無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.Auf keinen Fall(絶対ダメ)。
切り替えの早さはどこぞの日本兵とどっこいどっこい。
大事なイベントに危ないスイッチが実装されてる人を連れて行ってはいけません。
大団円を迎えたい場合は特に厳禁です。
この世界に鬼はいないので師匠のお叱りとビンタは無視してください。
ふむ、思い詰めた故の行動には違いなかったが。
正確には限界寸前のメンタルから出た悪あがきだったという訳か。
きっとここまでくるのに彼女なりに葛藤はあったのだろう。
本当にこれで良いのか。
間違いないのか、後悔しないのかと。
誰に相談する事も出来ないまま、それでも考える事を止められず。
心を摩耗させながら、答えの出ないままの堂々巡り。
まったく、辛かったならそうともっと早くに言えと言う話だ。
お兄さんが一緒に良い方法を考えてやったというのに。
まぁいくら強いと言っても所詮は少女。
アラガミになったからといって、いきなりかつての仲間を殺せと言われればこうもなろうというものか。
とはいえ、この状況は今の俺にとっては都合が良い。
こんなメンタルじゃ戦いになるかどうかすら怪しい。
少なくとも策を弄する間も無くルーキーとリンドウがかち合った結果、ルーキーが勢い余ってリンドウを斬り伏せてしまったなんて事態は心配する必要なさそうだ。
というか危なっかしくてとてもじゃないが戦闘なんてさせられないしな。
何なら手っ取り早くこの場で事前に説得してしまおうか。
用意したスタンガンは無駄になってしまったが。
女の子相手に使わず済んだならそれはそれで良しというもの。
ソーマ?
あれは不幸な事故だったな。
別に死んでないから犠牲とまでは流石に言わない。
話は変わるけど過去に拘らない男はモテるらしいぞ。
言ったらぶちのめされそうだから言わないけど。
とにもかくにも。
今回は予想に反してイージーミッションに終わりそうだな。
ちゃちゃっとカバーミッションを片付けて。
既にルーキーが規則破りをしてる以上。
その後のでっち上げなんてどうとでもなる。
そうと決まればさっさと出発…と思ったが。
イカン、思った以上にガチ泣きだこれ。
いくら神機使いが軍属扱いと言っても。
泣いてる女の子を無理矢理連れ回すほど俺は鬼軍曹ではない。
とりあえず言いたい事は全部言わせて…
駄目か、完全に情緒不安定になってる。
まぁいい。
先のルーキーの独白で悩みの要点は掴めた。
要するに後押しが欲しいのだ。
筋道だった理屈は不要、"お前は間違っていない"と背中を押す言葉を求めているのだ。
であればここは一つ思いっきり。
とびきり無責任な大人の言葉で安心させてやるとしよう。
それは紳士の振る舞いとしてどうなのかって?
何を言う、レディに嬉し涙以外を流させてる方が紳士の資格無しだろう。
そんな訳で。
俺の答える言葉はただ一つ。
肯定はしない。否定もしない。
どう解釈するかは本人に委ねたまま。
ハッハッハ、イッツ・ア・サムライジョーク。
流石に今のルーキーに言ったら空気読めてないにも程があるので言わないが。
代わりに俺が笑っておこう。
おっと、顔は上げないように。
悪い大人の笑顔がバレてしまうからな。
………
声がどうとか言われたが気にしない。
俺は空気の読める人間だ。
ここで"普通に喋れるけど何か?"とか言ったら変に話が拗れる事くらい容易に想像が付く。
そもそも人間というのは喋れるのが普通の生き物なのだ。
今更そんな当たり前の常識を説明する程俺は酔狂でも暇人でもない。
「…ズルい人ですね貴方。ようやく喋ったと思ったら、このタイミングであんな言葉をかけるんですか。」
何とでも言いたまえレン君。
大人とはズルい生き物なのだ。
というか居たんならルーキー宥めるの手伝え。
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ここは極東支部から数十キロ離れた荒野の道。
多少の紆余曲折はあったものの、可愛い子ちゃんを乗せて目的地へ向かってドライブ中である。
運転しているのはもちろん俺。
というか何か責任でも感じてるのか、"せめて私が運転します"って言ってくれた気持ちは素直に嬉しいんだがな。
はっきり言うが無免許&初めて運転する人間の車には乗りたくない。
これは紳士どうこう関係無く、万国万人共通の感想だと思うんだ。
おかしいと思ったよ。
慣れた感じで運転席に乗ったなと思ってたのに。
エンジンもかけずに妙に足元ふみふみしてるんだもの。
速攻で運転席に相乗りし。
困惑するルーキーをそのまま助手席にポイッチョした俺は悪くない。
多少手荒だった感は否定しないが。
エンジンかけられたら手遅れになるから俺も軽く焦っていたんだ。
考えて見ろ。ここで下手に躊躇した結果。
無免許運転で事故って作戦エリアまで辿り着けませんでしたとか。
草葉の影で再会するであろう俺の両親も顔を覆ってしまうわ。
首から上は影も形も無いんだが、それでも"アチャー"ってやってる姿が見える見える。
話が逸れたな。
本題に戻ろう。
そんな訳で可愛い後輩が無免許運転する現場を許容するなど出来よう筈も無く。
当初の予定通りこうして俺が運転してるという訳だ。
リンドウ風に言うならまごう事無くデート。
もっとも俺の相手はアラガミなんぞでは無く。
プライベートでお付き合いしてる年下の可愛い可愛い後輩ちゃんだ。
君のように任務で嫌々お相手させられるウロヴォロスとは違うのだよ。
羨ましいって?
美人の幼馴染にあそこまで想われてるくせに贅沢言うな。
「…リーダーさん睨んでますよ。喋れない訳じゃないならちゃんと運転させない理由を言えば良いのに。」
ちなみに後部座席にはレンが座ってる。
彼(彼女?)は最初から運転するつもりはなかったらしく。
俺とルーキーがすったもんだしている間にさっさと後ろに乗り込んでシートベルトを締めていた。
そしてレンが言うにはルーキーが俺の運転姿に見とれているとの事。
そんなに見るなよ照れるじゃないか。
サイドミラーを見ないようにしてるのはわざとじゃない。
こんなご時世だし、ドライブなんてしてるのは俺達くらいしかいないからな。
わざわざ後方に注意しなくても追突事故を起こされる心配はない。
決してルーキーと目が合うかもと思って見ないようにしている訳ではない。
そんなしょうもない理由でハンドリングミスったら恥ずかしいしな。
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そんなこんなで目標地点付近に到着。
当初の予定ではカバーミッションである小型種の討伐を済ませてからリンドウの元へ向かう予定だったが。
「…あれ?一応表向きに受注したミッションを片付けてから向かうという話じゃ…?」
到着したのは地下通路へと向かうトンネルの入口。
当初予定していた空母方面は普通にスルーしてきた流れである。
「そのまま向かうんですか?いえ、確かにその方が時間を短縮出来るのでありがたいんですけど…」
ルーキーが抱いている懸念。
それは偽装用に受けたミッションとはいえ、それ自体は正規に発注されたミッションであり。
それをスッぽかす事による他の神機使いへの負担を恐らく気にしているのだろう。
うむ、わかってはいたが良い娘だ。
こうして止むを得ず無断出撃こそしているが、だからと言って決して他人への迷惑に無頓着な訳ではない。
やってる事は確かに横紙破り。
だがだからと言って何でもかんでも責任を無視して事を成そうとしている訳ではない。
こういう最低限の筋は通そうとする人間だからこそ。
俺もここまで付き合ってしまってるんだろうな。
ぶっちゃけ直接手を上げるのは気が引けても。
本気で拒絶する気ならソーマが来たタイミングでいくらでもちゃぶ台返し出来た筈だし。
決して男女で天秤に掛けた訳ではない。
どうせ意を汲むなら可愛い後輩の方を…と思わなかったとは言わないが。
自身で後始末を出来ると言っているのだから。
その辺りにはどうか目を瞑ってもらいたい。
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--さて。
そんなこんなでいよいよ最終決戦の会場へ出発だ。
ここを過ぎればエイジスは目と鼻の先。
ルーキーが言うにはそこがリンドウの根城だそうな。
途中崩れた瓦礫をくぐっていく必要があるので車で進むことは出来ないが。
それでも神機使いの足なら一時間としない内にヘリが離着陸出来る本来の作戦開始位置まで辿り着く事が出来る。
--今だから白状する。
俺は最初からリンドウを殺すつもりは毛頭無い。
ルーキーに手を貸すつもりだった事に間違いは無いが、リンドウを討伐するまで手を貸すとは言ってない。
ここで仕掛けようとしていたのも偶然じゃない。
そもそもこの入り口は俺がアネットと一緒にカノンを捜索している最中に発見したもの。
地図上は記載出来ていなくとも、道中にどういう難所があるかと言うくらいある程度は頭に入っている。
そして何度も言うが戦闘面に限って言えばルーキーはソーマ並みの化け物だ。
不意を突こうと後ろを取っても。
寸でのタイミングで気付かれ、防がれるに決まってる。
だがこの先へ行こうとするこの瞬間。
俺のような一介の神機使いでも十分止める事が可能だった。
--止める事が出来た。
筈、だったんだけどなぁ。
フフフ。
フフハハハ。
アハハハハハハハハハハハハ。
いやいや。
いやいや、これはまぁ仕方がないよなぁ?
まさかこんなタイミングでお目に掛かるとは。
突如として地下道に響く咆哮。
同時に手にした神機を通路に叩き込み。
入口を崩して先行した神機使いが戻れないよう通路を塞ぐ。
瓦礫の中からルーキーの叫ぶ声が聞こえるが気にしない。
心配はない、生き埋めにならない程度には進んでいる事を確認済みだ。
それよりもリンドウを殺したがっているレンに先行されてしまう方が問題。
だがそれもこうして入口を塞ぎ、俺がその前に陣取る事で全て解決した。
「…やられましたね。まさかこの期に及んでこんな手段に打って出るなんて…」
何の事やら?
人を疑うのは良くないなぁレン君よ。
リンドウを殺したがっているお前に。
この先に進ませる訳が無いだろう?
ましてやあんな情緒不安定な状態になってるルーキーのお供だなんて。
後輩の教育に悪いからご遠慮願おうか。
代わりと言っては何だが。
その殺る気は是非ともコイツにぶつけてくれ。
--咆哮の主が姿を現す。
一見したその姿形は。
"不死のアラガミ"と称されたハンニバル種と同じ。
異様なのはその体色。
全体的には通常種同様の白色。
しかし顔の右半分を始め、右半身は所々に黒色が混じり。
左半身は前腕や脛、脇腹の一部が白銀を帯びて。
おおよそ一般に語られるハンニバル種とは一線を画す様相。
先日会ったリンドウと思しきハンニバルともまた違う。
「…で。このアラガミを見てから明らかに目の色が変わりましたけど…貴方、このアラガミについて何か知っているんですか?」
知る訳ないじゃんこんな出来損ないのハンニバル。
見るからに継ぎ接ぎだらけで進化に失敗しましたと言わんばかりの化け物なんて。
まぁ、ただ一つ分かっている事は。
コイツな、
これは誰にも言ってない話なんだが。
実は俺、アラガミ化しかけてるリンドウと一緒に戦った事あるんだ。
その時戦ったアラガミがコイツみたいな銀色のハンニバルでな。
で、ソイツをぶっ殺したら。
今度はリンドウが自身のオラクル細胞に喰われてな。
その時リンドウを喰らったアラガミと言うのが正にコイツみたいな黒色のハンニバルなんだ。
そうさ。
このクソ野郎の姿は忘れよう筈も無い。
フフフ。
フフハハハ。
アハハハハハハハハハハハハ。
ここであったが百年目。
ようやく捉えたぞクソトカゲが。
そうさ、そうだ。
このクソ野郎こそが全ての発端にして元凶だ。
リンドウがアラガミに成り果てたのも。
ルーキーが泣く泣くハンニバルを殺そうとしてるのも。
全部、全部お前のせいだ。
楽に、死ねると、思うなよ?
超視界錠60を飲む。
研ぎ澄まされた視野に、うごめくアラガミの姿が映る。
さて、二対一だ。
スタミナ増強剤Sを飲む。スタミナ活性剤改を飲む。
筋力増強錠90改を飲む。体躯増強錠90改を飲む。
体力増強剤Sを飲む。強制解放剤改を飲む。
どうやって殺そうか?
スタミナ増強剤Sをさらに追加で噛み砕き。
スタミナ活性剤改をさらに追加で噛み砕き。
筋力増強錠90改をさらに追加で噛み砕き。
体躯増強錠90改をさらに追加で噛み砕き。
体力増強剤Sをさらに追加で噛み砕き。
スタミナ増強剤Sをさらに追加で噛み砕き。
駄目押しに強制解放剤改を追加で噛み砕く。
うむ、かつて無い程の充足感。
以前と違って準備は万端、今の俺に不覚の二文字はあり得ない。
とりあえず、動けなくしてから考えよう。
殺る気スイッチがON。
ハイパー全力全壊タイム。
ついでにレン君ちゃんの分断成功。
でもルーキーちゃん側には本編のレン君が付いているのであまり意味は無し。
むしろヤバいスイッチが入った人を分断できたのがファインプレー。
後の事はきっとこっち側のレン君ちゃんが何とかしてくれる(はず)。