無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.Yes。
ただし過ぎたるは何とやら。
優秀過ぎて全ての場面に間に合ってしまいました。
あぁ、これは落ちる。
経験則からそんな思考がよぎる。
ただでさえ身体に負担のかかる強化薬に加え。
一定以上の経験を積んだベテランにしか支給されない強制解放剤。
これらを短時間で連続服用し。
あまつさえ大型アラガミを両断するほどの力を込めた全力の一撃。
これは言ってしまえば一種の安全装置が発動したようなもの。
瞬間的とはいえ肉体の限界を超過した行動を抑止すべく。
数秒から数分の間、強制的に意識が途絶えて動けなくなる。
これ自体に命に別状はない。
しかしいくら僅かな間とはいえ、命を脅かす敵がいる場面においてこの隙は正に致命的。
人間は脆い。小型種相手にすら頭から一噛みされれば容易く死ぬのだ。
ここが普段の戦場ならば絶対に使わない。
どこぞのカルト教団とは違うのだ。
畜生なんぞに自分からその身を差し出すような真似はしない。
では何故そんな状態になるような無謀な行動にわざわざ出たのか。
理由は概ね二つ。
一つは目の前のアラガミを迅速に排除するため。
強化薬による身体能力の底上げに。
強制解放剤による心身のリミッター解除。
そこから大きく息を吸い込んだ後に繰り出される渾身の一撃。
一時的に行動不能になる点に目を瞑ればその攻撃力は御覧の通り。
タフさが売りのハンニバル種すら腰から上下に半分こだ。
だがアラガミという生物は総じてしぶとい。
コアを摘出してない以上、身体を両断しただけでは普通に死なない。
何なら上半身だけで神機使いに襲い掛かったという事例もある。
つまり戦闘力こそ削れているが。
これだけではまだ意識を手放しても大丈夫とは言い難い。
そこで二つ目の理由。
最終目的こそ違いはすれど。
背中どころか命を預けるには十分過ぎる程の実力者。
であれば思う存分に頼らせてもらう。
安心しろ、俺だけ楽をしようなんて虫の良い事は言わない。
俺が起きるまでに身体半分になったアラガミを仕留めておいてくれればそれでいい。
…
……
………
意識が戻り。
神機を取り直して目にした最初の光景は。
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未熟な神機使いが作戦行動中に命を落とす事は珍しい話ではない。
熟練の神機使いであっても不測の事態が起こったならば。
絶対に生還出来るという保証は当然無い。
だが、これは違うだろう。
レンは支部長直属の特務兵だ。
未熟であろうはずがない。
相手も確かに強敵だった。
だが胴体から半分になった相手如きに不覚を取るなど考えにくい。
こうなる要素など何処にも無かったはずだ。
なのに何故。
どうして、また。
「…あぁ、気にしないで下さい。これは自業自得というかなんというか…とにかく、僕自身が望んで招いた事なので。」
唐突に聞こえたレンの言葉に。
慌てて名前を叫びながら駆け寄り、抱き起こす。
「いやぁ、油断してました。まさかあのタイミングでリーダーさんの方が「いい、喋るな。」
俺に抱え起こされたまま。
苦笑気味に呟くレンの言葉を咄嗟に絞り出した言葉で黙らせる。
「わかってる、全てわかってる。だから、今は口を開くな。」
抱き起した身体からは既に人の温もりは感じられず。
穿たれた胸の傷口からも血の一滴すら零れ出ていない。
死体を抱いていると言われた方がまだ納得できる。
「…リーダーさん、無事にやってくれましたよ。それこそ僕らが思い描いていた物より遥かに良い結末に。」
先程の俺の言葉に一瞬レンの目が大きく見開いたものの。
すぐさまどこか穏やかな表情に戻り、俺の静止を無視して言葉を紡いでいく。
「信じられますか?リンドウの事、文字通りアラガミの中から引きずり出しましたよ。あんなやり方、リーダーさん以外に思いつきませんよ。」
「…………………………」
「正直、神様なんて欠片も信じていなかったんですけど…ハハッ、こんな奇跡を起こしてくれるなら、これからはちょっとだけ信心深くなってみようかな。」
「…………………………」
他愛ないも取り留めもない会話。
声色からは致命傷を負っている様は微塵も感じられず、ただ雑談を楽しむようにレンが言葉を続ける。
「…死にませんよ。安心してください、こう見えて人間よりずっとずっと丈夫ですから。」
相槌一つ返さない俺の視線に気付いたレンがそう答える。
「とはいえ、流石に少し疲れました。気が抜けたというか何というか…安心したら、何だか一気に力が抜けちゃいました。」
言いたい事を十分に言えたのか。
レンが軽く息をつき、目を閉じる。
「…ちょっとだけ、休ませてもらいますね。一足先に、リンドウとリーダーさんによろしくお願い致します。」
--待て。
待て、待て、待て。
リンドウは無事助かったんだろう?
ルーキーも五体満足でいるんだろう?
それは俺達が無理だと諦めていた理想の結末だ。
それが俺らの思いもよらぬ所で実り、こうして目の前に転がり込んできたんだぞ。
疲れたとか言ってる場合じゃないだろう。
今ここで掴み取らなくてどうするんだ。
待て、眠るな。
まだ俺達の目的は達成出来ていないんだぞ。
そうだ、感応現象。
何時ぞやルーキーが言ってたように、あれさえ起こせれば意識の無い相手にも声を呼びかけられる。
思い立つやレンの手を強く握り込む。
軋む程に。
無機質な感触に変わりゆくその手を全力で。
…反応はない。
感応現象はおろか、命を鼓動たる脈拍さえも。
………………ハハッ。
ざまぁない。
結局あの日と同じ結末か。
五体満足どころか十全を尽くした上でこのザマ。
それどころか一人じゃないと図に乗った挙句、仲間を失ってまた自分だけのうのうと生き恥を晒すとは。
無事にリンドウを救い出したというルーキーに比べて何という体たらく。
もはや無様を通り越して滑稽にすら感じる。
しかも寒すぎて道化の役目すら果たせていない無能ぶり。
こんな、こんな使えぬ役立たずなんぞに。
俺の両親はその命を捧げてしまったのか。
フフフ。
フフハハハ。
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!
違うッ!断じて違うッ!
俺の両親は何も間違ってはいない!
その命を賭して生かした人間が!
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「--ッこれは…!!」
ここは極東支部のエントランスホール。
映し出されている映像からリンドウの生存を確認し。
安堵の息を付こうとしたのも束の間。
「皆さん、聞こえますか!?ユウマさんのビーコン反応検知しました!ですがッ…!」
反応と同時に映し出された神機使いのバイタル情報を見たところで言葉を失う。
機器が示しているその値は、いずれも自分達のよく知る値とはかけ離れた物。
上も下も、何もかもが規定のラインを大きく振り切っている。
何が起こっているのかはわからない。
ただこれだけは間違いなく断言できる。
「ユウマさん、バイタル
レン君ちゃん、戦闘不能。
耐久値0なのでリスポーン出来ません。
そして無口さんもメンタルブレイク。
具体的にはどこぞの革命軍の能力者が叫ぶレベル。
もう正攻法のドーピングは出来ません。
正攻法のドーピングは出来ません。
大事な事なので二回言いました。
次でBURST編終了予定です。