無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.イエスでもありノーでもある。
無口さんはただいまリカバリ中。
中途半端な状態なので起きれたとしても動作が不安定。
でも今はまだぐっすり眠っているので問題無し。
何時ぞやみたく心の中に入ったりしない限りは。
「…どういう事です?私と違ってあの人にはアラガミ化の兆候が存在しないって…」
榊博士の説明を聞いたものの。
先程まで自分が理解していた内容とまるで違う説明に思わず疑問の言葉が口に出る。
「君同様に彼もまたリンドウ君の神機に触れている。数値的に多少の差異はあれど、おおまかに君達は似た状態となっている筈だったんだが…」
そこで一瞬、もったいぶるように言葉を溜めてから答えた榊博士の言葉に絶句する。
今のあの人の体内には、リンドウさんの神機に由来する適合していないオラクル細胞が
「彼の検査結果の数値は今のルミナ君の状態と違って全て正常値。意識こそまだ戻ってはいないものの、それは薬物に頼ってまで身体を酷使した事による過労からくるものだ。特段命に関わる負傷を負ってるわけでもなし、少なくともあと数日の内には問題無く目覚める事だろう。」
-そして先の君の状態に対する推測についてだが。-
-彼の検査結果からある程度これを裏付ける事が出来る。-
「君の体内のオラクル細胞が高い活性状態にあるのは体内でオラクル細胞同士が捕喰し合い、互いに取り込んだエネルギーを使って活性状態を維持し続けているという事に起因している。対して彼の場合は喰らいあう細胞が体内に存在せず、また元々体内に存在しているオラクル細胞は彼に適合したものであるため、彼自身の身体が捕喰対象となる事も無い。」
「なるほど、エネルギー源が存在しないからそもそも活性化するも何もないし、故にそれが起因となるアラガミ化の兆候も見られないと…でも博士、どうして私とあの人でそんな違いが?」
説明を受けて湧き立ったのは素朴な疑問。
片や体内に残留した二つのオラクル細胞が共に喰らい合って高活性状態となっており。
片や喰らい合うどころか一方が既に消失してしまっているため、なし崩し的に安定という名の非活性状態となっている。
流石にこれを"偶々では?"と思うほど私の思考は鈍くない。
「結論から言ってしまうとだね、今君の身体で起こっている反応を彼はとっくの昔に起こし切ってしまったからというのが理由さ。ほら、話によると君と彼が再会した時、彼の腕輪と神機がコードのようなもので接続されていたと言っていただろう?」
………
榊博士曰く。
あれはまだ今ほど神機とオラクル細胞の制御技術が発達していなかった頃に運用されていた方式で。
神機と腕輪をコードの類で直結し、神機で取り込んだオラクル細胞を直に神機使いへ供給してバースト状態を引き起こすというシンプルな仕組みの物。
「細胞を直に取り込む分危険性は大きいものの、代わりに取り込んだオラクル細胞をそっくりそのままエネルギーへ変換する事が出来る。この点に限って見れば現在のバースト制御方式よりも優れていると言えなくも無いが…とにもかくにも、あの時の彼はこの方式を用いる事で少ないオラクルリソースで長時間の高バースト状態を維持し、君達が戻るまでヘリを守り抜いていた。」
迫りくるアラガミを文字通り糧と変え。
身体を蝕む反動に耐えながらも。
あの人の体内のオラクル細胞は、ひたすらに自身の体内に入り込んだ不適合なオラクル細胞を喰らい続けた。
それこそ恐らく、
「…あ、もしかして適合していないオラクル細胞が残っていなかったのって…」
「その通り。バースト状態のために抑制から解き放たれている彼のオラクル細胞…それは未だ彼の体内に残っていたリンドウ君の神機に由来する細胞も神機から取り込まれてきた餌であると判断し--残らずそれを喰らい尽くしたからではないか、という事さ。」
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「さて、ここでまた話を少し戻そう。先程私は"抑制された細胞と暴走状態に近い細胞、喰い合いとなった場合どちらに軍配が上がるかは明らかだ"と言ったが…」
「あの人の状態を見るに"抑制という軛を外し、暴走側と同等もしくはそれを上回る程に強い活性状態にもっていった場合はその限りではない"という事ですよね?そしてそれが首尾良くいった場合、自身に害する要因を取り除くだけでなく、それどころか活性化による恩恵にまで預かれると。」
先の話の内容を整理して得られた推測を口にすると、講義で模範解答をした時のように榊博士の表情が満足そうな笑顔に満ちていく。
「正解だ。今までに定説を覆した数少ない実例。それが今のユウマ君の立ち位置でもあり…同時にここから君が置かれている立ち位置についても定まってくる事になる。」
「私ですか?私は一体何が--あっ。」
思い当たった心当たりに思わず間の抜けた声が漏れる。
念のため榊博士からの言葉を待ってみたものの。
あえて私の口からそれを聞きたいのか、榊博士から説明の言葉が発せられる様子はない。
「私もあの人同様の方法で体内の適合していないオラクル細胞を除去できるか観察してみるって事ですか?ある程度仮定が成り立っていうならそれを裏付けるための詳細な条件とかも絞り込んだりできそうですし…」
「その通り。そしてそれは当然リンドウ君についても同じことが言えるし、それどころか見方次第ではもっと踏み込んだ観点で物を見る事も出来る。…何かわかるかな?」
「踏み込んだ観点、ですか?」
榊博士からの言葉に思わずオウム返しに言葉が返る。
博士の口ぶりからするとリンドウさんも今の私と同じように体内のオラクル細胞が活性状態にあるのだろう。
今は元に戻っているとはいえ、一時はアラガミのようだと言っても過言ではないあの腕を見た人間からすれば、それ自体は特におかしい事とは思わないが。
そこからさらに踏み込んだ観点となると今の私には少々ピンとくるものがない。
「ここで一つヒントをあげよう。今のリンドウ君の右腕は人のそれとは似ても似つかない物に変化しているが…実はアレ、遺伝子レベルで言うなら人間の腕とほぼほぼ同じ括りであると言えるんだ。」
「え?あんなアラガミっぽい見た目なのにですか?」
「うむ。見た目だけでなく筋力なども人間のそれより大幅に上昇しているものの、遺伝子レベルではまごう事無き"リンドウ君の腕"のままなんだ。一方、以前君に集めてきてもらった痕跡…あれらは"人間の身体の一部"ではなく"
少々意地悪そうな微笑みを浮かべながらも。
何かを気付かせるようにそう言葉を紡いでいく榊博士。
うーん、なんでしょう。
リンドウさんの右腕は"人間"の腕だけど、集めた痕跡は"人の要素を持つ"何か…
オラクル細胞によって人のそれからは明らかに変質してはいるものの。
遺伝子レベルでは"人間の腕"と言い表す事の出来るリンドウさんの腕。
対して同じ異形だが遺伝子レベルでは人の要素と呼べるものの。
"人間の"とは言い表せないリンドウさんの痕跡。
それに私やあの人との共通点。
他人の神機を触った事で適合していないオラクル細胞に蝕まれた私達と。
腕輪の制御を失った事で自身のオラクル細胞が暴走したリンドウさんの…
「…ん?」
あれ、ちょっとまってください?
オラクル細胞が暴走って表現、ついさっき榊博士も使ってたような…
『-対して体内に侵入した細胞はその制御の影響下になく、言ってしまえば暴走状態のようなもの-』
(…………)
(…………)
(…………………あ。)
…もしかして。
腕輪を失って体内のオラクル細胞が暴走しても。
何らかの要因で外部から適合しないオラクル細胞に侵されたとしても
正常なオラクル細胞だけを上手く活性化させる事が出来たなら。
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ルーキーちゃん推理中。
字数を見たら長くなっていたので区切ります。
※以下元々予定していた後書き(を先に持ってきたのでちょっとしたネタバレ)
・今時点でレンの存在を把握しているのは無口さん、リンドウさん、ルーキーちゃんの三人だけ。
・無口さんとルーキーちゃんはお互いの側にいるレンの事は見えません。
・ストーリー最後のミッションで見た通り、ルーキーちゃんはレンの正体に完全に気付いています。