無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.希少価値。
Q2.屈強?
A2.資産価値。
はいそこハルさん、お静かに。
極東支部第一部隊隊長、ルミナ・フォンブラウン。
所謂"新型"と称される第二世代神機の適合者にして、入隊から僅か数か月と経たずして激戦区と称される極東支部の一部隊長に抜擢されたほどの優秀な人物。
入隊当初こそ新人特有の無謀な面も見え隠れしていたものの。
出撃を重ねるごとにその判断力が洗練されていき、今では一見無茶苦茶とも思える行動でも結果的には最善の行動だったと評される事が殆ど。
加えて元々秀でていた戦闘技術においては、今では並みの神機使いとは一線を画していると言える。
小型種どころか中型種程度ではもはや相手にならず。
大型種が複数同時に襲い掛かってようやく互角なのではと言われるほど。
確かこの前、コンゴウ四匹相手取ってほぼ無傷のまま討伐してきたとか話に聞いたな。
まぁ俺も出来ないのかと言われたらそんな事無いけど。
これでも立派な古参兵、一匹一匹丁寧に不意打ちで片付けていけば余裕だし。
正面から四匹同時?
ふざけんな殺す気か。…え、ルーキーはそのやり方で完封した?
ええい、極東の新型神機使いは化け物か。
擬態も実力と言う言葉は知ってはいるが。
こんな年端もいかない少女の正体が接触禁忌種並みの怪物とか何処の誰がわかるというのだ。
感情表現こそやや乏しい面はあるものの。
お菓子が好きで。スキンシップが大好きで。
年上相手に食べ物をねだる程度にはお子様で。
時に抑えきれない感情に困惑する程度には年相応。
そんな優秀かつ将来有望な我らが極東支部第一部隊のリーダー様だが…
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「………………………」
現在、帰還途中のヘリ内で絶賛お冠中である。
俺以外元々口数の少ない人間が集まっているとはいえ、こう空気が重くては雑談も何もあったものではない。
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「…何か言う事は無いんですか?」
乏しい表情に珍しく宿る不満と怒り。
こっちを見ながら言われた気がしたが。
名指しされた訳では無いので特に答えは返さない。
見ざる、言わざる、聞かざると言うやつだ。
別に同時討伐されたというコンゴウの話とかけている訳ではない。
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「…まさかとは思いますけど。そんなわかりやすい状態でいるのに誤魔化せるとか思ってたりしないですよね?」
誤魔化す?何を?
俺には皆目見当がつかないな。
ブレンダン君は何か知ってるかい?
横目で隣に座る彼の様子を伺ってみる。
目を瞑ったまま微動だにせずその場に硬直している。
そう言えば最近"座禅"とやらにハマっていると言ってたな。
アレは専用の座り方があったような気がするが、椅子に座ったままのやり方もあるんだな。
…って騙される訳ないだろ。
これ絶対面倒事に巻き込まれたく無いから知らんぷりしてるだけだろ。
見損なったぞブレンダン。
今度カノンと一緒のミッションに強制参加させてやるからな。
次に対角線上に陣取るソーマの様子を…
ってこら、何を我関せずと言わんばかりにヘッドホンを付けてやがる。
これ見よがしにシャカシャカ音漏れまでさせやがって。
お前普段そんな激しい曲調の音楽聞いたりしてないだろうが。
覚悟しろよ。
返ったらアルバム全部電波ソングに変えといてやる。
「………………………」
「…………(ジーッ)」
ふと視線を前に戻せば。
いつの間にかルーキーが目の前まで顔を近付けてきている。
というか近い、近いよ。
女の子に寄られるのは悪い気はしないが。
シャイだから嬉しいより恥ずかしいという気持ちの方が先に立つ。
とりあえず照れ隠しに顔を背けてみたものの。
数秒としない内に両手で顔を掴まれて正面に向き直させられてしまった。
「………………………」
「…………(ジーッ)」
…いや何か言えよ。
こちとらエスパーじゃないんだぞ。
意思伝達には目を見て話すというのは効果的だと聞いた事はあるが。
言葉にもせずに思いが伝わる訳ないだろう。
あ、難しい言い回しは避けてくれよ。
生憎孤児院上がりで頭はそれほど良くはないんだ。
かといってわかり易すぎても良くない。
知らんぷりする時都合が悪いからな。
「………………………」
「…………(ジーッ)」
「………………………」
「…眼、何でそんなに
ただの充血です。
いや、嘘偽りなく本当にそうなんだ。
ちょっとお薬飲みはしたけれど。
言ったらぶっ飛ばされそうな雰囲気で言えないな。
とりあえず目薬だけでも差しとくか。
……………………………………………………………………………………………
--遡る事少し前。
辺りを包み込む煙の結界。
数センチ先の視界すら確保できない状況ながら、そのアラガミは迷うことなく一方向へ突進を仕掛けていく。
狙うは不意打ちしてきた神機使い。
斬撃と共に煙幕を張って姿を眩ましてきたものの、アラガミの嗅覚にははっきりとその臭いが煙の向こうに形作られていて。
裂かれた脇腹は致命傷ではないものの。
栄養補給無しでは確実に今後の活動に支障をきたす程には重傷で。
であるからこそ。
雷球などで貴重な栄養源を焦耗させたりはしない。
頭から骨の欠片、血の一滴零すことなく丸かじり。
全てを喰らい尽くせるアラガミだからこそ取りえる最も効率の良い捕喰方法。
-ゾブリッ。-
耳障りな不快な音。
それは人の身体が潰れた音では無く、オラクル細胞で構成された肉が断ち切られた時に奏でる音。
示し合わせたようなタイミングで振り下ろされた神機の刃が、正確に駆け抜けるアラガミの首を通り抜ける。
首筋から鮮血のようにオラクル細胞を吹き出しながら。
自身の勢いを殺せずに壁に激突したところで皮一枚繋がっていた頭部が千切れ飛ぶ。
うむ、流石は腐っても大型種。
一撃で首を刎ね飛ばすとまではいかなかったか。
まぁ極東では一山いくらのモブアラガミとはいえ。
他所の支部なら総出で討伐に挑むくらいの相手だからな。
一撃で仕留めようという発想自体がおかしいというものか。
両親が見たらどう思うだろうな。
見るための目は首から上ごと無いけれど。
ハッハッハ、イッツ・ア・極東ジョーク。
どうだ面白かろうブレンダン君。
…いや、この人真面目だからな。
この手の冗談は通じなさそうだから言わないでおこう。
………
「煙幕と挑発フェロモンによる二重の目眩ましか。なるほど、そういう戦い方もあるのか…」
煙が晴れ。
首無しヴァジュラのコアを捕喰しながらブレンダンが先程の戦術について思考を巡らしている。
まぁ言う程大した戦術では無いんだがな。
今回は極力大きな音を出さないという制約があったからああいうやり方をしたけれど。
防衛にしろ討伐にしろ。
本来は最善の戦術を取れるよう、作戦前に入念に準備するのが筋なのだ。
次善策を取ってる時点で評価としてはA評価。
最善策を取れてS、ノーミスで完璧にこなしてSS、ミッション実施前に目標達成して初めてトリプルSなのだ。
まぁこの話はどうでもいいや。
俺の元上官殿の主観だし。
とりあえずターゲットの内片方は仕留めた。
後は足止めしている厄介な方を挟み撃ちすればミッションコンプリートである。
コアの回収も終え。
駆け足気味に予定地点へ向かう事数分。
「…あれがハンニバルか。話には聞いていたが、いざ目の当たりにすると凄まじいな…」
背後から奇襲のタイミングを伺いつつ。
その猛攻ぶりを目の当たりにしたブレンダンが思わずそう口走る。
一見しただけでも十分理解できる、シユウ種以上の体格を誇る竜人型のアラガミ。
強靭な尾を振るい、口からは灼熱の炎を吐き、あまつさえそれを槍や剣のように形どって突き刺し、振り回す。
並みの神機使いであれば数分と持たずに挽肉か消し炭にされているであろうところだが。
そこは流石の第一部隊、ソーマもルーキーも攻撃は牽制程度に留め、にも関わらずひたすらに回避と足止めに専念している。
ふと見ればブレンダンの肩が僅かに震えている。
珍しい、あのブレンダンが武者震いとは。
まぁ無理もないし気持ちもわかる。
アラガミ動物園と揶揄され、ヴァジュラを単独討伐して一人前と評される極東であっても。
あのクラスのアラガミにはそうそうお目に掛かれるものではない。
俺も初見でアレとやり合えと言われたら嫌だもの。
アレのもっとヤバい版とやり合った事あるからまだマシだが。
とはいえここは既に戦場。
ブレンダンの事だから数分待てば問題無いとは思うけど。
落ち着くまでちょっとタイム…とは言えないのが辛い所。
仕方ない。
さっきと同様、ここは俺が先に出張るとするか。
そんな訳で戦闘準備。
お楽しみドーピングタイムの時間である。
今回の相手はただのトカゲもどき。
手加減も遠慮もする気は無いが、特別なお薬を飲む必要性までは感じない。
なので今日服用するのは何時も用意している常備薬。
スタミナ増強剤S、スタミナ活性剤改、体力増強剤S。
それらを纏めてゴクンゴクン。
ちなみに今回は超視界錠は使わない。
開けた場所で見失う心配は無いし、何より逃がすつもりは無いからな。
次に取り出すのはレーション。
これ自体にドーピング効果は無いものの、この後激しい運動が予想されるのでハンガーノック防止のためにムシャっておく。
食べ終わったら最後の仕上げ。
筋力増強錠90改、体躯増強錠90改、それに超視界錠に強制解放剤改。
それらを纏めてゴクンゴクン…する前に。
ポン、と後ろから震える肩に手を置いてやる。
触れた途端筋肉質の身体がビクリと跳ねるが、気にせず肩に手を置き続ける。
こういう場面において言葉は不要。
こういう時はどこまで行っても人の温もりが一番効果的なのだ。
なお年上相手なので頭に手を置くような失礼はしない。
年下相手だったら気にせずやるがな。
ちなみにこれは俺の元上官殿の言。
懐かしい、思えば俺もよくやられたものだ。
どちらかというと女性相手によくやってたような気がするのはきっと気のせいだろう。
まぁいい、話を戻そう。
気付けばいつの間にか震えが止まったブレンダンがこちらを向いている。
という訳で最後のお薬をゴクンゴクンのバリボリムシャムシャ。
強制解放剤の副作用でクラッとしたところをブレンダンに声を掛けられたが。
別に怪しいブツをキメてる訳ではないので気にしない。
顔を持ち上げ。
真っすぐブレンダンの瞳を見つめる。
うん、良い眼だ。
少々まだ怖れの色が残っているが、このくらいならまぁイケるだろう。
確信すると共に建物の影を飛び出し。
一気呵成にハンニバルの背中に襲い掛かる。
不意の事態に驚き、固まるソーマとルーキー。
そんな二人の突然の行動に釣られるようにハンニバルの動きも一瞬止まる。
-ブチリッ。-
その硬直こそがまさに命取り。
既に何匹も殺した相手、万事そつなく心得ている。
背後から一撃で背中の逆鱗を引き千切り。
高熱の後輪を展開するより早く、神機を身体の奥深くへと突き立てる。
周囲に響き渡る悲鳴のような咆哮。
が、お前に出来るのはここまでだと言う事も知っている。
さぁお仕置きの時間だ。
別に
アラガミ、それも忌々しいクソトカゲの姿に生まれた身を呪うんだな。
死ね。
……………………………………………………………………………………………
そんな訳でハッスルし過ぎた結果。
はしゃぎっぷりに違和感を持たれたのかルーキーに詰められ今に至る。
目が赤いのはさっきも言った通りただの充血。
解放剤系は身体にかかる負担も強く、体質によっては効果終了後もしばらく目が充血してしまうためである。
「ブレンダンさん。二人が来る前、この人何か不審な行動取ってたりしませんでしたか?」
「…俺が見ていた限りそんな素振りは無かったな。強いて言うならヴァジュラの時には強化薬の類は服薬していなかったと思うが…」
ブレンダンの言葉にほぅほぅと意味深に頷くルーキー。
何だよ、ヴァジュラ相手に強化薬なんか使わなくてもおかしくないだろ。
「この前私とミッションに行った時はヴァジュラ相手に見慣れない薬を飲んでましたよね?同じヴァジュラ種が相手でも、何か区別して飲み分けたりしてるんですか?」
あれはお前が思わせぶりな態度を取ったからだろうが。
特殊個体だと思って挑んだのに、蓋を開ければただの通常種とくるんだから。
あの薬合成するのに滅茶苦茶金が掛かるんだぞ。
今だから言うけどあのミッション普通に足出たんだからな。
言ったら自業自得だと言われそうだから言わないけど。
「むぅ…ソーマは何か気付いた事とかない?付き合いも私達より長いし、何か違和感を感じたりとか…」
だんまりを決め込む俺に業を煮やしたのか話題の矛先がソーマに向かう。
ソーマはソーマでジロリとこちらを一瞥した後、しばし考えるように目を閉じてから重い口を開いていく。
「別にコイツが強化薬を服用するのは今回が初めてな訳じゃない。今までも厄介なアラガミと相対するときはよく服用しているのを見てるしな。」
「アラガミと戦うのに一々薬を飲むんですか?そんな事するより斬りかかった方が早いような…」
「俺やお前と一緒にするな。普通の人間はアラガミと正面切ってやり合えるほど頑丈じゃないんだ。」
「…あれ?今私遠回しに人外だって言われました?私、一応ごく普通の女の子なんですけど。」
「ハッ、どこの世界にお前のようなちんちくりんのバケモノを普通の女の子と…ウオッ!?おいやめろ何しやがるテメェ!」
おっと綺麗にアイアンクローが入った。
そのままルーキーが馬乗りになり、突如目の前で微笑ましいじゃれ合いが繰り広げられる。
凄い、あのソーマ相手に普通に競り勝ってるぞ。
一応ソーマは極東支部じゃ喧嘩無敗の筈なんだがな。
「クソ、この馬鹿力めっ…おい!見てないで助けろ!」
いやぁ、そうしたいのは山々なんだけど。
生憎過酷なミッション明けでな。
もう疲れちゃって、全然動けなくてェ。
「…って顔してますねこれは。」
「この無表情でそんな感情豊かな訳あるか!いいからお前らも早く助けやがれ!」
ハッハッハ、愉快愉快。
他人、それもあのソーマが良いようにやられている光景は中々だな。
あ。別に助ける必要は無いぞブレンダン君。
真面目な話、ソーマを正面から組み伏せられるような相手をどうこうできる訳がないからな。
あたふたした所で始まらない。
お茶でも啜ってのんびりとな。
「何落ち着いてんだテメェ!大体元はと言えばテメェがあれこれ隠し事をしてるのがムグッ!?」
こらこら、余計な事を言うんじゃない。
せっかく逸れた矛先がこっちに向かってしまうじゃないか。
ほら、ルーキーがそうだったと言わんばかりの目でこっちを見ている。
とりあえずここは知らんぷりしつつ、ソーマ君の口を封じておくか。
極東で言うところの"愛と友情のツープラトン"と言うやつである。
悲しくなるので愛は無いとか言ってはいけない。
友情くらいはあるはずだ…多分。
そんな訳でこうしてやる、えいっ!
……………………………………………………………………………………………
「…グーだった。ソーマ、女の子相手にグーで殴った。」
「殴ったんじゃなくて拳骨だ。あんな真似しておいて女もクソもあるか。」
帰投直後の格納庫。
任務を終えた神機使いが輸送ヘリから降りていく。
「…なぁ。結局のところ、リーダーはアイツが赤目になってた理由を知りたかったって事でいいのか?」
そう問いかけるのはブレンダン。
頷いて返答を返しつつ、その理由について更に詳細を付け加えていく。
「あの人、どうも最近何か隠し事をしているみたいなんです。さっきの戦い方だって明らかにらしくなかったですし…」
「確かにな。俺もタツミやジーナからまた聞きした程度だが…おそらくアレは強化薬を短時間に大量摂取したことによる副作用だ。確かにハンニバルは強敵ではあるが…いや、今回のザマじゃ俺が言えた立場ではないな。」
強大な敵を前に不覚にも怯んでしまった己の身。
あの後恐怖を乗り越えて戦いに参戦はしたものの。
だからと言ってかのアラガミの実力を論議出来るほど良い御身分だとは思わない。
「構いませんよ。どうせこの後もあの人に詰め寄りますから。」
そう言って優しく微笑みながら後ろを振り返る第一部隊の隊長。
その視線に引っ張られるように、同じく立ち止まって後ろに倒れている人物に視線を向ける。
「………………………」-チーン-
「…詰め寄るというならアレはやりすぎなんじゃないか?」
「やったのは私じゃありませんからセーフです。」
………
アナグラに到着し。
ルーキーと共に手を離した途端ソーマにグーでぶっ飛ばされた。
薄れゆく意識の中。
最後に見たのは拳骨を落とされて蹲るルーキーの姿。
いやいや、それは無いだろソーマ君。
片や拳骨、片やグーパンとか不平等もいいとこだぞ。
公平性をとってどちらにも手を出さないという選択肢はないのか。
この状況で言うとトドメ刺されそうなので言わないが…って、え?
待て待て待て。俺何も言ってないぞ。
その振り上げた拳をどうするつもりだ。
嘘だろ、言っても言わなくても俺はトドメまで刺されるのかよ。
今度シオにいじめられたって言いつけてやる。
ちょっとずつ公式並みの人外領域に足を突っ込み始めているルーキーちゃん。
ちなみに無口さんはどこまで行っても人の枠は超えられません。
踏み込んじゃいけない領域に踏み込みまくってようやく枠の外にタッチできます。
そして無口さんはそれに対する躊躇いがゼロの人。
元上官殿に監督不行き届きを訴えておきましょう。