無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.ちょっと心が弱ってるだけ。
感応現象発生でSAN値チェックに失敗。
おまけにレン君ちゃんに煽られてちょっとメンタルがやられ気味。
最終戦直前に曇る主人公…定番ですね。
-貴女はあの「アラガミ」を殺せますか?-
以前榊博士にも問われた言葉を。
私の答えは以前と同じ。
変わらぬ決意と想いのままに、あの時と同じ言葉を彼に返す。
リンドウさんは生きている。
あの人の心を残したまま、生きながらアラガミに成り果てようとしている。
覚悟していなかった訳ではない。
でも"もしかしたら"と希望を抱いていなかった訳でも無い。
…今更ながら。
自身が抱いていた不満の浅はかさを思い知って嫌になる。
不平を述べた人物の立場になり。
ようやく何故あの人が誰にも伝えなかったのかが理解出来た。
レンと初めて話した時に起きた感応現象。
もし先に見たリンドウさんがあの時見た光景と同じ姿であったなら。
私はここまで彼に言葉を返す事は出来なかったと思う。
一度アラガミになった人間を戻す術は存在しない。
しかしアラガミになっていないのであれば、リンドウさんのままでいられる事が出来るかもしれないと。
きっと、きっと私はそう思ってしまう。
少なくとも今の私ならそう思う。
もしかしたら。
あの人もそう思って私達の捜索に付き合ってくれていたのかもしれない。
そして私と同じように諦めてしまったのだ。
リンドウさんが面影すら残さぬ姿に変わり果て、最早元に戻る術は存在しないのだと。
先のレンの言葉に反論の余地は無い。
アラガミ化を治療する方法は無く。
しかし今ならまだリンドウさんとして介錯してあげる事が出来る。
そしてそれが出来るのは他の誰でもない。
リンドウさんの神機に触れた事のある自分とあの人だけであると。
………
無言のまま。
神機保管庫に向かって足を進める。
途中誰かに話かけられたような気もするが。
その歩みは止まらない。
この後の動きについて思考を巡らせるのが精一杯で。
答えを返す余裕などとても無かった。
レンによるとリンドウさんはエイジス島近郊にいるらしいが。
先にあったアーク計画の一件により、極東支部からの直通路は現在封鎖されている。
通常であればツバキさんか榊博士へ事情を説明し。
極東支部からヘリコプターで直接乗り込む流れとなるのだが。
「………………………」
あの人が喋れない事を悪用…いや。
利用する理由がわかってしまった。
言えない。
言いたくない。
説明は出来ないし理解するのも難しい。
けれどこれだけは間違っていないのだと断言できる。
言ってしまえば、
通常の移動手段は使えない。
まずはヘリや支部からの通路を使わずにエイジス島へ辿り着く経路を見つける必要がある。
歩きながら携帯端末で検索した所。
答えは思いの外早く見つかった。
先日見つかった愚者の空母付近にあるという地下通路。
それを使えば陸上ルートでエイジス島に到達する事が出来る。
幸運な事に中型種の討伐依頼が発注されている事は確認済み。
これをカバーミッションとして受注し、そのまま徒歩でエイジス島へ侵入すれば良い。
移動手段が何とかなりそうになったところで。
次にリンドウさんの神機の持ち出しについて考える。
自分の神機については問題無い。
本人所有の神機であれば特に誰かの承認を得る事無く、自分で端末を操作して持ち出し申請すれば良いだけの話。
しかし他人の神機に関してはそうはいかない。
万が一にも取り違えなどが起こらないよう。
部隊長以上の人間が、必ずその場で承認する必要がある。
…うん、この点についても問題無い。
リンドウさんの代わりとはいえ。
今の私は歴とした第一部隊の部隊長。
そして承認してもらう相手は私と同じく。
事態の全てを把握しているあの人。
言うんだ。
あの人に、言わなくちゃ。
リンドウさんを殺すために、力を貸してくださいって。
言うんだ。
言うんだ。
「…言わ、なくちゃ…」
我ながら眉をしかめるような酷い思考。
けれど今だけは、心の底から思ってしまった。
いっそ私もあの人のように。
言葉を喋れない人間であったなら、と。
……………………………………………………………………………………………
音も無く横から伸ばされた腕。
咄嗟の判断でそれを掴み止め。
それ以上の操作が出来ぬよう、認証装置を兼ねた端末から差し込んだ腕輪を引き抜こうと試みる。
-ズダンッ!-
が、彼女にとってもその行動は予想の範疇だったのだろう。
引き抜きかけた腕輪を勢いよく押さえ込み。
同時に掴まれた腕に力を込めて、強制的に承認ボタンを押そうと試みる。
「………………………!」
「離してください…本当、どうしてこういう時ばかり勘が良いんですか貴方はっ…!」
馬鹿野郎、
リッカが頼んだって言うのが方便だというのは理解した。
そんなすぐバレるような方便を使ってまで事に及んだ理由を先に話せ。
止むにやまれぬ事情があるんだろう?
誰にも頼れない、自分だけで解決しなくちゃいけないような事情が。
心配するな。
内容次第じゃ協力してやる。
サクヤ達にも手を貸してやった事あるしな。
仲間の事情を推し量るくらいの情と経験は持っている。
でも強硬手段に訴えてる間は協力してやらん。
神機使いはあくまで組織所属の人間。
情をかけるにせよ、それはあくまで決まりの範疇を踏まえた上での事。
理由も説明しない人間に無条件で融通を効かせてやるほど、俺は世間知らずのお坊ちゃんではない。
もっともそう強がってはみるものの。
押さえつけられた腕輪は全く動かせないし、掴んだ腕も少しずつ押し負けてきている。
ぶっちゃけそう遠くない内に押し通される程度にはジリ貧だ。
無論、手段を選ばなければ抗う術はいくらでも残ってる。
いくら強いと言っても所詮はルーキー。
その実力は何処まで行っても対アラガミを想定した上での話。
無防備に晒された腹を蹴り飛ばすもよし。
身体ごと入れ込んで掴んだ腕をへし折るもよし。
本気で止めようと考えたなら。
片手じゃ足りんほどには手段がある。
良かったなルーキー。
俺が紳士で淑女が君で。
男だったら?
この話は止めておこう。
そんな訳で手を上げるという選択肢は全て除外。
当然ながら頭突きやキックと言った"手じゃないからセーフ"なんて屁理屈も認めない。
しかし残念ながら俺は紳士、即ち立派な男の子。
例え可憐な少女が相手であっても。
打つ手を残したまま無法に屈するような真似はしない。
という訳で…
悪く思うなよルーキー。
-ミキミキミキッ!!-
「ッツゥ…!!」
予想通りルーキーの顔が苦悶に歪み。
同時に込められた力が弱まる。
そりゃそうだ。
身の丈を超える巨大な鉄塊を振り回す神機使いが誇る握力。
そいつを手加減無しで思い切り、掴んだルーキーの腕にお見舞いしたんだからな。
並みの人間ならこれ一つで全治一ヶ月の骨折コース。
いくら神機使いが丈夫とはいえ、これですまし顔のままだったら普通にビビる。
手を上げるという選択肢は除外したんじゃなかったのかって?
何を言う、
安心しろ、精々一日二日痣になる程度だ。
レディの柔肌に傷を残すような深刻な事態になどなりはしない。
精々痛みで怯ませるのが関の山。
しかし怯めば当然力は緩む。
そこを間髪入れずに端末から腕輪を引き抜き。
改めてルーキーから事情を聞けば万事良く--
「ウ、グゥッ…!!」
…ん?
「ウウウゥゥゥッッッッッッ!!!!!!」
-ググググググッ…-
ッッッッ!?!?!?
冗談だろ!?
何でこの状況で俺の方が押し負ける!?
確かに直接的な危害や妨害は加えていない。
だが力づくで押し通せるような状態では間違ってもない筈だろ!?
怯まないどころの話ではない。
文字通り押し通ると言わんばかりに指先がボタンへと近づいていく。
マズい、このままじゃ押される!
それだけは絶対に認められん!
力を籠める。
骨どころか肉すら千切れかねない音がする。
紳士がどうこう言っている場合ではない。
手加減などという思考は最早消えさり、逆に危害を加えるなどと考える余裕すら存在しない。
全力で握り、全力で止める。
しかし彼女の腕が止まらない。
止めれぬ左手に動かぬ右手。
思わずルーキーの顔を睨みつける。
-…ッ!!-
-………ッ!!-
「ッッッッッッ………!!!!!!」
ああくそわかった。
そういう事か畜生め。
ボタンが押されるまであと数センチ。
意地で踏ん張りつつもにわかに悟る。
詳細は何一つ分からんが。
今強硬手段に訴えている理由だけは分かった。
切羽詰まっているのだ。
今の彼女に、誰かを頼る余裕など欠片も存在していない。
目を見ればわかる。まさに責任感の塊だ。
自分がやらねばという、まさしく呪いのような感情に支配されている。
なればこそ。
だからこそ。
この場は
これは冷たいとかそういう安い感情論の話ではない。
どれだけ強い激情を抱こうとも、それだけではオウガテイル一匹まともに殺せやしないのだ。
既に俺が実体験済みなんだから間違い無い。
ルーキーだってわかる部分はあるだろう?
リンドウがMIAになったあの日。
もし全員感情的に、リンドウを助けようとしてたらどうなっていた事か。
個人的には屁理屈こねるなと言われたら言い返せないが。
お前が弱いからそうせざるを得ないだけだろうと。
まぁその話は今はいいや。
そんな訳でルーキーの気持ちは十分わかった。
わかりはしたが、わかる訳にはいかない。
現実は非常なのだ。
想いだけでどうにかなるなら、アラガミも神機使いもこの世に存在しちゃいない。
間違っても意地になっている訳ではない。
別に女の子に力で負けて悔しいとか思ってないし。
という訳で正真正銘最後の手段。
認証装置に施されたセキュリティの一つ、何らかの方法で意に反しない認証を行わせないための警報装置を利用する。
すなわち
恨むぞルーキー、いやマジで。
俺にここまでさせるんだ。
この後洗いざらい全部吐いてもらうからな。
行くぞ、ちゃんと押さえておけよルーキー。
流石の俺も自分から腕を折り直すなんてしたくないからな。
頼むぞ?信じてるぞ?
一、二の…
-ガシッ-
え?
-グイッ-
あ。
『承認確認、ロック解除』
「…駄目じゃないですか。貴方、いよいよ女の子に手を上げる程落ちぶれたんですか?」
「あ、でもサクヤさんやアリサさんには銃を撃ったり神機で斬りかかったりしてましたっけ?それに比べたらまぁ手加減してるとも言えますけど…」
「いや、やっぱり駄目ですね。ほら見てください、痣になっちゃってるじゃないですか。」
端末から流れる機械音声。
目をパチクリさせるルーキーを他所に、ニッコリとどこか意地の悪い笑みを浮かべてレンが告げる。
「まぁそれはそれとして…自称紳士の神機使いさんは当然、女の子をキズ物にした責任を取ってあげるんですよね?」
-まさか好き勝手した挙句無責任に放り出そうなんて真似…御両親に誓ってやったりしませんよね?-
ここぞとばかりに無口さんの弱点を突きまくるレン君ちゃん。
急所に当たって効果は抜群です。
ルーキーちゃんが言ったら?
"いちげき ひっさつ!"のエフェクトが出ちゃうので駄目。