無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
前半ちょっとだけ無口さん。
Q.無口さん思いのほか病んでない?
A.シオの件が尾を引いてる。
生きてて良かったという感情は紛れもなく本心。
正解だとは思っていないだけで、彼女を含め誰かを犠牲に少数を生かそうとした事も間違いだとは思っていない。
残っているのは結果だけ。
自分が仕方がない事だと諦めたその結果。
彼女は遠い月で一人ぼっちになり。
生かそうとした人たちは今も滅びの危機に面している。
何も変えれず、何も救えず。
トドメのダメ押しにリンドウさんが目の前でアラガミに。
"間違えた"、"また失敗した"と超絶自己嫌悪に陥った結果。
ヤバかった頃のメンタル水準まで到達。
リカバリ完了、オーバーフローも解消です。
どっちに進んでも爆弾状態なので振り切る方向はプラスでもマイナスでもお好みで。
こうして力任せに戦っていると。
訓練施設で初めてアラガミと対峙した時を思い出す。
両親の仇と勇んで戦いを挑んだはいいものの。
威勢の良さとは裏腹にものの数分と立たないうちに人食いの化け物に組み伏せられる。
フィクションのように"感情の力"など曖昧なものが通じるなんて事はなく。
嘗めるなと言わんばかりの一噛みであっけなく幕切れた。
もっともあの時の感覚は仰々しく取り付けられた器具からのフィードバック。
仮想映像が再現するオウガテイルの攻撃を疑似体感しただけ。
親の仇に手も足も出なかった事は屈辱ではあったが。
実の所、思いのほか悔しさを感じたりはしなかった気がする。
理由は簡単。
別に俺の両親を喰ったのはオウガテイルじゃないしな。
何ならどんなアラガミだったか。
正直
仇でも何でもないただのアラガミを仇だと言い張り。
素人が戦術も何もなくただただ闇雲に突貫しただけ。
喰われて当然。
まさに予測可能回避不可能というやつだ。
黒歴史とか言ってはいけない。
いくら立派な古参兵様といえど、これは新人になるよりずっと前の話。
若造未満の人間にそんな大それたスペックがある筈もない。
なら両親の仇を忘れているのはどうなのかって?
仕方ないだろ。
それに至っては当時の俺は若造未満、それこそ子供どころの話じゃないんだ。
いくらショッキングな出来事を目の当たりにしようと。
たかが幼児の記憶力でそこまで鮮明に覚えていられる筈がない。
ましてや人間には強すぎるストレスに対して"忘れる"という形で自身の精神を守る仕組みが備わっている。
俺が覚えているのなんて精々
まぁ何であれ。
両親の仇がどんなアラガミだったかというのはどうでもいい。
"両親を喰ってくれたのはアラガミ"という事だけわかっていればそれでいい。
それだけあれば、俺は決して間違えない。
アラガミは大切な家族や仲間を喰らう存在。
姿形など些事も些事。アラガミであるか否かだけが重要なのだ。
その上で。
コイツはリンドウを喰らってくれた忌々しいクソトカゲだ。
そして、そして今なお生きようとあがくリンドウを殺そうとするアラガミに。
規律違反を犯してまでリンドウを助けんとするルーキーを喰らおうとするアラガミも。
そのオラクル細胞を霧散させて。全部、文字通り塵屑に変えてやる。
待ってろルーキー。待ってろリンドウ。
今度こそ。今度こそ絶対に
今度こそ、絶対に全員助けてみせる。
俺の両親がその命を持って助けてくれた人間は。
決して、誰の事も救えない役立たずなどではないのだから。
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「…化け物ですね。動きが人間のそれじゃない。」
人間の身の丈を優に超えるアラガミ相手に真っ向から斬り結ぶどころか。
暴風と表現しても差し支えない程の猛攻を繰り出す神機使いに感想を漏らす。
確かに強化薬の類は服用している。
しかし彼の得物はバスターブレード。
人の身の丈を遥かに超えるその刀身を暴風雨のように振り回すその姿は、もはや身体能力の底上げというだけでは説明がつかない程の異常な光景。
そもそも彼はただの人間。
搦め手や正面からの戦闘もやらない訳ではないが、基本的には相手の不意を突いた一撃で致命傷を与えるスタンスが軸となっていた筈。
弱くなっている訳じゃないにしても。
こんな薬で無理矢理己の限界を引き出す戦いなど愚の骨頂。
得意の戦術を投げ捨ててまでこのような戦い方をする理由がわからない。
いや、むしろそれ以前の話として。
「あれは明らかにアラガミを殺す気で攻撃している。僕をリンドウの所へ行かせないようにするのが目的なら。あんな風に仕留めるつもりの攻撃なんかする必要ない筈なのに。」
唸りを挙げて振り下ろされる彼の神機。
身体強化のバフまで乗せて放たれるその刃は、喰い千切れなかった細胞を千切り飛ばす程の強力な一撃。
生かすつもりなどさらさら無い。
コアや結合の弱い箇所に直撃させようものなら。
致命傷と呼んでも差し支えない程のダメージを与える事が出来るだろう。
そうなれば当然戦闘は終了。
塞がれた通路を開くなり迂回するなり。
遅からず僕らはリンドウの元へ向かう事になり。
こうして僕の足止めをした意味がまるで無くなる。
「もしかして前提が間違っている?彼が道を塞いだのは、僕をリンドウの所へ行かせたくなかったからじゃない?」
思考に耽っている最中。
彼と戦っていたアラガミが逃げ道を求めるかのようにこちらに矛先を向ける。
両手を大きく開いて横に面積を大きくし。
頭から丸齧りにでもするかのように、牙を剥き出しに突進を仕掛けてくるアラガミ。
「道を塞いだ事で何が起こったか--僕らはリーダーさんと分断され、奇しくもリンドウ同様に自身をオラクル細胞に喰われんとするアラガミと相対することになった。」
巨大な鉄塊を思わせるその体躯と激突する直前。
すり抜けるように横へ身を躱しつつ、間隙を縫って三閃の斬撃をアラガミに放つ。
「僕の足止めが目的じゃない。時間稼ぎならまだしも、本気でこのアラガミを殺そうとしている理由がわからない。」
首筋、胸部、そして肩口。
いずれもアラガミ化したリンドウの細胞とは異なる、白銀色のオラクル細胞に纏われた部分。
「やっぱり普通のオラクル細胞の所は切れないか。」
走った刃は軽く甲高い音を立てて弾かれ。
まともなダメージとならなかった事を否が応にも伝えてくる。
ショートソードタイプとはいえ、それなりに切れ味に特化したモデルを真似たにも関わらず。
切断どころか、付けられたのは表面に引っかき傷を付ける程度。
当然アラガミからすればそんな物は到底脅威にはなりえない。
むしろ捕喰しやすい獲物、餌と見なし、明確に狙いを定める。
溜め込むように腕を引き絞り。
薙ぎ払うように腕を振り抜くのに合わせて--
-ザクリッ-
「…残念、まだ深部までは侵喰しきれていなかったんだね。」
振り下ろした神機の刀身が。
リンドウ同様に黒色化した腕の半ば程まであっさりと食い込む。
それは先程表面で弾かれた部位からは想像もつかない。
さながらゼリーにスプーンを滑り込ませるようにあっさりと。
「でも、ちょうどいいか。人間はアラガミみたく骨まで齧りつくなんてしないみたいだし。」
言いながら刃を返して籠手の一部を斬り飛ばし。
さながら切り分けた肉を頬張るようにプレデターフォームで捕喰する。
喰らった事ではっきり分かった。
やはり彼を蝕んでいるのは、アラガミ化したリンドウに由来するオラクル細胞。
アラガミとなったリンドウを解放するため。
神機の身でありながら、多くの奇跡と困難を乗り越えて。
ようやく口にする事の出来た、かけがえの無い相棒のその味は--
「うん、わかってはいたけど…」
グシャリとそれを噛み砕き。
雫一滴余さないよう、悍ましさを覚えるその味を味覚の隅々に巡らせる。
「でも、おかげで頭がスッキリした。やっぱり前提が間違っているんだ。」
………
思考が至った結論が口に出た所で。
アラガミの身体がくの字に曲がる。
先程の自分と違い、表皮どころか半ばまで斬り込まれた鋸状の刃。
それは両断にこそ至らなかったものの。
そのままアラガミの身体が吹き飛ぶのに合わせ、ブチブチと小気味良い音を立ててアラガミの身体を喰い千切る。
「彼の目的はこうして僕をここに足止めすることじゃない。」
ー"リンドウと勘違いしているのかも"とも思ったけど…、どうやらそうでもない。-
「リンドウではなく、リンドウをアラガミに変えた元凶。憎むべき仇という表現が一番近いのかな。」
無論、彼はリンドウの仇などではない。
見た目こそアラガミとなったリンドウに似てはいる。
けれどそれは元からして近縁種だったからだと考えられる。
それがリンドウを蝕む暴走した偏食因子に侵された結果、たまたまアラガミ化したリンドウのような容姿となっただけ。
仇どころか、どちらかといえば被害者側という方が正しい。
「…皮肉だなぁ。リンドウを確実にアラガミの呪縛から解放してあげる…ただそのためだけにこうして偏食傾向を特化させたのに。」
それは似ているアラガミを倒すためではない。
あくまでリンドウを苦しみから解き放つために行ってきた事。
なのにそのせいで彼の思考の一端が理解出来てしまった。
神機に適合するというのは相性が良いと言う事ではない。
むしろその逆、相性が悪いからこそ神機に組み込まれたオラクル細胞が食指を伸ばさないので捕喰されないというのが本来正しい。
つまりは本来、神機と神機使いの関係は"喰らう事が出来ないから喰べられない"というものでしかなかった。
だが長い時間を供に過ごすうち。
"喰べられない"から"喰べたくない"へと形が変わり。
自我を持つに至ってようやく。
何故"相性が良い"と表現するのかが理解出来た。
「…昔から、煙草ばっかり吸ってるからですよ。」
そんな相性の良いあの人を。
自らの手で捕喰する寸前まで来たこのタイミングで。
「それに安っぽい合成アルコールの香り。こんなの臭い消しにもなりませんよ。」
先程味わった苦みを思い出し。
苦笑しながらも言葉を続ける。
口から出るのは不平不満。
止めどなく溢れ出てくる、どこか懐かしい変わり果ててしまったあの人の事。
「きっと、本当はもっと美味しいと感じるんだろうな。喰ベたくないという意思も通じないくらい、それこそ細胞に訴えかける程の飛び切りの味で。」
それは本来であれば、決して口にする事が出来なかった代物。
彼のためだと自分を納得させ。
我慢して、我慢して、ようやく口にしてしまったその味は。
「こんな、噛み砕いた食感は最悪で。」
-苦くて。ドロドロしてて。-
-飲み込もうものなら喉の隅々にまでへばりつくよう-
-どこまでもどこまでも。-
-細胞に染み込むかと錯覚するほどの嫌悪感。-
神機を構え。
目を見開いてアラガミを見据えなおす。
相手はアラガミとなったリンドウではない。
アラガミ化したリンドウの細胞に侵されるアラガミでもない。
「--もう二度と口にしたくない。よくも僕の大切な相棒を、ここまでのゲテモノなんかに変えてくれたね。」
それは何処にでもいる、ただの
かけがえの無い大切な存在を。
得体のしれないナニカへと変えてしまった。
神機が喰らうべき人類の敵にして。
神機が喰らいたいと願う
--神機使いが振り抜いたバスターブレードがアラガミの足を薙ぎ払う。
侵喰されているとはいえ大型種のオラクル細胞。
関節ならまだしも、流石に甲殻越しでは結合崩壊にまでは至らない。
だが勢いまでは殺す事は出来ず、そのまま足を取られて俯せに伏す。
-ザクリッ-
「あぁ、やっぱりそうだ。今の僕は、どうしようもなくキミが喰べたい。」
体勢が崩れたところを見逃さず。
背中の逆鱗へ迷わず神機を突き立てる。
「動かないで。今の僕はお腹が空いてる。つまみ食いは行儀が悪いんだけど…生憎喰い合いなら負けないよ。」
体重を掛けてバキバキと。
黒いところも白いところもお構いなしに逆鱗を切り開く。
苦悶の声と共に狂ったように身を暴れさせるアラガミ。
しかし背中から解体する僕の直ぐ横。
身体から数センチと無い位置に鉈のような大鋸が振り下ろされて動きを止める。
振り下ろされた箇所は肩口の関節部。
無数に喰い込んだその刃をもって、文字通り生きたままの鋸引きが敢行される。
再び上がる咆哮と変わらない叫び。
同時に開かれた背中の内から高熱と共に光が漏れ始めたところで。
ようやく背中から離れ、距離を取る。
引き抜いた神機にこびりついているのは彼の細胞。
未だ侵喰が及んでいない彼の深部、まさに髄ともいえる部分。
-グチャリッ-
「うん、悪くない味だ。リンドウなんかより、ずっとずっとこっちの方が良い。」
リンドウを救う。
リンドウを解放する。
その目的は、今も決して見失ってはいない。
ただ。
ただ、その前に。
喰べたくもないリンドウを。
我慢しながら嫌々食べるよりも。
「キミの事、リンドウの味がわからなくなるくらい喰べさせてもらうよ。」
レン君ちゃんもスイッチオン。
そして弱った相手から仕留めるのは弱肉強食の世界における鉄則。
無事捕喰対象がリンドウさん→アラガミに代わりました。
汝はアラガミ、罪有りき。
今更ですがこのハンニバルはリンドウさんのオラクル細胞が侵喰中。
コアまで侵されるのにはもうちょっと。
アラガミのコアを喰らうアラガミってなんだかゴッドイーターみたいですね。