無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.お腹を消毒するためのお水です。
消毒ならば仕方ない。
お水だから問題無い。
消毒出来るのはお腹の中だけ。
結合崩壊の治療までは出来ません。
定期的に入る幕間編。
今回のメインはルーキーちゃん達です。
無口さんは添えるだけ。
「へぇ…意外と手触り良いんですね、コレ。」
「それに軽いし思った以上にふかふかしてる。着ぐるみというより何だか大きなぬいぐるみみたいだね。」
ここは極東支部の神機保管庫。
各種装備品のメンテナンスなどにも利用される場所である。
目の前で行われているのはアリサとルーキーによる装備点検…
という名目の着ぐるみを愛でる会。
「見て見てアリサ。ほら、こうすると絵本とかでよく見るシーンに見えない?」
「何してるんですかリーダー。気持ちはわかりますけどそれ、ちょっと子供っぽいですよ?」
「あ、言ったねアリサ。そんな事言う悪い子は…えいっ。」
「キャッ!?ちょ、ちょっともうリーダー!」
子供っぽいとからかわれ、むっと可愛らしいふくれっ面を見せるルーキー。
そして身の丈ほどもあるウサギを押し付けられ、抵抗しつつもまんざらでもない様子を見せるアリサ。
うむ、眼福。
可愛い女の子がキャッキャと戯れる様というのはいつ見ても素晴らしい。
確かに俺は紳士であるが、その前に一人の健全な成人男性。
もう少し大人なレディのやり取りの方が好みだろと言われれば否定はしない。
否定はしないが。
大人であるからこそ、そういうのでなければ駄目だなんて言ったりはしない。
純粋で健全、結構じゃないか。
むしろこういうのでいいんだよこういうので。
惜しむらくはその着ぐるみ、今は中に俺が入っていないという点だな。
もう少し早く来てくれれば合法的に輪の中に入れたんだが。
いや、何だったら今からでも別に間に合うのではないだろうか?
空っぽの着ぐるみは大きなぬいぐるみと大差は無い。
されるがままのそれとは違い、ハグにハグを返してくれるのが中身入りの良い所。
別にやましい気持ちから言ってるのではない。
ちゃんとお互いのメリットを考えた上での提案である。
ルーキー達はウサギにハグされてご機嫌になる。
俺は女の子をハグ出来てご機嫌になる。
誰一人損をしない幸せ空間の完成だ。
大丈夫、これでも立派な古参兵。
仕事とあらば全力でウサギさんを遂行してみせる。
まぁ戯言はこの辺にしておこう。
他愛の無い妄言一つで査問会が出張ってくるのがフェンリル支部の恐ろしいところだからな。
それに仲睦まじい女子の間に文字通りの間男なんぞ不要…ん?
-ムギュッ-
「こちらラビット1。作戦を無視して突撃する不良神機使いを発見、これよりお仕置きミッションを開始します。」
そう言いながらアリサにやっていたのと同じように。
上から覆いかぶせるように着ぐるみを押し付けてくるルーキー。
続け様に繰り出されるのはウサパンチ。
先程アリサも言っていたが、ペシペシと遠慮なく顔をはたいてくるその様ははっきり言って幼稚園児のそれである。
うん、何だか年下の妹にじゃれつかれてる感覚だ。
これはこれで悪くない。
この見た目で単独でハンニバルやウロヴォロスを斬り伏せてるらしいけど。
まぁただの噂だろう。こんな愛らしい娘がそんな野蛮な事するはず無いし。
ツクヨミ?
知らんなぁそんなポッと出の新種なんぞ。
大体今回ソイツを叩っ切ったのは俺だし。
今時一旧型神機使いに倒されるアラガミなんぞ、どうせ一山いくらの雑魚だろう。
わざわざ騒ぎ立てる程の事でもない。
話を戻そう。
そんな訳でルーキーと戯れる分に関して、俺的には何も問題は無い。
それどころか女の子と戯れつつご機嫌取りまで出来るなど、むしろ願ったり叶ったりと言ってもいい。
いいんだが。
一つアレな点があるとすれば。
このウサぐるみ、ゼロ距離で顔突き合わせるには少々圧が強いというくらいかな。
間近で見ると結構目が怖いぞこれ。
「………………………」
「あの、その辺にしておきませんかリーダー?この人真顔で無反応だからちょっと怖いんですけど…」
「今更だけどさ、リーダーって本当怖いもの知らずだよね。ソーマにしろこの人にしろ、ここまで遠慮なく踏み込んでいく人初めて見たよ。」
……………………………………………………………………………………………
-Side_ルミナ-
「ちょっと話はそれましたが…それでリッカさん、さっき質問した話なんですけど…」
思いの外感触が良かったせいで脱線してしまいましたが。
とりあえず満足しましたので本題に戻るとしましょう。
「あぁ、あの着ぐるみに疑似バーストみたいな機能があるのかって話?無い無い、私的には夢のある話だとは思うけどね。」
事実としてはきっぱりと否定。
しかし考えそのものは興味深いと答えた後、私の質問にリッカさんが続きを返していきます。
「まず戦闘においてキミ達神機使いが活用しているバースト状態。これは神機が持つオラクル細胞と神機使いの体内にある偏食因子、その両方が平時より活性化している状態の事なんだ。」
-活性化によって得られる効果は神機と人でそれぞれ異なる。-
「神機であればオラクル細胞の捕喰性質が強化され、アラガミに対する攻撃力が大幅に高まるし、人であれば免疫力の増加や治癒力の向上、筋肉や神経系の能力上昇などが作用に挙げられる。」
-バースト状態になると動きが良くなったり、一時的に怪我の痛みや疲労感が軽減されるのがわかりやすい特徴かな。-
「確かにバースト状態を維持できればそれだけで戦闘難度が変わりますからね。まぁ本来は怪我やスタミナ切れを起こさないように戦うのが望ましいのですけど。」
「私も神機使い成りたての頃はそれを頼りに戦ってたしね。…どこかの誰かさんに荒療治で矯正されましたけど。」
思い起こされたのは何時ぞや延々と小型種を討伐させられ続けたミッション。
少しばかりトゲを含めた言葉と共に。
チラリと少し離れた位置にいる神機使いに視線を向ける。
もはやすっかり見慣れてしまった無口無表情の鉄仮面。
あの頃はこの人は見た目同様、感情すら失ってしまった人なのだと思っていましたけど。
「あの、何されたんですかリーダー?あの人わざとらしく顔逸らしてますけど…」
実際のところはこれである。
喋れないというだけで感情の方はむしろ人一倍豊か。
何なら喋れないという事を都合の良いように利用している節すらある。
「小型種のアラガミを延々と討伐させられ続けたんですよ。それもコアの回収は完全に度外視で。」
「あれ?でもキミ、確かあの時は自分が足引っ張っちゃってコア回収する余裕が無かったとか言ってなかったっけ?」
…そうでした。
あの時は当時にしては柄にもなく、悔しくてつい負け惜しみ的に言ってしまったんでした。
ふと視線を感じて顔を向けると。
先程までそっぽ向いていた鉄仮面がこちらに向き直っている。
何ですか、こっち見ないでください。
貴方さっきまで横向いてたじゃないですか。
別に口止めしてた訳でもないでしょう。
バラされて困る話なら事前にちゃんと口止めしてきてください、もう。
とはいえ全部が全部嘘とは言い切れません。
むしろ七、八割くらいは私のせいだとは思っています。
なのでここはさっさと元の話に戻すとしましょう。
………
「バースト状態になるための条件は大きく分けて二つ確認されている。一つは言うまでもなく神機の捕喰形態で生きてるアラガミのオラクル細胞を取り込んだ場合。もう一つは神機に接続している神機使いの精神が異常に高揚した場合…月並みな表現をすれば"感情が爆発"する事でもバースト状態へ移行したケースが確認されているんだ。」
「感情の爆発…ですか?」
疑問符と共に言葉を漏らすアリサ。
言葉の意味こそは理解出来れど、具体的な様相がイメージできない私達にリッカさんが頷きながら続きを説明していきます。
「元々は"使用者の精神状態が神機の性能にどのような影響を及ぼすか?”という観点の元、本部からの要請で戦闘中の色々なデータを集めていた事が発端なんだ。」
-その中で明らかに頭一つ抜けて観測された、"感情の爆発"が起こったと思われる状況下での戦闘データ。-
「その時の状況はまさに最悪の一言に尽きる。仲間は全員倒れ、当人も重傷。救援が間に合う見込みも薄く、誰もが最悪の事態を覚悟していた。」
-しかし周囲の予想とは裏腹に、そんな最悪の結末が訪れる事は避けられた。-
「アラガミを喰らった訳では無く、ましてや反動の有る強化薬を服用した訳でも無い。にも関わらずその神機使いは自力で最大レベルのバースト状態を発動し、相対していたアラガミを討伐する事で仲間の命を助けたんだ。」
-九死に一生を得た彼は帰還した後こう語った。-
-"自分の命よりも仲間が死ぬという事実に耐えられなかった。耐えられず目の前が真っ赤になったと思った次の瞬間、気付けばアラガミが倒れていたんだ。"とね。-
「この時のデータを調査・分析した結果、"激しい感情の想起は神機と体内の偏食因子に強く作用する"という事が判明したんだ。この事実が後々色々な話題に発展していくんだけど…まぁあまり気分の良い話じゃないし割愛しようか。」
-とにかく、神機使いがバースト状態になるための条件を纏めると。-
「アラガミを生きたまま捕喰するか、爆発と表現される程の感情を呼び起こすかのいずれか。もう既にわかったとは思うけど、どちらも装備で簡単に実現できるようなものじゃ無い。」
「だから私の質問に"夢のある話"って答えたんですね。」
「あれ?でもそうなるとおかしくないですか?だってリッカさんさっき…」
不意に抱いた違和感にアリサから疑問の声があがる。
その言葉に最初は気付かなかった私だが、間を置かず彼女が抱いた違和感の正体に気が付く。
「うん。端的に言えばそっちは無理矢理人の感情をどうこうしようって話だからね。面白いどころか全然笑えない話だし、夢は夢でも私にはただの悪夢としか思えない。」
返ってきたのは予想した正体を裏付けるような内容。
心なしか彼女の顔も珍しく苦虫を噛み潰したような表情な気がする。
「私が夢のある話だと思ったのはさ。"諦めなければ最悪の結末を変える事が出来る"、以前はそんなの本当の意味で夢物語だって思っていたからなんだ。」
今の時代に生きている以上。
現実がそんな甘いものではない事くらいとっくの昔に理解していた。
「その神機使いは決して優れた神機使いではなかった。たまたま偏食因子に適合して、たまたま適合する神機が見つかって。私も直接話した事はあるけれど、率直に言ってどこにでもいるごく普通の神機使いだった。」
-ただね、あの人は言っていたよ。-
"俺はたまたま運が良かっただけ。何ならアラガミを倒した直前まで意識が飛んでたくらいだしな。"
"まぁそうだな。強いて言うなら…"
"
「諦めなかっただけ…文字通り、命の限り…」
リッカさんが語った見ず知らずの神機使いの言葉。
無意識のまま、心に染み込ませるかのように小さな声で呟き、反芻する。
「言ってしまえば奇跡的に幸運が折り重なっただけなのかもしれない。けれどその人は文字通り、最後まで諦めなかった事で誰もが諦めていた最悪の結末を退ける事が出来たんだ。」
諦めなければ未来を変えられる。
もし私達の持ち得る技術が、それを実現させるための一助になるのなら。
「ね?夢のある話でしょ?…だけど!だからと言ってそれが無茶をして良い理由になったりなんかしない。わかるよねリーダー?」
「ほら、言われてますよリーダー。周りから見るとこういう評価なんですからね。」
「ですって先輩。私が怒る理由がわかりましたか?」
二人から視線が向けられるのに合わせ。
流れるように少し離れた位置にいる神機使いに会話を向ける。
うん、顔を背けたってことは自覚はあるようですね貴方。
であればこのまま二人の言葉を押し付けて--
「…訂正するね。他の人がやっているからというのも理由になったりなんかはしない。わかるよね二人とも?」
「リーダー、そういうところがあの人に似てるって言われる理由なんですよ…」
時折出てくる一般神機使いさん。
新人君ちゃんから熟練ニキネキまで種類豊富。
そんなとある神機使いさんのお言葉でルーキーちゃんのメンタルが更に強化。
第二スキル「諦めない心」がインストールされました。
長くなったので区切ります。