無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~   作:猫丸飯店

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エンディング中のお話。
主にルーキーちゃん視点で進む予定。

Q.めでたしめでたし?
A.Nein(まだ)。

特級の地雷が残っています。
"絶対に忘れん"って言ってましたからね。

『終わりよければ全て良し』。
古事記にもそう書いてあります。

大団円ですので、きちんとメンタルケアしておきましょう。


-After_Mission-Distortion of Failure story1

「--ふむぅ。難しい話だ。実に判断の分かれる所ではあるね。」

 

ここは極東支部の支部長室。

今やヨハネス支部長の代わりとして極東支部の全権を担う榊博士ですが。

普段の胡散臭い…もとい、酸いも甘いも噛み分けた人生経験豊富な大人として、現状の判断の難しさに嘆息を漏らしていきます。

 

「不正に他人の神機を持ち出した上、アラガミ化の危険性を無視して故意に適合していない神機を使用する。過程だけで評するなら君達のそれは明確な規律違反、フェンリルに対する背信行為と言っても過言ではない。」

 

丸い銀鏡の奥、その細い目を普段以上に細めさせながら。

人差し指で眼鏡の位置を調整しつつ榊博士が進めます。

 

「一般隊員の衝動的な行動ならいざ知らず。部隊長クラスの人間が複数人関わった上での事案だ。下手をすれば君達だけの問題には収まらず……この極東支部全体としても、何らかの形でフェンリル本部の監視下に置かれる事になってもおかしくはない。」

 

 

-いやはや、全く面倒を引き起こしてくれたねぇ?-

 

 

何時ぞやよろしく、ずいと榊博士の顔が眼前に迫りますが。

その時とは異なり、私は一歩も後に引くことなく榊博士へ反論の言葉を紡いでいきます。

 

「その事に対しては何の申し開きもありません。強いて後悔を口にするなら…第一部隊、引いては極東支部に関わる人達全てに迷惑をかけてしまう事、それだけは私が浅慮であったと誠心誠意謝罪するより他ありません。」

「おや。その口ぶりからすると"贖罪になるなら何でもする"という風に聞こえるが…?」

 

一見して閉じたままに見える瞳。

けれど今にも顔を逸らしたい程の圧力を湛えた榊博士の視線に、私は迎え撃つように視線を向けたまま答えます。

 

「認識通りと受け取ってもらって結構です。自身の行動自体に後悔はありませんが、それに対する懲罰の是非はまた別の話です。」

 

確かに結果としてリンドウさんは無事人間として極東支部に戻る事が出来たし。

当分は入院が必要ではあるものの、あの人も生きて無事帰還を果たす事が出来た。

 

そして自身はというと、こうして当事者の誰よりも五体満足な状態でここにいる。

 

言ってしまえば迷惑をかけた張本人が一番割を食っていないのだ。

そこで「無事目的を果たせました、ではお疲れ様」などと言ってのけれるほど、私は常識の欠けた人間ではありません。

 

既にかけてしまった迷惑については誠心誠意謝るしかない。

 

でも私が何かしらの責任を取る事で。

これから他の人へかかる迷惑を減らせるというのなら。

 

私が進んでそれを引き受けるのは当然というものでしょう?

 

「懲罰房に入れと言われれば素直にそれに従いますが…自分で言うのもなんですが戦闘力には自信があります。それに報告書に記載の通り、私の身体は一時リンドウさんと同じように明確にアラガミ化しています。」

 

どうです博士?お買い得ですよ、私?

 

戦力としてもモルモットとしても。

本部に売るにしても手元で使い潰すにしても。

 

「そのかわり今回の件は全て私の一存という形で処理していただけると助かります。そこが一番塁の及ばない落としどころ--わぷっ!?」

 

一歩も引かず榊博士の目を見据えて答えていたのが災いして。

不意に顔と顔の間に滑り込まされた紙束に気付くことが出来ず、驚きのまま紙面を押し付けられて口を塞がれました。

 

「やれやれ、慣れない冗談は言うものじゃないね。ちょっと脅かすだけのつもりだったんだが…」

「…え?冗談、ですか?」

 

ゆっくりと押し付けられる書類から私が身体を逸らして逃げ出すと。

榊博士は「うむ」と軽く肯定するように頷き、こちらに背を向けて自分の席へと戻っていきます。

 

「ソーマやアリサ君達から釘を刺されていてね。今後また一人で突っ走る事の無いよう、今回の件は私からもキツくお灸を据えてくれ、とね。」

「そ、それはその…反論のしようも無いんですけど…」

「特にソーマは電撃を浴びせられた上、縛られてロッカーに閉じ込められたそうじゃないか。いやぁ凄かったらしいよ君。コウタ君が言うには"アラガミでも入ってるんじゃないか?"ってくらいロッカーが内側からボコボコにされてたらしいからね。」

 

-ソーマも相当お冠のようでね。アリサ君達が私からも灸をすえてもらうと提案してなければ、多分この後拳骨の一発でも待ってたんじゃないかな?-

-ま、待ってください!それは私が頼んだんじゃなくて止める間もなくあの人が…!-

 

「…はっはっは。とまぁこんな感じで君を軽く焦らすくらいのつもりだったんだが…我ながら最初のアレはいささかパンチが強過ぎたみたいだね。」

「冗談に聞こえませんよアレは…あの人じゃないんですから、冗談ならもっとわかりやすい雰囲気で話してくださいよ…」

 

 

先程までの重たい雰囲気は何のその。

気付けば散々からかわれて疲れた表情を浮かべる私を、榊博士は悪びれもなく軽い口調で笑いながら話を続けていきます。

 

 

「まぁ冗談を言うのはこの辺にして本題に入ろう。今回のリンドウ君に関する全ての件--フェンリル極東支部長代理として、この極東支部としての方針を当事者である君に伝える。」

 

 

今回のリンドウ君に絡んだ案件だが--

 

 

「結論から言おう。事の発端からリンドウ君が生還したプロセスに至る…その一切合切を改竄する。」

 

 

………………………。

 

 

「……………はい?」

「なに、心配はいらない。私はこの手の情報改竄は得意分野でね。ヨハンのアーク計画の件にしたって、本部の人間ですらシオに関する事柄は何も知りえていないくらいさ。」

「いえ、そういう話ではなく…その、改竄するってそんな簡単に言える話じゃ…」

 

 

唐突に榊博士から紡がれた突飛も無いその方針。

言葉だけで反応し、困惑気味に何とか言葉を絞り出したものの……

 

 

-ズズイッ!-

 

 

「これは決定事項だ。異論はおろか、本件に関する一切の意見も質問も認めない。」

 

何時の間に再び近寄ってきていたのか。

何時ぞやみたく腰から上を傾斜させ、上半身のみでこちらの眼前へその胡乱な表情を突き付けてくる榊博士。

 

「イイネ?」

「アッハイ。」

 

 

先程の決意めいた意思表明も何のその。

 

どこか有無を言わせぬ榊博士からの圧の前に。

私はただ無表情で肯定の言葉を紡ぐより他ありませんでした。

 

…………………………………………………………………………………………

 

「まずこのような方針決定に至った経緯だが…今回の件は公に処理しきるには無理筋な部分が多すぎるというのが一番の要因だ。流石に"一度は完全にアラガミ化した"とは言えないから多少は誤魔化すにしても…」

 

腕輪を失い、KIA判定を受けた神機使いがいて。

 

その後大方の例と予想に漏れず、暴走したオラクル細胞の影響でアラガミ化が進行している事を確認。

マニュアル通り本人の神機で介錯を行うべく極力拒絶反応の低い神機使い選抜され、運よく邂逅を果たした。

 

「その後対象の神機を用いて介錯を試みたところ、何かしらの作用が働いた事により右腕のみのアラガミ化に留められた--なんて報告を上げられたら。君が上層部の人間だったらどう思う?」

「どう思うって言われましても…」

 

腕輪を失った結果アラガミ化が進行し。

介錯のために当人が使用していた神機を使って介錯を試みた。

 

ここまではいい。

一般的な神機使いにまでは周知されていないものの、介錯に関しては部隊長となった人間には必ず義務として説明されると聞いている。

 

「アラガミ化の進行を留める事に成功したが原因は不明…ここに"何か隠し事がある"って疑われるかもという事ですか?」

「惜しいが違う。着眼点は悪くないが…問題はリンドウ君が行方不明になってからあまりにも期間が開き過ぎているという点にあるんだ。」

 

期間が開き過ぎている?

開き過ぎていると何の問題が…あっ。

 

「進行を留める云々の前に、そもそもの進行が遅すぎる…?」

「そう。腕輪を失って数か月は経っているにも関わらずアラガミ化の進行は右腕のみ…我々は君が見た感応現象の光景やリンドウ君本人から聞いた話からその理由に推測はついているものの、それを知らない人間にとってはまずその点に強い違和感を覚える。」

 

-違和感は遠くない内に疑問へと姿を変える。-

-では次に抱く疑問とは何か?-

 

「…アラガミ化が進まなかった原因は何か…いえ、進まなかったのではなく、何らかの方法で抑制していた…?」

「素晴らしい。やはり君やアリサ君はその辺りの推察力が抜きん出ているね。」

 

-やはりこれは新型神機使いが起こす感応現象にも関係が…いや、今は置いておこう。-

 

「君が察した通り、今回の件を正直にまとめるとまず腕輪を失ってからの期間があまりに長すぎる。そのため最初の"右腕のみに留まっていた"という話の時点で無理がある。」

「…あれ?でもそれだと"実はアラガミ化してたのは右腕だけじゃないのでは?"って疑問になるんじゃないんですか?」

 

改めて時系列を口にされた事により、先程は気付かなかった疑問に気付いて声を上げる。

実際リンドウさんはハンニバルと化してその体内に取り込まれる寸前の状態になっていたんですし。

 

「いや、その疑問は事態をあらかた知っていないと辿り着いたところでありえないと一蹴される話なんだ。何しろその疑問の答えから得られるのは"アラガミから人間に戻る事が出来た"という事実だからね。」

 

あ、そうか。

確かに私達は実際にこの目で見たから真実と受け入れられるのであって。

 

「何も知らない人達からすれば、偶然携行型の偏食因子を確保して投与出来ていたとでも言う方がまだ信憑性が高いという事ですか。」

「そう。さらに言うなら"全体的なアラガミ化の進行は抑制出来たが腕輪を失った右腕だけは他より初期進行が進んでしまった--"と論理的な説明も後付ける事が出来る。」

 

-人というのは悲しい生き物でね。-

-状況次第では"()()()()()()()"()()()"()()()()()()()()()"()()()()()()()()()()()()()()()()。-

 

「先に君が言ったように"何らかの形で携行型の偏食因子を入手し、投与出来ていた"。これだけでは当然説明不足であるから…そうだね。」

 

 

"全損したと思われていた腕輪だが実は一部腕に癒着した状態で残っており、かろうじてオラクル細胞の抑制機能が生き残った状態だった。"

 

"極東支部への帰還を目指す最中、偶然にも携行型の偏食因子投与キットの入手に成功。それにより不完全ながらアラガミ化の抑止を行う事が出来た。"

 

"何とか極東支部近郊へ辿り着く事は出来たものの。既に自身の右腕はアラガミ化が進行していた彼は不要な混乱を避けるためにエイジス島へと潜伏し--"

 

 

「"アナグラへ通じる道から救援または介錯のための神機使いを待ち、今回の結末に至った--"。どうだい?細かい所はこれから詰めさせてもらうとするが…それなりに筋書きは通っているだろう?」

「よ、よくこんな嘘八百が思いつきますね博士…」

 

さも事情聴取などから得た真実だというようにスラスラ語る博士に呆れた声を漏らす私に。

クスリと普段以上に胡散臭い笑みを漏らしながら博士が口を開きます。

 

「嘘とは人聞きが悪いね。私は君達から事の経緯を聞いて把握したが…仮にこれが虚偽だとしても私にはそれを調べる術はない。同時に先程述べた筋書きが真実だとしても、それを裏付けるだけの確たる証拠は何処にも無い。」

 

私はさっき"人とは受け入れやすい虚偽の方を信じ込んでしまう生き物"だと表現したが--

 

「どちらが虚偽でどちらが真実か。それを知る術がないとした場合…君にはどちらが()()()()()()()()()()()()かな?」

 

 

"あぁ、もちろん私は君達の証言を信じるとも。"

 

 

あっけらかんとそう付け加えてくれる榊博士ではありましたが。

詐欺師めいた言い回しで説明された後とあってはイマイチ素直に喜ぶ事が出来ませんでした。

 

 




無口さんはお休み中。
色々ボロボロだったから仕方無いですね。

ラリ〇ーされたとか言ってはいけません。
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