無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.主人公特権(ラーニング)。
流石にどこぞの天才人斬りのように見ただけで憶えたなんて事は無かった模様。
ルーキーちゃんは努力を惜しまぬ健気な子なのです。
周りにどんどん力を与えていくブラッドの副隊長。
周りの力をどんどん吸収していく極東のリーダー。
これは相性抜群ですね間違いない。
--人の真似事って、本当上手くいかないなぁ。
通路を埋める瓦礫に手を触れ。
思いを巡らつつ溜息を零す。
今頃彼女はリンドウの所へ向かっている途中だろうか?
彼女の性格を考えると引き返そうとしている事もありえそうだが。
傍にいる僕がそれを黙って見過ごすとも思えない。
「怒りも不満も後回し。責任を取らせるのは全てが終わった後で…ってとこですかね?」
隣の神機使いへと声をかけるもそれに対する反応は無く。
無言のまま、無表情のまま。
神機を肩に担いで目の前のアラガミへと歩を詰めていく。
元々声による反応を返さない人なので普段通りと言われればその通り。
普段の青い瞳が染まり切った赤に浮かんでいるというのが違うくらいか。
「そう言えば、貴方はリンドウがアラガミになった瞬間に立ち会っていましたね。」
呟きながら。
彼と感応現象を起こした中で見聞きになった光景を思い出す。
力尽きたリンドウがついに人からアラガミへと成り果てたあの瞬間。
止めようにも助けようにも、どうする事も出来ずにただ叫ぶ事しか出来なかったあの時。
そして戦友が人ならざる物へと変わりゆくのをどうする事も出来ず。
何も出来ないまま命からがら逃げ延びる事になったこの人の慟哭。
「そりゃあ僕よりもリーダーさんに入れ込みますよね。何しろ自分と同じ無念を味わっているんですから。」
大事な友を。大切な仲間を。
己が無力のせいで救う事が出来なかったあの無念。
(やっぱりホント、人間臭い人ですね貴方。雰囲気は僕ら神機よりも人間らしくないのに。)
無念と言うなら僕も同じ…いや、むしろ負けないくらい味わっているのに。
競うような物ではないが、それでも彼女の方を優先されてしまった感がするのは少し口惜しい。
もしかして、もうちょっと同情を引くような素振りを見せた方が良かったのだろうか?
それともいっそ僕も、リーダーさんのように女性らしく振る舞ってみた方が効果的だったりしたのかな?
疑問は尽きないが既に時は遅い。
まずは目の前のアラガミを何とかしなければ。
先に立つ彼の背後から。
改めて目の前のアラガミを観察する。
見た目こそは人型の竜を思わせるハンニバル種の風貌。
容易い相手とまでは言えないものの、既に目の前の神機使い含めて、極東支部ではいくつかの討伐例が上がっている相手。
本来は全体的に白色であるハンニバルだが目の前の個体の身体には侵喰するかのように不自然な黒が混じり込み。
それに抗うかのように白銀とも言い表せる煌めきを帯びた所々に隆起している。
「…あぁ、なるほど。君はつまり、そういう事なのか。」
恐らくだが、このアラガミはリンドウに襲われたのだ。
この付近を根城にしていたリンドウに襲撃され。
彼のように何とか死地を脱したものの、喰らい付かれた傷口からアラガミ化したリンドウのオラクル細胞が侵喰してしまった。
比較的侵喰が穏やかだった部位はどうやら治癒し、細胞をより強く進化させる事が出来たようだが。
侵喰を食い止められなかった部位はそのまま自身を喰らったリンドウの細胞に置き換わってしまった。
そしてそれは壊疽を起こすが如く正常な細胞まで徐々に犯し。
少しずつ元の彼にとって代わろうと広がり続ける。
それは奇しくも今
オラクル細胞に刻一刻と自身を蝕まれ、自分とは違う別の化け物に成り果てようとするその様は--
「…ん?待ってください。貴方まさか、あんなのをリンドウだと勘違いして…ッ!」
不意に思い至ってしまった一つの疑問。
それは到底看過する事の出来ない、自身の使い手に対する限りなく侮辱に近い過ち。
故に思い至ってしまった疑問を解消せざるを得ず。
目の前の神機使いに手を伸ばしたその直後--
その神機使いはアラガミに向かって勢いよく駆け出し。
振り下ろした刃を受け止めるアラガミの身体を。
……………………………………………………………………………………………
ミシリと。
神機を振り下ろした腕に不快に軋む感触が走る。
流石は腐っても大型種のアラガミ。
強化薬で筋力を底上げしているとはいえ、生身の人間一人が力勝負を挑むには少々無理があったか。
だが便利な事に人間の骨と言うのは存外弾力性に富んだ性質を持っており。
多少過負荷をかけただけでいきなりボキリと折れてしまうような事は無い。
精々がこうして軋んでヒビが入る程度で済む。
痛くないのかって?もちろん痛い。
もっとも人間の身体と言うのはよく出来たもので。
筋肉という普段クッション代わりにも使われている外装はこういう時臨時の支えとしても機能する。
そのためヒビが入った状態で更なる負荷がかかったとしても。
骨がそのまま簡単にへし折れてしまったりという事も無い。
強いて言うなら痛いだけ。
そして痛みというのは所詮は身体からの警告に過ぎない。
仮に無視する事が出来てしまえるならヒビの一つ二つで即戦闘不能になってしまうという事も無い。
大事なのは重要な部分が壊れ、損耗しない事。
その点さえ押さえておけば無視も誤魔化しもいくらでも…。
-ブォンッ!-
地に斬り伏せられたアラガミが苦しまぎれ気味に腕を振り払う。
両断に至らなかったせいで多少刃が食い込んでいた事もあり。
見切りはしたものの完全に避けきる事は叶わず、装甲越しに殴り飛ばされ、そのまま後方へ吹っ飛ばされる。
「ユウマさんッ!」
すれ違いながら聞こえたのは無事を確認するかのように俺の名を呼ぶレンの声。
叫ぶな叫ぶな、若いんだからそう叫ばずとも聞こえるよ。
心配してくれるのは嬉しいが。
今はそれよりもこの隙にあのクソトカゲを斬り刻んでくれる方がありがたいな。
遠慮するなよ存分に殺れ。俺もすぐ参加するから。
お前があれほど殺したがってたアラガミだぞ?
…ん?あ、いや違うか?
リンドウの方へはルーキーが向かってて、コイツはリンドウを喰ってくれたクソトカゲで…
あれ?
でもリンドウは喰われた結果アラガミになってるんだからコイツもリンドウで…
まぁいい、どの道アラガミはアラガミ。
生かしておく道理なんざ欠片も無い。
それに神機使いも平たく言えば人工のアラガミ。
そういう意味では俺もリンドウもこのクソトカゲも、そこまで大きな違いは無い。
とりあえず体勢を立て直して。
大きな負傷が無いか速やかに確認。
腕に軽いヒビが入ったと思しき以外は特に致命傷がない事を確かめた後。
手早く回復錠を取り出して噛み砕く。
呑み込んだ直後先程感じた腕の違和感は無くなり。
吹き飛ばされた直後に感じていた浮遊感も完全に消失。
うむ、相変わらず効き過ぎて逆に不安になる程素晴らしい効能と即効性だ。
「…あまり無茶しないでください。貴方、そんな戦い方する人じゃないでしょう。」
身体の調子を確かめるように腕を回していた最中。
こちらに近寄るように後ずさってきたレンが、アラガミの方に身構えたまま疑問の言葉を紡ぐ。
「さっきも聞きましたけど…貴方まさかあのアラガミをリンドウと勘違いしているとか無いですよね?」
…勘違いしている?
誰が?俺が?
何を誰と?あのアラガミの出来損ないをリンドウと?
そこで一度言葉を区切り。
顔だけをこちらに向けて続きを話すレン。
どこか人の雰囲気を感じさせない橙の瞳で。
怪訝そうに俺の目を見つめながら質問を続ける。
「リーダーさんは先に行かせたのに、僕の方はこうして足止めして。」
-そうまでしてあのアラガミに固執する理由が、そんなふざけた理由なんかじゃないですよね?-
「………………………………………………」
「ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
堪えきれず思わず大声出して笑ってしまった。
レンの身体がビクリと大きく跳ね上がる。
ここまでツボにはまるとは思っていなかったのだろう。
それと同時に先程までの穏やかな、しかしはっきりと問い詰めるような力強い口調で質問していたレンの言葉もピタリとやむ。
「ナイスジョーク。ナイスジョークだレン。接触禁忌種を前にこんな面白い冗談を飛ばす余裕があるとか、流石支部長子飼いの特務兵は肝が太いな。」
驚きで固まった表情のレンに、その言葉に対する反応は無い。
流石にいきなり笑い出すのは良い大人として少々非常識だったか。
いや、でも仕方ないだろう?
これから真面目にアラガミを殺そうとする所にいきなりこんな冴えたジョークを差し込んでくるんだから。
とはいえ聞かれた以上は答えてあげるのが隊長の務めというもの。
冗談を真面目に返すのも堅物呼ばわりされそうで気が引けるが。
「あのハンニバルの出来損ないみたいのがリンドウの成れの果てとは。いやいや、リンドウは男の目から見ても割かしイケメンの部類だと思っていたんだが…あんな不細工と同一視されるとは全く持って救われないな。」
多少収まりつつあるものの。
未だ余韻を残すような笑みを浮かべて言葉を続ける。
「そうだな。確かにあの時、リンドウはオラクル細胞に喰われてアラガミへと成り果てた。」
俺が古参にあるまじき醜態を晒したばっかりに。
全てを呑み込む人喰いの化け物、
「そう。アラガミになった以上、最早人に戻る術は無い。化け物として人を喰らう畜生道に堕ちきる前に人として殺してやらなくちゃいけない。」
だが。
リンドウはまだ生きている。
肉片すら喰われ、この世から完全に無くなってしまった俺の両親とは違う。
リンドウの意志は、今尚オラクル細胞に喰われる事無く生きている。
であれば何が何でも助けやらなくちゃいけない。
人として。共に戦った仲間として。
必死にと抗い続けている同胞を。
アイツを喰らおうとするアラガミの群れから。
今度こそ。
そう今度こそ。
今度こそ、今度こそ今度こそ今度こそ。
「そうそう、リンドウと勘違いしていないかだって?」
気付けばレンがこちらを見て固まっていた。
何時の間にか顔だけでなく。
身体ごとこちらを向けて俺の返事を待っている。
次いで伏していたアラガミが身体を起こす。
まるで俺の言葉を遮ろうとするように立ち上がるアラガミを指差して言葉を続ける。
「してる訳ないだろう。アレはただのアラガミでそれ以上でもそれ以下でも無いただの殺害対象だ。まぁ冗談のネタとしては最高だったがな。」
答えながら再び笑いが零れる。
「…色々言いたい事はありますけど。まずはこのアラガミをどうにかしましょうか。」
レンがゆっくりと神機をアラガミに構える。
そう言えば本格的に戦う所を見るのはこれが初めてだな。
まぁ支部長直属の特務兵が弱いという事はあるまい。
筋力増強錠90改を飲む。体躯増強錠90改を飲む。
筋力増強錠90改を追加で噛み砕き、体躯増強錠90改をさらに追加で噛み砕く。
短時間の連続服用で若干の悪心を覚えるが戦闘行動には支障は無い。
おっと、強制解放剤改も飲まなくては。
アレはリンドウを喰ってくれたクソトカゲ。
手加減してやる道理は無い。
リンドウの仇だ。
レンと一緒に、あの時の借りを百倍にして返してやる。
しかしなんだな。
何処を見てもアラガミだらけ。
リンドウを喰らってくれたアラガミに。
ルーキーを喰らおうとするアラガミに。
そのリンドウを殺そうとするアラガミか。
フフフ。
フフハハハ。
アハハハハハハハハハハハハ。
上等だ、相手にとって不足は無い。
どいつもこいつも八つ裂きにしてやる。
リンドウとルーキーを
レン君がスイッチを踏み抜いちゃいました。
地雷じゃありません、床に設置してある斬新なタイプのスイッチです。
発狂?いいえ、一部の隙も無い理論(システム)が構築されただけです。
隙どころか矛盾しまくってないかって?
無口さんの中では全て成立しているのでセーフ。
どこぞの婦長みたいになってるとか言ってはいけません。