無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~   作:猫丸飯店

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Q.どこまで勘付いた?
A."一部の人間にしか見えないのでは?"と言う所まで。

そして"肩を叩かれて顔を向けたあの人も当然認識している筈…"⇒"やっぱり喋れない事を良い事にわざと誰にも伝えず何か企んでる!"と思い至るまでがワンセンテンス。



無口と神機の任務録-幕間3-

ふぅ、危なかった。

ここ最近見られる事に慣れ過ぎてちょっと油断してたかな。

 

確かに現状、僕は彼女やこの人にしか感じる事が出来ない存在。

けれど二人にとっての僕は決して幻覚の類ではない。

 

見かければ意識をこちらに向けてくるし。

流れ次第では普通の人間と同じように僕を会話の話題に上げてくる。

 

けれど周りから見ればそれは何とも奇妙な光景だ。

何しろ姿どころか存在すらしない人間の名を呼び、あまつさえその場にいるかのように振る舞うのだから。

 

うん、医務室送り待った無しですね。

僕が相手の立場だったら迷わず休息する事を勧めますし。

 

本当、たまたま神機使いの数の帳尻が合っていたのは僥倖でした。

アリサさんやリッカさんもレーダーの不調とリーダーさんの疲労のせいだと勘違いしていましたし。

 

今しばらくは僕の存在が周りにバレる事は無いでしょう。

なので差し当たり、僕がどうにかすべき点と言えば…

 

 

 

 

 

「………………………………………………」

 

 

 

 

 

うーん、凄い見られてますねこれ。

無表情なのも相まって普通の人間より圧が凄まじいです。

 

こっちに関してはついてなかったというかなんというか。

まさか部屋を出ようと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その時見えたのは僕が僕に向かって肩を叩いたという不思議な光景。

そして同時に脳裏に響き渡った、未だかつてこの極東支部で聞いた事の無い人物の声。

 

極めて直近、しかも極短時間の出来事ではあったけど。

それは紛れも無く感応現象、相手の記憶を本人視点で追視する現象で。

 

であれば十中八九、あの声の主はこの人本人。

確認すべき心配事はあるけれど、この点に限って言えば思わぬ収穫だ。

 

何しろこの人、神機以上に意思疎通が難しい。

こちらから伝える分には問題無いが、向こうから伝えてくる方法が余りにも少なく拙いのだ。

 

おまけにリーダーさん曰く、喋れない事を悪用してわざと伝えてこない事もあるそうな。

ただでさえ難しいコミュニケーションを意図的に難しくしてくるというのだから、性質が悪いと評するより他ありません。

 

あぁ、だからこの人、レポートとか報告書とかまとめるの上手いのか。

伝える前に予め文書として推敲した上での伝達…うん、事実なら間違いなく故意ですね。

 

ところがそんな厄介な人物が相手でも。

この感応現象を利用すればこの人が何を考えているのかを容易く知りえる事が出来る。

 

新型神機の適合者同士という以外、正確な発動条件は分からないのでこれに頼り切る事は出来ませんが。

それでもこの人が何を考え、喋ろうとしているかを知れるというのはこの人と付き合う上で非常に大きく役立つ筈。

 

あの危ない光景さえなければリーダーさんにも教えられるんですけどね。

まぁその辺りについては今は置いておくことにしましょう。

 

………

 

さて、幾分話が脱線しましたが。

今僕が確認すべきことはただ一つ。

 

この人が見た光景が。

果たして僕と同じように直近の僅かな期間に限った光景だったのか?

 

正直この人相手に正体がバレた所でどうもしないとは思うのですが。

それでも余計な不確定要素を増やす必要性はありません。

 

ましてやこの人、アラガミに対して妙な感情を抱いているみたいですからね。

 

復讐、愉悦、それに義務。

パッと考え付くのはこの辺りですけど、そのどれもが正確に的を射ていない気がします。

 

まぁ僕が人間の感情の機微に疎いだけなのかもしれませんけど。

 

つまりは未知数。

なので今は僕の正体については秘密にしておく事こそ最善手。

 

こちらから伝える情報は最小限に留めたまま--

 

 

「誤魔化すのも得意じゃないので。単刀直入に聞きますね。」

 

--見ました?

 

「………………………(コクリ)」

 

--どこまで?

 

「………………………(首傾げ)」

 

うーん、人間と会話している気がしない。

どちらかというと頭の良い動物に話かけてるという感が凄いですね。

 

見たには違いないけど何を見たのかまでは全くわからない。

辛うじてイエス・ノーに関しては身振りから判別出来ますけど、それ以外の情報が全くと言っていい程伝わってこない。

 

今更ですけどリンドウって実は凄い人間だったんですね。

あの頃のソーマさんも今のこの人みたいな感じだったのに、心折れる事無く話かけ続けたんですから。

 

僕は正直心が折れそうかな。

何だったら他の神機の声に耳を澄ましてる方がまだ答えてくれるような気がする。

 

まぁだからと言ってここで諦める訳にはいきませんが。

会話で目的が達成出来ていない以上、それ以外の手を考えなくてはいけません。

 

 

 

 

 

 

「…いっその事、もう一度試してみましょうか?」

 

 

 

 

 

---

 

彼の肩へと手を置いた数瞬後。

今見ていた視界とは異なる光景が再び眼前に広がっていく。

 

無機質な地面に広がる真っ赤な水たまり。

その中で一心不乱に何かを食べている黒い影。

 

それはアナグラ内の何処かとは到底思えない。

それほどまでに暗く深く、どこか遠い場所のように感じる光景。

 

…大丈夫、今回でもう三度目だ。

 

今はアレそのものに害は無い。

下手に刺激さえしなければ何も起こらない。

 

 

何しろ当の本人が()()()()()()()()()()()()()

 

---

 

 

 

 

 

赤い水溜りを渡り。

無表情の神機使いを無視し。

人にぶつからないようエントランスホールを抜け。

 

早足に辿り着いたのは神機保管庫へと通じる通路。

今まさに自分たちがいる場所である。

 

そこには彼に話かける自分がいて。

無言のままその言葉に頷きを返すあの人がいる。

 

『…見ました?』

-見えた見えた。アレが噂の感応現象と言う奴か。-

 

ただし先程彼に触れる直前の光景とは異なる点が二つ。

 

一つは保管庫で見た光景同様、話かけられているのは僕自身。

即ち、いつの間にか僕の意識は彼の視点へと変化している点。

 

もう一つは僕の問いかけに答えるように。

彼の心の声ともいうべきものが僕の頭の中に聞こえてくる事。

 

『…どこまで?』

-どこまで?どこまでも何も…あんな短い光景の何からどこまで?-

 

そう頭の中に響く声に合わせるように。

首を傾げて僕を見つめる彼の感覚が伝わってくる。

 

-レンの視点から俺の肩を叩いた光景が見えただけじゃないか。それとも俺の後ろに何かいるとか言うんじゃないだろうな。-

 

うん、話(?)を聞くにどうやら僕同様に直前の光景が見えただけの様子。

幸い僕が懸念していたような事はなさそうだ。

 

-止めろよ、俺は幽霊とか信じない性質なんだ。あぁ勘違いするなよ、別に幽霊が怖いとか言う話じゃないぞ。-

-見えもしない存在を一々恐れるほど俺は想像力豊かな人間じゃないんだ。まぁ仮にいるとすれば俺の両親辺りはこう肩に乗っかっていそうだが…-

-この話は止めようか。幽霊なんて存在しないんだ。最初シオを幽霊と見間違えたのも実は新種のアラガミかと誤解したからで…-

 

 

…いや、と言うか貴方。

これが本当に貴方の心の声だとしたのなら。

 

想像以上に口数多くないです?

あの無言無表情の鉄仮面にこれほどの意味が込められていたんですか?

 

普段喋れないからその分溜まってるんだと言われたらわからなくもないですけど。

それでも同じ喋れない神機にしたってここまで饒舌じゃありませんよ。

 

えぇ、僕が言うんですから間違いありません。

 

……………………………………………………………………………………………

 

レンの手が肩に乗せられた次の瞬間。

視界にノイズが走るのと同時に視点がレンからのそれへと切り替わる。

 

目の前にいるのは他でもない俺自身。

我ながら若さの中に古参の風格を携えた中々のイケメンである。

 

当然良いのは見た目だけでは無い。

レディーファーストを重んじる紳士であると同時に場を和やかにするユーモアの持ち主で内面においても死角無し。

 

両親の教育もさることながら、息子の人間的な出来の良さも伺える。

まぁ実際は人間の良さどころか、真っ当な人間性すら怪しかった時期があったけどなハッハッハ。

 

っと、いけないいけない。

今は絶賛感応現象の最中だった。

 

アーカイブの記録程度にしか知らないが。

感応現象と言うのがお互いの認識を共有する事象と言う程度には知っている。

 

そして恐らくはレンも感応現象の真っただ中。

つまりあまりアホな事を考えていると後々筒抜けになって大恥を掻く羽目になる可能性がある。

 

集中集中、クールになれ。

ユウマ君はやれば出来る優秀な子っと。

 

『…見ました?』

 

そんな事を考えている内に。

依り代状態と言えるレンの口から先程問い掛けられた言葉が発せられる。

 

「………………………」

 

それに対する答えは目の前の神機使い…というより俺からは無く。

ただ無言のまま頷きを持って返される。

 

おいおい、聞かれてるんだから返事くらいしろよ俺。

質問には元気良く答えましょうって両親から教わっただろうが。

 

それとも感応現象って完全に過去の記憶が再現される訳じゃないのか?

単に俺の言葉は覚えてないので再現出来ないってオチだと悲しいが。

 

『…どこまで?』

「………………………」

 

いや首傾げてないで答えろよ。お前のその口は飾りか?

今日日アラガミだって質問されたらちゃんと元気良く答えるぞ。

 

ちなみにシオって言うんだけどなそのアラガミ。

 

というかだ。

この映像何だかとっても悪意が無いか?

 

そりゃ俺はタツミやコウタに比べれば口数の多い方とは言わないが。

流石にもう少し真面に返事くらい…

 

あ、そう言えばこの時は考え事してたから答えてないかも。

 

待て待て、いやだってこれ質問の方も悪いだろ。

確かに単刀直入に聞くとは前置きされたけど。

 

そこから出てきた言葉が「見た?」と「どこまで?」だぞ?

安いラブコメにありがちなラッキーなんちゃらの一幕じゃないんだから。

 

寧ろあの単語だけでさっきの感応現象まで思い当たって。

そこから"もしかしたら見えてはいけないものの話"まで思考を広げれた事こそ褒められるべきだろ。

 

つまり今回はたまたま返事しそびれただけの話。

だからこんな感じの悪い人物像は今回限りにしておいてくれ。

 

 

と、レンの身体に入っている内に一頻り弁解しておく。

 

レンがこの言い訳を聞けるかどうかは知らないが。

せっかく人様の身体に入った事だし、書置きのようなものと言う事で一つ。

 

 

 

 

 

そうそう。

人様の身体に入っているというので気が付いたが。

 

 

 

 

 

俺の意識が入っているらしきレンの身体。

 

 

 

 

 

何だか()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

そんな事あるはず無いんだが…

 

 

 

 

 

あの忌々しいクソトカゲの雰囲気がする。

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

ハッハッハ、イッツ・ア・ラビットジョーク。

今は別にウサギの恰好してないけど。

 

まぁレンからクソトカゲ…もとい、アラガミの臭いがするというのもあながち外れた話ではない。

 

神機使いというのは偏食因子を投与して神機を扱えるようにした言わば人工のアラガミ。

アラガミに固有の臭いがあるというなら神機使いからその臭いがしたとしても別段おかしくはない。

 

そして古参兵と言えど犬ではない。

いくら神機使いの身体能力が優れているからと言って、天然物と養殖産を識別する程の嗅覚までは流石に持ち合わせてはいない。

 

第一、仮に神機使いからその臭いがしたところで別にどうこうする訳じゃないし。

アラガミを見逃す程慈悲深い性格はしていないが、だからと言って見つけ次第皆殺しにするようなサイコパスでもない。

 

せっかく助けた息子がそんな狂人だなんて親不孝も良い所。

まぁコウタに匹敵する程の孝行息子である俺には関係無い話…おっと、何時の間にか現実世界に戻ってきてる。

 

意識は途切れていない筈なんだか戻った瞬間に全然気が付かなかった。

これ移動中や戦闘中に起きたら普通に危ないな。

 

もしミッション中に新型神機使いに触るような事になった時は注意しよう。

 

まぁいいや。

トカゲ云々の話をしてたら変な臭いしてないか気になってきた。

 

何しろここ最近着ぐるみを着込む機会が多かったからな。

空調の効いたスーツとはいえ、普段の服装に比べたら幾分こもる。

 

身嗜みに気を使うのは紳士云々の前に組織人としての常識。

こまめにシャワーを浴びれる身分というのは神機使いという職の良い所だな、うん。

 

あ、もういいかレン?

そっちも意識が現実に戻ってきてる頃合だろ。

 

神機の強化状況を見せたいって話だったけど。

ルーキー達が来てうやむやになっちゃったからまた今度な。

 

…ん?どうしたレン?

 

「…あ、すみません。ちょっとぼーっとしちゃいました。リーダーさん程じゃないですけど、僕もちょっと疲れてるのかもしれませんね。」

 

それはいけない、疲労はゴッドイーターの大敵だ。

無理せず今日はもう休むと良い。

 

 

俺も酒飲んで寝るから。

 

「またお酒ですか?貴方さっきも飲んでませんでしたっけ?」

 

いいじゃん、今日は非番なんだから。

抜ける時は思いっきり気を抜くのが優秀な神機使いと言うものだぞ。

 

それにカノンから得られた情報でもうすぐブレンダンの居場所も絞り込めるらしいからな。

その時に備えて、今はお互いしっかり英気を養っておきたまえ。

 

 

 

 

 

…あれ?

何でレンの奴、俺がこの後酒飲むってわかったんだ?

 

今俺、"酒飲んで寝る"なんて口走ったかな?




レン君ちゃんが会話(?)手段をゲットしました。

ちなみに現状他の人は真似できません。
無口さんはアレな人なので心通わすには同ランクのアレが必要なのです。
餌付けの方が簡単とか言ってはいけない。

ルーキーちゃんもその手段欲しがるんじゃないかって?
どうしてもの時は力づくで喋らせる気満々なので不要ですね。
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