無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.ルーキーちゃんを4WDするため。
4WDとはセカンドブレイクでコウタが運転してたアレ。
断じてハイエー○ではありません。
なので本は薄くなりませんよ。
-Side_ルミナ-
-君に…彼を殺す事は出来るかい?-
そう告げたのは現在の極東支部における最高責任者。
普段の胡乱な物言いからは考えられない。
科学者特有の冷徹さを纏って発せられたその言葉。
あの時答えた言葉に嘘は無い。
一人で事を成そうとしたあの人に不満を抱いた。
信頼も信用もされておらず、語る価値もない人間なのかと憤った。
けれどあの時の私には資格が無かった。
何も知らず、何も考えず。
ただ感情のみを叫ぶ私にそのような事を言う資格が。
だから話を聞いてそれを知り。
考えた上で覚悟を決めたつもりだった。
-よし!話はまとまった。ではここからは、
目の前に差し出されたのは掴めば切れるような糸程にか細い希望。
けれど私は困惑しつつも、すがるようにそれを掴んだ。
誰もが望まぬ結末。
それを自身の手で掴み取ると言いながら。
自業自得、欲張り者の典型。
きっとあの時あの時点で。
私の覚悟は紛い物へと堕ちたのだ。
………
-貴女はあの「アラガミ」を殺せますか?-
そう告げたのは同じ人間のそれとは思えない、ハイライトの無い橙の目をした神機使い。
普段の柔らかな物腰からは考えられない。
諦めにも似た非情さを纏って発せられたその言葉。
今にして思えば見透かされていたのだろう。
覚悟はとうに出来ていると言いながら。
今尚リンドウさんを助ける事が諦めきれない私の不甲斐なさが。
だからこそ今一度、私の口から言わせたのだ。
ここから先は後戻り出来ない。
悩んでいる時間は既に無く、見せかけの覚悟では何の役にも立ちはしない。
だから私は改めて答えた。
一度アラガミになった人間を戻す術は存在しない。
これから先はアラガミとして生きるより他は無く、それは人として死ぬより辛い地獄。
それこそが私がリンドウさんにしてあげられる唯一の助けであると。
レンにではなく。
自分自身に言い聞かせるように。
不純物だらけの紛い物から。
邪魔な物、不要な余分を削ぎ落とし。
ようやく本当の意味で覚悟を決める事が出来た--
筈だった。
…………
「…あのっ、待ってください。」
ここは極東支部の車両保管庫。
主に近距離任務の際に用いられる兵員輸送車が多数格納されている場所。
「本当に良いんですか…?私、貴方に何一つ言ってないんですよ…?」
神機と装備の最終確認も全て済み。
後は車両で乗り込んで出発するだけというタイミングで言葉が飛び出す。
私を止めに来たソーマを文字通り実力行使で排除し。
何も聞かずにここまでしてくれるこの人に。
言っていない。
言っていないのだ。
一言も。
一字一句として。
リンドウさんを殺すと。
この人に告げていないのだ。
初めこそ抵抗されたものの。
その後は拒絶する素振り一つ見せる事無く、私の想いと変わらぬ行動をしてくれるこの人に。
気付けば後を付いて言ってるのは私の方。
出撃準備にしろソーマの事にしろ。
私はいつの間にか全ての舵取りを委ねてしまっていて。
…結局の所。
私は何一つ覚悟など出来ていなかったのだ。
無論、あの時抱いた感情は偽物では無く。
口にした言葉も嘘ではない。
ただあの人と同じ覚悟を背負うには。
私はあまりにも無知が過ぎた。
覚悟を決めると言う事。
それが一体
何一つ、心の底から理解出来ていなかったのだ。
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感情を感じさせない能面のような表情がこちらに向き直る。
無口無表情の鉄仮面。
喋る言葉を失ってなお、人並みの感情までは失えなかった難儀な人。
「何一つ、何一つ言ってないんです。言わなくちゃ、言わなくちゃって思ってて、でも結局ここまで何も言い出せなくて…」
きっとここが最後のタイミングだ。
ここで私の想いを伝えなければ、私は二度とこの人の隣で戦う資格を失ってしまう。
「…貴方、とっくの昔に知っていたんですよね?リンドウさんが既にアラガミに成り果てているって。」
その言葉に返事は無い。
私は構わず言葉を続ける。
「気に食わなかったんです。リンドウさんを介錯する…そんな辛い事を、貴方が一人だけで背負おうとしていた事が。」
頼られていないことは知っていた。
信用されていない事もわかっていた。
それでも、ただの一言も告げる必要がない。
その程度の存在とまで見られているのかと。
私も。私達も。
そしてリンドウさんとの繋がりさえも。
「だから私も覚悟を決めたんです。榊博士に言われてようやくですけど、それでも貴方だけに背負わせるのが認められなくて。」
そう。
「覚悟は、出来てたんです。出来ていた、つもりだったんです。」
言葉が紡がれるにつれ。
視界が水中にいるかのようにゆらめく。
感情は濁流となって瞳から零れ落ち。
それでも言葉と共に留まる事無く、瞬きも必要としないままポタリポタリと溢れていく。
「私はアラガミを倒すためにゴッドイーターになったんです。」
「誰かに言われるまでもなく。人に仇成すアラガミは何であろうと倒すって決めていたんです。」
何時の間にか発する言葉も途切れ途切れとなっていくものの。
それでも尚溢れ出した感情は止まらない。
「でも、でも嫌なんです。わからないんです。」
「私、リンドウさんを助けたいんです。もし今も苦しんでいるんだとするなら、一刻も早くその苦しみから早く解放してあげたいんです。」
「でもそのためには--」
--殺すしか、ないんですよね?
--他に、方法なんてないんですよね?
「わかってるんです、それしかないって。死なせたくないだなんて事は、ただの私の我儘に過ぎないなんて事は。」
「でも、それでも死んでほしくないんです。私、リンドウさんに生きていて欲しいんです。例えアラガミに成り果ててたとしても、
--でも、無理なんですよね?
--もう殺してあげる事しか、リンドウさんを苦しみから救い出すにはそうするしか方法が無いんですよね?
「頭ではわかってるんです、それしかないって。でも、それでも嫌なんです。納得なんてしたくないんです…!」
--だから、教えてください。
--どうか、手を貸してください。
「貴方、たった一人で動いていたんですよね?誰の手を借りる事無く、貴方の思う最善を考えて動いていたんですよね?」
私よりもずっと長く。
私以上に悩み苦しんで。
そうまでして諦めてしまった貴方なら。
きっと私の短い間の悩みなんて、当の昔に答えが出ている筈ですよね?
だから、教えてください。
嘘でもいい。
肯定でも、否定でも何でもいい。
どうか、どうか私にそう
「私、本当にあのアラガミを殺して良いんですよね?」
「あのアラガミを殺す事が、本当にリンドウさんを助ける事になるんですよね?」
私はこの人のようにはなれなかった。
それが表面上だけのものであろうとも。
"感情の無い神機兵"とまで呼ばれるこの人のようにはなれなかった。
でも、たとえ都合の良い建前であったとしても。
何かしらの理由さえ付ける事が出来たなら。
この人と同じように。
私はまた迷うことなく、
-ポフリッ-
不意に頭に手が置かれたのを感じ。
次の瞬間には唐突に頭を揺さぶられる。
「え、わっ、きゃっ…」
ぶっきらぼうに頭に手を乗せ。
わしゃわしゃと粗雑な感じで撫で繰り回す。
シェイクされて湯切りのように飛んでいく涙の粒。
突然の理解できない事態に先程まで湧き続けていたそれも嘘のようにぴたりと止む。
何時だかリッカさんが言っていた。
この人は時々、人を子供扱いする癖があると。
「や、止めてくださいっ。私、真面目な話をしてっ…。」
やるのは決まって年下相手。
風の噂ではソーマに対してもやった事があるというほどには相手を選ばないほど。
-大丈夫だ。-
口が動いた気がした。
鉄仮面と評される、決して開かれる事のないその口が。
驚きと共に改めて視線を向け直したのも束の間。
撫でる手の動きが更に乱暴気味なものへと変わり、そのままグイと頭を押し下げられる。
続けて耳に聞こえてきたのは。
幻聴とも現聴ともわからない、初めて耳にする神機使いの声。
-何も心配するなルーキー。-
-全て、全て上手くいく。-
「貴方、声が…!」
目を見開いて口から飛び出たその質問は。
強めの一撫でと共に背を向けた彼の背中に。
答えが無いまま飲み込まれていった。
やっぱり最後まで持たなかったルーキーちゃん。
自分よりヤバい人を見たせいで逆に正気に戻っちゃった…
そして貴重な無口さんのスマイルシーン。
昨今流行りのお頭スマイル。
不穏とか言ってはいけません。
これは曇らないタイプだからむしろセーフ。