無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.実はルーキーちゃん側にもレン君いた。
つまり三対一。
普段から紳士紳士言ってる無口さんに卑怯と言う資格はありません。
やられた。
まさかこのタイミングで乱入してくるとは。
「まさか好き勝手した挙句無責任に放り出そうなんて真似…御両親に誓ってやったりしませんよね?」
はっはっは、冗談にしても笑えないなレン君よ。
レディ相手に俺がそんなドクズムーブする訳無いだろう?
しようとしてはいたけれど。
まぁわざわざ余計な事を言って下がり気味な株を暴落させる必要は無い。
…バレてないよな?
図星過ぎて声出なかったけど。
別にそこまで変じゃなかったよな?
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ここは極東支部の神機保管庫…の隣にある物品倉庫。
アナログなダイヤル式の鍵を弄って施錠を外し、この後の出撃で必要となるであろうあれこれを持ち出していく。
最も重要なのは神機運搬用の携行ケース。
ケースと言っても神機一振りが丸々収まる程度には大きな代物である。
当たり前の話だが。
ルーキーのやろうとしている事は歴とした規律違反である。
正式な許可を得ずに他人の神機を外部へ持ち出す。
誰かに見られれば間違いなく、一も二も無く呼び止められる。
なのでまずは極東支部から出るまでの目隠しとしてケースに入れる。
取り出す手間の関係上、ケースに入れて出撃するというのは珍しくはあるもののゼロではない。
余程勘の良い奴でも無い限り許可を得てない神機を持ち出そうとしているとは思いつかない筈である。
しかしここで一つ懸念事項が発生する。
今回出撃する神機使いは俺とレンとルーキーの三人。
対して持ち出す神機はリンドウの分を加えた四人分の神機。
普通に行けば"一人分多くないですか?"と出撃登録時に突っ込まれて止められるのがオチである。
ならばどうするのかというと話は簡単。
"今回は二刀流で行くから!"と元気に説明するだけである。
もちろん、普通の神機使いなら言った所でまともに取り合ってすらもらえない戯言。
しかしこの極東支部において俺が言う分についてはその限りではない。
だって俺、
出来る出来ないで言えば出来る人間だもん。
まぁ実際にそんな事言ったら怪訝な顔でリッカ呼ばれるだけなので言わないが。
神機の調子が良くないから予備でもう一本持っていくというのが妥当な線か。
そんな訳で一番のネックである出撃直前の誤魔化しもうまく行く目途が立った。
後は持っていかない方の俺の神機をメンテナンスルームに仕舞ったり。
出撃前にバレないよう、リッカ達に嘘の業務連絡を回したり--
「あ、あの…止めないんですか私の事?さっきまであんなに抵抗していたのに…」
せっせと出撃に向けて準備を進める中。
おずおずと不安げな様子で発せられたルーキーからの疑問の言葉。
ん?何だ止めて欲しいのか?
良いぞレディ、それが望みなら仰せのままに。
聞くだけ野暮だろうから聞かないけど。
ほら、俺の気が変わらない内に君もさっさと準備しなさいな。
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レンに逃げ道を塞がれてから即座に思考を巡らせて見たところ。
今置かれている状況というのは最初に俺が思っていたよりも悪くないという事に気が付いた。
まず俺の目的は当面リンドウを殺さず生かしたままにする事。
ここで一番困るのは俺の知らない所でルーキー達討伐班が差し向けられる事が決定してしまう事である。
戦闘力の関係上、タツミ達防衛班の面々が差し向けられる事はまず考えにくい。
だが第一部隊総出との戦闘となれば、さしものリンドウであってもこれは少し以上に分が悪い。
これは極東支部の上層部…というより榊博士やツバキさんの見解とも恐らく一致している。
予期しない遭遇戦ならばともかく、入念に事前準備を施した上での総力戦なら高い勝算を見込んでいる事だろう。
万が一そんな決定が下されてしまった日には、最早一神機使いである俺にそれを止める術はない。
故にそのような状況にならないように。
まずは総力戦における勝算を減らし、そこに踏み切れるだけの判断要素を削っておく必要がある。
具体的には第一部隊において突出した戦闘力を持っているソーマとルーキー。
この二人を持ってしてもリンドウのハンニバルとやり合うには分が悪いという情報があれば。
損耗覚悟の総力戦などそうそう簡単な事では踏み切られる事はなくなるだろう。
そこで俺は今回のルーキーの動きに便乗し。
この既成事実を早々に作り上げてしまおうというのが俺の今回の目的である。
ソーマいないだろって?
ハッハッハ、さては貴様シロウトだな?
目の前の人間をよく見て見るがいい。
………
当然と言えば当然であるが。
俺はルーキーにリンドウを殺させるつもりなんぞさらさらなく。
そういう意味でも今回やられた振りをしてわざと討伐に失敗するというのは一挙両得の名案と言えなくもない。
レンの言い分とて確かにわかる。
確かに今はまだリンドウの意識は残っている。
しかしこれから先、それが一体何時まで残っているかはわからない。
だからこそ、救われたと自覚する事の出来る今の内に介錯をしてやるべきなのだと。
失意の底で自我を失う前に、自分達の手で苦しみから解放してやるべきなのだと。
先にも言った通りぐうの音も出ない正論だ。
仮に当のリンドウに質問したとしても仲間を傷付ける前に自分を殺せと答えるだろう。
うん、そんな事知ったことか。
俺はアラガミを殺すために神機使いになったんだ。
死にかけの人間の介錯をしてやるために神機使いになった訳じゃない
首切り役人になんぞ誰が好き好んでなるか。
お試し役なら他を当たれ。
しかしだからといってそれを仲間、それもこんな可愛い年下の後輩にそんな賤業を押し付ける気も毛頭ない。
必要と思わない限りやる気は無いが。
必要となれば嫌々だが殺る気はある。
なに、汚れ仕事は経験豊富なお兄さんに任せておけ。
確かに見た目も実年齢も若々しいが、少なくとも君より数年以上は長生きしてるからな。
実際に言ったら"お兄さん…?"とか聞き返されそうだから言わないけど。
ていうかルーキーは絶対に言う。
何だったら"どちらかというとおじさんの方が近いんじゃ"とか言うまでありそう…
この話は止めようか。
神機使いとはいえども所詮は人間。
二十代の繊細な心というのは、例えるなら硝子どころか飴細工。
無垢な一撃に堪えられる強度など存在しない。
頼みのガッツは既にシオに言われて消費済みなのだ。
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さて、偽装工作の甲斐もあり。
特に疑いの目を向けられる事も無く、後は出撃のための車両格納庫へと向かうだけ…だったんだが。
「どうも任務から戻るなりどうにも様子がおかしいと思ってたが…案の定、ソイツとつるんで何か企んでいやがったか。」
出撃ゲートの先。
その道中にあるちょっとした休憩スペース。
そこで待ち伏せていたかのように佇んでいたソーマが。
足早に通り抜けようとしたルーキーに声をかけて呼び止める。
普段よりも若干深めにフードを被り。
彼女に合わせて若干顔を伏せて話かけてくる彼の表情は俺から見てもイマイチはっきり読み取れない。
「企むなんてそんな…私、普段とそう変わらないと思いますけど…」
「俺どころかアリサやコウタが声をかけても上の空だったのにか?」
おっと、何だか雲行きが怪しい。
というかこの子俺に神機の持ち出し頼み込む前からそんな感じだったのかよ。
「そ、それはその、少し考え事してたというか…」
「…そのケースの中身、リンドウの神機だな?」
俺が手にするケースを一瞥し、淡々とした口調で質問するソーマ。
そしてリンドウの神機かと言われた途端、ビクリと目に見えて狼狽し次の言葉に窮するルーキー。
「し、知らないです私。気になるならこの人に直接聞けば良いじゃないですか。」
「言葉を喋れない人間にか?お前は普段、コイツが喋れない事を悪用しているとよく不満を漏らしていたような気がするんだがな。」
何だと?
ルーキーめ、人の事そんな風に陰口を…
いや、言う程陰では言ってないな。
むしろ目の前でリッカやアリサに言ってるか。
ついでに言っておくが俺は別に喋れない訳では無いし。
ましてやその事を悪用している訳でも無い。
何か知らんが人の事を喋れないと勘違いしている奴が多いだけの事。
期待を裏切るのも何だし、せっかくなので都合の悪い事に関してはご要望にお応えしてあげてるだけの話。
俺は大人だからな。
周りが求めている空気はちゃんと読むことが出来る人間なんだ。
というか逆に聞くが。
何で皆して俺が喋れないと思っているんだ?
俺は一言も喋れないなんて口にした覚えは無いぞ?
タツミやリンドウに比べれば確かにお喋りな方では無いという自覚はあるが。
ソーマやジーナに比べれば遥かに口数多い方だろ。
何だったら独り言も言うし。
まぁ一部の人間の勘違いについてはどうでもいいか。
「い、いいじゃないですか今その話しなくても。ほら、私これからこの人とミッションなんです。気になる事があれば帰ってからいくらでも聞きますから…」
「ミッションね…」
-まさか
あ、マズい。
いやでも流石にこんな見え見えの手に引っ掛かりは…
「馬鹿言わないでください。そのくらいちゃんと事前に調べてありま…す…」
うん知ってた、引っかかる子だったなそう言えば。
意図に気付いたが既に遅く。
答える言葉の語尾が尻すぼみになっていくルーキー。
ソーマも性格が悪いというか。
自部隊の隊長の性格を心得ているというか。
「なるほど…ヘリを使わないのも事前に調べた上での事か?何故大手を振ってヘリを使わない?」
「そ、それは…」
やだ、しかもソーマ君たら意外とドS。
ここまで勘付いておきながらまだ追い込む手を緩めないとは。
まぁこれに関してはルーキーの方が人を騙すのに向いてないというのもあるかもしれんな。
俺の時も何だかんだ最後は力押しだったし。
仕方ない、乗りかかった船だ。
お兄さんが助け舟を出してやるとするか。
………
「どうしたリーダー?やましい事が無いならはっきり答えたらどうだ…っておい。お前はしれっとどこに行くつもり…」
-ピッ。…ガシャコン-
-ピッ。…ガシャコン。ピッ。…ガシャコン-
「えぇ…何でこの状況で普通に飲み物買えるんですかこの人…?」
「…そういやコイツはこう言う奴だったか。まぁいい、三つ買ったという事はどうせこの後…」
何だよ。
買い終わって振り返ったら二人して呆れた顔でこっち見やがって
見るな見るな、見せもんじゃないぞ。
見惚れてるというならまぁ吝かでは無いが。
軽く二人の視線に不満を覚えたものの。
都合良く会話が中断されたようなので、下手にツッコんだりせず手にした飲み物をルーキーに手渡す。
ほれルーキー、奢ってやるよ。
喉が渇いちゃ議論は出来ぬというしな。
「あ、ありがとうございます…?」
突然の差し入れに困惑しつつも受け取るルーキー。
うむ、両手で受け取る辺り初々しくてポイントが高いぞ。
ほれ、ソーマお前も。
遠慮するなよほら飲めよ。
優しい優しい古参兵様が.
無口さんは男相手には本当に容赦しません。
ルーキーちゃん、か弱い女の子で本当に良かったですね。
アネット並みの腕力?
…比較相手も女の子だし、何も問題無いのでは?