出せばそれで済む話じゃないんですか?」
代理とはいえ博士は極東支部の現最高責任者ですよね?
道理を重んじると言うのなら、上役からの命令なら逆らわずに従うのでは?
訝し気な感情もそこそこに、幾分落ち着いた気持ちで疑問を口にしたものの。
博士から返ってきたのは残念そうにそれを否定する言葉。
「いや、彼は私が命令を出したところで行動を止めない可能性が非常に高い。リンドウ君のアラガミ化が悲観的なもので無い以上、私のその命令には妥当性が欠ける。何より彼にはヨハン…前支部長から直々に言い渡された討伐任務がある。」
個人的な感情で説得力に欠ける命令と情報に裏打ちされた確かな根拠を持つ命令。
彼ほどのベテラン神機使いともなれば、どちらに従う可能性が高いかなど火を見るより明らかだ。
「うーん、あの人の動きを封じられればいいんですよね?それじゃあもし従わなかった時は命令違反で謹慎処分にするとかは…」
「君、存外えげつない事を思いつくね。とりあえず強硬手段からは一旦離れようか。」
しれっと公権力を行使してはどうかと提案したところ。
若干引き気味でそう指摘されてしまった。
何ですか、さっきまで覚悟云々とか言っていたのに。
どうして急に人の事を過激派みたいな風に言うんですか。
「彼もこの極東支部では貴重な戦力の一端だ。この話にしたって彼の独断専行を止めたいのが目的であり、この件から彼を除外したい訳じゃない。寧ろ可能ならこちら側に引き込むべき人材だ。」
「引き込む…それならやっぱり食べ物関係で釣るのが確実なんじゃないかと。」
「うん。君が彼について理解が深いのは知っているし、何なら私もその手は使った事があるんだが…今回ばかりはもう少し彼の覚悟を評価してあげてもいいんじゃないかな?」
もう、さっきから文句が多いですよ榊博士。
仕方ないじゃないですか。あの人本当に食べ物関係に弱いんですから。
そんなに言うなら博士は何か良い案が有ったりするんですか?
「彼はこの件に関して何かと秘密裏に事を進めようとしている節がある。まずはそこから対策を打つ事にしよう。差し当たりそうだね…
名案…と言うよりは悪知恵を閃いたと言わんばかりに怪しい笑みを浮かべる榊博士とは対照的に。
博士が口にした"例の作戦"の心当たりに思わず眉をしかめてしまった。
「例の作戦ってこの前コウタの提案で発注されたあの作戦ですよね。…正気ですか榊博士?」
「ハッハッハ、リーダー君も冗談が上手くなってきたね。科学者、それも"星の観測者"の肩書を持つ私に正気の有無を問うなんて。」
つまり正気で言ってる訳ではない、と。
単に面白がって言っている分、狂っているのより余計に性質が悪いですね。
「何、あれはあれで良いガス抜きにはなっていると思うよ。以前の捜索の時と比べれば、皆随分心に余裕があるように見えるからね。」
「それは否定しないですけど…」
「何よりあの作戦を承認したのは他ならぬツバキ君だ。現場指揮を監督する彼女が許可した以上、私からそれに水を差す必要は無いからね。」
嘘でしょうツバキさん。
いや、確かに正規のミッションである以上、ツバキさんの目は通してあると思いますけど。
ツバキさん程の真面目な人が本気であの作戦にゴーサインを出したんですか。
もしかしてコウタに上手い事騙されてるんじゃ…
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ここは極東支部の支部長室…の近くにある休憩コーナー。
思いがけず長引いてしまった榊博士とのやり取りを終え、自販機から購入した飲み物を口にし、一息いれる。
-先程話した件、何卒よろしく頼むよ。あぁ、言うまでも無いだろうが…くれぐれも彼に本当の目的について勘付かれないよう気を付けてくれたまえ。-
リンドウさんがいなくなった後の極東支部。
まだその傷跡が癒えたとは言えないながらも、ようやくかつての様相を取り戻し始めたアナグラ。
その中でたった一人。
既にこの世にいないかつての主の命に従い行動する一人の神機使い。
いや、正確には利用しているというのが正しいだろう。
命令の意図と己の目的は乖離しているものの、過程と結果が同じだというだけで。
有名無実の大義名分を理屈に据えて。
誰にそれを伝える事無く、たった一人で全てを片付けようとしている。
…気に入らない。
気に入らない。何ですかそれ。
百…いや、一万歩譲ってリンドウさんがアラガミ化しているとしても。
どうして何一つ伝えてくれないんですか。
言葉が喋れないというのは、それほどまでに何も伝えなくていい理由になるんですか。
言葉を紡げなくても。感情を表す事が出来なくても。
大体貴方、言う程感情を伝えられない訳じゃないでしょう。
この前だってリッカさんからかってレンチで殴られていたくせに。
感情の無い神機兵?
本当は出力スイッチを入れ忘れてるだけじゃないんですか?
もしそうだとしたら神機兵じゃなくてポンコツ兵って言いふらしてやりますからね。
「…お、リーダーじゃん。どうしたの?何か難しい顔してたけど」
不意にかけられた声に視線を向けると。
こちらに顔を向けながら自販機のジュースを購入するコウタ。
…と、もう一人。
「いえ、ちょっと考え事をしてただけ。それよりも珍しい組み合わせだね。」
動かした視線の先。
先程思考をよぎらせていた噂の人物が、いつも通りの鉄仮面で無言のまま青い目をこちらに向けている。
「へへっ、実はちょっとこの人に頼み事があってさ。先払いと言ったらアレだけど、聞いてもらう代わりにジュース奢ろうとしてたんだ。」
-あ、ちなみに何飲みます?まぁアンタならやっぱり初恋ジュース辺り…え、"飲むウナギゼリー"って何それ…しかも微妙に高っ!?-
あぁご愁傷様。
その人、人の奢りだと遠慮なく高い物買うんですよ。
他のラインナップに比べて三倍近い値段のする代物を買われて叫びを上げるコウタ。
一応清涼飲料水じゃなくて栄養ドリンクの部類らしいので、値段的には妥当らしいですけど。
「…まぁとにもかくにも、先払いには成功したんじゃないんですか?頼み事があるなら今の内に言質取っといた方が良いですよ。」
クピクピと手にした缶に残る物を飲み干しつつ、それとなく同じ部隊の同僚に促してみる。
一瞬目的を忘れていたかのように「あっ…」と呟きはしたものの、直ぐ様気を取り直して得体の知れない代物に口を付ける先輩にコウタが言葉を紡いでいく。
「…まぁそんな訳で、もうアンタしか頼れる人がいなくてさ。こうして飲み物も奢った訳だし、何とか一つ頼みますよ先輩。」
-第二次リンドウおびき寄せ作戦。-
-万が一リンドウさん
「ブホッ!?」
「うおっ!?いきなりどうしたリーダー!?」
ゴホゴホと顔中の気管から液体を逆流させてむせ返る私に心配そうにコウタが詰め寄りますが。
どうしたは正直こっちの台詞です。
「大丈夫です、ちょっと気管が液体で満たされただけですから…」
「いやそれちょっとどころの話じゃ無くね!?」
「大丈夫ですって。それよりもその、第二次リンドウおびき寄せ作戦と言うのは…」
何とか呼吸を整えて平静を装いつつ口にしたものの。
返ってきたのは待ってましたと言わんばかりに子供のような笑顔を浮かべる同僚の表情。
「よくぞ聞いてくれたリーダー。これは第一次作戦の失敗…つまり、その時に欠けていた物を補った完璧な作戦。即ち…」
未だ変わらぬ鉄仮面のあの人を背後に備えたまま。
妙に自陣ありげに続けるコウタの言葉を、私も無言のまま黙って拝聴し続けます。
「お金っ!」
「………………………」(←無言でfcの札束を取り出す。)
「お酒っ!」
「………………………」(←無言でビール缶を取り出す。)
「可愛い女の子っ!」
「………………………」(←コウタを見るが何もしない。)
「…を補った作戦を提案してみたんだけど。…正直、リーダー的にはどう思う?」
「馬鹿じゃないですか?何ですか"金、酒、女"って。」
「オブラート!もうちょっとオブラートに包んでっ!」
そうは言いますけど。
典型的な前時代の頭の悪い代表例じゃないですか。
もしかして女性の事馬鹿にしてます?
今度ノゾミちゃんにあったら言いつけてあげますからね。
そしてそれとは別に。
貴方、こんなトンチキな理由に全力で乗っかる人だったんですか?
ねぇ榊博士。
やっぱりこの人、トラウマ云々抜きにちょっと他の人よりおかしいですって。
第二次リンドウおびき寄せ大作戦、始まります。
バニーは出ません。天使も出ません。
と言うかコスプレはありません。
薄い本では無いので健全ですよ。
気付いたら普段の倍以上になったので区切ります。