無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.そろそろ。
「そういう事だったんだ。よかったぁ、実は言うと私達の知らないリンドウさんの趣味なのかなってちょっとドキドキしてたんだよ。」
「そんな訳ないじゃないですか。まぁ女の子に釣られてノコノコ出てきたと言われても困りますけど…」
おおよその経緯を語り終え。
どことなくホッとした様子で口を開くリッカさんに軽く冗談めいて言葉を返す。
まぁ元よりあまり明るい話題ではないですし。
この話はこの辺にしておきましょう。
「それよりリッカさん、ちょっとした疑問なんですけど…どうして神機の調整にアラガミ化が進んだ痕跡が必要なんです?」
話題を変えるべく。
ミッションを受けた時から疑問に思っていた事を口にする。
神機のメンテナンスにはアラガミの素材、それもコアと呼ばれる部分が多く求められ。
自分達神機使いのミッションでもよく整備班が使用するための素材調達というものが数多く発注されている。
当然、メンテナンスする神機に用いられるコアは赤の他人…もとい他神の物であり。
同種の素材を用いるにしても、今回のリンドウさんの神機のように持ち主の身体の一部を提供するように言われたことなどない。
「あ、興味ある?いいよぉ、ちょっと専門的な話になるけど、君さえよければ喜んで説明してあげるよ。」
………
ゴッドイーターの象徴とも言える武器である神機。
言ってしまえばそれは人の手で生み出された人工のアラガミ。
アラガミである以上、持ち主以外が触ると捕喰されてしまう。
扱えるのは神機が持つオラクル細胞に適合した人間のみ。
そしてこの"適合"という言葉には実は多くの意味が含まれている。
「詳細を上げればキリは無いけど…"拒喰"と"共喰"、私達技術者がこう呼んでいる二つの要素が特に重要視されるんだ。」
リッカさん曰く。
拒喰とは読んで字のごとく喰らう事への拒絶。
何でも捕喰するオラクル細胞が持つ数少ない"嫌いな食べ物"を意味する。
これに該当するという事は即ち神機のオラクル細胞が適合者を捕喰しないという事を意味し。
神機使いになるためには最低限この要素に該当する必要がある。
「共喰というのは"共食い"って呼ぶ人もいるけど…イメージ的にはこっちの方が適合するって表現に近いかな。」
オラクル細胞に限らず。
本来自身の身体が取り込めないものと言うのは異物以外の何物でもない。
異物であれば当然、それは排除対象に他ならず。
神機を扱うにも前述の拒喰に該当するというだけでは拒絶反応を起こされてしまう。
そこで重要となるのがこの共喰。
先程の拒喰とは異なり、互いの因子を必要な要素として求め、取り込む反応である。
「厳密に言えばこれも一種の捕喰に当たるけど…違いは全部が全部喰い尽くされるんじゃなく、必要な分だけ取り込まれるって感じだね。」
無差別に貪り喰らうのではなく。
自身を構成するために必要な要素として取り込む。
余談だが所謂"適合率が高い"と言う表現。
この共喰の要素が大きくプラスに傾いている場合に用いられる。
この数値が高い程適合試験でも痛みを感じず、手足のように神機を扱う事が出来るが。
低いと拒絶反応で激痛を起こしたり、神機そのものに重量や違和感を感じたりしてしまうそうな。
さて、そんな神機にとって重要な意味を持つ共喰だが。
今のリンドウさんの神機のように使っていた相手が急にいなくなった場合。
それまで取り込まれていた因子が摂取出来なくなってしまい、急激に不足し始めてしまう。
人間で言えば健康を維持するのに必要な栄養が足りなくなってしまうと言った所か。
その状態が続くと神機が不調を起こし、やがて活性不全を起こして故障という事態が発生してしまうという。
神機を休眠状態にすれば回避できるのだが、それはそれで色々手間暇の問題があるらしく。
諸々の事情を鑑みた結果、今回はリンドウさんの痕跡を用いてメンテナンスするという流れになったらしい。
「なるほど…普段は使用するために触れる事で自然と持ち主の因子が神機に供給されていたんですね。それが長らく持ち主の手から離れていると供給不足になって神機の調子が悪くなる、と。」
「長く特定の人物に使われ続けた神機ほど文字通りその人の体の一部、言うなれば一心同体のようなものになっていく…まさにオラクル細胞の神秘って奴だね。」
ひとしきり説明も終わり。
納得したように呟く私の言葉にリッカさんがご明察と添えながら言葉を返してくる。
「…あれ?でもそれならどうしてアラガミ化が進んだ痕跡の方が良いんです?進んでない痕跡の方が神機を使っていた頃のリンドウさんに近いんじゃ…」
納得した所で新たな疑問。
不足しているのがリンドウさんの要素なら、より元に近い状態の物の方が良いのではなかろうか?
「それにも理由があってね。長く持ち主の因子が供給されていないと神機側が求める因子も変質しちゃうんだ。」
神機使いが定期的に偏食因子を投与しているように。
休眠状態ではない神機もまた、先程述べたように持ち主からの因子供給が必要である。
そして神機使いの場合、長らく偏食因子が投与できないと体内のオラクル細胞が暴走してアラガミ化を引き起こしてしまうが。
神機の場合は既にアラガミに近い状態のためか変質と言う形で表面に現れる。
その結果神機の調子を保つために必要となる要素が変わるのだが。
この変わった要素と言うのが元の持ち主のオラクル細胞が活性化した時の物と類似するのだという。
「だからリンドウさんが戻ってきたら、まずは神機の再調整から始めなきゃなんだ。アラガミ化の治療は専門外だから何とも言えないけど、進行していた症状を無害化して残したまま~なんて器用な事が出来るとはちょっと想像しにくいからね。」
うん、リッカさんの言葉は正にごもっとも。
戻ってきたリンドウさんが再び神機を手にするとすれば。
それは当然人間のリンドウさんであり。
……………………………………………………………………………………………
-一方その頃のエントランスホール-
二人の新人神機使いを包んでいた重苦しい空気。
それは音も無く一人の神機使いが登場した事により。
一瞬にして全く異なる類の空気へと変容した。
「ッ!?」
「だ、誰ですかッ!?」
うん、良い反応だ。
その表情が見たかった。
事情は知っているがあの空気は少々いただけない。
口で説明しても日の浅い新人にはわからないだろうし、少々手っ取り早い手段を取らせてもらった。
「…なぁアネット、そろそろミッションの集合時間じゃなかったっけ?」
「そうだけど…えっ!?じゃあコレ、もしかしてユウマ先輩…?」
ユウマ?
知らんな、そんな青い目をしたイケメン古参兵は。
というか人を指差してコレ呼ばわりするんじゃない。
見た目や中身が誰であれ、お前達より先輩なのはわかるだろうが。
まぁいい。
細かい事は置いておこう。
一応俺とは初対面という設定。
であれば先輩云々に関わらず、まずは名乗るのが作法と言うもの。
とはいえ今の俺は言葉を発せない。
故に名刺を持って名乗らせてもらう。
何故言葉を発せないのかって?
「あ、あの…もしかしたら聞いちゃいけない事なのかもしれないですけど…」
だって…
「な、何でウサギの着ぐるみなんて着てるんですか…?」
着ぐるみが喋ったら夢が壊れるだろうが。
紳士たるもの、子供の夢を壊すような真似をしてはいけないのだ。
例えそこに子供がいなくても。
まぁアネットもフェデリコも未成年だし、子供扱いでも問題無いか。
という訳で。
改めて自己紹介しておこう。
俺の名はマスク・ド・ラビット。
極東支部
コードネーム"kigurumi"だ。
まぁ、さっき適当にでっち上げた経歴なんだけどな。
アネットちゃんが曇ってると聞いてシュバッって来たユ…もといマスク・ド・オウ…じゃなかったラビットさん。
この人、年表に従うとフェンリル就業前からゴッドイーターやってる事になりますね。
経歴でっち上げと言われるのもやむ無しです。