無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
※ついでに次話のタイトルが思いつかなかったのでこちらもタイトル変わりました。
Q1.手加減は?
A1.(したら負けるので)ありません。
Q2.素手?
A2.Nein(いいえ)
ここで無口さんはルーキーちゃんをどうやって止めようとしていたか思い出してみてください。
思い出せたらこの人がどんな装備でミッション行っているか、榊博士との会話を思い出してみてください。
なんなら"ちゅどっ"も出来まする。
-Side_ソーマ-
目の前の神機使いが先程購入したコーヒー缶を放り投げる。
宙を緩やかに舞う金属の缶。
特段回転等は加わっておらず、同時にキャッチしやすいよう受け手に配慮した角度でのスローイング。
「チッ、相変わらず調子の狂う…まぁこれでわかったろリーダー。」
こちらに飛来するそれを落とさないよう。
手伸ばし、視線を向けつつ言葉を続ける。
「お前が何を考えてるのかは知らないが…」
視線は目の前の神機使いから缶へと外れ。
意識は目の前の神機使いから少女へと逸れ。
「コイツのような考えの読めない奴に頼るのは止めてお--」
-ズバンッ!!-
「ッ!?な、ガッ…!!」
突如下腹部に叩きこまれる強い衝撃。
手に収まる筈だった缶はそのまま虚空へと飛んでいき。
紡がれる筈だった言葉は、意味を成さぬ呻き声へと姿を変える。
「えっ!?い、いきなり何してるんですか貴方ッ!?」
背後に響く鈍い金属音に、頭上に響くリーダーの声。
そして何が起こったのかを把握するより早く、蹲った自身の首根っこを押さえる何者かの手。
動揺する彼女の声は本気の声色だ。
少なくともこれが彼女の指示、ないし同意を得た上で行われた行為とは考えにくい。
(しくじった、そういう事か!コイツ、最初から協力する気なんて更々…!)
考えてみればそもそもの流れが上手く行き過ぎている。
彼女の行動自体は間違いなく彼女自身の意志によるものだろう。
帰還直後の様子を見ても思い詰めていた事は間違いなく、何らかの理由から行動を起こした事は想像に難くない。
だが本来ならそこに至るまでの障害があり過ぎる筈なのだ。
まずリンドウの神機、即ち他人の神機の持ち出しには部隊長クラス以上の承認が必要だ。
これは彼女一人ではどうしようもない事であり、彼女と
仮に持ち出しに成功したとしても。
不要な神機を持っていれば任務を受注した段階で当然の如く指摘される。
他人の神機など無用の長物どころか一歩間違えれば事故を誘発する火種以外に他ならない。
前もって綿密な計画と根回しをしていたのであればともかく。
更には作戦地点までの移動手段の確保にも問題がある。
今回彼女はヘリでの移動を避けている。
不正な理由で神機を持ち出している以上、それをパイロットに見られるのは望ましくない筈であり、本当の理由如何に関わらずこの点も障害の一つと言えた。
そして車両で行くとした場合、まだ
無論徒歩で行くというのならその限りでは無いが、防壁内に出向くという訳ではない以上、現実的に考えて考えるだけ無意味な選択肢と言える。
持出、携行、そして移動。
細かな問題はまだまだあれど、この三点に絞ってみてもこれだけの大きな障害がある。
偶然にしろ意図的にしろ、その全てを解消出来るこの男を抱き込んだ事は彼女にとって大きなファインプレーだと言える。
では。
彼女はどうやってこの男を味方に引き付けた?
彼女は何を持ってこの男を協力者に抱き込んだ?
"猟犬"とまで評される程にフェンリルに忠実なこの男に。
彼女は何を見返りに掲示して、これほどまでの協力を得るに至った?
答えは単純明快。
この男は最初から彼女に協力などしていない。
相互協力などという考えからは最も遠い。
機械のように冷酷で合理的な思考。
そしてその考えで行くならば、彼女を止めようとする俺の行動は--
-バチバチバチバチッ!!!!-
不意に頭上で不快な破裂音が響きだし。
押さえつける手に一層の力が込められる。
それはオウガテイルやシユウ堕天、ヴァジュラに接触禁忌種であるハガンコンゴウ。
サイズを問わず多くのアラガミが用いる、神機使いであれば誰もが知る危険な音色。
(クソッタレ!野郎、最初の一発はこのためかッ…!)
この後自身に起こるであろう事態を予感し、逃れるべく全力で暴れるものの。
ただでさえ不利な体勢に加えて先程の不意打ちのダメージから満足な抵抗も出来ずに完全に押さえ込まれてしまう。
ただの不意打ちであったならここまでのダメージを負う事は無かった。
視線か意識のどちらかに捉えてさえいれば、躱すまでは無理でも反射的に身をよじらせるなりして威力を最小限に抑えるくらいは出来た筈。
しかし放り投げられた缶に視線と手は誘導され。
喋れない相手故にそもそも会話のための意識すら向けていなかった結果、本来喰らう事の無かった痛撃を許してしまった。
不意を突かれた身体は膝を折って地に伏し。
未だ下腹部に留まる衝撃の余韻に呼吸すら満足に整えられない。
だが打撃だけならそう遠からずして回復する。
いくら完全に不意を突いた一撃とはいえ、精々数分持てば良い所。
つまり、先の一発はただの布石。
確実に意識を刈り取るそれを、確実な期間、確実に当て続けるための下準備。
「ッッッァァァ!!!!!!」
頭上から振り下ろされた不快音が身体に染み込む。
先の一撃とは異なり、今度は苦悶の声すら満足に上げられない。
確かにアラガミの発するそれに比べれば遥かに威力は低いものの。
それでも人一人の意識と抵抗を奪うのには十分過ぎる。
絞り出すような呻きを漏らすのが精一杯の中。
せめてもの抵抗と顔を逸らし上げ、本性を現した神機使いを睨みつける。
そこにあったのは何時もと変わらぬ無口無表情の鉄仮面。
感情を感じさせる事の無い、冷たさを湛えた鮮やかな青い瞳。
実際にそのような声が聞こえた訳ではない。
しかし物言わぬはずの口元が微かに動いたような気がしたのも相まって。
物言わぬはずのその眼がこう言っていたような気がした。
-悪いなソーマ。可愛い後輩の頼みは断れないんだ。-
-安心しろ。彼女はちゃんとリンドウの所までエスコート"は"してやるよ。-
「ッ!!テメェ、ふざ、けるな…!!」
怒りと共に意地で身体を反転させて睨みつける。
だが感情虚しく、抵抗出来たのはそこまで。
グイと駄目押しのように一層深く機器を押し付けられたのを最後に。
意識が眠るように暗い水底へと沈んで--
…
……
………
(ゥ……ッ!?畜生!アイツ一体何処に行きやがっ…ッ!?)
目を覚ましたのは僅かに光が差し込む薄明りの中。
曖昧な思考がはっきりすると同時に先程の神機使いの姿を求めて立ち上がろうとする。
が、出来ない。
正確には立ち上がるまでも無く立たされたままになっており、尚且つ手足は縛られ猿轡までかまされている。
(クソっ!ここはロッカーの中か!?とりあえずここから出て…!?)
鼻につく閉鎖空間特有の臭いと隙間から見える光景にこの場所の当たりを付けたはいいが。
肝心の目の前の扉は膝で蹴とばせどある一点が引っかかって全く開く様子が見られない。
(あの野郎!ご丁寧に鍵までかけやがって!どうあってもリーダーの邪魔をされると都合が悪いって事か…!)
リーダーはリンドウの神機を持ち出していた。
そして榊のオッサンはリンドウがアラガミ化していてもおかしくないとの見解を出している。
恐らくは何らかの方法でリンドウがアラガミ化している事を確信し。
その介錯に向かったのだと推測出来る。
有効な代案が存在しないのだ。
無責任にその決定に異を唱える事など出来はしない。
だが出来るのか?
神機使いになってたかだか半年と経っていない人間が。
アラガミになったからと親しかった人間を殺すことが本当に出来るのか?
否だ。出来る訳がない。
少なくともさっき会話した感触を見る限り、そのような覚悟が固まり切った様子は無い。
介錯に異を唱えれないのと同じで。
それしかないから無理矢理に納得し、何を血迷ったのか自分一人で全ての泥を被ろうとしている。
しかし本心ではがやりたくないと拒絶しているからこそ。
なりふり構わぬアイツの行動に動揺を露わにした。
やらせてはいけない。
覚悟を決めた上でならまだしも、そんなふざけた義務感などで仲間殺しなどさせていい筈がない。
彼女についてはそういう事だ。
じゃあアイツは何のためにリーダーの行動に付き従っている?
利害関係である事には間違いない。
ではアイツにとっての利とは一体何だ?
アイツは曲がりなりにも部隊長で経験豊富だ。
もし単純にリンドウの介錯が目的というならリーダーのように単独行動などとらず、正規のミッションとして万全な戦力を整えて挑むはず。
そもそもアラガミを殺すためにはコアを引き抜く必要がある。
当然自身の神機にそれが動かぬ証拠として残るため隠蔽など無意味。
わざわざ数日かそこら事実を隠すためだけに二人で出向くメリットは存在しない。
では介錯が目的なのではないのか?
その場合、何の意味があって介錯が目的のリーダーを連れていく?
まさか
現時点では答えは出ない。
わかるのは止めようとした人間の口を封じてでも目的を遂行しようとする確固とした決意だけ。
まぁいい。
どちらにせよ、次にアイツに会った時にやる事は決まっている。
リーダーはともかく、アイツには既に警告している。
次からは誰かに相談しろ。でなければ遠慮無くぶちのめす、と。
(覚えてろよあの野郎…!さっきのスタンガンの礼も含めて、このツケはきっちり払わせて…あっ。)
-バタンッ!-
(………………………)
室内に誰かが入ってきた訳ではない。
別に何の事は無く、蹴り込む勢いに耐え切れずロッカーが転倒しただけの事。
先程まで差し込んでいた光は完全に消え。
歪んでは戻るを繰り返していた扉はもはやピクリとも反応しない。
後に残されたのはロッカーに姿を隠されたまま。
猿轡をされて拘束されて地面に転がる憐れな神機使いがただ一人。
フゥ、と先程までの怒りが嘘のように静かな溜息を漏らす。
無論、怒りが鎮まったという訳ではない。
その証拠に心の中である一つの決意を人知れず固める。
ロッカーが倒れたのは単純に怒りに任せて蹴り込み過ぎた自身のせいだ。
だがそもそもどこぞの鉄仮面野郎がふざけた真似をしなければこのような無様を晒す事にはなっていない。
つまり全ての責任はあの神機使いにある。
古参のくせして報連相も出来ない馬鹿野郎には。
文字通り拳で理解させるより他あるまい。
(--やっぱりツケを払わさせるだけじゃ足りないな。)
この際だ。
アイツは一度、本気で再起不能にしておこう。
生還フラグその1。
生きて帰ってこないとソーマさんがボコれませんからね。
エンディングムービーが楽しみです。
ちなみにソーマさんはこの後第一部隊の面々に回収されてエントランスのあのシーンへ続きます。