無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.カノンとブレンダンがいなくなった辺り。
Q2.着ぐるみで誤魔化せるの?
A2.腕輪認証するからバレバレ。
そりゃフランちゃんもキグルミの正体わかりますよね。
当然ヒバリちゃんも中身この人だって気付いてます。
ちなみに第一部隊以外の面々には意外と知られていない模様。
--あの人がまた不審な行動を取っている。
そこは人気の少ない倉庫区画。
気にするまでも無く人通りの少ないその場所で、人目を気にするかのように辺りを伺い、部屋へと入っていく神機使いの姿。
率直に言って怪しさ抜群だ。
普段の無口無表情も相まって、十人中十人が何か企んでいると評してもおかしくはない。
…もしかして。
これは証拠を押さえるチャンスなのでは?
あの人が裏で暗躍しているのは疑いようもない事実。
見逃されているのは単に証拠も自白も無いからと言うだけの話。
もしここで確たる証拠を現行犯で捕らえる事が出来たのなら。
少なくともあの人が人知れずリンドウさんを殺すという結末は避ける事が出来るはず。
そうと決まれば迷いは不要。
なるべく音を立てる事無く部屋に近づき。
聞き耳を立てて中の物音を窺ってみる。
-ゴソゴソ、ゴソゴソ…-
うん、壁越しのせいではっきりとは分からないが。
何やら中で何かを弄りまわしているのは何となくわかる。
幸いにして扉にロックはかかっておらず。
踏み込むならまさに今が絶好のチャンス。
一般的なドアであれば隙間から様子を伺うという手もあるのですが。
残念なことにアナグラは殆どの扉が機械制御式。
中途半端に開くという器用な事は出来ない。
故に取れる手段はただ一つ。
一息に踏み込み、あの人がやっている事を確認するのみ。
呼吸を整え、意を決し。
-バンッ!-
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「…すみません、間違えました。」
1、2の3で扉を開けて踏み込んだ先に神機使いの姿は無く。
代わりに立ちすくんでいたのは物言わぬ不審なウサギ(?)。
何だ、今回はただの奇行でしたか。
証拠を押さえるチャンスだと思ったのですが。
勘違いだと分かればもうここには用はありません。
同類だと思われる前にさっさとこの場を後にしましょう。
-ガシッ-
「………………………」
「…何ですか、人を呼びますよ。無言で肩を掴まないでください。」
……………………………………………………………………………………………
先日任務を終えてアナグラに戻ると。
エントランスで滅茶苦茶落ち込んでいる様子のアネットがそこに居た。
いや、落ち込んでいると表現するのは少々違うか。
どちらかと言えば何かしらの大失敗をしてしまったという時の様子に近い気がする。
ふむ、何かやらかしでもしたのかな?
多分俺からすれば大した事ではないだろうけど。
彼女に限った話では無いが。
新人にありがちな傾向として些細なミスでも実際より大事に捉えてしまうケースが非常に多い。
別に新人に限った話でも無く。
神機使いとして任務に赴いている以上大なり小なり失敗はつきもの。
ベテランがヘマをしているならまだしも。
新人であるアネットには寧ろ積極的にやらかして今後の糧としてもらう方がありがたい。
無論ミスが続くのはよろしくないが、その時はちゃんと注意するので問題無い。
だがまぁそれはそれとして。
期待の新型第二期生が何をやらかしたのかは気になるところ。
アネット君は一体どんなやらかしをしてしまったのかな?
討伐対象倒せずミッション失敗した?
それとも味方を誤射でもして怒られた?
前者は神機使いをやっていれば何時か起こりうる事なのでそこまで気にする必要は無い。
任務は遂行できる事に越したことは無いが。
一番大事なのは何より無事生きて戻ってくることだからな。
ついでに言えば人によっては倒したのに文句を言われるケースも稀によくある。
実力を信用してないのかとか、神機を雑に扱うなとか。
俺しか言われてるの見た事無い?
この話は止めようか。
後者についてはこの極東じゃ何も気にする必要は無い。
何しろここには誤射率世界一のお姫様が君臨しているからな。
誤射したと言っても所詮は新人の流れ弾。防御越しに衝撃を与えてくる無差別爆撃に比べれば可愛いものだ。
アレ、躱し続けると段々射軸がこっちに向いてくるような気がするんだよな。
こっちを見てなかったり射撃中に神機を振ったりする故の誤射のはずなのに。
もしかしてアラガミじゃなくても命中しないのはすっきりしないとか言うんじゃ…
話が逸れたな。
本題に戻ろう。
さて、直接聞くのが手っ取り早いと言えば手っ取り早いが。
落ち込んでいる相手になにやらかしたと直接聞くほど、俺は空気の読めない人間ではない。
人の口に戸は立てられぬというしな。
こういうのは周りの会話からさりげなく知ると言うのがスマートな紳士と言うもの。
それとなく距離を保った位置に陣取り。
周りの会話に聞き耳を立てて情報収集に勤しんでみる。
ん-何々?
ふんふん、ははぁなるほど。
カノンとブレンダンが帰ってこないのね。
想定外の新種に強襲されて?
アネットを逃がすために二人が囮になって?
で、一人戻ってきた自分に自己嫌悪しているという訳か。
…うん、まぁ俺から言える事はただ一つ。
よくある事だ気にするな。
……………………………………………………………………………………………
こういう言い方は少々アレだが。
神機使いにとって同僚がいなくなるという事は別に珍しくとも何ともない。
本当に、本当によくある事なのだ。
それが円満退職と言う話ならまだ救いはあるのだが。
悲しいかな大半は誰もが望まぬ強制退職と言うのが現実。
僅かな例でも結局のところ当人の行方が知れないまま籍を抹消されるというケースしかない。
俺が神機使いになってからだけで言っても両足の指まで使って数えきれないほど。
何だったらつい先日一人出てるしな。
一応偏食因子の適合問題からくる活動限界による引退も無くは無いが。
この場合何だかんだで後方勤務に異動する事が多いのでいなくなるという表現には当てはまらないだろう。
つまり神機使いにとってそれだけ人の死と言うのは身近にある物で。
必然、新人ベテラン問わずそれに接する機会と言うのは訪れる。
大事なのはこの後だ。
必ず対面しなければ問題である以上、それをどう乗り越えるかで神機使いとしてやっていけるかが決まる。
嘆き、哀しみ、怒り、憤り。
それらを糧に明日を生き抜くのか。
それらを枷に明日から生きるのか。
どれが正解という訳でも無いし、どれが間違っているという訳でも無い。
言ってしまえばどうなるかは人それぞれだ。
ただ忘れてはいけないのは。
神機使いが所属するフェンリルは何処に出しても恥ずかしくない優良企業と言う点である。
枷まみれで動けなくなったからと言ってハイサヨナラと切り捨てるほど薄情な組織ではない。
以前も話した通り極東のフェンリルは死ぬ前のサポートが手厚いのである。
文字通り最後の瞬間までちゃんと面倒を見てくれるのだ。
擦り切れるまでこき使われるとか言ってはいけない。
もったいない精神は大事。イイネ?
閑話休題。
話を戻そう。
何が言いたいのかと言うと。
ここが君の正念場と言う事だ。
冷たい言い方になるが神機使いになった以上、死人にかまけている暇はない。
気持ちを切り替える事が出来なければ、次には自分がそうなるだけなのだ。
…とはいえ。
まだ神機使いになって日の浅いルーキーにこれを語るのは酷と言うもの。
人によっては時間を掛けて心を慣らすという手も無くは無いが。
さっきの様子を見る限りアネットはジッとしてると逆にドツボに嵌っていくタイプだと見た。
なのでミッションに連れていく。
引き摺ってでも連れ回し、余計な事を考える余裕を無くさせる。
無論、ただ闇雲に連れ回すのではない。
これでも一応古参兵。
連れていくミッションはそれなりに考えた上で選んでいる。
用意したのはいずれも捜索ミッション。
事情を聞く限り、二人のバイタル反応はまだロストしていないとの事。
つまり二人はまだ
退職もしていなければ籍を抹消された訳でも無い。
故にいくらかまけたところで問題はない。
寧ろ積極的にかまけるべきだ。
Q.E.D.
証明完了。
という訳で。
切り替えてミッションに行こうかアネット君。
ちなみに上官命令だから拒否権は無いぞ。
まぁ口頭で言うんじゃなくて固定枠でミッション申請するだけだけど。
………
「ッ!これ、全部二人の捜索ミッション…あ、ありがとうございます!」
ミッション参加を要請したところ。
二つ返事でお礼と共に受諾連絡が端末に返ってきた。
目の前にいるんだからそんな急いで返信しなくてもいいのに。
肝心のミッション内容はと言うと。
ロストした地域を中心に、逃走経路となりえそうなルートを重点的に洗い出したもの。
安全性を重視したルート故に戦闘になる可能性は低いものの。
その分広域でミッション時間が長く、かつ報酬も低めな物になっている。
言ってしまえば割の合わないミッション。
それ故に本人さえ乗り気なのであれば、新人のアネットを要員としても問題が無い。
まぁ実際は固定枠と言う名の強制参加だから乗り気じゃなくても連れていくんだけどな。
当人は喜んでいるみたいだし、余計な水は差さないでおこう。
「わ、私直ぐ用意してきます!準備が出来次第エントランスに戻ってきますから!」
いや、急がなくても出撃予定時間が決まってるから…ってもういないし。
君、戦闘だと鈍足なのに短距離だと結構早いのね。
それだけずっと気に病んでいたという事か。
さて、それじゃあ俺も色々と準備を始めるとするか。
身体を動かして余計な事を考えなくさせる。
これはこれで一つの方法ではあるのだが。
俺の経験上、実はこれをさらに効率良くする手段が存在する。
うまくいくかどうかは分からないが、失敗しても害は無いのでそれならやるだけ得と言うもの。
前提として。
人は理解できない事に遭遇すると思考がフリーズする生き物である。
思考を停止させた上で考える余力を無くすとどうなるか?
それまで考えていた事を放置して現状理解にバッファを割き始める。
結果何が起こるのか?
端的に言えばそれまで考えていた事を忘れるか、どうでもよくなるのである。
ではアネットにとって思考がフリーズする出来事とは何だろうか?
…ウサギの着ぐるみ着てアラガミでも狩ってみるか。
思考の切り替え方に一家言ある無口さん。
オーバーフロー起こしている方が言うので間違いはありません。
ちなみにこの人とキグルミは別人。
つまりその内二人一緒に出てきます。