無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.インデクス範囲外。
オーバーフローでエラーにならなかった場合稀に良くある。
普通はエラーで止まるのに"おかしなまま動いてる"と言うのが困りもの。
※12/12 タイトルのみ変更しました。
ある日の夜。
整備班の面々が噂しているのを小耳に挟む。
例のウサギ。
何だか見えてはいけないものが見えるらしい。
ははーんなるほど。
全て繋がったぞ。
あの時レンが言っていたのは。
やはりあの部屋に何かいるという話だったのか。
うわぁ怖。
もうあのウサギスーツ着れないじゃないか。
確かに俺は百戦錬磨の古参兵。
例え山のように巨大なアラガミが相手であっても、臆することなく挑んで見せる。
だが相手がオカルト方面というなら話は別だ。
物理の通じない幽霊相手に神機使いの出番は無い。
素直に祈祷師でも呼んでどうぞ。
………
「…何してるのキミ?保管庫であまり変な事されると困るんだけど…」
変な事とは人聞きの悪い。
これは極東に古くから伝わる魔除けのおまじないだぞ。
怪訝そうな表情で注意するリッカの言葉を聞き流し。
食堂から持って来た塩の小瓶の蓋を開ける。
「それって盛り塩ってやつ?…なんで急にここでそれを?」
何、そう大層な話じゃない。
ここは例のウサギが仕舞ってある保管庫。
そしてここはよく整備班の面々が仕事のために訪れる場所でもある。
俺はオカルトなんぞこれっぽっちも信じていないが。
験を担ぐという行為そのものは好意的に考えている人間。
リッカには色々世話になっているからな。
安全祈願にこうして魔除けの類をやっておくのもそう悪い事ではないかなと思ったまでさ。
流石に正直に言うのは照れくさいから言わないけどな。
あとこれは本当についでだが。
俺の分の厄払いも兼ねている。
何だかんだ俺も装備や神機の調整でよく来るからな。
ウサギももう身に付けちゃったし、背中や肩に変なのが憑りついても嫌だしな。
リッカだっていい年した成人男性のガチ悲鳴は聞きたく無かろう?
まぁ別に俺は幽霊とか信じてないし、悲鳴なんてあげたりしないけど。
本当、あくまでついでにってだけ。
…待てよ?
元凶がどこにいるかわからない状態で盛り塩しても、下手したら厄を室内に籠らせるだけなのでは?
こういう時は先に御払いしてから塩を盛るんだっけか。
うーん聞きかじった程度の知識だから細かい所まではわからんな。
まぁいいや。
一応ウサギにも清めの塩振りかけておこう。
怪しいの見えるって話だし、塩纏わせとけば最悪中への侵食は防げて--
「…あ、こら何してるの!塩なんか振りかけたら錆びるでしょ!というかここは精密機械もしまってあるんだから満足したらさっきの盛り塩も片付けていってよね!」
普通に怒られてしまった。
しかも機械のある場所で塩を撒き散らすなと言う正論付き。
ぐうの音も出ない至極当然なお小言である。
うん、やっぱり信じるべきは怪しいオカルトよりも科学だな。
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ここは極東支部のエントランスホール。
神機使いも内勤の人間も、右に左にせわしなく早足に駆けていく。
先程極東支部の人間に通達された重要事項。
解析班と捜索班の情報を元に、ようやくブレンダンがいるであろう地域の絞り込みが完了したとの事。
加えてその情報の精度を裏付けるかの如く。
対象エリア近辺に刀傷を負ったアラガミが確認されたとの事らしい。
通常、アラガミは一般兵器による怪我程度なら瞬く間に跡形もなく治癒するが。
オラクル細胞に喰われた傷だけはそうはいかず、治癒するにしてもそれなりの時間を要する。
つまりこれはごく最近オラクル細胞による攻撃を受けたという証左であり。
刀傷と言う事は近接神機の刀身で斬られた傷である可能性が最も高い。
つまりブレンダン君は生きている。
それも短時間であれば戦闘も可能な状態で。
うむ、ここ最近とんと聞く事の無かったグッドニュースだ。
それも未帰投状態でありながらアラガミと一戦交えられるほどに健在とは。
彼が普段から鍛え上げていた筋肉は彼を裏切る事はなかったという証左だな。
とはいえ、偏食因子の投与期限を考えると中々にギリギリのタイミングである。
リンドウの一件で携行型の投与キットの所持が義務付けられるようになったとはいえ、それを適切に使用していたとしてもそろそろ猶予が怪しくなってくる頃合である。
なので救助するのは早いに越したことは無い。
カノンが帰投した事で一時的に落ち着いてはいたが、アネットの目元もまた若干クマが出来始めてきてたしな。
そうそう、カノンと言えば。
「お、お待たせしました!準備完了、いつでも出撃出来ます!」
勢いを込めてそう告げてくるのは他ならぬ元気いっぱいに回復したカノン嬢。
普段のショートヘアーとは異なり、今回は若干伸びた髪をポニーテールに結わえてのイメチェン状態での登場だ。
元々近い内に髪を整える予定だったのが先日の一件で切るタイミングを逃してしまい。
帰投後改めて予定を調整している最中にこのブレンダン発見の報を聞き、急ぎ後ろに束ねる事で応急処置として駆けつけてきた次第との事である。
あれだな、普段は童顔のせいでそれほど印象深く感じないが。
こうして珍しく髪を結わえている姿を見ると妙に実年齢以上に大人びて見える。
「これからブレンダンさんの救助に出撃ですよね。不束者ですが私も精一杯頑張ります!」
しかしそう力強く断言する彼女の目には普段の物腰柔らかな空気は抑えめで。
代わりに歴戦の神機使いを彷彿させるほどに沸々と闘志が滾っている。
加えて言うならいつもと雰囲気が違うせいか例の狂気的な咆哮も彼女の背景に浮かんでくる様子が無い。
例えるなら決意のカノンと言った所か。
うん、カッコカワイイ。普段のアレを知らなかったら惚れてしまいそうだな。
こちらはこちらで別の扉が開いてしまいそうな気がしないでもないけど。
まぁ俺は紳士であるがプレイボーイという訳ではないし。
いくら美人が相手でも年下相手に惑わされる程青い少年という訳でも無い。
もう一年…いや、あと半年は待ってから出直してくるように。
言っておくが今回の俺のケースはセーフティーだ。
年下と言ってもタツミとヒバリ程では無いからな。
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そもそもの発端は昨日の晩。
ブレンダン救助に向けての出撃ミッション発注が通達された日の事である。
ウサギスーツが使えないと分かった俺が救助に向けた装備を整えるべく。
過剰に明かりをつけた倉庫でゴソゴソしていた時の事である。
「…み、見つけましたユウマさん!今少しお話良いですか!?」
以前作ったパーツの埃を払うのに意識が向いていたせいで十センチほど床から飛び上がったものの。
普段通りの平静を装いつつ背後から声をかけてきた彼女に振り返る。
「リーダーさんから聞きました。明日ヒトマルマルマルにブレンダンさんの救助ミッションに出撃するって…あ、あの!そのミッション、どうか私も連れて行ってもらえませんか!?」
両手を胸の前で握り締め、前のめりにそう頼み込んでくるカノン。
精一杯取り繕った俺の様子を知ってか知らずか、彼女は勢いのままにここを訪れた目的について言葉を続けていく。
「その、私の実力が不足しているというのは十分わかっています。でもこのミッションだけは、及ばずながらでも私も力になりたいんです…お願いします!私も明日のミッションに連れて行ってください!」
普段の彼女とは違う力強い主張。
ただ勢い余って別の所も力強く主張してきているため、一旦顔を背けて考える素振りをして見せる。
遅い時間帯、人気の無い倉庫。
二人の男女に頼み事をする麗しき少女。
何も起きない筈がなく…なんて安い三文漫画でしか見ない展開は生憎起こらない。
これでも極東有数の紳士なんでな。
両親に顔向け出来ない真似は絶対にしないのだ。
それにどちらかというと顔向け出来ないのは顔そのものが無い両親の方で…夜遅くにこんな話は止めようか。
まぁ冗談はさておき、俺を見据えるカノンのその意気や良し。
実力云々はこの際ノーコメントとさせてもらうが、こういう強い意志というのは俺は嫌いじゃない。
それに何より眼が良い。
強い意思を感じさせながらも狂気の片鱗すら見えない澄み切った良い眼だ。
きっと今の彼女の頭の中にはブレンダンを助ける事しかないのだろう。
そのために全力を尽くす事はあろうとも、そこにアラガミを撃ち砕くという私利私欲は一切入ることは無いと言えよう。
であれば今のカノンを適切に表すならば"攻撃手段を有する衛生兵"。
自衛どころか戦闘に参加する事も可能な上、前線でそのまま攻撃と回復の両方をこなせる万能性を持った人材である。
うん、普通に欲しい。
俺の部隊に是非欲しい。
よしカノン、君の熱意はよくわかった。
次のミッション、誰が何と言おうと君を同行者として連れて行くと約束しよう。
だからミッション連れてく代わりにこの書類に一筆書いてくれる?
なぁに、単なる異動願い届さ。俺の部隊宛のな。
ハッハッハ、イッツ・ア・遊撃隊ジョーク。
流石にネタが低俗過ぎるから止めとくか。
そもそも今はそうであっても次がどうかまではわからないしな。
出来ればこれからもこの心持ちを忘れないでいて欲しいが。
まぁ彼女はまだ未成年で成長途中だし、焦る事は無いか。
ん?ミッション同行の件?
別に構わんよ。
レディからのデートのお誘いを袖にする程野暮な性格では無いんでね。
誤射しないよう気を付けるって?
大丈夫大丈夫。
俺、今回は多分撃たれないから。
塩を撒き散らして怒られる無口さん。
理由については推して知るべし。
ちなみに無口さんに頼み事する時に「何でもします」って言うと「何でもするって(ry」ってノってくれます。