無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.憧れの人は先輩呼びされる法則。
ルーキーちゃんは無口さんを先輩と呼び。
アネットはルーキーちゃんを先輩と呼び。
未来ではエリナがあの人を先輩と呼ぶ。
ちなみにルーキーちゃんは先輩呼びし過ぎるとたまに名前チェックしてきます。
キャイのキャイのと担がれて。
ブレンダンが医務室へと運ばれていく。
動けない程の怪我でも無しに女性に運ばれるのは恥ずかしいのだろう。
心なしか救いを求めるような視線がこちらに向けられる。
罰当たりな奴め。
無事アナグラに帰投出来ただけでは飽き足らず、レディに囲まれて辛いとでも申すのか。
ビーコンの反応があったからこそMIA判定されていなかったが。
実質的に数日以上それと同じような状態だったくせに。
中堅の域に入っているお前が知らん筈はあるまい?
今日び防壁の外で行方不明になった人間が、
それを五体満足な状態で帰ってきて。
あまつさえ女の子に介抱までされてる状態で助けてくれだと?
馬鹿にしてるのか。馬鹿にしてるのかこの野郎。
俺のような非モテとは違うとでも言いたいのか。
非モテじゃないやい。
この後ちゃんと女の子に囲まれてお茶会の予定が入ってるやい。
社交辞令?
止めてくれ、その表現は俺に効く。
ちくしょう、うわぁん。
奢りのジュース、一番高い奴買い漁ってやるからな。
………
「それじゃあまずはブレンダンさんの無事を祝って…カンパーイ。」
差し出される相手の缶に合わせるように手を伸ばし。
コンと軽い衝突音を立てさせた後、引き戻した麦ジュース(?)を一気に傾け呷り飲む。
美味い美味い、正に美酒。
仲間の無事を祝って飲む酒の何とも格別な味わいよ。
「あの…大好きなお酒飲んでるのに、貴方何で今日はそんなに仏頂面なんですか?」
「仏頂面?先輩、ユウマ先輩はいつもこんな表情じゃ…?」
「私もちょっと分かってしまうような…以前一人だけお菓子食べ損ねた時も、表情と言うより雰囲気がこんなだったような…」
ルミナ君、後で訓練場へ来るように。
何"あぁ…"って感じで納得してやがる。
カノンもカノンだ。
俺がいったい何時そんな空気を醸し出したというんだ。
いくら俺が身も心も若々しい人間と言っても。
おやつ食べ損ねてへこむほど子供っぽい人間ではない筈だ。
…無いよな?
いややっぱりいいや聞きたくない。
真実は何時だって残酷だから。
例え嘘であっても。
見聞きするなら楽しく明快な物だけに。
その方が精神衛生上もよろしいしな。
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「それじゃあまずはブレンダンさんの無事を祝って…カンパーイ。」
ここは極東支部のとある神機使い…もとい俺の私室。
二次会である。
差し出されるのは普通のビール。
普段口にする分には問題無いが、流石にハシゴで呑むとなると少々堪える。
「あれ、口に合いませんか?今回は度数を抑えた物を用意したつもりなんですけど…」
クピリクピリと控えめに飲む俺の傍ら。
ほぼ一息と言える速度でペロリと飲み干したレンがそう聞いてくる。
口に合わないんじゃなくて腹に入らないんだ。
というかこれで度数まで高かったら流石に口にも入れられんぞ。
俺は大人だからな。
自室で虹色のアーチを建造する隠し芸なんて披露するつもりはない。
君だってその感覚はわか…らなさそうだな。
現在進行形でウワバミみたいな飲み方してるし。
「しかし美味しいですねコレ。以前リンドウが二日酔いとか言ってた時は呆れて物も言えませんでしたけど…」
本当に?
本当にその飲み方で味分かってる?
「ただ強いて言うならもう少しアルコールが強い方が僕の好みですかね。まぁあくまで人間用の飲み物ですし、このくらいに抑えられてるのも仕方ないか…」
いやだから早い、飲むの早すぎるって。
やっぱりこの子人間じゃないって。
多分新種のアラガミに違いないよ。
アルコールに偏食傾向があるとしか思えないもの。
「…さて。本当ならゆっくりとブレンダンさんの無事をお祝いしたいところですが…どうやら食事の方はもう十分のようですし、早速本題に入りましょうか。」
俺の食指の進み具合が悪い事から察しが付いたのか。
飲み干した缶を脇に置いてレンが切り出してくる。
この二次会、元々俺の予定にあったものではなく。
ルーキー達と打ち上げしてる最中にわざわざレンの方から伝えてきた。
それも感応現象を利用し。
労いの肩たたきと見せかけて直接頭の中へ…である。
うん、老婆心ながら言っておくが。
君、自在に感応現象使えるって早めにリッカに申告しといた方がいいぞ。
何時ぞや再現テストが全然うまく行かないってリッカがぼやいていたからな。
飲み会の連絡に使いました、なんて知られた日にはそれこそレンチでどつかれるかもしれないし。
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所変わってここは通称"鉄塔の森"…から少し外れた廃屋の上。
双眼鏡を片手に持ち、レンから聞いた方角を重点的に目視偵察中である。
レンからの本題とやらは大きく分けて二つ。
一つはリンドウを喰ってくれたクソトカゲの所在について。
もう一つはつい少し前に発注されたタツミ達の撤退支援任務についてである。
まぁ端的に言うと。
クソトカゲが撤退中のタツミ達とカチ合いそうで。
そうなった場合最悪全滅の憂き目に会うかもしれないという見解をレンから告げられた。
タツミがトカゲ如きに後れを取る?
ハッハッハ、中々面白い冗談…と言いたいが。
タツミの得意とするのは防衛戦。
勝つ事よりも負けない事に主眼を置いたその戦い方は、強敵の撃破よりも増援が到着するまでの時間稼ぎにこそ本領を発揮する。
しかし今回の相手はハンニバルの堕天種とも言えるアラガミ。
ただでさえ手強い相手である事に加え、既に別の戦闘を終えてコンディションもよろしくない。
客観的に戦力分析した場合、全滅という表現もあながち冗談と言いきれない。
寒すぎて笑えないとはまさにこの事だ。
だが今ならまだ笑い話に変える事が出来る。
レンの話を信じるならまだタツミ達とクソトカゲは接敵していない。
であれば先にこちらが見つけ出して叩っ切ってしまえばいいだけの話である。
そうさ。人喰いの畜生なんざ、片っ端から殺せばいい。
そうすればリンドウだって死なずに…
いや、リンドウだけじゃない。
エリックだって。マルコだって。
俺を助けてくれたあの二人だって。
そうだ、それこそ俺の両親だって。
誰も、誰も喰われずに済んだんだ。
あの時、俺がアラガミを殺せてさえいれば
誰も死なずに、誰も悲しまずに、誰も、誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も--
-ペシッ-
「…少し落ち着いてください。偵察なのにそんな殺人鬼みたいな空気出してちゃ、アラガミだって気付いて警戒しちゃいますよ。」
不意にいつの間にか近寄っていたレンに頬を叩かれ。
我に返ると同時に双眼鏡を外して軽く視線を向ける。
失礼、少々熱くなった。
スマンな。古参とはいえ、何分まだまだ若造なもので。
「焦る事はありませんよ。機会はもうすぐ。それに始まってしまえばそれこそ一日と掛かりませんから。」
そう言ってレンが視線を落とすのは手にする神機。
リンドウを殺すための切り札と称し。
文字通り多くのアラガミの血肉を捧げたその刀身は、初めて見た時よりも更に深く鮮やかな黒と紫に染められて。
「えぇ、もうすぐです。もうすぐだから…リンドウ、もう少しだけ待ってて。」
「………………………」
そうだった。
そうだったな。
君の目的は、あくまでリンドウを解放してやる事だったな。
リンドウは死んでなんかいない。
その身をアラガミと化してはいるが、その中で今なお生き続けている。
だが生きている以上、生きるために人を襲うかもしれない。
アラガミである以上、生きるために人を喰らうかもしれない。
人殺しの外道に。人喰いの畜生に。
人としての生を保ったまま、人の括りから完全に堕ちようとしている。
だから、その前にアラガミという呪縛から解放するのだと。
出会ってからしばらくして、そう俺に吐露してくれたな。
あぁ、おかげではっきり思い出したよ。
俺が何でリンドウを殺そうとしているのか。
アラガミとかクソトカゲがどうとか。
そんな七面倒臭い理由じゃない。
単に優先順位の問題だ。
俺の目的の最上位はあくまでリンドウをアラガミから戻す事。
それが現実的に難しいから、誰かの傷になる前に俺がそれをひっかぶろうとしているだけの話だ。
第一レンはリンドウを殺すために力を貸せと言ってたが。
じゃあ今チームを組んでる俺が手を下したって問題無いだろ。
加えて言うなら。
どうせ俺がやるんだし。
使える手は何だって使わせてもらおう。
携帯取り出しポパピプペっと。
-To:極東支部オペレーター-
-件名:【情報連絡】第二部隊の帰投状況について-
-本文:現時点で未帰投。近辺に新種と思しきアラガミの姿有り。通常種を凌駕する戦闘力を保有していると推測。至急増援を求む。-
これで良し。
この前と違って装備は十全。
レンに加えて増援要請も済んだ今、もはや負ける要素などありはしない。
「その連絡…まさかリーダーさんに伝えたんですか?」
ふはは、まさか。
確かにルーキーは魅力的なレディだが。
彼女はまだまだお子様だ。
デートに誘うには五年は早い。
ただオペレーターにヤバそうな奴がいると業務連絡しただけさ。
そう言えば今日のオペレーターはヒバリだったかな?
まぁ彼女ならちゃんと
もっとも、今極東支部一番の実力者と言ったら一人しか思いつかんがな。
誰かのために戦える。
実に、実に素晴らしいですね。
理詰めで蓋したとか爆弾ゲームだとか言ってはいけません。
閾値を超えない限りはセーフなのです。